朝起きたときの話4
朝起きたときの話
唇
マンガ
演技
「びちゃびちゃと音を立てる口元に、自然と頬が熱くなってしまう。それは、彼の顔が近くにあるからでもあるのだろう。私の胸はキュンって高鳴り、バクンバクンと鼓動している。それが彼にも聞こえてるんじゃないかって、私はおそるおそる彼の様子を伺う。彼と目が合った。弾かれるようにして目線を逸らそうとした私は、絡み合う舌の新たな刺激に翻弄される。彼が、私の舌を吸っているのだ。私の唾液が彼に舐めとられていく。恐い快感が私の中を駆け巡る。もっともっとと、私の本心が疼く。それは大きく膨れ上がって、理性の壁を崩壊させ、私にひとつの行動をさせた。舌が入り込める程度の、少しの隙間のみを保っていた唇を開け、彼を受け入れる。彼を求めている心を肯定する。知らず知らずの内に私は、この深いキスの快感の虜となっていたようです。もっと深く私を抉ってほしい。私の総てを奪ってほしい。奪われる悦楽が、私の総てのように思える。それほどに彼とのキスは、凄い。もう、止められそうにない――」
「官能小説を音読するな」
俺のベッドを占領し、なにやら不満げな様子をしていると思ったら突然俺の秘蔵本を音読しやがる……今日の美姫はいったい何ブームに感染してるんだ?
――直接聞くのが一番だよな。
「美姫、今日の美姫は何美姫なんだ?」
「美姫C」
AとBがいるんですか?
困ったことに、今日の美姫のノリが未だに掴めない。
小説官能をじぃ……と食い入るように見つめていた美姫が、いきなり顔をあげて俺を睨んできた。
喩えるならば、虎が獲物を狙うかのような――鋭い目つき。
でも、可愛い。それが、美姫クオリティ(←バカ
美姫が官能小説を大きな音をたてて落とした。思わず視線がそちらへ――
て、小説じゃなくてマンガなのかよ。
キスの描写がなんと艶かしいことか――結構気持ち悪いな。ぐちゃぐちゃしてて。
「弟君!」
「……」
押し倒されることにはデジャ・ヴを感じるな。
どうした、と聞きたい。キッと睨まれてなければ。
というか美姫は俺の唇が狙いのようだ。ヤバイ。このままでは汚される。純心でガラスのような心がひび割れてしまう。ガラスが防弾ガラスかは読者の想像にお任せしよう。
「確かに――確かに、ツンデレ属性でツンの強かった妹が恋人になった途端デレに転化するのは、デレ一直線なお姉ちゃんよりも萌えるでしょうとも。だけどね! デレお姉ちゃんにもツンデレに負けない良さがあるの! わかる!?」
「ツンデレ妹なんて登場してないだろうが」
美夏辺りがそれに分類されるのか……ミズミズの友達もそうなのかな。
とりあえず、家の妹はヤンデレだってことを思い出してほしい――姉といい妹といい、苦味がない家族だなここは。
「それに、スタイルだったらお前が一番だろう?」
「ん、ん〜……お胸がつるぺったんだったりする」
ああ、それは抱きつかれたときにわかる。あのまな板なかんしょ――
「小夜歌ちゃんとか、私より年下のくせにスタイルが同じくらいで、そのくせお胸があって……」
「まて、美姫。CROSS! 2nd〜そして、物語は交差する〜と比べてはダメだ。あっちの作品は作者の願望の具現作品なんだ。『CROSS!〜物語は交差する〜のキャラを基盤にしていろいろと補ったんじゃね?』な作品がCROSS! 2nd〜そして、物語は交差する〜なんだ。自覚しろ。あっちに勝てるはずがない」
主人公の純心具合だとか、いろいろと。
御劉と輝弥を合体させたようなキャラもいるからな――ある意味読者の要望に応えている?
無口系キャラがCROSS!〜物語は交差する〜にいないことを知った作者の焦りなんかもCROSS! 2nd〜そして、物語は交差する〜を作っている。
美姫のつるぺったんが気に喰わなくて、小夜歌っていうキャラを作ったらしいからな。作者もいろいろとひどい。
「で、お前はそれを気にして機嫌が悪いのか?」
「そういうことです!」
まったく、子供すぎるな。
「――弟君、今君は良い所に気づいたよ?」
「良い所って、いつもとツッコミ方が違う……若干性格が違うのも、ツッコんだほうがいいか?」
「できれば、ツッコんでほしかった! でももういい!」
はいはい、了解了解。
「とにかく――弟君は、この小説の趣旨に気づいたのですよ! ずばり! 題して! 『美姫姉ちゃんの新ジャンル開拓』!!」
まんまやないかッ。作者のせいでワイいつの間にか関西弁やないかッ。
「ってわけで、冷徹系とか演じてみろって作者の指示が……」
ひたすらにネタなんだな、この『きたときのシリーズ』は。
ちなみに、作者は『朝起きたときの話』以外の『きたときのシリーズ』を考えてはいないらしい。ならなんでシリーズ名があるんだと尋ねられたら『その件に関しましては現在調査中です』なんていう警察官っぽい受け答えをしろと言われているので、読者の方々は『また作者のわがままか』程度にでも思っておいてくれて良い。とりあえず、楽しめればなんでもいいってのがこのサイドストーリー。皆さんも堅いことはナシにして思う存分楽しんでく――
「まったく、アンタってほんとバカねぇ。それでも主人公?」
「――って、もう性格チェンジなのか!?」
というか、変わりすぎだぞ美姫。
足を組み、ふぅっと溜息を吐き非難の目を俺へと向ける美姫に、元の色がまったく残っていないのは、どういうことか。
いやほんと、美姫に貶されるとか新鮮――生涯ないと思ってた。
「はい終了♪」
「早ッ!?」
いつもの、お姉ちゃんぶる子供っぽい感じを取り戻した美姫が、にっこりと微笑む。
「だって、私には絶対に無理だもん♪」
「……あきらめちゃだめだ、とか言ったほうがいいのかな?」
「ん〜、どうだろう?」
美姫は、己の唇に人差し指を当てて首を傾げた。
だが、転瞬後にははっきりと首を横へ振る美姫は、淡く、柔らかく、輝かしい笑顔を浮かべ、言う。
「でも、やっぱり無理だよ♪」
どうして――呟くことができなかった。
無理やりに押し黙らされたから、仕方ない。
接触部位を自ら離した美姫は、してやったりという風に妖しく微笑む。
「キスを苦くしちゃうようなことなんて、できるはずないでしょ?」
……。
……。
……。
……不意打ちだ。
唖然とそう思うことしか、できない。
はい、どうみても夜寝る前のお話な時間です。すみませんでした。
明日からもこんな時間帯になりそう……まあ、気にしないでくれたまえ、諸君。
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