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♯16[ほんとのほんとに]

 大盛り上がりの上映会を終えた日の、夜。
 クリスマスイブの夜は長く、僕らは未だ消えぬ熱気のまま。
「「「「「「かんぱーーーーーい!!」」」」」
 打ち上げを楽しむのだった。


 CROSS! 2nd〜そして、物語は交差する〜♯16[ほんとのほんとに]


「おつかれさま♪」
 きわどい衣装を着た美乃宮さんが、オレンジジュースの注がれたコップを持ってにこやかに告げてくる。
 僕は微笑み返した。
「先輩こそお疲れ様です……完成、したんですね」
「うん。そうだねぇ♪」
 クリパ一ヶ月前、通常あるはずの学年発表を中止にし、歴史に残る一大企画をすると鷺澤先輩が言ったあの日から、いろんなことがあった。
 反対への対処とか、時間の少なさとか、急なアクシデントとか……たくさんのことを乗り越えた一ヶ月は、あまりにもあっというまだった気がする。
「島ぐるみでやるってのも案外オツでしょ?」
 商店街を舞台にしたり、ゴミ廃棄所を利用させてもらったりと、学園でのイベントとしては大きすぎる規模な演劇だった気が、今でもする。
 外でのことが少なかった僕はまだマシ。三井先輩たちは野次馬の視線を浴びながら戦闘シーンを演出したんだから、まさに俳優のよう。
 それ相応の作品が出来上がったのだから、本当に歴史に残るかもしれないな。
 市役所の方に通い、撮影場所の使用許可や無人化などの協力要請をして通してもらえたのも、島だからだろう。
「良い島ですね。風宮島は」
「ほんとほんと♪ 完成できたのは皆がいたからこそだし、この島だったからだよ♪」
 心底そう想っているという風に、美乃宮先輩が言う。
 だがその表情を一変させて、意地悪に微笑んだ。
「でもでもぉ、さっすがにアレはなしだよね♪」
 ……アレか。
 その話題に食いついた者がいた。
「アレってなんのことだ?」
 美月梓。
 劇のときよりも男っぽい……悪く言えば『親父性格』な女の子だ。
 それなのにあの胸の突きあがりなのは――反則だ。
「ん〜【優しいキスだけじゃ物足りなくなっちゃって一発♪】とか【どきどきしながらもしちゃった野外での愛の確かめ合い♪】とか?」
 美乃宮先輩の発言に、梓が悶絶した。
「なぬ!? おい、愁。オレに隠れてそんなおもしろ……い、いやらしいことをしていたのか!?」
「おもしろってなんだよ、オイ」
「コンチクショー!!」
 そういってポケポケお叩きになられると、ポヨンポヨンするものが恐ろしい破壊力を生むことをご存知なのでしょうか。
「つまり愁くんは思春期なの♪ いろいろと堪っちゃう時期なのよね♪」
 美乃宮先輩、恥ずかしげもなくにそんなことを言わないで欲しい。
「あー……うー……えー……胸、使うか?」
「何に!?」
「いやぁ……はさむ、とか、さ」
 そうやって言葉を濁すのは恥ずかしいからじゃないことを僕は知っている。
 だからペチンと梓の頭をしばいてやった。
「うう……ひどい。せっかく勇気をだして気色悪いことを言ったのに…………」
「梓ちゃん、間違えちゃダメよ。これは恥ずかしくて本音がいえない愁くんの合図なの♪」
 嘘を言わないでください嘘を。
 梓はグッと両手を拳にして、胸の少し上に構えて、僕をじっと見つめる。
「い……痛いのも、気持ちよさに変わるよう努力するから」
「…………」
 話が通じない。根本的なところから食い違っている。
「っと、もう一人の主役様のご登場〜♪」
 美乃宮先輩の声に反応して、振り返った。
「おつかれさまです。小夜歌さん」
「うん。愁くんもおつかれ〜♪」
 そろそろ女性一同が共通して着用している服について話すことにする。
 端的に述べてば――サンタ服だ。
 御劉先輩の言葉をそのまま言うとすれば【ふともも完全露出の上、脇・チ・チ! が見えるかもしれない仕様の薄薄お色気満載サンタ衣装プレゼントトゥ!】になる。
 僕から言わせれば、目の向けにくい衣装なだけ。
 でもまぁサンタな雰囲気はある……なぁ。
 美乃宮先輩とか梓は、胸部分がはちきれんばかりだし、少しはらはらする。
「えいっ!」
 ポカリと叩かれた。
 きょとんとして小夜歌さんを見る。
「えっちなことを考えたのでマイナスイチポイント! 愁くんのバカバァカ」
「ええっと……」
 嬉しそうにそう罵られた場合、どういう反応を返したら良いのでしょうか。
「愁のバカバァカ!」
「愁くんのバカァン♪」
「…………」
 個性的な罵りをどうもありがとうございます。
 視線を移して、盛り上がっている人達を見てみた。
 映画研究会からランクアップした風見学園映像部の人達。
 振り付けひとつひとつにアドバイスをくれた風見学園演劇部の人達。
 そして、クラスの人々や普通の生徒を演じた生徒会役員達。
 知人の顔がいくつかちらほらとしたテーブルがあった。
 三井先輩に鷺澤先輩。鷺澤先輩もサンタ服で、三井先輩は困った様子だ。
 御劉先輩に真紀恵先輩。真赤になって微笑んでいる真紀恵先輩を見たところ、御劉先輩が褒めたのかな。
 輝弥先輩と正樹が見当たらないけど、どこにまぎれてるんだろう。
「ほらほら、この料理すっごくおいしいから、食べてみて♪」
 お皿に盛られた美味しそうな料理を小夜歌さんに突き出され、意識をもどす。
 打ち上げはまだまだ続いた。

      ○  ○  ○

 机を撫でる。
 僕の手は赤いようなオレンジの光に照らされていて、それに晒された教室は少しばかり感動的な情景だ。
「むかしむかしのあるところに、一人の男の子がいました……なんてね」
 弾けるようにしてあげた顔。
 輝弥さんが、優しい微笑みを携えてドアに背を預けていた。
「どうだった? 嘘っていう茶番で語られた、八割方本当の物語・・・・・・・・は」
「…………悪くはなかった、です」
 真実じゃないからこそ、愁を裏切らなくて済んだ。
 僕のなかにいると、対立し続ける誓いを刻めた。
「…………大切なものは、大切なんですね」
「うん。大切だから、大切なものっていうんだよ。
今回の演劇はね――いろんな人にさまざまなことを知ってもらうための、感じてもらうための劇だったんだ」
 難しいことを言う。
 高校生で、そんなものを作れるはずがない。作れたら、プロはいらなくなる。
 それでも――感動があった。
 心が動かされた。出演したからなのかはわからない。でも、上映会にも参加したけど、そのときには満足感しか生まれなかった。
 そう、なのだ。
 最初は乗り気じゃなくて、嬉しそうにテンションを高くする愁に乗ってみただけで、たくさんの人と触れ合うことになって、家に帰ったらすぐに眠るような毎日で、勉強なんか全然できなくて――
 一生懸命で、楽しい数週間だった。
「一番この劇に背中を押されたのは――天城さんかもしれないけどね」
 なぜその人のことがでてくるのか。
 疑問、疑問、疑問、疑問……
八割の真実・・・・・――」
 設定はどうだったか。天城小夜歌の演じた役の台詞はなんだったか、あそこまで感情移入した台詞を紡げたのはなぜなのか。
 僕と同じ・・・・と考えれば……すべてが繋がる。
「だけど…………いや、そんなことが…………」
「あるんだよ。運命は――皮肉なものだよね」
 そんな言葉で片付けて良いモノじゃない。
 運命は――なんて残酷なんだ。
 ぶっ壊してやりたくて、たまらない。
 なぜか、輝弥さんの笑みに…………悲痛が隠されている、そんな気がした。

      ○  ○  ○

「ほら、はやくはやく♪」
「わ、ちょ、ちょっとまっ……っと、とと!?」
 小夜歌さんに強く引っ張られ、こ躓きそうになりながらもなんとかついていく。
 ゆっくりと歩を緩めた場所は、あの公園だった。
 撮影に使った公園。今はまだ夕方だからか、ちゃんとした噴水だ。
 恥ずかしいから〜といって、無理やり夜にしてもらったんだよな。
 だからちょっと、僕のわがままで台本の修正が行われてたり……ああ、思い出すと、肩身が狭くなりそう。
 ちょっとは耐えるべきだったかなぁとか、思うには思う。でも、美乃宮先輩がおちょくってくるから余計に――
「……楽しかったね、撮影」
 いきなりの言葉。僕に背中を向けた小夜歌さん。表情はわからない。
「そうですね。大変だったけど、結構楽しかったです」
「……ほんとに。いろんなことがあって、毎日が刺激的で。
きっと、こういうのが良い思い出の、良い出来事って、言うんだろうね」
 少しだけど。
 小夜歌さんの肩が、震えている気がした。
「でも……楽しい時間は、終わりなんだ」
「え?」
 なんでかはわからないけど、小夜歌さんが悲しんでいる気がした。
 夕日が、光の断末魔のようで――恐い。
 波立つ心のまましゃべりかけようとして。
「ごめんね……でも、終わりなの」
 ピンと張った背中の向こうで、小夜歌さんが苦しんでいる。
 苦しんで、何かを告げようとしている。
 僕には、どうすることもできなくて――
「現実は……劇とは、違うんだ」
 クルリと、小夜歌さんがこちらへと向き直る。
 目の端に涙を浮かべて、妙に淡い笑みを浮かべて、痛々しいくらいに綺麗な笑顔で。
「だから……わたしたち、終わりにしよ」


 世界が壊れた気がした。
 僕の見ていた、輝く未来が虚構で。
 今突きつけられた事実が、真実で。
 劇の続きでも、冗談でもなく、真実で――


 光が、闇に押しつぶされて、夕暮の刻が過ぎた。


 積み重ねていた日常が、広がっていると思われた未来が――現実によって、叩き潰された。

失恋も青春の味ですね。
次回、〔C〕2最終話!
付き合ってくださった読者のみなさま、ほんとうにありがとうございます♪
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