ポプリというのは接続曲。
カプリチオというのは狂騒曲を意味します。
♯11[ポプリに語るカプリチオ]
だるい身体を引きずって教室に入った僕は、すぐさまトモダチに捕まった。
目が血走ってたり鼻息が荒かったりする人の相手はかったるいけど、とりあえず対応する。
「どうしたんだよ……デッドヒィト」
「その名で呼ぶなって。真名を握られると魔法使いはつらくなる」
真名だったのか。
トモダチはすぐに路線を切り替えてハイテンションに言い募った。
「昨日の『天城様主役立候補』が広まってるんだって! でさ、なぜかしんないけど相手は正樹だ〜って噂で固まってるし……ちくしょー、結局顔なのかな……あいつは性格もいいけど……」
……。
……。
……。
僕は正樹の席を見た。
そこには誰もいない。
「ああ、正樹ならもう天城様と練習に行くってさ……天城様から誘ったみたいだしこりゃ確定だな」
何かが動いている。
昨日の彼女は僕の隣だった。今の彼女は僕の隣じゃない。
妙な胸騒ぎ――キスのときに感じた距離が、どんどんなくなっていくような。
嫌な予感がした。その予感が、なぜか振り払えなかった。
無情にも、チャイムが鳴り響く。
結局ホームルームの時間になっても、正樹は返ってこなかった。
数時限してもどってきた正樹は、いつもどおりの微笑を携えていた。
第一の苦痛を彼の者に。
CROSS! 2nd〜そして、物語は交差する〜♯11[ポプリに語るカプリチオ]
「どういうこと?」
「……どういうことだろうね?」
図書室。
一時限目よりも早く噂のことを聞かれ、驚いた。
このままでは予定が狂ってしまう――とにかく、私の相手役から正樹くんには降りてもらわなくちゃならない。
そう思って愁くんの教室に行った私は、正樹くんを連れ出してここ――早朝から人の来るはずが無い図書室で話をしようと決めたのだ。
そして、今正樹くんと対峙して立っている。
反応からすると『知名度を行使しての噂作り〜』ではないようだ。
そういう輩もいる。という話を聞いたことがある。
もしかしたらって思ったんだけど、正樹くんは話した感じそんな人じゃない気はしてたし。
私はふぅっと力を抜いた。
正樹くんはおそるおそる、といった風に口を開く。
「噂のこと……ですか、僕も知ってます。なんでも、僕が主役決定だとか」
「ああ、うん。そのことなんだけど」
正樹くんが悪くないのだから降りてなどとお願いするのは、少し戸惑ってしまう。
でも私がいっしょに劇をしたいのは……
「でも愁があなたに手を出してるのは意外でした。一途な男だと思ってたんですけどね」
何かが割れた音が聞こえた気がする。
窓ガラスが視界の端に映ってるけど、割れた様子はない。
じゃあ何が――足下も揺れまくっている。
地震だろうか。でも、正樹くんは普通に立ってるし。
「………………え?」
やっと声が絞り出せた。
そして、気づく。
私の心が揺れているんだ――
予想外の一言で何かが崩れ去った。そんな事実。
目に見えるものでも、手でつかめるものでもない。
それでも私を揺るがしたそれはとっても大きなモノで。
一途という言葉。その意味――何度も何度も繰り返し思い浮かべることで、やっと正樹くんの一言を理解することができた。
「…………千明希ちゃんが可哀想だ(・)」
思ってもみなかったこと。キスをしたあの瞬間がとても遠くにいってしまった、そんな感覚に囚われてしまう。
思い描いていた未来。私の手は、彼と繋がっているはずで。
味方でいると言った彼が、あの言葉が、私の見ていた彼自体が。
「………………嘘」
足が竦んだ。
立っていられなくなった。
力を込めようとして――込められないことに気づいた。
一歩駆け出して、私の背中へと手を回した正樹くん。
その顔が目の前に迫って、ぎゅっと抱きしめられたのがわかった。
いや、抱きとめてくれたといったところか。
「……大丈夫ですか?」
かっこよかった。
でも、胸は高鳴らなかった。
ああ、と思う。
私はきっと、愁くんが私を裏切っていたのだとしても。
愁くんが言ったことのすべてが、嘘偽りだったのだとしても。
――彼を愛することを、やめないのだろうと。
崩れかけた心は今一度新たな決意に頑固となって、私の足は床にしっかりと立つことができた。
少しでもはやく愁くんに会って聞きたかった――あの笑みは、嘘なのかと。
「……うん、大丈夫。だから、離れて」
正樹くんは心配そうに私を覗き込みながらも、私の言葉に従って離れてくれる。
ここにいる理由はない――口を開いた。
「ごめん。私、もどるね。一時間目サボっちゃったし、このままだと二時間目もサボることになっちゃうだろうから」
正樹くんの返答も聞かずに、私は踵を返した。
――次の授業はなんだったか。体育だったら少しヤヴァイな。テストだった気がするし。
そんなことを考えてるときでも愁くんのことを思い浮かべている私は、信憑性という言葉を知らない私だ。
何をどう訊ねようか。たくさんありすぎて、まくしたてるようなことになるかもしれない。
私のドス黒い感情のすべてが――愁くんを遠ざけてしまっている気がして、ならない。
はやく会いたい。時限と時限の合間では足りないだろう。
二人でサボろうか――だめだ、愁くんの成績に迷惑がかかってしまう。
昼休み。昼休みなら話せる。
昼休み。愁くんの所に行って、二人っきりになれる場所で聞こう。
愁くんを信じていない自分になっていることを、私は知りもしなかった。
○ ○ ○
本棚の一部から分厚い本を取り除く。
僕と天城さんを見ていた、題名が記されるべき所ではジジジと未だ音を響かせるビデオカメラが。
それを取り出し、録画状態を解除し、巻き戻し、再生する。
抱き合っているようにみえる瞬間で止め、思わず笑みをもらした。
図書室のさらに奥。僕が隠しておいたノートパソコンを立ち上げ、ビデオカメラのメモリーを差し込む。動画を再生する。
笑みをもらしてしまった分秒へとスキップし、画像キャプチャーした。
図書室に一台だけ存在するプリンターとNPCを繋ぎ、印刷を開始させる。
ガガガ、ギギギと鳴り響くプリンター。
白い紙に出来上がった画像は、綺麗に写っていた。
「さぁて……」
プロセスの進行を確認。天城さんは落ちなかったけど、二人の関係に小さくて需用な亀裂が入ったのは間違いない。
失うことをやめられない。離れる手を止められない。望みじゃない望みであるのに。
安らぐことを、今日ここで天城さんに植えつけた不安がさせないだろう。
どれほどに膨れ、どれほどの火を生む火種であるのかはわからない。
生まれるモノの度合など、知ったことじゃないさ。
○ ○ ○
数時限してもどってきた正樹は、いつもどおりの微笑を携えていた。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。