「ワタァシニホォンゴハナセマセェン」
「……」
ボケてみた愁は、見事に撃沈した。
授業中。ちょっとは静かに勉強している生徒の人々。ただひとり立ち上がっている愁は蔑みの目線に晒されていた。
座るには惜しい。芸人魂を満たすためにもう一ネタほど披露したい。
そんな願望の元立ち上がり続ける愁は、唐突にくの字に折れて悶絶した。
マジだった。本気と書いてマジだった。危険と書いてマジだった。
愁にしかわからないであろう。祐の怒りやら憎しみやらが織り交ぜられた裏拳が直撃した事実を。
「もうお兄ちゃんったら♪ 馬鹿なのはわかってるからもう変なことはしないで♪」
何気にひどい祐の一言。
その顔が目の前であったり、愁にしか見えないほどの近さであったり、憎悪に満ちていたりしたからか、愁は声を漏らせずにいた。
アイコンタクトで伝える。
『おーいドラえもーん』
『はーいのび太くーん……って、何言ってんのよ』
『芸人魂が俺を乗っ取ってるだけだ。気にするな』
『口調変わってるわよ? っていうか、そういう変な兄を持ってるっていうのが私にとってつらいの。だからやめなさい』
『兄にしなきゃいいだろうが』
『じゃあ何にするのよ?』
『う〜ん……相方?』
『家族やめるわよ』
『そんなに相方がやりたいんだな』
ガシッと両肩を掴まれる。
祐は優しい声を、怒りに青筋を浮かせた表情とともに発した。
「お昼は私が愛をたっくさん込めたジャム付料理の数々の詰まった愛妻弁当を食べさせてあげるから♪」
ジャムと料理を分けてほしい。愛災弁当は勘弁願いたい。
脱出路――探す。探し続ける。
そして、無駄だという事実を得た。
次に探すは助け舟の存在。
目をきょろきょろさせて見つけた、助け舟候補の正樹。
グッと親指を突き上げられた。
「……」
目をもどす。
選択肢が潰れ、選択の猶予すらもなくなってきた今日この頃、祐は満面の笑みを浮かべて僕を見続けていた。
「……覚悟してね?」
「I am sorry, but may I let him go through towards an interpreter because I cannot speak Japanese?(すみませんが、私は日本語を話すことができませんので、通訳の方を通していただけますか?)」
流暢に、淀みなく流れる単語の羅列。
その意に沿われることはなかった。