ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
♯09[自然での苦悶と爽快 その6]
 四日目。
 帰還を開始する午後までのすべてが自由時間だ。
 林間学校について書くレポートの資料集め時間。記念写真とは別に、個人個人で持ち込んだカメラで写真を撮る者がほとんどだ。
 稀にだらだらし続ける者もいるが。
 それぞれが思い残したことがないように自然を満喫する。昨日のキャンプファイヤーと打って変わってのんびりできる時間だ。
 最後のイベント・記念写真を終えた後、下山する。
 その頃には溜まりに溜まっていた疲れが重く圧し掛かってくるようになり、家に帰れば即睡眠学習ができるほどの者が多い。
 こうして、長いようで短かった林間学習が締めくくられるのだ。


 CROSS! 2nd〜そして、物語は交差する〜♯09[自然での苦悶と爽快 その
6]


「うぅん………………」
 この新鮮な気がする空気も、今日で最後かと思うと名残惜しい。
 元々この島自体が自然多きなので、都会よりかはマシだろうが。
 川のせせらぎに耳を傾け、ふぅっと息を吸う。
 はぁっと吐き出し、伸びをした。
 眠ってた身体が起きる痺れるような感覚が妙に気持ち良い。
「早起きは良いことだけど、無理してないかい?」
 後ろから声がする。
 振り返るまでもない。
「正樹にそっくりそのまま返すよ。そっちは大丈夫?」
「ん〜……ぼちぼちでんなぁ」
 たまに正樹のノリがわからなくなる。
 そういや、正樹のことってあんまり知らないんだなぁ。
 ………………まあいっか。
 気分一転。正樹へと振り返った。
「今日で最後だけど、感想としてはどうですかねぇ正樹選手?」
「そうですねぇ。もうちょっとこうエキサイティングなことのひとつやふたつあってほしかったですかねぇ」
「ほほう。例えば?」
「サイボーグ怪鳥の出現とか……」
 いきなり無理なことを。
 黒のズボンに白のシャツを着た正樹が顎に手を当てて、嬉しそうに微笑んでいる。
 正樹はいつもどおりの顔で凄い冗談がいえる人だからなぁ。皮肉じゃなくて感心の言葉だから。そこは取り違えちゃだめだ、うん。
「……まったく、アンタたち二人だといつもそう脱線してるんだから」
 正樹が振り返る。
 正樹の向こうで、完璧に身だしなみを整えた祐が仁王立ちしていた。
 ……寝起きのはずなんだけどな。
 溜息を吐いた祐。
「もう朝御飯。はやく来ないと、私が全部食べちゃうわよ♪」
「太るよ?」
「そのときはお兄ちゃんにもらってもらうから♪」
 悲劇予告をされた。
 そんなの想像したら……寒気がしてくる。
「丁重にお断りさせていただきます」
「むぅ……まあ、お兄ちゃんにはもうマークがつけられちゃってるから、手ぇ出しませんよ〜」
 あっかんべーとされた。
 マークってなんのことだろうか。
 そのとき、正樹が目を細めて僕の肩を叩く。
「王女様が来たみたいだよ、色男の愁」
「おっと……ふふん、お兄ちゃんも愛されてるねぇ♪」
 祐と正樹が僕のわからない事を口走っている。
 正樹の視線を追ってみると――何やらいろいろと納得してしまったというか。
 先ほどの祐と正樹の言葉。『王女様』のにっこりとした微笑。
 どっちかはわからないけど、僕の頬はそのどちらかのせいでボッと真赤になってしまった。


 朝食の時間。
 予想外にも片手に弁当を持っていた『王女――じゃなくて、小夜歌さんは、今僕の隣でいっしょに食事している。
「愁くんはハムさん好き?」
「ん……たこさんウインナーのほうが好きかな」
「うわ、自分で子供って認める発言を……」
「今度作ってもらいましょうかね」
「なら、一肌も二肌も脱いでおいしいもの作るね♪ はい、ハムさんだよ〜。あ〜ん♪」
「あ〜ん」
「……ねぇねぇ正樹、バカップルってどんな意味だっけ」
「目の前を見ればいいんじゃないかな?」
「正樹〜、僕と小夜歌さんのどこがバカップルなのさ!?」
 小夜歌さんに差し出されたハムに食いつきながら正樹に訴えかけた。
 絶句するように肩をすくめられてしまう。
 ……いやさ、自分でもさ、説得力も何もないってことくらいわかってるんだけどさ。
「何か食べたいものがあったら遠慮なく言ってね?」
 幸せそうに微笑む小夜歌さんには逆らえないんだよ。うん。
 溺愛とか熱烈とかデレデレとかバカップルとかがちょうどいい関係なんだろう。
 ううん、嬉しいんだけど困ったなぁ。
「愁くん、ほうれん草いる?」
「遠慮させていただきます」
「あはっ、嫌いなんでしょ〜?」
「そんなことはないですよ、うん」
「じゃあ全部食べる?」
「すみません、嫌いです」
「うんうん、素直が一番だよ♪」
 ………………。
 …………尻に敷かれてるっていうのは、こういうことを言うんだろうか?
 あ、と祐が声をあげて、テント内へともぐりこんだ。
 首を傾げて小夜歌さんと顔を見合わせている間に、祐がもどってきた。
 そして、じゃ〜んぱふぱふ〜どど〜んと僕へ使い捨てカメラを突き出す。
「……僕にどうしろと?」
「だから、記念写真以外にもいっぱい撮りたいなぁと思って、持ってきちゃいました♪」
 祐は得意げにそう言った。
 小夜歌さんがはいはーいと挙手する。
「はい、なんですかっ」
 祐が教師のマネをしてビシッと小夜歌さんを指差す。
 ……この二人、周波数が同じな気がする。
 僕の絶句をよそに、小夜歌さんは口を開いた。
「私が撮るから、『トライアングル』でいろいろポーズ撮ってくださぁい」
「いろいろ、ね……うふふふふ♪」
「祐、その笑い声すっごく怖くて不安なんだけど」
「あら、大体当たってますわよ?」
 退避開始。
 だが、一歩を踏み出すだけでそれは終わってしまった。
 襟首を祐につかまれ、ぶらんぶらんと宙を振り子みたいに動く。
 祐は反対の手で正樹を手招きした。
「僕、写真は嫌いなんだけど……」
 正樹が渋る。
 それでも、祐は手招きをやめない。
 正樹の目が僕へと向いた。
 盛大に溜息をついてみせると、正樹も溜息を吐いて祐の隣に並ぶ。
 祐は正樹の肩へと手を回し、グッと抱き寄せた。
 小夜歌さんはにっこりと微笑んで、カメラを構える。
 一歩と少しほど下がった小夜歌さんは。
「はい、行きますよー♪」
「ばっちこーい♪」
 小夜歌さんの掛け声に掛け声を返す祐。
 やっぱりこの二人は周波数がいっしょなんだ。間違いない。
 小夜歌さんがシャッターボタンと手をかける。
 そのとき、背後に気配がした。
 怪訝に思うが、振り返るという行動に移せない。
 そして、小夜歌さんは最後の合図を送った。
「はいっ、一タス一は〜?」
 また王道なものを。
 そのとき、背後の気配が動いた。
「気合も足して無量大数じゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 思わず前へとこけかける。
 祐はなんとか背後へと振り返ろうとしていた。
 正樹は前へと腕を出して祐がこけたときのカバーになろうとしている。
 そこに、カシャッというシャッター音。
 僕たち三人は腕を離し、振り返った。
「ふっふっふ……良い絵が撮れたと思わないか?」
「………………」
 御劉先輩だった。
 この人は本当に何がしたいんだろうとか、無駄だとわかっていても考えたくなる。
 小夜歌さんは少しだけ引き気味に苦笑していた。
「どぉれ、次は俺がキャメラを握ってやるぞ。さぁさぁ天城嬢も並んで並んで」
「え? あ、はい、おねがいします……」
 御劉先輩は小夜歌さんに近づき、カメラを奪取する。
 すると、ポンっと小夜歌さんを押した。
 ――僕へと。
「え?」
「ほ?」
 僕と小夜歌さんの、ハモったすっとんきょんな悲鳴。
 カシャカシャカシャ、と連続したシャッター音が響く。
 なぜ音ばかり描写するのかというと――今、目の前が真っ暗だからだ。
 唐突にぱふっと何かが僕の顔に覆いかぶさったせいで、何も見えない。
 少しもがいてみた。
 顔に当たっているものは案外柔らかいようでむにゅっと――
「あン……」
 小夜歌さんの声が少し上から聞こえた。
 まあ背の関係からすると、そうだろうなと納得しよう。
 見上げた。
 小夜歌さんの首元が見えた。
 もう少し見上げた。
 小夜歌さんの唇が見えた。
 さらに見上げた。
 小夜歌さんの目が見えた。
 唐突に、落ちるようにして見下ろした。
 見上げた拍子に少し離れたからか、むにゅっとしたものの正体が見えた。何なのかがわからなかった。
 唐突に――まさに弾けるように、思考が繋がってしまった。
 まさか、この柔らかいものは……女性が持つ特有の、胸部の盛り上がり!?
 僕は思い切って離れた。
 離れ、離れ、離れ、離れる。
 ぜぇぜぇと息を吸い、未だ残る柔らかさとか温かさとかを記憶から削除することを試みた。
 ……消えるどころか、永久保存されそうです。
 鮮明によみがえるあの、男性本能やらを刺激し触発し開放する艶かしくも新鮮な弾力。
 ……僕の思考もそろそろヤヴァサを極めてきたなぁ。
「ふふ……青春の一味はどうだったかな? 片瀬愁よ」
 そんなことを言う御劉先輩に、返せる言葉は見つからなかった。


 時間が過ぎるのはすぐだった。
 みんなと集まって写真を撮る。
 いつもどおりのこと。少し日常とは違う人と、少しの時間を過ごしただけ。
 それだけなのに――日常は、少しつまらなかった。
 自分も溺愛してるんだろうな、と思い、笑う。
 夕焼けにはまだまだ時間がある。だんだんと最高潮の照度から落ちつつある、防波堤に沿った帰宅路。
 三井先輩たちも、この道を歩いているんだ。
 僕よりもたくさんの思い出を持った、先輩たちが。
 聞きたいことがあった。
 ひとつだけ、どうしても聞きたいことが。
 なんで――こんなにも、日常はつまらないんだろう。
 薄々気づいている。
 だけど、それを認めるのは少し恥ずかしくって。
 考えても仕方がないと結論付け、思考を放棄した。
 隣へと目を移す。
「……祐。何僕のことじ〜っと見てるの?」
「ん――なんでもない」
 少しだけ遅れて、祐は激しく首を横へと振った。
 また僕をどう弄ろうかとか考えてたんじゃないだろうな。
 ひどいや、ひどすぎる弟だ。お兄ちゃんは少し悲しいぞ。
 そんなことを考え、祐越しに海を見る。
 水面は、あの時とは違う水面だけど、あの時を思い出させるには類似しすぎていた。
 三回目のキス――思わず唇に手を伸ばしかけて、とどめる。
「……お兄ちゃん。ちょっと大人っぽくなった?」
 僕よりも少しだけ背が高い祐が、そんなことを訊ねてくる。
 僕は、片手を祐の頭へと伸ばし、ポンッポンッと髪を叩いてやった。
「そりゃ、お兄ちゃんだからね。元々大人でぇす」
「……一人暮らしのできなさそうなお兄ちゃんは、当分大人になれないだろうねぇ」
 祐はあきれたようにそう言う。
 僕と正樹だけが見ることを許された、祐の表情だった。
 きっと僕は祐のことも、あまり知らないんだろう。
 ひとつ屋根の下でいっしょに暮らしているのに、だ。
 祐が女装をする――ずっと昔から疑問に思い続けて、保留にしつづけていたこと。
 いつか、祐の口からその理由を聞けるんだろうか。
 言いたくないのなら、聞かないでおく。それが、友達としての礼儀だと僕は思っている。
 まだ話せるほどの友達じゃないということだろう。
 きっと正樹も祐も、違うと否定するだろうけど。
 僕はまだ何も背負えていないんだ。
 友達の重荷も、兄弟の荷物ですら。
 まだ、何かを背負えるほど背中は大きくないんだ。
 もっと大きくなりたい、そう思った。
 『トライアングル』のリーダーとして。小夜歌さんが好きな者の一人として。
 憧れ、よりも一歩も二歩も前へと出た僕には、そういう覚悟が必要な気がした。
 高嶺を見上げるのではなく、その高嶺を登ることを選んだ僕に必要なもの。
 僕はまだ、小夜歌さんのことをこれっぽっちも知ってはいない。
 でも、僕は『小夜歌』さんが好きだから。いろんなものを背負わなくちゃいけなくなる。
 大きな背中になりたいな。
 三井先輩のように、大きく――
 見上げた空は、快い晴れ間だった。


 それぞれがそれぞれの場所で、さまざまなことをしていく。
 道が別れる、それはとても悲しいことだけど。
 道が集い、悲しみ以上の幸せを生むだろうから。
 そして、はまだ集っているから。
 別れの悲しみを考えずに、歩いていけるだろう。
 それぞれが、さまざまなことを想い募り、同じ道を、永遠ではない時間の中で。
 全員がハッピーエンドになれたら、と想う僕は欲張りだ。
 できもしないことを想う。
 だから、誓うだけにしておこう。
 いつか、その想いを貫けるほどになる、その時・・・まで――
はい、〔C〕シリーズ第二章第二部終了☆
ちなみに第一部は、林間学校行く前の話までです。

次の更新は冬休み。
小説内の季節が次回から冬になっちゃうので、やっぱ季節に合わせたいなぁとか。
作者がそろそろ本腰入れて受験勉強したいだけですけども。
投稿するとしても短編なので、♯[]形式ではなく『』形式になりますタイトルが。


それでは、林間学校スケジュール記載。多分合ってると思います。

1日目
  往路(登山オリエンテーション)
  キャンプ設営
  滝見学
  班別料理(夕食)
  一時就寝
  肝試し
  就寝
2日目
  朝食
  バードウォッチング
  昼食
  ボート漕ぎ
  バーベキュー(夕食)
  温泉
  就寝
3日目
  朝食
  魚取り
  焼き魚(昼食)
  キャンプファイヤー(夕食)
4日目
  朝食
  写真撮影自由時間
  集合写真
  帰路

それでは、本編再開は12月か11月です。
つまりは、そーゆーお話ってことですよ(ぁ
それまで行われる月一更新予定のサイドストーリーをお楽しみに♪
さまーすもーるすとーりー【SSS】のノリでいくつもりですので、読了時間と文字量の少なさにご期待ください♪
それでは〜
cont_access.php?citi_cont_id=635003711&size=300


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。