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♯19[歌に綴られる想い]
 好きなのに、好きなのに、こんなにもあなたが愛しいのに。
 どうにもならない。
 気持ち抑えられないの。
 それでもあなたに言えない。
 傷ついて傷ついて、それでも続く。
 迷って迷って、それでも終わることのない。
 もどかしい――ファーストラブ


 CROSS!〜物語は交差する〜♯[歌に綴られる想い]


 体育祭も終わり、少し涼しさが滲み出てきた夏の終わり。
 締めくくりとでも言うような、風見学園夏季最後のイベント。
 そのための準備が着実に進められつつあった。
 などということをリビングで、優衣と対峙しつつ思う。
「はぁ……だりぃ」
「まあまあ、クラス曲ですから。少しは、ね?」
 優衣に抑えられつつ、手荷物の紙三枚へ目を落とした。
 合唱コンクール。
 そんなイベントが一週間後かそこらに控えている中、俺は優衣に歌の指導をしてもらっていた。
 楽かと思えば、三部合唱だったりして、慌てているサボリ魔の心情だ。
 まあそのとおりなんだが。
「でも優衣は部発表のほうもやるんだろ? 大丈夫なのか?」
「えっと、私なんかは後ろに並ぶだけなんですよ。
今回、料理部は一人推薦型でして」
「……その目立ちたがり屋って誰だよ」
 優衣は苦笑しつつ、答えた。
「……小倉さん」
「それ絶対推選だろ。選ばれた人間の意思無視だろ!?」
「ええ〜と、そうかも、しれません、多分……」
 ハハハと無理やりに笑う優衣。
 俺は小さく息を漏らす。
 この場に美姫はいない。
 最近は、美姫との会話が少なくなってきた。
 お姉ちゃんぶるどころか、すぐに会話をやめてくる――微妙な距離感。
 無理やりに笑っているのもわかってしまうから、話しかけるのもままならない。
 ずっとそのままでも、いれないのはわかってる。
 でも――俺が介入していいことかどうかもわからないのだし。
 御劉に助言をもらってもいいのだが、何か忙しそうだった。というか、嬉々とした表情だった。一人のときもなぜか悶えていた。
 時は流れるんだな――などと、実感してしまう。
「今は、合唱コンだな……」
 奈々織との音合わせを始めたのだった。


 それから少し経った、とある日のこと。
 深い深い睡眠学習をしていたとき、ツンツンと突かれて目が覚めた。
 目の前にいたのは、瑞樹と天宮。
「……?」
「ええっと……」
「……」
「……」
「……」
「………………きょ、今日は良い天気ですねぇ!」
「なんでそうなるのミズミズ!?」
 天宮のツッコミは激しかった。
 瑞樹は涙目になって天宮へ訴えかけるが、聞く耳もたず。
 ――俺に何の用なのか。
 悲しいことに、とてもとてもわからない。
 瑞樹は天宮とひそひそ話をしたあと、力んだ拳をさらに力ませてぐっと顔を寄せてきた。
「ええと、その、合唱コンクールのときはお暇ですか!?」
「――あ? まあ、暇だけど」
 合唱コンクールというのは、文化祭の変わりに行われる行事のことだ。
 文化祭がないのは、代わりに【卒業パーティ】【クリスマスパーティ】があるかららしい。
 合唱コンクール。学年別発表は強制参加だが、それ以外を見るのは自由参加――他学年を見るもよし、勝手にしろということだ。
 合唱コンクールは三つほどで成り立っている。
 まず、クラス発表。
 これは当たり前だが、決められた課題曲を歌うことになる。
 その次に、学年発表。
 ただ馬鹿騒ぎなだけだ。
 注目されているのは、最後のひとつ。
 ――部活発表。
 参加したい部だけで行われる発表なのだが、文化系部はほとんど強制。
 優衣から聞かされていたから料理部が参加することも、瑞樹が歌うこともわかっていたが。
「ええと、聞いてもらいますか……」
「は?」
 俺は思わず首を捻る。
 暇、なのは確かだ。
 それ以上に、合唱コンクールが行われる巨大体育館では稀にないことで『クーラーを全開する』
 少し暑さがなくなってきてはいるが、それでも涼しいところにいたい願望は消えない微妙な季節だ。
「――ああ、わかったよ」
 ポン、と瑞樹の髪に手を置く。
 満面の笑みを浮かべて天宮を振り回し始めた瑞樹。
 天宮がジト目を向けてくるのはスルー。


 当日。
 盛り上がりのない学年別発表を終えて、座席番号の張られた折りたたみイスへと深く沈みこむ。
 後十分弱。準備の時間が続く。
 俺の肩を叩いてくる者がいた。
 振り返り、その者の名前を口にする。
「天宮」
「よっ、瑞樹が準備で忙しいみたいだから、こっち、来た」
 ショートヘアの、少し子供の無邪気さを残した容姿。
 その想いも無邪気だけど、それを断固としたものにするのは周りを大事にする優しさがあるからだと知っている。
 天宮が俺の隣へと腰を下ろした。
「祐夜って、ミズミズのこと――瑞樹のこと、どう思ってる?」
 瑞樹と呼んだ――訳、真剣な話。
 俺は僅かに目を落とし、率直な意見を述べる。
「クラスメイト、それよりちょっと距離が近い友達」
「……ふんふん」
 天宮は頷く。
 俺の視界に天宮はいない。表情がどうなのかはわからない。
「じゃあこっちも率直に――好きなの? 嫌いなの? 恋人にしたい?」
「……そこまで考えたことないな」
「曖昧すぎ。きっとさ、傷つくことになるよ。祐夜も、瑞樹も」
 天宮の声は少々チャらけているが、中身は真剣そのものだった。
 追い詰められた感覚――振り払えない。
「恋人にしたいって感情あるならいいけど、ないんなら――恋人とかにするよりも、もっと真剣に瑞樹との距離考えなくちゃいけないと思う。
友達以上恋人未満のガールフレンドって、そういうもんじゃないかな」
「……」
 押し黙ることしかできない。
 天宮の言葉が続く。
「私も経験ないんだけど、瑞樹が為りたいのはもう友達なんてもんじゃないと思う。
今日、結構いろんなことが変わる。
だから、心構えとその他もろもろ用意しといてね。
瑞樹が泣くことになっても――文句はいえない、かなぁ。
でも、祐夜には考える義務がある」
「……わかってた。でも、そーゆー関係のものじゃないんだけど、俺の存在意義にはいろいろと義務がついてくることは、わかってた」
「『泣かせない』それとも、『幸せにする』
どっちかな?
どっちにしても、いろいろ決着をつけるところは必要だと思う。
そうじゃないと――嫌な面見ることになるから」
 天宮の言葉は、とても重くて。
 俺が、直視することをやめた事実を突きつけていて。
「……瑞樹は、俺の大切な何なんだろうな?」
「わかってんじゃん」
 俺の呟きに、天宮が豪快に笑った。
 俺も笑みを浮かべる。
 瑞樹がほんとうに友達なのか。
 友達としての距離、それ以上としての距離――曖昧すぎる。曖昧すぎた。
 だから、駄目になる。
 この曖昧は、少ししかバランスを保たない。
 俺のできた最高の距離で、俺の犯した最高の罪。
 その尻拭いが今の自分に来たというだけ。
 最高の距離でしか瑞樹――みんなに接せられなかった自分がとても弱いのだと知っているから。
 今の自分はそれよりも強いはずだから。
 友達以上恋人未満、その曖昧をしっかりとしたものに変えなくちゃ為らない。
 俺が抱くのは、友情なのか。
 それとも、恋心なのか。
 その問題を直視しても、答えは得られない。
 そんな簡単なものじゃないから。
「それじゃ、私の助言はこれくらい。
瑞樹がさ、今回はがんばるんだよね。だから、それを無駄にしたくないんだ」
 天宮は友情を大切にしている。
 例え、忌嫌われようとも。
 例え、お節介であっても。
「だから、祐夜も――いろいろ考えなくちゃ、ね」
 天宮の笑顔を直視することはできても。
 その暖かさからは目を覆い隠すことしかできなくて。
 ――天宮は、強いな。
 俺は、弱すぎる。
 言葉にして、胸に刻んで、そのくせにもう崩れそうで。
「……馬鹿みてぇ」
 俺の呟きに反応するものはいなくて。
 隣には、もう誰もいなくて。
 俺は響き始めた合唱に耳だけを傾けて、息を吐き出した。


 瑞樹、料理部の発表。
 奈々織がドラムを叩き、ギターやフルートが緩やかな旋律を奏でている。
 一人、前へと出ているのは瑞樹。
 マイクを両手で握りこみ、目を閉じている。
 前奏が終わると同時に、発せられた美しき声のさえずり。
 普段よりも声は大きく、大胆な気もする。
 心を込めて歌っているのがわかる、わかって――しまう。
 それほどに、形容し難い凄さがあった。
 人が集まってくる。
 観客側からのざわめきが大きくなる。席が完全に埋まりつつあった。
「……」
 俺が直視するのは瑞樹ただ一人。
 ただただ、衝動のようなものが俺を駆け巡り。
 気持ちを整理させて。
 結果を弾き出す。
 ――ごめん。
 瑞樹に対して、そう呟く。
 その呟きが届いているはずがなく、曲はサビを迎えた。


 一歩一歩が重い。
 それでも、しっかりと進んでいく。
 巨大体育館の、裏側。
 つまり、合唱コンで使われた機材が適当に収められている物置。
 そこまでくると、向こうから近づいてきてくれた。
「……祐夜さん」
 いつもと変わらぬ口調でそう呟いたのは瑞樹。
 俺の前まで走ってきて、肩を上下させている。
 最初とは違った。
 言うことはいうようになったし、笑顔を浮かべるようになったし、自分の意見を持つようになった。
 だから、彼女は多分言ってくるだろう。
 いつの間にか周りには、瑞樹とともに片付けをしていたはずの生徒はいなくて。
 気を使われたと思い小さく笑みを浮かべてしまう。
「――瑞樹、話があるんだ」
「……私から、言ってもいいですか?」
 瑞樹はまっすぐ俺を見つめる。
「……強くなれました。私は、あなたがいてくれたから、強くなれました。
前までの私だったら、こんな風に笑うどころか、話すこともできなかったと思います。
でも、それだけじゃ嫌なんです。今でも、祐夜さんは私に微笑んでくれてます。
私は、私だけに笑顔を――向けて欲しいんです」
「……欲張りだな」
「すみません。でも、譲りません」
 瑞樹は強い。
 でも、今の二択で瑞樹は空元気をだしてるだけなのかもしれない。
 それでも俺は、けじめがある。
 俺は口を開いた。
「………………ごめん」
 その一言だけを告げる。
 瑞樹の笑顔は崩れそうになって。
 でも、辛そうな笑みに上書きされた。
「私も――いきなりこんなこと、すみませんでした」
 瑞樹は最後まで言い切ると、俺に背を向けて走り去っていく。
 俺は足元がふわふわしたような感覚に囚われて、近場にあった何かに手をついた。
 暖かさがほしかった。
 暖かさがたまらなく恋しかった。
 そして浮かんだのは、無邪気でも俺を支えてくれた笑み――美姫。
「……そうか」
 そうだったのか。
 霧消に笑い声が漏れ、止められなくなる。
 何度も何度も実感する。
 俺は――美姫が好きだったのか。
 嬉しさとも、悲しさとも形容できない笑い声を、俺は吐き出し続けた。


 やっぱりフラれてしまった。
 私なんかが、祐夜さんに選んでもらえるはずがないのだ。
 祐夜さんの周りには【戦乙女】や【戦女神】がいる。私なんかよりとっても美人で。
 自分なんかが選ばれる、そんな事実が遠すぎるのはわかってて。
 ――でも、好きだった。
 好きで好きで仕方がなくて。
 祐夜さんの笑顔を見ると、たまらなくて。
 それが恋なのだと気づいたのは、すぐだったけど。
「ミズミズ、こんなところにいたんだ」
 私の前に、息を切らせて歩み寄ってきたのは親友のキミキミ。
 頬を伝い始めていた何かを手で拭い、キミキミに微笑みかけた。
「フラれちゃった! しょうがないよね、祐夜さんってかっこいいし、たくさんの人にもててるし、私なんか眼中にも――」
「ミズミズ」
 キミキミは私の、上の空な空元気を吹き飛ばした。
 ぐっと私の目を見つめてくる。
「……泣きたかったら、泣いても良いよ?」
 泣くつもりはなかったのに。
 一人でちょこっと泣くだけにしようと思ってたのに。
 その一言でせき止めてた何かが抑えられなくなって。
 キミキミの胸に飛び込んで、祐夜さんのことを考えながら。
 ――ちょびっと、泣きました。


 忘れるなんてもったいない。
 激しく想うファーストラブ。
 嫌われたって? そんなことないよ。
 好きなの好きなのとっても好きなの。
 嫌われたって、ただの誤解よ。私は大好き離れない。
 ファーストラブの不器用だって、気持ちあれば乗り越えられる。
 もどかしいファーストラブ。こんなにも愛してるはずなのに。
 なんで伝わらないの、経験不足はつらいのねI’m sad.
 それでも、それでも、好きなんだ。
 だから、今日も、私、からね。あなたと手を繋ぎに行く。
 あなたと共にいる私は幸せ。
 あなたと手を繋ぐ私は幸せ。
 あなたのいない私は不幸。
 あなたと手を繋がないなんて、考えられない。
 不器用で最高のドキドキをくれる、押さえられない初恋。
 我慢してね、愛しき私のダーリン♪


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