♯17[〔開催! 清輝の爆烈アルティメットバトル☆血みどろの体育祭☆〕2]
自分のために想いを貫くことはいけないことだろうか。
溢れんばかりの想いに、すべてを忘れて突っ走ることはいけないのだろうか。
父は駄目だと言った。
母は馬鹿と罵ってきた。
でも、私にはわからない。
彼が――彼の言葉が、彼の言葉だけが、真実で。
彼だけが――私の望む、私のなりたい姿だろうから。
CROSS!〜物語は交差する〜♯17[〔開催! 清輝の爆烈アルティメットバトル☆血みどろの体育祭☆〕2]
赤き紅蓮の騎士が地を焦す炎のごとく駆けた。
それに対するは、水滴る清麗な清らかなる騎士。
轟の雷電ごとく威をもって光と成すは、黄の騎士。
地へ根を張る緑の騎士は、鈍重ながらもしっかりと己らを示していった。
四派のぶつかり合い。
恐れることはない、我こそは正義なのだから。
いち早く衝突したのは――水の元可憐に舞う戦乙女と、炎のごとき想いを持って断固とする戦女神。
『またまた登場、実況です。この騎馬戦において許されている武器は【設置されている障害物】【指定されている配布物二点まで】ですが、戦女神はいったいどんな戦いをみせてくれるのでしょうか!? 風宮学園生徒会役員切り札、その美貌も天下一! 鷺澤様ぁぁぁぁぁああああああああああ!!』
熱狂的な叫びはともかく。
美姫の反射神経や環境適応能力は予想外だった。
心もとない足場のはずだが、俺にほとんどを任せて一撃を叩き込んでいる。
【三人四脚】のときも打ち合わせなしにあんな破城槌アタックをしたんだが。
信じられてるってことか……なら答えるしかあるまい。
前衛ひとりは俺。ここで押し負けたら美姫の勝敗もなにもない。
青組だったらしい美夏。キリッとした、焦っているかのような表情で、騎乗者をやっていた。
箒による必死な攻撃。予想よりも小さい威力にいらいらが募り、隙が多くなっていくのを下からでもわかる。
それに、美姫はしっかりとした一撃をもって美夏に振動を与えている。
落ちても拾ってもらえるくらいで終わらせたいのだろう。
だが、長続きしそうだった。
体格が同じくらいのやつと足の取りあいを行い続けるのも無理がある。
そして、閃いた。
挽回の一手――
俺は美夏騎士の横を抜けるように足を伸ばした。
まるでその意図が伝わっているかのように、訳もなくちゃんと騎士単位で横に動いた。
前ばかりを狙っていた美夏と騎馬は、少しばかり前へと傾く。
美姫が立ち上がった。
箒をできる限り伸ばして横へと伸ばす。
「白雪斬光剣……ッ!!」
青白い斬撃の幻覚が見えそうなほどの一撃、美姫は悪い足場の上でありながらも全力を放った。
反動が俺たち騎馬へと来るが、何のこともない。
斬撃によって騎馬から弾き落とされた美夏は、二・三度地面を跳ねて転がり落ちる。
美姫の箒には、美夏の付けていた布が掲げられていた。
さすがというか、なんというか……これで美姫は±0となった。
俺は騎馬を解体し、美姫を腕で抱きしめる。
ゆっくりと地面に立たせ、二本の箒を手渡ししてもらう。
ゆっくりと起き上がってくる美夏の騎馬が視界に映る。
二人が俺と同じように箒を持っている。
俺は構えることなく、そちらへ歩み寄る。
「それじゃそろそろ……」
箒を持つ手に力を込める。
血液とともに気を全身に送り込み、神経を鋭敏にさせる。
僅かな身の震えに、こそばゆい感覚が上ってくる。
「――本気で、潰そうか」
対峙する三人の顔が悲愴に染まる。
――今ここにいる俺は、殺戮者だ。
『実況です! 戦乙女と戦女神の戦いに決着がついたようですが、すでに戦闘と呼べるものではない――殺戮です!!
鷺澤様の騎馬であった三人が、中心にて参上する敵色を次々と葬り去ってます!!
その姿は正義在る騎士なのではない――ただ戦いで生きる覇者。その中心ともいえる三井祐夜は、覇王とでもいえばいいのでしょうか!
誰も、誰もこの殺戮を止められません! 赤組大リィィィィィィドォォォォォ!!』
筋肉が訴えるのは熱。
両腕に伝わるは殺戮した生命。
地に舞い落ちるは騎乗せし者の証である布と、騎馬である証明の紙。
視界にあるだけでも――数えるのをやめたくなる。
新たな騎士の側面へと一歩を踏み出し、騎乗者の布を叩き落す。
一歩分時間を置き、騎馬の紙をも奪う。
これでこの騎士は脱落。
同じようなことをしている御劉と輝弥。このトライアングル≪覇≫を覆すことはできないだろう。
――久しぶりに、心が酔い始めた。
こーゆー自分は、嫌いだ。
『黄組全員脱落! こんな事態を誰が予想できたでしょうか!?』
残る色は青、赤、緑といったところか。
数の減らない、とろくせぇ緑の騎士に微笑みかけた。
一人の姿を見つける。
意図的に騎馬となり、戦闘もなしに解体した――生徒会会長。
「美乃宮春花……」
余裕たっぷりの、ふんわりとした笑み。
ひどく恐怖をおぼえたのは――気のせいではない。
御劉は駆けた。
祐夜がそれを追おうとし、騎士に狭まれる。
御劉を追うことができたのは輝弥。
御劉の速攻が春花を襲うが、春花の持ったモップがそれを防いだ。
強度の違い……重さの違いもあるからか、簡単に御劉が押し負ける。
重さを利用した、振り下ろしの連撃。
構えなおす間の隙は、防御の余韻で固まる御劉には突けない。
割り込んだ輝弥の背後を取った春花は、何も持たない片手を伸ばした。
輝弥はターゲットを春花からはずし、全力で走りきる。
なんとか、春花の手は輝弥の生命を紡がなかった。
息を荒げる輝弥は、頬に伝う汗を片手の甲で拭う。
春花は妖しく目を細め、その様子を見ていた。
大群を一人で切り刻む祐夜は、それを遠目にしかみることができない。
モップを低く構え、駆け出した春花は一瞬にして御劉との距離を詰めた。
影が飛び出す。
それは、祐夜の切り札である三井家万能妹――優衣。
気づけば、祐夜の放った一太刀でこの五人以外全員が退場していた。
優衣が横に構えた箒が、即座に放たれたモップを派手に押さえつける。
不適に笑う春花の片手が優衣の後頭部を撫で――紙を破り取った。
『【騎馬戦】終了!! 緑組1点、赤組3点、青組0点、黄色組0点。
よって――赤組の勝利!!』
「負けた……か……」
無様に退場した戦乙女には、この程度の観戦しか許されないか。
冷たく濡れたタオルを首にかけ、ふ〜とため息を吐いてしまう。
あいつが、あそこまで一生懸命になるなんて。
あの女が――美姫とかいう女が、そんなにいいのか。
いろんなことが錯誤して、胸がキュッと痛む。
――彼の笑顔が好きだ。
でも、それは自分に向けてほしくて。
――彼の困った表情が好きだ。
だから、困らせるようなことばかりしちゃって。
――彼が、好きだ。
なのに、彼は別の人に微笑んでいて。
別の人にすべてを委ねていて。
その信頼は――私に向かない。
「ここにいたんだ、美夏さん」
私は弾かれるように顔を上げた。
屈託ない笑みを浮かべて、私の隣に腰を下ろす彼女は――美姫さん。
「ちょっと強かったかなぁと思って、傷とかついてない?」
「あ――はい。大丈夫です。受け身とかは基本ですので」
身体に叩き込まれている。
彼女の笑みに釣られて微笑む。
同性でも、彼女は可愛いと思う。
私なんかより髪はさらさらしてそうだし、私なんかより肌は綺麗だし、私なんかよりも……心が澄んでいる。
私は、彼に見せる笑顔ですら作り物で、本物なのは気持ちだけ。
気持ちも、素直に彼へ見せられない。
私の欠点をすべて補えているのが彼女。
――乙女と、女神の差。
「でも美夏ちゃんは可愛いし、もう少ししたら一目散に弟君が来ると思うなぁ」
「弟君……祐夜ですよね……ええと、祐夜がそーゆー優しいのは性格だし、祐夜らしいと思いますよ。
多分、私が可愛いとかは関係ないです」
「弟君にとって私は『姉』で。美夏ちゃんは『友達』だからね。どちらかといえば、美夏ちゃんのほうがリードかなぁ」
いきなり変なことを言われてしまった。
身を乗り出してぶんぶんと否定する。
「美姫さんのほうが可愛いですし、私なんて……祐夜に、何一つ見せてないですから」
「恋とか愛はね、格差を気にしちゃ駄目なんだぞ?」
美姫さんは足を伸ばした。
「私はね。祐夜の幼馴染なんだ。お姉ちゃんじゃない。
昔なんてこんな風な私になるなんて、思いもしなかったんだよ? 全部祐夜の――弟君のおかげ。
階級とか捨ててもいいって思えるくらいに……好き」
小さく呟いた美姫さん。
微笑から満面の笑みに変えて、私へと目を向けた。
「だから、恋にはしっかり向き合わないとね、美夏ちゃん♪」
「………………そうですね」
聞きたいことがあった。
あなたと――祐夜との関係は。
あなたは――祐夜のなんなのか。
お姉ちゃんといっていた。でも、それは表向き。
あなたは――祐夜の何になりたいんですか。
それは私にもいえること。
私は――祐夜の何になりたいのか。
「っと、こんなのところにいたのか。美夏、と美姫?」
全身に小さな擦り傷を作った彼が手を振ってやってくる。
両手、どころか両腕まで振ってそれに応える美姫さん。
苦笑いを浮かべる祐夜は、私の前で身を低くした。
視線が同じ高さで――すっごく近い。
「怪我とかしてないか? 保健室までいくか?」
「な――ば、馬鹿者! 退場してすぐに保健室にはいった!!」
「あ、そうか」
くしゃくしゃと私の髪を撫でる彼。
突然のことで目を背けてしまい、それでもなんとか拒絶だけはしないようにして。
本当ならここで微笑んだりしたほうがいいのかもしれないけど、微笑みたいけど、笑顔が浮かべられなくて。
彼が、そんな私を理解していることがせめてもの幸いだろうか。
「それにしても……弟君は隅に置けないなぁ。こんな可愛い娘と友達だなんて♪
今度お家に連れてきてね♪」
「美姫姉だと着せ替え人形にするだろうが……美夏。こいつの言うことには従っちゃ駄目だぞ」
「ん? あ、ああ。わかった……」
私が律儀に相槌すると、彼が目を丸くする。
――むむぅ、何か気に食わない。
「悪かった。バカにした俺が悪いです。だからその拳は開いて、な? な?」
「むむぅ……」
仕方なく振り上げた腕を下ろす。
美姫さんがクスクスと笑っている。
「っと、後半の前に飯だよな。美夏はどうする? 俺たちと食うか?」
「……ほかに誰がいるんだ?」
こいつはもてる。
おそるおそる聞いてみたのも後悔した。
「美姫に優衣に瑞樹に天宮、真紀恵に春花に……ってところだな。俺が誘ったのはお前が一人目」
……そういうことなら、行ってやるか。
うん、仕方なくなんだ。祐夜が頼んだんだから。
「……どうしてもって言うんなら、行ってやっても、良い」
「はぁ?」
首を傾げた祐夜。
だが、すぐに私の言ってしまったことの意味を理解すると、吹いた。
腹を抱えて笑ってきたので思わず拳を振り上げそうになる。
だが、その合間を割るように、目の端に涙を浮かばせた祐夜が覗き込んできた。
「どうしても、来てほしいな。うん、そのとおり。どうしても来てほしいよ」
「そ……そうか。なら、仕方ないな、うん」
笑うのを堪えるようにして言われるのは癪だ。
でも、殴りたくはならない。
――私も、近いんだ。
ちょっと手を伸ばせば彼に手が届く。
ちょっと勇気があれば、彼に想いを伝えられる。
彼のような、素晴らしい人間になれるかもしれない。
それはもちろん、憧れだけじゃない――恋心も含めて、彼に見せられる。
彼と私の間には何もなくて、ただ私に何かあるだけで。
それも、前進を止めるような大きなものじゃない。くだらないもの。
くだらないものをくだらないものと思えないのも、自分をしっかりと知っていないからだろうか。
「それじゃ、私はちょっとお仕事行ってくるね♪」
そういって立ち上がった美姫さん。
思わず、祐夜を急かした。
意味をわからずに首をひねった祐夜をキッと睨み、理解させる。
「あ、ええと……手伝おうか?」
この程度の気も利かせられないようじゃ……でもまあ時には直線的な優しさがあって、そこが良いんだけれど。
美姫さんは私へと目を向けてくる。私は不敵に微笑んでおいた。
「それじゃ、手伝ってもらっちゃおうかな♪」
美姫さんと祐夜が離れていく。
祐夜が一度振り返ったので、私は軽く手を振っておく。
……溺愛しそうだな。
今は離れてるから良いけど、一度くっついたら離れられない気がする。
ちょっとでもくっついていたくなって、もっともっと愛しくなっていて。
「……私もそろそろ、抜け出せないか」
友達という枠で、収まれない。
そんな未来が見え始めてきた。
なぜか――彼の後姿を思い出して、ほくそ笑んでしまう。
こうして前半が終わる――
屋上。
そこに流るる風は涼やかで、暗闇の陰は心を覆い隠す。
隠すとは、なくすのではない。
隠すとは、恐怖を生むこともある。
「やあ……御劉か」
陰に身を置くのは――輝弥という少年。
童顔でクリッとした瞳が、その幼げな容姿に似合わない穏やかな感じに細められた。
その視線の先にいる御劉は、陰へと足を踏み入れる寸前で立ち止まっている。
「午前は終わりだ。輝弥、午後の競技をおぼえているか? 【アレ】の優勝商品は――なんだ?」
「情報網は顕在してる。自分で調べなよ?」
「お前と言うプロテクトがある時点で、得ることはできない。
お前は――生徒会。いや、生徒会会長と協力しているな?」
御劉の眼光が輝弥を貫く。
輝弥はクスッと微笑んだ。
「御劉――そのとおりだよ」
「私が、いろいろと頼んでるの♪」
輝弥の横から、御劉に見えるようにと上半身を傾けた――美乃宮春花。
ぽけぽけした瞳、ウェーブがかかったロングヘアー、幼げな容姿だというのに驚異的な発達をしている突き出し。すべてをもってして魅惑という言葉を得た風宮学園高等部生徒会会長。
輝弥と同じように、春花の瞳にも意地悪で子供っぽい光が瞬いていた。
「なぜ? なぜ風紀を乱すようなことをする?」
「御劉、君にそんなことを言われるとは思わなかったよ」
「俺は意味のある行動しかしていなかっただろう。輝弥、お前の行動に何の意味がある? ただ乱を起こさせているだけとしか――」
「御劉くん。君はわかってるじゃない♪」
にっこりと微笑んだ春花。
御劉はその意味を計りかね――目を見開いた。
「……嘘だ」
「高校生活だって一回しかない。なら、忘れられないくらいにするのが一番でしょう?」
御劉の呟きに、猫撫で声で答えた春花。
輝弥が御劉に対峙した。
「御劉……君はゲームをするとき、どんなときに楽しむ?」
「――勝ったときだ」
「それが当たり前だよね。でもね、僕等は『違うんだ』」
輝弥が口元を歪める。
「僕等は『勝つことだけがすべてじゃない』と思ってる。そう、楽しい状況で生き残るというのも楽しみ方だと思うんだ。
完璧勝利なんて、面白みも何もない。
だからね、思ったんだよ――僕等が作った『花火』で、主人公がどう反応を示してくれるか。
今回は、ちょこっとほど失敗かな。
まあ、一人だけ心情変化した娘がいるみたいだけど」
「……自分で波を荒立てておいて、他人にその尻拭いをさせると?」
「結果的にはそうなるね。でも、僕等は『正義であるつもりはない』」
御劉は思った――
「僕等は、元々こういう人間なんだよ、こういう『悪役』なんだ」
自分の親友は――
「それに、尻拭いは必須だ。自主性に任せてるんじゃない」
本当に――
「御劉も――午後にはそれを実感することになるよ?」
黒の存在なのだと――
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。