♯16[〔開催! 清輝の爆烈アルティメットバトル☆血みどろの体育祭☆〕1]
ファンファーレが鳴り響く。
勝者はいずこに。敗者はいずこに。
実力は勝敗の基、勝利と敗退の区別をさせるのはなんであろうか。
知らずして騎馬は駆ける。
騎馬が胸に秘める想いの向きは交わることなく、騎乗する騎士は干渉できずの戦女神。
足並みだけは揃えて、今だけの平穏を恒久にと願う。
その恒久が永遠でないことを断固として知りつつ――
CROSS!〜物語は交差する〜♯16[〔開催! 清輝の爆烈アルティメットバトル☆血みどろの体育祭☆〕1]
暑かった。
猛烈に暑かった。
「あちぃ〜〜」
声に出すともっと暑くなった。
後悔したのは言うまでもない。
「弟君……なんでそうだらけちゃうかなぁ」
俺を覗き込んでくる美姫。
体操服姿がまぶしい、というか白くすらりと伸びた脚が美しい。
それが見えるのも俺が寝そべっているからなんだが。
「いいだろ……せっかくこんなにもいい枕があるんだから、決戦まで英気を蓄えなくては」
「……枕じゃないですよ、祐夜さん」
俺を覗き込むクリッとした瞳。
なぜ見下ろされているかというと、眠いといった俺のために膝枕をしてくれているからだ。
普段なら飛び起きるが、すでに知っていた事項なので許容範囲内。
「枕以上に寝心地がいいってことだ。優衣」
「む〜、褒めてますか?」
「褒めまくってる」
複雑に笑顔を浮かべる優衣の髪に手を置いてやる。
美姫は呆れたように小さく息を吐いた。
「それより、美姫はなんでこんなところに?」
辺りを見回した。
淡い黄色味のかかった巨大運動場。
中学一年、二年、三年。高校一年、二年、三年。
六年分の生徒が四つの色に分けられて、運動場の四辺で待機する。
いや、三辺だろうか。
残り一辺は多大な生徒会役員の待機場所兼教師待機場所となっている。
ちなみにクラスから何人かの係員はそこに行くそうだが、俺は仕事ナシ。
だから、生徒会役員である美姫はその待機場所にいるもんだと思ってたのだが……
「この『赤組』のパトロール役員をするんだよ。だから、普通に観戦できるんだよね〜」
「へぇ……出る競技は俺といっしょだったよな」
「うん。【三人四脚】と【騎馬戦】だよね。
二ノ宮さんがいないからもしかしたら呼び出されちゃうかもしれないけど……」
二ノ宮美奈さんはこっちの担任といっしょに離島した。
夏休みの間だったらしく、見送りしたのは数人らしい。
御劉がおもしろくなさそうにしているのはそれからだ。
張り合うやつがいないのは物足りないのだろうか。
始業式から大分経った今でもまだなにやら気まずい。
「……夏休み前みたいにバカ騒ぎできたらいいんだけどな」
「騒ぎすぎて、私の仕事増やしたりしないようにね」
そのための細工も施した。
俺たちでできることは穏やかなものでしかないが、騎馬戦のメンバーをいろいろといじくらせてもらった。
美姫を騎乗者にして、馬が俺・輝弥・御劉の三人。
それでどうなるかはわからないが……どうなるかわからないな。
「伊里嶋君は普通でしょ?」
「ん……まあな。多分なんか企んでるぞ」
俺の言葉に美姫が嫌そうな顔をする。
「……弟君とゆっくりしたいんだけどなぁ」
「まあまあ。昼飯くらいは食えるさ」
美姫へと気楽に微笑んでみせる。
それにしても、暑くなってきた。
雨の気など全然ない晴天。蜃気楼が見えそうだ。
今のままだと日光干しになりかねん。
「えっと……私は応援団のほうとかあるので、いっしょに食べられないかもです」
「応援団?」
優衣の三三七拍子を思い浮かべてみる。
――ううむ、昼休みはココにいないほうがいいかもしれない。
おどおどした感が見ていられない、と思う。
「優衣ちゃんの応援姿も一枚収めたいよね〜」
ひょこっと出てきたのは、体操服を着ても拭えない不思議系雰囲気を持った童顔男子。
またの名を輝弥。
「伊里嶋君……写真っていいのかなぁ?」
「いいのいいの。どうせ渡すのは祐夜くらいだしね」
輝弥の一言が二人を煽った。
優衣と美姫の目が俺に向く。
「……弟君。買うんだ」
「……祐夜さんはそんな人じゃないですよね?」
「え、え〜っと、そのっ」
「そうそう。僕が撮った美夏ちゃんのとか優衣ちゃんのとか美姫ちゃんのとか。ぜ〜んぶ買い占めるんだよね。
ほかの人に見られたくないからって数万はたかなくてもねぇ」
輝弥が両手で構えた古めのカメラ。
俺はふと思いついた。
すぐに視線を走らせ、ぼ〜っとしている御劉を見つける。
優衣の膝枕を惜しみつつ、御劉を片手で引き寄せた。
「輝弥。良い案があるんだが」
「わかってるよ。……美姫ちゃん、ココ押せばいいからね。わかる?」
「カメラくらいは使えるって、それにしても弟君はやっぱり弟君だなぁ」
意味不明な喜び方をしている美姫。にこにこと満面笑顔なのは先ほどの買占めが原因か、俺の行動の意味を悟ったからか。
理解していない御劉と優衣はとりあえず置いておく。
「はい。それじゃ〜」
そう言って俺の反対側へ並んだ輝弥。
俺は両者へと両腕をがっちりと回す。
美姫がカメラを構えた。
「はいっ、チーズ♪」
パシッという音とともにフラッシュで視界が眩む。
それで目をつぶるほど子供ではない。
かったるそうな輝弥を見て思わず苦笑していると、俺へと美姫が抱きついた。
「伊里嶋君、はやくはやく」
いつの間にか輝弥の手にもどったカメラが俺へと向けられる。
美姫は俺の首へがっちり両腕を回して離さない。
……まさか……この状態を撮るっていうんじゃ………………
輝弥の笑みをみてそれに実感を得た。
美姫を引き離そうと両腕を動かそうとして、フラッシュが視界を眩ませる。
すでに遅かった、嬉しそうにピョンピョン跳ねながら美姫が視界から外れる。
だが、すぐにもどってきた。
「ねぇねぇ、どういう風に撮ろっか?」
美姫の脇に抱えられている優衣。
……。
……。
……。
……勘弁してくれ。
出番よりも先に精神力浪費で倒れそうになったが、それでも【三人四脚】まで生き残った。
騎馬戦はいつだったか――まあいっか。
「しっかり結べよ、美姫」
「大丈夫だよ……御劉君も、結び終わった?」
「無論」
美姫を真ん中に、俺と御劉が左右を走る。
御劉は縄を結び終えてつまらなそうに辺りを見回していた。
俺が結ぶのを我侭風味で嫌がった美姫は楽しそうに、俺と美姫とを結ぶ縄を縛っている。
「どう? きつくない?」
「ああ、大丈夫」
三人四脚。
正方形の戦場の四隅に置かれたコーンすべてに触れることを条件に、コースも厳しいルールもないなんでもありの戦闘ゲーム。
死なない程度なら殴っていい、殴れればの話だが。
二人三脚よりも方向転換や速度上昇に時間がかかる。参加者が多いため直線行動ができないし、暴力もありなのだ。
女子もたくさん出場しているのがなぜか。
答えは簡単――腕使用禁止のルールがあるからなのだ。
左右の者は片腕一本ずつ使え、真ん中は両腕使えない。
コーンは蹴るのも叩くのも許可され、一度弾き飛ばされたら役員にもどされたりはしない。
戦場外に出た場合は体育教師によって投げ込まれるのだが。
今一度戦場を見渡す。
狭いともいえない、広い空間。コーンに触れたかどうかの判断はしやすいように思える。
それでも速度上昇の距離は稼げないだろう。こけるなんて問題外、こけるようなチームはこれに出場しない。
危険度ちょっと高め。まあ、普通にプレイしてたらきっと大丈夫だろう。
「いちについてっ」
競技用ピストルを掲げた役員の女性。
じ〜っと見ていたからか、にっこりと微笑まれた気がする。
……気のせいということにしておこう。
「よ〜い」
スタートだけは揃ってするといことに今更ながら律儀だなぁと思い、無言の緊迫に逆らう。
指の動きを見つめ、行動を起こそうとし――美姫を抱きとめた。
「どんっ!」
パァンという音とともに全員が走り出す。
――俺たち以外。
アイコンタクトすらしていないというのに止まっている御劉。
俺と見ているところは同じだろう。
美姫だけが理解できずに俺と御劉を交互に見比べている。
俺は戦場全体へと目を走らせた。
コーン二つ目へと走っていくのを確認し、御劉と俺が同時に足を踏み出した。
向きは同じ、俺は無意識に美姫を抱え上げていた。
抱え上げたといっても一瞬で、すぐ後には美姫自身が足を動かして追いついてくる。
コンタクトをとることなく御劉と俺が車輪となり、突撃した。
速度が上がる、上がる、上がる――
最高速で一つ目のコーンに接触しようとした。
そのとき、美姫が舞い上がった。
俺と御劉へ重心を託した美姫、地面へと舞い落ちるよりはやく――
ドガァン
――蹴り飛ばした。
なんとなく城門破壊が浮かんだ。
美姫が破城槌で、俺と御劉がそれを運ぶといったところか。
コーンがものすごい音をたててふっとんだのには思わず怯みそうになる。
反作用の勢いか何かで方向が強制的に曲げられ、最高速を保ったまま次のコーンへ向かう。
蹴った本人はピンピンとして俺たちの足並みについてきている。
――不思議だ。
群とは別のコーンへ向かい、気合を入れて美姫を支える。
美姫が地面と平行になり、コーンを蹴り転がした。
蹴るのにも一工夫なされているようで、上手く軌道を場外から逸らす。
残りコーンは二つ。
場外と場内を隔てる線ぎりぎりを強く踏んだ御劉が俺と美姫へとぶつかるように跳ぶ。
その勢いを俺の一歩が殺し、次のコーンへの直線経路を作った。
最高速のまま、気力も途切れない――だが、別経路から来たトップと鉢合わせした。
「グハハハハハハハ!!」
「オキョキョキョキョキョキョキョ!!」
「ヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒグヘッ!?」
三人組の狂ったような叫びを蹴りひとつで中断させる。
蹴りの力が糸電話のごとく伝わるように、三人組の足元をぐらつかせた。
強引にその三人組の横を通るようにして抜く。
その瞬間足払いをかけた御劉によって、三人組は地面とキッスを交わすことになった。
「あとひとつでゴールイン☆ だよ♪ きゃ〜♪」
「一人で騒ぐなよ……」
何かを勘違いして赤面しそうな美姫。
言葉を交わせるほど余裕なのだが、周りよりも圧倒的に速い。
速度をあまり落とすことなく最後のコーンに残り数歩となり……
「これで終了っと……」
コーンを蹴り上げそうな御劉と、コーンを吹き飛ばしそうな美姫を出し抜いてポンッとコーンを蹴った。
すぐさま美姫からのブーイングが飛ぶ。
「最後の一個だから派手に決めようと思ってたのに〜」
「そういうこと言ってるから……体育教師さんがばててるんだよ」
場外で悶絶してる体育教師を横目に確認する。
ぶ〜と頬を膨らませる美姫の隣で、すでに縄を取り終えている御劉が去っていった。
声をかける暇もなく、観客の人ごみへ消えていく。
周りの盛り上がった歓声とは裏腹に、冷めている自分の心に気がついた。
「……」
階段を駆け上がる。
一歩、二歩、しっかりと。走る気にもなれない。
ここまで落ちぶれたかと、自嘲的に笑った。
たった一人のライバルを失った。それだけで、すべてがつまらなく思えて。
この階段を踏みしめるだけで、思い出してしまう。
「……ほら、お疲れさん」
俺をコンッと小突いたと同時に、声がした。
振り返ると、缶ジュースを突き出した親友がいた。
「最近おとなしいな。大きい花火を打ち上げるんじゃないのか?」
わざとちゃらけた風に言うのは、優しさからきているのだろう。
嬉しくもあるが、届かない。
「……悪いな」
祐夜に関係ないことだった。
もしそれをいってしまえば、絆は断たれる。
いや――そうじゃないか。
祐夜なら、拒めばもっと関わろうとしてくるだろう。
それに甘えることはできない。
俺は祐夜の手から缶ジュースをもらう。
「それで――全部吐け」
「なんのことだ?」
「白を切るつもりか?」
首根っこを掴まれ、若干脅される。
それに屈するほど弱いつもりはない。
だが――話しても、いいか。
「……好きじゃないんだ」
「ん?」
「最初も、今も、好きじゃないんだ。嫌いでもない。好きか嫌いかで分けられる感情じゃないと思うんだ。
ライバルに対する感情は、どう整理すればいいのかわかんねぇんだ。
俺は最後も微笑めなかった。少し意地を張ることしかできなかった。
――何をしたらいいのか、わかんねぇんだよ」
祐夜の表情が強張った。
俺は冷静で、冷静じゃない。
思考回路に霧はなく、しっかりとした判断ができる。
驚くほどに――自分でも、驚くほどに。
「……すまん。何も言えねぇや」
「それがお前の良い所だよ」
楽になった。
話すだけで、吐き出すだけで、少し余裕ができた。
「……次は、三井妹の出番だったと思うが?」
「おお、そうか――じゃあ、あんまり思い詰めるなよ」
慌てて身を翻して去っていく祐夜を見つめ、缶ジュースを開けた。
ゆっくりと口に注ぐ。
――酸っぱいな。
午前も大半が過ぎた頃。
胸の大きさが原因で土管(ドラム缶を繋げたっぽいヤツ)潜りにて退場した【障害物走】の優衣を励ましていると、放送が流れた。
美姫、御劉、輝弥が立ち上がったのを確認して、優衣から離れる。
「ファイトです〜〜〜〜!!」
握りこぶしを振りまくって応援してくる優衣、一際目立っている。
泣きそうだったあの姿は何処へ……
顔に熱さが向かうのを払うように駆け出した。
『ここで実況者である私が『騎馬戦』についての話をさせていただきます。
騎馬戦は、2点と表記される布ひとつを騎乗者が身体のどこかに括り付け、一点と表記される紙を騎馬全員が体操服背に貼り付けることが定義とされています。
同時に【紙または布がなくなった者が退場】つまり、騎乗者がアウトになったとしても騎馬は戦えるということです。
騎乗者の退場は【布を取られる】または【騎馬から落ちる】ことです。暴力は極度出ない限りOKされています。
男子女子の区別はなし、混合してくれて構いません。構成の幅が広がることでしょう。
次に騎馬について。四人から五人で構成されているのがほとんどですが、【人数の指定はありません】
ですが、クラスに対して配布される紙と布の数は決まっており、騎馬と騎乗者を人くくりにした『騎士』を多くするか少なくするかは自由となっております。
大人数にて安全性を確保してもよし、特攻隊を構成して突撃させるもよし。
点数換算は色別となっており、色ごとにスタート場所も違います。
範囲が広いと思われる【三人四脚】よりも広大な戦場で、障害物も在る中を三十分間駆け巡ってもらい、その後役員にて【生き残っている】布と紙の回収をさせていただきます。
では皆様方――殺しあいやがれぇぇぇぇぇええええ』
最後で解説者がキレたようだ。
先ほどまで敷かれていた色別シートが取り外され、ほとんど運動場全体を戦場にして騎馬戦が準備される。
四隅のどれかを選択し、配置につくようだ。
今回は安全性を重視した色が多いらしく、数が少なくて突撃しやすい。
「美姫、足場は大丈夫か?」
「うん。しっかり乗れてるよ♪」
俺、輝弥、御劉の三角形に支えられる美姫。
美姫の手が俺の頭を撫でまくっているが、今は気にしない。
少しばかりだが緊張している。
美姫は初めてだろうし、それだったらできるだけ怪我をしないように気をつけなくてはならない。
最悪の場合は下敷きになることも、思案しておく。
「どうせなら弟君一人に抱っこしてほしかったなぁ」
カップリングしているペアはいちイチで抱っこしていた。
騎馬戦だということを忘れてるんじゃないだろうか。
「いいんだ。俺と輝弥と御劉には考えがあってな……とりあえず一点でもあったら勝てる。つまり、【騎馬も戦えるようになる】あのルールを活用したほうが楽だ」
「……騎馬戦する気ナシ。むーっ」
「だから。無理するんじゃないぞって言いたいんだよ」
一瞬にして空気が緊迫した。
良く見てみると、台らしきものに立った学園長が片手をあげている。
凝視の静寂……
……。
……。
振り下ろされた。
ファンファーレが鳴り響く。
勝者はいずこに。敗者はいずこに。
実力は勝敗の基、勝利と敗退の区別をさせるのはなんであろうか。
知らずして騎馬は駆ける。
騎馬が胸に秘める想いの向きは交わることなく、騎乗する騎士は干渉できずの戦女神。
先陣きっての怒涛、討滅者としての威厳と恐怖を持って敵陣を圧迫する。
対するは、人としての域を超えぬ戦乙女。
まっすぐ見据える先は戦女神か、勝利か。
二つの想いが交差した。
戦いとは無縁の――愛という想い。
恋するという想い。
その行先は一人の少年で。
二つの想いは、個々の知らぬ域で激しい衝突をした。
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