さまーすもーるすとーりー【SSS】9
暑すぎた。
「だりぃ……」
ソファーにのめりこむように、溶ける。
クーラーはない。扇風機だけがぎりぎりある。
それでも、来るのは熱気。
「はい、祐夜さん。そうめんでも食べて元気出してください」
「……」
俺の前にあるテーブルに置かれたそうめん。
にこにこ顔の優衣に目を移す。
――一週間連続か。
さすがに飽きてきた。
もうちょっと、こう、スタミナのつきそうな料理が。
「さぁて……呼ぶか」
我らが部隊を。
俺は受話器へと走り、暗記している番号を打ち込む。
『……ん、祐夜か』
「おう、美夏少佐。ちょっと緊急で俺の家にきてくれ。おやつは6230円までだぞ」
『少佐!? というかおやつの額微妙すぎ!?』
ぶち切る。
手ごたえはあった。
次の番号を打ち込んでいく。
「ということで今日きてもらったのはほかでもない。食事会でもしようじゃないかっということだ」
美姫、優衣、真紀恵、瑞樹、天宮、美夏――
料理が上手そうな伍長以上の格を呼んだ。
「料理をつくれと……優衣、そんなに夏バテしそうなものしか作ってないのか?」
「えと、今日はそうめんを♪」
「一週間弱連続そうめんな」
俺の言葉に表情を強張らせた美夏。
なぜか優衣と美姫以外がため息を吐いて俺に同情の目を向けてきた。
「……それじゃあ、そうめん食いながらでも人生ゲームやって時間潰すか。瑞樹突撃、補助として天宮もいくか? さすがに五人別々だと腹が困る」
俺は天宮へと目を向ける。
天宮はむぅと唸って瑞樹を一瞥、ちょっとおどおどしているのを確認すると肩をすくめて頷いた。
下ネタ言わなかったら、殴りもなにもなく平和だなぁ。
二人がキッチンへ消えたのを目で追い、人生ゲームを取り出す。
「最下位は俺に一週間玩ばれるってことで」
そう言うとなぜか全員が真剣な表情に変わった。
というか、必死になった。
……。
……。
……。
俺って嫌われてるのかな。
「で、できましたよ〜〜〜!」
「……くそ、マフィアから逃げ切れねぇか」
「そっちに支援金送ろうか? というか全部奪って」
「美姫ちゃん、駄目だよそんなこいっちゃ……え、ええと、祐夜さん。私をもらってください!」
「優衣も。そんなシステムはないっ」
「……私なんか、すっごい安定なんだが。というかこのままでは最下位になれないのか……?」
「ん〜、そうだと思いますよ? 美夏さん、もうちょいしたら一気に消費しちゃうところがありますから、そこ狙ってみては?」
「真紀恵、なんで落とそうとしてるんだ?」
「「「「最下位目当てです」」」」
「……」
俺は人生ゲームから目を離し、瑞樹をみた。
その手にあるのは……
「……カレー?」
「えっと、そうです」
また胸焼けしそうなものを。
天宮が瑞樹の背を支えていた。物理的に。
「あ〜、まあ、食う。食うよ。ってか俺の分だけ?」
「それってもしかして弟君にしか食べさせたくないって意図?」
口を挟んだ美姫。
ビクッとする瑞樹……図星だったのか。
俺は瑞樹から皿を奪い、スプーンですくってみた。
短時間だというのにしっかりと煮込まれ、ジャガイモが溶け切っていた。
その、微妙に触感までがあるようになったカレールーとごはんを口に運んでみる。
「……まあ、旨い。普通に旨いんだが」
「え、えっと、何か駄目でしたか?」
「瑞樹、お前はミスを犯した」
瑞樹の頭にポンッと手を乗せる。
「テーマはスタミナ料理なんだよ……罰ゲームだな、うん」
「はぅっ! 玩ばれるなんて……ちょびっと……ええ、ええと、なんでもないですっ!」
微妙に、嬉々とした表情で泣いていた。
「ってことで瑞樹には今度俺の抱き枕になってもらうということで……二番手、美夏と真紀恵」
美夏と真紀恵が同時に俺へと顔を突き出してきた。
「罰ゲームがそんな良いやつなんて、おかしいと思う!」
「評価高の人にはもっと……ええと、良いことを要求するぞ、祐夜!」
「……ん、わかった」
カレーを横へと寄せ、二人に手を乗せる。
耳元へと呟いた。
「スタミナついたらすごいことしてやる……」
二人は脱兎のごとき速さでキッチンへと消えた。
俺は人生ゲームへと目を落とす。
「それじゃ、人生ゲームで最下位だったやつは俺の枕な」
四人の目がさらにマジになった。
「超スタミナ料理おひとつ♪」
「結構凝ったな……祐夜、しっかり食えよ?」
人生ゲームで俺がずば抜けて一位をしている頃、真紀恵と美夏がもどってきた。
最下位は美姫と瑞樹が争っている。
「……瑞樹ちゃん、君はもう弟君の抱き枕なんだから、ちょっとは遠慮しなよ?」
「い、いえ、身体全部捧げるつもりなので!」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……爆弾発言だなオイ」
俺は真紀恵と美夏の料理に目を落とした。
肉丼。
キムチ付にんにくタップリ焼肉特盛り丼。
「……スタミナたっぷりだなぁ」
口に入れても、そう思う。
どうせなら女丼が……いや、やめとこう。
俺の心を読みやすい美姫がジト目をしていたのを必死にスルーする。
一瞬で完食してしまい、腹の具合を確かめる。
「で、なんだ? 美夏と真紀恵は俺に、夜の行いをがんばれとでもいいたかったのか?」
「ちょ……そんなことがあるはずがないだろ!?」
「………………私はちょっと思った、かも」
完璧否定した美夏、こっそりと肯定した真紀恵。
真紀恵に冷たい視線が突き刺さる。
俺はさわかやに真紀恵の肩を叩いてやった。
「罰ゲーム対象、真紀恵」
「うう………………嬉しいかも」
嘆きながらも嬉しそうに崩れ落ちた。
「次で最後か……優衣、カレー食え」
「はい――あ、おいしいですね。瑞樹さんすごいです」
「そ、そんなことないですよ! 優衣さんのほうが料理部でも一番上手くって」
初耳だった。
「ほら、真紀恵。あーん」
「うう………………あ、あ〜ん」
真紀恵、罰ゲームはあ〜んじゃないと食べてはいけない。
理由――ちょっと屈辱的でおもしろそうだろ? by俺。
「それで、美姫。準備はいいか?」
「うん、大丈夫だよ♪ ――弟君に、一生忘れられない味を教えてあげる」
結構怖かった。
美姫の目がゾクリとしていた。
「出来上がりましたよ〜♪ 美姫姉特製スペシャルスパゲッティ超たらこスペシャル♪」
「……結局俺が一位か。最下位、誰だ?」
「わ、私だ。祐夜」
「美夏か……よし、わかった。これから俺に媚びをうれ。そうしよう、ってか敬語でもいい。なんかいつもとは違う美夏を味わってみたい」
「そ、そんなの無理――無理ですわよ、オホホホホホ……」
「それ違う気がします美夏ちゃん……」
「優衣の敬語を見習え、俺にヤンデレしてくれ。というか一生を捧げるみたいな態度をヨロシク」
「わかった、わかりました……です」
美夏を屈服させ、美姫へと直る。
とりあえず紅いオーラを放つ情熱的な美姫姉特製スペシャルスパゲッティ超たらこスペシャルを指差した。
「美姫姉特製スペシャルスパゲッティ超たらこスペシャルって結局何入ってんだ?」
「美姫姉特製スペシャルスパゲッティ超たらこスペシャルは美姫姉特製スペシャルスパゲッティ超たらこスペシャルっていう名前どおりたらこしか入ってないよ、それでこそ美姫姉特製スペシャルスパゲッティ超たらこスペシャル♪」
「美姫姉特製スペシャルスパゲッティ超たらこスペシャルってスペシャルふたつはいってるよな――逃げるな美姫姉」
「水差しちゃ駄目なんだよっ!」
「逆ぎられる覚えはないっ!」
フォークで美姫姉特製スペシャルスパゲッティ超たらこスペシャルを取り、口へと運ぼうとする。
美姫姉特製スペシャルスパゲッティ超たらこスペシャルの発する美姫姉特製スペシャルスパゲッティ超たらこスペシャル特有の熱気が、食うという決意を鈍らせた。
「美姫姉特製スーパースパゲッティ超めんたいこスペシウムのことなんだが……」
「微妙に違うよ弟君っ!!」
「とにかく、美姫姉以下略は試食したのか?」
美姫の勢いが衰えた。
その瞬間を見逃さない。
「美姫……俺に死を覚悟させるつもりか、その無言は」
「だ、大丈夫だよ! 変なものは入ってないから!」
「変なもの入ってなくても死食は生まれるんだっ!! わかるか!?」
誤字だが、誤字じゃなかった。
それでも、仕方なく口へと運び――
――夏じゃない熱に、俺はやられた。
まだネタがあったのかと、自分に感動。
そろそろ体育祭編が書き終わるっぽい。夏休みも終わってもらうか……
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