10000越しの記念に二作投稿!
さまーすもーるすとーりー【SSS】もネタが……ネタがないぃぃぃぃいい
♯15[ライバルと私、奏でる旋律の終末]
私が常日頃から日課にしていることは、ジョギングだ。
考えるのも必要だとは思うけど、考えるだけではいけないとも思うから、私は身体も鍛えている。
いつもは一瞬で駆け抜けていく町並みも、こうやってゆっくり見てみると結構綺麗かもしれないと思った。
これで見納め。こんなにも綺麗で澄んだ空気は、都会にはないだろう。
最後にしてはあまりにもあっけない気がする。
最後のジョギング――散歩だろうか――を終えて、片付けが終わった我が家へともどる。
家の前には制服を着た男が立っていて、もしかして離島がばれての告白かと思った。
それでも、多分OKはしない。
私には――好きな人がいるから。
願掛けというものを聞いたことがある、このサッパリとしたショートヘアーも伸ばしてみようか。
男がこちらを向いた。
別段足音を気にしてたわけでもないし、気配を消していたわけでもない。それでも、普通なら気づけない距離。
私は立ち止まった。
なぜなら――私の前に立っていた男は、あまりにも予想外だったから。
CROSS!〜物語は交差する〜♯15[ライバルと私、奏でる旋律の終末]
「……」
「……」
……。
……。
……。
……気まずい。
物がほとんどないせいで、もの広い普通の洋室。
ぎりぎり残しておいたテーブルとイスに座ってもらい、紅茶を出す。
揺れる朱を見つめるのにも限界が訪れ、口を開いた。
「レ、レモンなくてごめんねっ!」
「……いや、気にしなくていい」
私のライバルともいえるこの男とこういう風に話すなんて初めてじゃないだろうか。
私のほうがしどろもどろになるなんて思ったこともなかった。
この男は私のそんな心情も知らずに、寂しそうな瞳で部屋を見渡している。
「……やっぱり、出て行くんだな」
「どうやって知ったの?」
「ちょっとした情報網だ――でも、ぎりぎりだった」
鋭い眼光。優しくて丸いんだけど、強い。
この男は、やっぱり私よりも強いんだ。
男と女の差以上に、想いの量とか強さの根本的な――差。
「出て行くのは唐突だったけど、あんたが来るとは思わなかったよ」
「……逃げるのか? 鬼になった俺をおいて」
空元気で浮かべた笑顔も凍りついてしまった。
「鬼ごっこの途中で、鬼以外の全員が帰ったことがあった。
鬼はみんなが隠れてるものだと思い込んで、探し続けた。
次の日になって、ようやく気がついたんだ。
『これがいじめか』と――屈辱だったよ。人と人とを繋ぐ強い絆は、こんなにももろいんだと気づかされた」
嘲笑うようにしゃべりはじめたこの男に、恐怖をおぼえる。
「俺はお前を捕まえなくちゃならないのに。お前は逃げるのか?」
「あー……あの時の告白かな。こっちが一方的にしたことだしさ、賠償とかはできないんだけど、無理強いとかもするつもりないし」
「……わからない」
つまり、私にもまだ脈があるということか。
やっぱり男は打たれ弱い。ちょっと悩んだだけですぐ凹んでる。
まあ私もそうだろうけど――今は、自分のことを棚にあげてっと。
「それじゃさ、御劉って携帯持ってるよね。ついでにいうと、家に電話あるよね?」
「……両方ある」
両方ないといわれたらアボーンだった。
安心とともにいつもの自分を取り戻し、懐から携帯電話を取り出す。
色は美乃宮に進められた明るいブルー。機種は……買ったときは最新だった。
自分のメルアドを表示し、突き出した。
乙女の真剣な意思表示に対してこの男は目を丸くする――だけしかしない。
さすがにムカムカとする。どもったりする男は嫌いだ。
「メールもできたほうが便利だし、番号はそれで渡したらいいでしょ?」
「……………………」
無言でブラックの携帯を取り出した御劉は、それでもまだ迷うように止まる。
短気な私は御劉から携帯を取り上げる。
機種は違うけど、使い方はだいたいいっしょ――メルアドと同時に電話番号も登録しておき、自分の携帯へと通話させる。
鳴り出したのを確認すると、通話が成立する前に却下し御劉の手へと放り投げた。
「これでよし。まあ、心が決まったときにでも返事してよ」
「………………」
なんとなく会話がかみ合わない。
こういうのは好きじゃない。
「あー。紅茶もういっぱい――」
視界が一気に流れた。
変化の早さに平衡感覚とかがおかしくなって目眩がしそうになる。
それを散らせると、状況を理解した。
「……」
――そりゃ、しどろもどろな男は嫌いだって思ったけどさ。
朝っぱらから押し倒されるなんて、許容範囲外。
思わず漏れる、硬い笑い声。
自分でも引き攣ってるとわかる。
間近に、目と鼻の先に男がいるというのに、背には硬い硬い床があるというのに、逃げ場はないというのに――笑いが余裕を表すなんて、嘘だ。
「……仕返しだ」
この男はそんなことを吐き捨てると、私の笑い声を止めた。
柔らかい――予想外に柔らかく、甘い味。
心が蕩けていく、感覚。
私を押し黙らせたせいで黙るしかないこの男。近すぎてどんな表情をしているのかわからない。
でも。でも。
私はそっと、自らの両腕をこの男へと回した。
船へと乗り込む。
今までも何度か乗ったことがある、あんまり変わってない。
次にこの船へ来たときは、どれだけ変わっているだろうか。
風宮島も変わっているだろう。
見た目は変わらないかもしれない。
生まれてからずっと住んできたこの島、思い出がない場所のほうが少ないくらいで。
帰ってきたとき、あそこの店が変わったな〜とか、ここ閉店しちゃったんだ〜とか、結構悲しくなると思う。
……ガラじゃない、か。
最近、ガラじゃないことを考えるのが多い。
唇に残る味を思い出し、振り払う。
「どうしたんだい、可愛らしい彼氏のことでも考えてた?」
「そ――そんなんじゃないよ! 姉貴!!」
「姉貴はやめなさい」
風見学園教師。生徒会副会長としては、一番頼りにならない人。
でも、一番生徒を理解している教師。
「……姉さんは、風宮島から離れるのに後悔はないの?」
「あるよ」
即答された。
でも、晴れやかな顔をしていた。
「気になる生徒がいてね。恋愛感情での気になるじゃないんだけどさ、その子が将来的に、どーゆー風に育つのかしっかり見ていたかったかな……」
でも、クスリと微笑んでいる。
――大人だ。
姉貴はいつもだるそうにしてて、真剣な雰囲気とか壊しちゃう人だけど――そういう人だから、教師として最高の人間なんだと思う。
尊敬してる。いつか、姉貴みたいな人になれるかなって。
自分はただの空元気だけど、姉貴は違う気がする。
――歩んだ年代が違う、か。
今、『伝えたい気持ちに合う言葉という知識』がほしいんだけど、それは我侭か。
「……美奈、ちょっと女っぽくなったなぁ」
「ちょっとで悪かったですねっ」
姉貴にあっかんべーをしつつ、自分の髪を撫でた。
――やっぱり伸ばそうか。
もしかしたらあの男も長い髪の娘が好きかもしれない。
願掛けもしておこう。
願うことは――もう決まっている。
夏の焼けるような日差しが、どこまでも続きそうな海が、おいしい空気が。
次に私を包み込むときは――答えを手にしていたら良いなと思う。
「……バイバイ、風宮島」
涼やかな風が、私を送り出すかのように、吹き去っていった。
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