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ヒカリの存在
作:八代ゆかな



親友のために


 「あ、葵だ。二日ぶりぃ!」

 彼は馴染みきった声に呼ばれて、違和感も感じずに振り返った。

 そして、いつもと違う、これ見よがしの親友の髪型に彼は驚き、一瞬目を軽く瞠る。

 「あー、二日ぶり。……てか、何?その頭」

 「え〜、いいだろ!さっぱりしてて」

 喜々として笑う奏を、彼は複雑そうな顔を作って見やり、その頭に手を伸ばす。

 ぱさぱさとした髪質は、普段なら癖毛で四方八方に跳ね上がっているくせに、今朝はどうしてか違っていた。

 彼は奏の頭から手を引っ込めると、眉間に皺を寄せた。

 「どこがさっぱりなんだ?というか、俺としてはどこがどのように、さっぱりなのかお前に訊きたいな」

 奏の普段飛び跳ねている髪は今、あちらこちらヘアピンで留められており、一応はねは押さえられている。

 そうだ――確かに奏の言うとおり、纏まって一見さっぱりとしてはいるが、奏がそれをやると、童顔と相まって幼さが増すと言うか…遠目でなくとも女みたく見えるのだ。

 すると、奏は「え〜」と批判の声を漏らした。

 「俺はいいと思ったんだけどなぁ。なぁ、ダサいか?」

 ダサいなら嫌だなァと顔に書いている奏をじっと見て、彼は思案顔をする。

 彼は悩んだ末、奏の髪型について思ったことをそのまま素直に口にした。

 「……別にそこまでひどくはないけど。ダサいっていうより、なんか…カマくさい」

 そう言えば途端つらつらと頬を汗がすべり、奏の口端がひくりと、引き攣る。

 「……それ、本当か?」

 「ああ。俺は冗談は言っても嘘はつかない。」

「……俺、ちょっとトイレ行って来る」

 少し恥ずかしそうに、いや、かなり残念…悲しそうに奏は身を翻してトイレへダッシュしようとした。

 だが、それを彼が奏の制服の裾をつかむという事で遮った。

 勢いづいていた奏は急につかまれたことによって、前のめりに…危うく顔・頭から転びかけた。

 「うおっ!?ぉ、わ…ひっ!!」

 間抜けな奇声つきで。

 彼はすぱっと言いすぎたかなと、反省しつつも、落ち着いてフォローを入れることにする。

 「大丈夫だよ…別にそんなに酷くないから。勉強のときに鬱陶しいからって、へァピンでとめたようにも見えるからさ」

 だが、それは全くフォローにもなっていなかったことを彼は、このあとすぐに知ることになる。

 なんと、奏は涙目で彼を振り返ったのだ。

 彼はそれを認めて、さすがに目を見開く。

 「そ、奏?」

 柄にもなく動揺して、奏の手首をつかんだまま思わず一歩身を引いてしまった。

 「な…!?見るなよっ!」

 「…何を?」

 奏が何を見るなと言ったのか分かってはいるけれど、あえて見て見ぬふりをする。

 「うるさい。見てないんなら、別にいい」

 「そうか…お前、その髪型変えにいくのか?」

 「ああ。そうだ、カマくさいっていうから」

 「でも、お前それ気に入ってるんだろ」

 「ああ。でも、いくら気に入ってても童顔で、女顔がより増してしまうと言うなら変えに行ってやる」

 「別にそこまで言ってないんだけどな…いや、確かに心の中で言ったけどな」

 彼は無意識にぼそりと呟くと、聞こえた奏にキっとにらまれて、彼は一瞬、ひるみかけるが、己の軽率な言葉で親友の気を害してしまったのなら…――。

 彼はごくりと息を飲み込むと、いつになく真剣な面持ちになった。

 「変えに行かなくていい。俺が…俺もトイレに一緒に行く――!」

 「はぁ?何意味分かんない事いってんの?!俺が髪型変えるのと、お前がトイレ行くのとどう関係あんの?」

 「だから、俺も髪型変えに行くの!…お前がどうしても変えたいなら変えればいい。それを判断するのはお前の自由だ、俺が決めることじゃない。でも…気に入ってるなら、変えなくていいと思う」

 奏は、真剣な表情で、深刻な雰囲気を纏わりつかせて腕に縋り付いてくる彼に(言ってくるの間違いなのだが、見ようによっては必死に引き止めようと縋っているように見える。そして、奏は後者だ)、思わず飲まれかける。

 「そ、そうか…。なら、俺は変えない」

 「ああ。その代わりに俺が髪型を変えてきてお前と同じ対象となり、同じ視線を浴びてやるよ!」

 二人の間で熱い友情がよりいっそう強まった瞬間であった。

 ちなみは今は、始業開始前なので、もちろん他の生徒も廊下にいるわけで…――。
 
 老若男女問わず幅広い層を骨抜きにする美形の彼と、男も騙す少女顔の美少年・奏が見つめ合ってるということで、女子生徒は色めきだって集まってくるが、そんなものなど二人の真剣な瞳には入りもしない。

 …――否、掠りもしない。

 男子生徒にいたっては、もうお似合いな二人がまた馬鹿やってるなと傍観視だ。

 女子は極力距離を詰めようとジリジリと身を寄せていくが、男子生徒はなるべく近づかないようにと避けて通っているくらいだ。

 二人の神々しさに似た雰囲気に当てられてタラリと、男相手に鼻血など女子がいる前で出してたら、ただでさえ目立たないのに余計に彼女が出来なくなってしまうではないか。

 と、まァ、モテない男子の愚痴はおいといて…――。

 その後、彼は宣言通り髪形を変えた。

 かなり、変えた――徹底的に変えた彼は後姿でも表面から見ても男とは分からないくらいで、唯一彼が男だといわしめるのは男物の制服だけだ。

 だから、結果的には奏以上の視線を集めてしまったのだ。

 すれ違う人々を振り返らせる彼の姿形はまさに天使のように美しくて、先生方も幾人か振り返って、注意するならまだしも、しばらく見惚れてしまうほどだった。

 では彼がどのような髪型をしたか、だ。

 彼は宣言後、演劇部に栗色のちょうど彼の腰くらいまであるウィッグを貸してもらいに行き、装着し、ツインテールにしていた。

 だから、はっきり言って奏より注目を集めたが、カマくさくなったかと言えば否である。

 彼と奏のそれは男も簡単に騙せるほどに妖艶なだけであって、中味は普段となんら変わらない男同士の会話だ。

 彼と奏のいるクラスでその日は貧血者やら、早退やらと相次ぎ、授業はままならなかったと言う。

 担任の独身の先生は鼻血をツつっと、授業中にもかかわらずに垂れ流していたらしい。

 だが、それでも彼が周りの状況・心理を悟ることはなかった。

 この事態の大元となってしまった奏は、

 何も知らないって…何も気づけないって幸せだな…

 と、思った。
 


 彼の担任も周りの人も大変ですね。

 彼の微笑を目にしては保健室へ走り、ある者はトイレに駆け込み…おっと、これははしたなかったですね…すみませんでした。

 彼のツインテールを見た男は危なかったでしょうね。

 いつもみたいに『女だったら…』と髪が長くて女物の制服姿を想像したあとに実際の男の彼を見れば気が治まるのに、ツインテールでうろちょろとされれば、たまったもんじゃないですよ。

 なんか変態くさい後書きになってしまいましたが、これからも気長にお付き合いくださいませ。











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