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ヒカリの存在
作:八代ゆかな



午後のベランダ


 ただ、気になった。

 ほんの少し興味を引かれた。

 だって、誰かが言ったんだ。

 『その人のことよくも知りもしないで悪く言うのはよくない』って。

 それに志穂も言ったんだ。

 『ちゃんと、その人のことを知ったら…もしかしたら、案外好い人かもしれない』って。

 だから、気になった。

 本当にただ少し、そいつのことを知りたいと思った。

 上辺だけでよく知りもしないで。

 知ろうとも思わないで、誰かを判断するのはよくないと気づいたから、知りたいと思った。

 ただ本当にそれだけのこと。

 きっかけは案外簡単に降ってきた。

 自分が少し可笑しくなり始めた。

 周りも少し、変に映りだした。











 ――俺の世界に変化が起こり始めた。















 キーンコーンカーン…――。

 授業開始の予鈴が鳴って、奏は慌てて廊下から教室へと引っ込んだ。

 「……」

 窓側にある自分の席に腰を落ち着かせたものの、何かがおかしくて、妙にそわそわと気持ちがざわめく。

 「………」

 「おい。どうした、お前。今日ものすごく変だぞ。妙におとなしい」

 「べ、別に。葵の気のせいだろ、きっと!」

 「…そうか?」

 「そうだ!」

 「…それなら別にいいんだけど…。なにか心配事があるなら俺に言えよ」

 「お前に言ったって、何にもなんねーよ、バーカ!第一言えって言っておきながら、絶対聞き流すだけだしよ」

 「だから俺は言えとだけしか言わなかったじゃん。誰も相談に乗ってアドバイスしてやるとは言ってないぞ!」

 「屁理屈こねんな!はぁ…。顔はいいが、中身がこれじゃあ振られて当たり前だな」

 「うるさい。俺のことはどうでもいいの。それより今はお前!…本当に悩みがあるなら、言えよな。俺だけが一方的に言えとか言われるのはおかしいだろ」

 「…それもそうだな。また今度、気が向けば話すからそのときはよろしくな!」

 「うん」

 挙動不信という言葉がぴったりだった奏をいぶかしった親友の彼に声をかけられるまで、それは奏の中で意味もなく続いたが、彼と他愛もない言葉を交わすうちにやがていつもの調子を取り戻した。

 













 「…なぁ、葵」

 「ん?なぁにぃ…奏くん。そんなお顔してぇ。可愛い花のお顔が台無しですよォ」

 彼はベランダで教室から引っ張ってきた椅子に腰掛け、課題のノートを片手に英語の教科書から目をはずさず親友の声に答えた。

 最上階の四階にあるのは二年の教室がほとんどで、今は昼休みのため、教室に人はあまり残っていなかった。

 てらてらと日差しの強い午後のベランダで課題の見直しをする彼のところへ苦い顔をしながら足を運んだ。

 「なぁ…葵。お前さぁ、どうして木田と付き合おうとか思ったわけ?」

 何気なくを装い、だが装いきれずに口をへの字に曲げ、なんともな顔をする奏とは裏腹に課題のノートと無表情に見つめあう親友の背を見つめる。

 「…なんでそんなこと訊くの?」

 気を害したのか、彼は奏に背を向けたまま若干不機嫌そうに声を低くして、返した。

 「ぃ、いや…特に深い意味はないんだけど、ただなんとなーく気になってな…!てゆーかお前こそ、なんでそんなこと訊くんだよ」

 何も彼がこちらを振り返って言ったわけでもなく、ましてや自分と向き合っているわけでもないのに奏は視線をあちらこちらに泳がせ、動揺が見て取れる声を出してしまう。

 だが、彼はそのことに特に思うところがなかったのか、それともあえて口に出さぬことを選んだのか…――。

 「ふーん…そうか。俺もどうして今まで何も言わなかった奴が木田瑠花のことにだけ、気にするのか気になってな…」

 痛いところを突かれた。

 今、彼がどんな顔をしているのかがすごく気になった。

 気になる言い方をした。

 彼にとって、木田瑠花は所詮過去に付き合った女達と変わらない位置づけにあるのだろう。

 ただほんの少し息を吹き返した元彼女という認識だけで、今は完全に縁を切っている。

 二人が話すところも会う姿も一度として、あの食堂の一件以来見たことがない。

 だから、さしあたって彼が木田瑠花に興味や関心、好意を抱いていることがないことは口にせずとも傍目にも明らかだった。

 それでもやはり、昔の終わったことを聞かれるのはあまり気分の良いことではないらしく――奏だってあまりいい気はしないが――、彼は僅かに嫌そうな雰囲気を醸し出していた。

 それは本当に僅かなもので、恐らく多分訊かれたくなかったことで。

 彼をよく知る者にしか判らない不機嫌さ。

 奏は彼の親友で彼をよく知っていたから、その僅かに気づくと、ばつが悪い苦い顔をした。

 どうしようと、頭がぐるぐるまわる。

 彼は自分を振り返らない。

 「………」

 てらてらときつい日差しの指すベランダにひゅうと冬を匂わす冷たい風が凪いだ。

 「奏はさ、木田瑠花のこと好きなのか?」

 彼がようやく教科書とノートから目を離して、背後にいる気まずそうに顔を俯かせた奏を顧みた。


 さて、ようやく14話更新できました。

 志穂さんの思惑発動中…。

 彼の元カノ、木田瑠花再登場するかもですの展開。

 彼の問いに奏くんは果たしてどのように答えるのでしょうか?











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