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ヒカリの存在
作:八代ゆかな



志穂の言葉


 再び着いた席で、彼はむっしゃらむっしゃら食事を再開した。

 その隣では納得がいかないと憤った強面の瑠花と、嬉しそうなオーラをあからさまに放出している結が彼のすっきりしたと語る背中を凝視している状態がかれこれ五分は続いていた。

 一方の奏にいたっては彼にようやく意中の人がとりあえず現れたのだと不機嫌面を直して、彼が気にかけているのはどんな女なのだろうと、独り楽しそうに窓の外を眺めていた。

 彼は胸のモヤモヤがなくなると、やはり食事も進むなぁと、頭の片隅で思いながらそれでも食べ物を口に運ぶ手を休めずにむごむごと、実においしそうに食べている。

 何も言わない彼についにしびれを切らした瑠花が勢いよく口火を切った。

 「ちょっと、葵!どういうことなのよっ!?私とは別れるって言うのっ?!」

 こめかみに青筋を立てて、すごい剣幕で彼に詰め寄る様はさながら鬼の如く…。

 うわーといった感じで結はやや後ろに体を引いた。ついでに言うと気持ちも引いた。

 そして、食堂で昼食をとっていた大半の人も引いた。

 だが、彼とその親友は例外だったようで――。

 キーンコーンカーンコーン…――。

 「あ。葵、早く食えよ!昼休み終わったぞ」

 昼休みの終わりを告げる音を聞いて、バっと窓の外から視線をはずした奏がマイペースに食事を頬張る彼を急かしにかかる。

 「あー、うん。あともうちょいだから、先に行くなり待つなりしてくれ」

 きちんと手を合わせてご馳走様と言うと、焦りだした奏に適当に相槌を打って、お茶を飲み始めるというマイペースぶり。…彼は一体誰に似たのだろうか。

 「ったく。仕方のねー奴だな、葵は」

 げんなりとため息を吐きつつも奏はどうやらマイペースな親友を待つことにしたようだ。

 「葵、私も…もう行くね!」

 にぎやかだった食堂から生徒が出て行くのを横目で眺めていた結も彼に声をかけて、駆け足で教室に向かいだすのを見てさすがにこのままでは授業に遅れると思ったのか、一気にお茶を飲み干すと、食器が乗せられたトレーを片手に彼はようやく席を立った。

 そして、瑠花は独り食堂に取り残されたのだった。一人ぽつんとたたずむ少女にどうしたのだろうと思った食堂のおばさんが声をかけるまでその場にいた。

 「お譲ちゃん、授業始まるよ」

 「…〜ッ!分かってます!!」









 「いやぁ!あれは傑作けっさくだった、傑作。もー、木田ってばものすごい剣幕で葵にキーキー言ってやんの!」

 帰り道、お昼の出来事を興奮冷めやらぬといった様子の奏につかまった志穂はお目当ての彼がいないのに、律儀にもその話に付き合っていた。

 正直彼がいなくて残念だが、隣で楽しそうに話す奏を見ていると内容はともかくとして、こっちまで楽しい気分にさせられる。

 「葵もさぁ、途中から木田の存在忘れて飯に夢中になってるしで、超むなしいって感じ?なぁ、春日もそう思わねぇ?」

 「うん。でも、私はほんの少し木田さんが羨ましい、かな」

 「…何で?」

 「だって、木田さんはきっとまだ葵君のこと好きだったんだよ。だから、勇気出して、また恋人同士になったんだなって思うと、すごいなって思う」

 仄かに笑う志穂を覗き込んでいた奏は視線を空に上げて、厳かに言った。

 「俺は、木田のことすごいとか絶対思えないな」

 志穂は空を見上げて自分に表情を見せない奏の背を目を瞬かせて見つめた。

 何か言おうとして、でもあえて何も言わないで、奏から言葉を発するのを待っていると、少しの間をおいて奏は怒気を抑えたようなゆっくりとした口調で再び喋りだした。

 「だって、アイツは葵を一度フッてるんだぜ?それなのにさ、また付き合ってとか身勝手にもほどがあるっての。だから俺は、木田のことがきらい」

 志穂はぴたりと、足を止めた。

 それに気づいた奏がどうしたと、志穂を振り返る。

 二人の間に変な空気と、気持ちの良い風が吹きぬけた。

 やがて、志穂が目許を和ませて微笑した。

 「奏君は葵君のことが大好きなんだね。でもね、よく知らない人をたったそれだけで嫌いって言うのはどうかなって、私…思うんだ」

 志穂の言葉に奏は度肝を抜かれた。

 後姿だけで奏が今一体どんな表情をしているのか見えないが、見なくとも手に取るようにわかるので更に口元の笑みを深くした。

 …あ――。

 そっか、これだ。

 邪魔者は邪魔な人で片付けちゃおう。











 「どうして?」


 「ちゃんと、その人のことを知ったら…もしかしたら、その人が案外好い人かもしれないから」

 志穂は良いことを思いついていた。

 


妙に意味深なことを志穂が言っちゃいましたよ。

後々分かると思いますが、志穂は計算して彼を落そうと企んでます。もしかしたら、これも…作戦の一環なのかもしれませんよ?

 『志穂は彼のことが好きです。そして、また瑠花も彼のことが好きです。ということは二人はライバルです。志穂にとっても、瑠花は邪魔。という事で…――。志穂さんは思いつきました。』

 これが志穂の言葉とその作戦のヒントです。











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