おみやげ持って来い(1/8)PDFで表示縦書き表示RDF


おみやげ持って来い
作:寒月   



(1)


僕がその噂を聞いたのは友達からだった。近くの廃業した病院に幽霊が出る。どこでもある話だ。ところが、変わった幽霊で、それは病院の三階の奥の病室に住み、ドアを開けると、「おみやげもってこい!」と大声を上げるのだ。必ず男の声で怒鳴るように言うのだ。同じ話は広まっていて、多少脚色は加えられているものもあるものの、同様な内容で信憑性がありそうに思える。
「行ってみようぜ!」
「やめよ」
「いいから、いいから」
 半ば強引に連れられ、僕は友人と病院の前に立った。時間は夕方五時、もう太陽はすぐ沈むころだ。学校の帰りに僕はこんなことになるとは思っていなかった。
 その病院は三階建て、崩れかけたコンクリートの壁には赤ペンキで落書きがあり、随分廃業したあとお客が来ていたようだ。
 しり込み気味の僕を引っ張るように、友達は病院内に入れた。入り口のガラスは割られ、病院の廊下を歩く僕の背中には冷たい夜風が当たる。
 病院内の内部はすでに荒れ果て、椅子は放り出されていた。空き缶や花火のかすやタバコが散乱している。
 廊下から内科、耳鼻科、あと表札もなくなった部屋の室内を眺め歩いた。どれも似たりよったり、机が倒され、カルテが散乱し、部屋は荒れ放題。
 部屋の先から微かに夕日の赤い光が差している。
「おい、帰ろうぜ」
 僕は言ったが、友達は笑いながら、
「怖気づいたんの!」
「ちがーって!もう足元も見えないじゃないか」
「それが肝試しだろう。何心配すんな。大丈夫だって、何にも出やしないんだから」
「それでもこれだけ散らばっていたら、あぶねぇーって」
「それもそうだな。まて、ここまできたら、三階見て帰ろうぜ」
 急に納得した友達は階段を上り始めた。僕はしぶしぶ友達のあとについていく。
 二階を通り越して、三階に廊下に出た。三階は一階や二階よりもなぜか薄暗い。しかもかび臭く、じめじめしている。割れた窓から夕日もほとんどなくなっていた。
「おい、あっちの部屋みたいだ」
 友達はそういうと、ゆっくり進んでいく。僕たちの足音は妙に湿って響く。
やがて一番奥まで来た。そこはなんの部屋なのだろうか。見た目には病室みたいだが、ドアを開けないとわからない。そして、友達はゆっくりとドアノブを回し、開けて内部があらわになる。
一瞬だった。
そこは意外ときれいだった。
ベットがひとつあり、衝立がたててある。
そして、ベットに横たわる人の足が、起き上がるようなしぐさを見せた。
「土産持ってきたかっー?」
男の怒鳴る声がすぐに飛んできた。それに度肝を抜かれた僕らは慌てて、崩れるように逃げ出した。ようやく一階の廊下を走りぬけ、
「本当にっ。出たっな」
 友達は言葉がうまく出せないで、息を乱している。
「ああ、驚いた」
 僕も気持ちがすっかりしょげてなんとなく呟いた。噂は本当だった。
「あっ!」
 友達がポケットやら、かばんの中やら見ている。
「どうした?」
「携帯落としてきた」
「持ってきてないんじゃないか」
 僕は病院に戻りたくないばかりに願望を述べた。
「いや、持って来たよ。たぶんさっきの一番奥の部屋だ」
 そう僕らは慌てて出てきた。そう僕らの選択は二者択一。戻るか。諦めるかだ。生理的に二度と遭いたくない現象に遭遇して、僕らはお互いの言葉を待ちあぐねていた。












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




TOP | NEXT


小説家になろう