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恋をしたら死ぬとか、つらたんです 作者:みかみ てれん

第七章 ゾックゾク☆夢見る出会いは遺影の華♡

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83限目 ゾクゾクと死にます、ゾクゾクと

 結局、泣き崩れる可愛い凛子の可愛い姿を見るだけの可愛い葬式だった。

「はあ、凛子ちゃん可愛い……すごい、すごい可愛い……可愛かった……」
「そろそろ飛ばしてもいいかな」
「可愛い……可愛かった……可愛いー……」
「あれ、聞こえてないな、聞こえてないなこれ」

 頭を抱えるシュルツ。
 優斗や樹、その他家族たちはまあ、いつも通りだ。いつも通りというのも本当にひどい話だが、いつも通りの痛ましい葬式だ。

 ただひとりヒナだけが、「ひなちゃん、ひなちゃん」言いながら泣く凛子を抱きしめたい想いを溢れさせ、「はーいあなたのヒナちゃんですよー♡」などと、ほざき、目をすっかりハートマークにしてしまっていた。

 しばらくヒナの気の向くままにさせておくと。
 彼女はひとしきり凛子の周りをふわふわと漂い――一応幽霊なので、若干浮いているようだ――そうして、満足気な顔でこちらにふらふら戻ってくる。

「はー……可愛かった……」
「ほっこりしているところ悪いけど、改めてスタートしようか」

 心なしか肌がつやつやしている感じのヒナは、微笑みながら手を挙げた。

「はい、藤井ヒナ、ゲームクリアに向けて、誠心誠意がんばります!」

 ひとまず満ち足りた彼女は、素直であった。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 全校朝礼から帰ってきて。

「はー……疲れたよお、リンコ……扇いで、扇いでー……」
「え、えー? なんで講堂に行って帰ってきただけでそんなになっているんですか、もー」

 ぶつぶつ言いながらも凛子はノート(めいし)でヒナを扇ぐ。
 ヒナは凛子の机に突っ伏しながら、ふへー、とまるで犬のように舌を出していた。

 行って帰ってきただけだなんて、とんでもない。
 ヒナは数多い死の危険を乗り越えて、ようやく教室にまで帰ってきたのだ。

 だからいいはずだ。
 少しぐらい、凛子に甘えても。

「ねーねー、リンコー、わたしたち、ズッ友だよね……」
「え゛? いえ、あの、あたしたちまだ、友達にすらなってないんですけど……」

 間違えた。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 お昼休み――。

 一時間目から四時間目まで、あっという間に過ぎて、自由行動時間である。
 このお昼休みというのもまた、鬼門なわけだ。

 優斗、椋、樹、それに七海光などとも触れ合うことができる。
 デンジャータイムなのである。

 相変わらず目を離した次の瞬間、凛子なんかはいなくなっちゃっているわけで。

「もー、リンコってば、そんなに急いでお昼いかなくたっていいのにー」

 えへへ、と笑うヒナだが、間近に死がにじり寄っている以上、その笑顔はまるで覚悟を決めた殉教者のもののようだ。
 と、そんな折り。

「おい、藤井」
「ニャ!?」

 びくんと体を震わせて振り返る藤井ヒニャ。
 猫目の先にいたのは、九条椋。イケメンのメガネ男子である。

「いや、別に大した用事ではないんだがな」
「は、はあ」

 ピンと耳を立てて椅子の上に正座して待つヒナ。
 なんだろう、自分は別に悪いことはしていないはずなのに……。

 メガネの縁を押さえて、くいと持ち上げてから、椋は視線を逸らしつつ、つぶやいた。

「こないだは、一緒にファミリーレストランに付き合ってくれただろう」
「え? え、ええ、そうですね」

 一瞬いつのことを言っているのかわからなかった。
 そうだ、『こないだ』だ。今が六日目なのだから、四日目のあれは一昨日だ。

 一昨日は『こないだ』だが、死亡回数700回台のあの日は、『こないだ』と言えるのだろうか、わからない。

 ともあれ、一緒にファミリーレストラン『ミスターファイン』に偵察に行った件のことだ。
 決してそこの店長・嵯峨野を何度も何度も何度も苦しめた件についてではない。

「助かった、ありがとう」
「いいええ、そんな、わたしで良かったら、いつでもお付き合いしますよ」
「……ふっ、そうか」

 椋は鼻から息を抜くと、わずかに口元を緩めた。

「ならば、まずは僕たちの店を発展させるところからだな。先は長い。これからも頼むぞ」
「は、はい、一緒にがんばりましょう」

 にっこりと笑って拳を握り締めるヒナ。
 それだけ言って去ってゆく椋に手を振り、しかしヒナは、ふと思い出す。

「……あれ?」

 顎に手を当てながら。

「……ひょっとしてわたし、虎次郎くん狙いとか言いながらも、これからも椋さんのイベント進めなきゃいけないってことですか?」

 そのつぶやきを、シュルツが拾った。

「つらたん」


 それはそうと、引き続きお昼休みなのである。

「凛子ちゃんを探しにいくか、それともどこかに身を隠すか、といったところですね」
「すっかりトイレに引きこもるのが、これからの恒例行事になりそうだね……」
「そりゃあそうですよ。なんたって乙女ゲーなんですよ、これ。イケメンの魔の手から逃げて平凡な学園生活を送るためにがんばるしかないじゃないですか」
「なぜゲームの世界に来た! 呼んだのはボクだけど!」

 廊下に出たヒナ。きょろきょろと左右の安全を確認する。
 なんだかここらへん、もうだいぶ手馴れてきた。
 そのうち五感を学校中の隅々まで張り巡らせて、攻略対象者の位置を常に特定する『心眼』なんかも使えるようになるかもしれない。

 ヒナはそのまま人通りの少ない特別教室のエリアへと歩んでゆく。

 だが直後、彼女は視界の端に電子の揺らぎを見た。

 これは恐らくイベント開始の読み込みやなんやかんやを、ヒナのセブンセンシズがキャッチしたのだ。
 ヒナはぴくりと震え、そして立ち止まる。敵は一体どこから向かってくるのか――。

 反応できなかった。
 あるいはそれは――ヒナの本能が避けることを拒否してしまっていたのかもしれない

 ひとりの少年が、吸い込まれるようにして。
 ヒナの胸の中、ぽふん、と衝突してきた。

 驚いたけれど、衝撃はほとんどなかった。
 たたらを踏むこともなく、ヒナは両手を軽く持ち上げたまま、その少年を見返す。
 ぱちぱちと瞬きをしていると、少年はパッとこちらを見つめてきた。

「あっ、ごめんね!」
「――っ」

 上背はヒナとあまり変わらない。やや少年のほうが大きいだろうか。
 だが、なんと言えばいいのだろう。

 その――美貌。

 上目遣い気味にこちらを仰ぎ見る瞳はキラキラと琥珀色に輝いており、まるで宝石のようだった。
 幼さを残しながらも、中性的な魅力を兼ね備えた彼は、ミディアムな蒼色の髪を揺らしながらテンポよく三歩下がって微笑む。

「へへ、お姉さん、大丈夫? 怪我とかなーい?」
「――」

 そう、美少年。まさしく彼ほどその二つ名がふさわしい少年はいないだろう。

 細い首筋、薄い胸板、華奢な肩。
 なのに手のひらや、ところどころのパーツは、オトコノコの匂いがして。

 こんなところで、唐突なエンカウント。
 あまりにも突然過ぎる――。

 水色の髪をした彼は、青空のようにニカッと笑うと、頭を下げた。

「僕は二子玉にこたまそら、ぶつかっちゃってごめんね。保健室いく?」
「――」

 キャラクター紹介ウィンドウがポップした。

『二子玉空。
 悪戯好きでちょっとナマイキな、一年生の男の子です。
 彼にとってあなたはピッタリの遊び相手ですが、それがやがて……』

 後輩だった。
 翔太に続く二人目の下級生キャラだ。

 なんだこの新キャララッシュ!
 六日目に入ってもう三人目なんですけど!

「――」

 頭の中のヒナがわーわー騒ぐ。
 あるいは別のヒナは「かわいー! かわいー!」の大合唱だ。諸手を上げて大歓迎してしまっていた。

 まったくもう、ヒナってやつは!
 ヒナはヒナに対して怒る。もはやわけがわからない。

 それにしても……。

「――」
「あ、あれ? お姉さん? どうかした? 当たりどころ悪かったかな……? おーい、おーい、しっかりー」

 か、か、か、か……。
 可愛い……。

 きゅんきゅんする。
 今までにいなかった王道ド真ん中の、そう、例えるなら自分がメイドで、相手が王子様のようだ。
 右も左も知らないナマイキ盛りな王子様だ。「おいメイド!」とか言ってくるタイプの。
 超可愛い。萌える。魂が燃える。

 ああ、ああ、なにゆえこんなところで出会ってしまったのか。
 人の定めとはかくも、もろく儚い――。

 会わなければ幸せでいられたのに。
 そう思うような出会いが、世界中には夢の欠片のように散らばっているのだ。

 だめだだめだ。
 このままじゃだめだ。

「――空、くん」
「え、なに?」

 覚悟を決めたように口を開くヒナ。
 彼女は空に手を上げて、小さく、つぶやく。

「わたしは藤井ヒナと申します」
「うんっ、よろしくね! 大丈夫そうだね、良かった!」

 息を吸い、吐き出す。
 余命がぎゅんぎゅんと失われてゆくのを感じながら。

 言ってあげないと。
 これから先、彼の幸せを願うのなら、ここで彼に、伝えなければならないことがある。

 どんなに命の灯火がかき消えそうでも……。

「空くん、これからあなたには、すごく辛いことが待っていると思います」
「あはは、なにそれ、占い? おっもしろーい」

 朗らかに笑う空。

「でも、くじけないでください。心折れないでください。その悲しみはいつか時間が解決してくれますから……ええ、大丈夫です……」

 ヒナはもうすっかり自分の世界に浸っちゃっていた。
 気分は勇者の胸に抱かれて死に絶えようとしている聖女だ。

 まあしょうがないかもしれない。彼女も彼女でパニックなのだろう。新キャラが突然自分の胸に飛び込んできたのだから。
 カモがネギを背負って来たようなものだ。ひどい例えだが。

 ぽん、とヒナは空の肩を叩いて、笑みを浮かべた。
 女神のような、それでいて今にも天に召される天使のような笑みだ。

「あなたは強く――生きてくださいね」
「……ヒナ先輩?」

 小さく首を傾げた空のその、無防備な表情があまりにも可愛くて。
 ああ、うん。

 なんだろうこれ、こう。


 守ってあげたい!

 抱きしめたい!

 あのほっぺをスベスベしたい!

 悪いことをした空くんを「めっ!」って叱りつけたい!

 そしてしょんぼりする彼を抱きしめたい!

「ああ、不思議……新しい力がわいてくるよう……です……」

 そんな己の衝動に突き動かされ、ヒナはころりと倒れた。
 空はぎょっとして、思わず後ずさりし。

「え、えええ!? ちょ、誰か、誰か! 誰かー!」

 お昼休みに悲鳴が響き渡った。
 もうこの学校のお昼休みに、悲鳴が響き渡らないことはないのかもしれない。
 1167回目。
 死因:二子玉空との出会い、幾億の哀しみ。

 シュルツより一言:さあ、お葬式(じさくじえん)劇場の始まりだ……。
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