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恋をしたら死ぬとか、つらたんです 作者:みかみ てれん

第六章 ルッンルン☆初めてのデートは彼岸の彼方♡

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77限目 チュートリアルはオシマイです

 通算1000回目の挑戦である。
 シュルツは、密かに記帳しているメモウィンドウを浮かべ、ドス黒いため息をついた。

「はー……。なんか、行き着くところまで行っちゃったって感じだな、千回、千回か……」

 ここでもう一度思い出してみよう。
 それはヒナが初めてこの世界で死んだ際の思い出である。

「ヒナさんももう、すっかりこの世界に適合してしまって……」

 シュルツは静かに目を閉じた。
 自分の前には今、あの頃のヒナがいると過程しよう。


 ――それは初めての葬式の場だった。
 ヒナがドキドキメーターを差し出してくる。
 100万に届けば死んでしまうその数字なのだが……。
 ヒナの数値は、13億7800万だった。

『うおおおおおい! なんだよ、10桁ってなんだよ!
 本来3桁までしか表示されないんだよ! どういうことだよ!
 どんだけ好きになってんだよ! 発情してんじゃねえよ!』
『わ、びっくりしました。急に乱暴な声を出さないでくださいよ。
 ……でもそういうワイルドなところもあるんですね、シュルツさん』
『やめろ! そんな目でボクを見るな!』


 ――遠い昔の出来事のようだ。

 あの頃のヒナはまだ、可愛いところもあった。
 まだ可愛いところも……まだ……あ、った……?
 あれ、あった……? あったっけ……? 本当に……?

 シュルツは思い出しながら、頭を抱え、ゆっくりと目を開く。
 そこには、優しい笑顔の、ヒナがいた。

「あははー、でもしょうがないですよね、シュルツさん。
 だって優斗さんカッコイイんですもん。
 これって乙女ゲーの開発者さんがすごくツボをわかっているってことですよね。
 はー……わたし、尊敬しちゃいます、素敵なゲームですよねー……」

 目にハートマークを浮かべながら語るヒナを見て、シュルツは思う。
 ――この女、なにも、変わっていない。

 馬鹿は死ななきゃ治らないと言う。
 千回死んで、千回死んで……。
 ヒナの馬鹿ビッチはどうなっただろう。

 答えは、まるで変わっていない、だ。

 変わらずに笑顔で、ゲームに挑み続けられるこの女は、一体何者なんだろう。
 世紀のクレイジーサイコビッチか。
 そんな言葉で片付けて、いいのだろうか。
 もっとこう、とてつもなくて、とてつもないナニカなのではないか。

 そういえば聞いたことがある。
 世界七大クレイジーサイコビッチ――通称『C7』と呼ばれるものたちを。

 日本、アメリカ、ロシア、中国――。
 世界にまたがって男たちを支配する究極のビッチのみに与えられる称号だ。

「その中でも、強靭、無敵、最強の名を思うがままにする、ジャパンのビッチ……。
 C7の頂点に立つビッチの中のビッチ、クレイジーサイコビッチチャンピオン。
 クイーンオブハートの名を持つ、神話の中にのみ存在していたはずのビッチ。
 それがまさか、ここにいる藤井ヒナさんだったなんて……」
「シュルツさん、なんだかちょっと楽しそうですね」
「楽しくはないよ。辛い今をゼロに戻すための心の処方箋だよ」
「大変そうですね」
「そうだね。休暇をもらわなければ、もうボクのココロは翼をもがれた天使のように蒼いソラの彼方に散っていたかもしれない」
「シュルツさんビジュアル系ロックバンドみたいですね」
「ボクの例えのバリエーションはどうでもいいんだよ」

 首を振るシュルツ。

 ともあれ、優斗とのデートも、もう終盤戦だ。
 200回以上死んだが、そのかいはあった。
 そのはずだ。そう思わなければココロが張り裂けてしまいそうだ。

「とりあえず現状を整理しよう」
「わ、いつものあれですね! 作戦会議ですね!
 キャー! シュルツさんとの、共同作業ですね!
 久しぶりです! わたしときめいちゃいます!
 えっへっへー! はぁぁん! にゃんにゃんにゃん!」
「よしやめよう」
「待ってください、大丈夫です、マジメにやります」

 きりっと表情を取り繕うヒナに、シュルツは非常になにか言いたそうにしていたが、結局は話を進めることにしたようだ。

「デートの内容は、序盤、中盤、後半とわけられるね。
 序盤、待ち合わせの優斗くんと顔を合わせて、喫茶店に向かうまでだ。
 ごく短い間だけど、これがなかなかどうして、馬鹿にできないものがある」
「そうなんですよね。
 相手が現れた瞬間に、パッと輝くあの笑顔……。
 あれが本当にもう、とてつもなく破壊力が高いんです。
 一撃必殺です。二の太刀要らずの示現流のようです」
「まあでも、視界に収めなければいいだけの話だよね」
「それはーそうなんですがー……。
 わたしの習得した鷹の目(ホークアイ)は、俯いていてもある程度周りの状況がわかってしまうんですよね……」
「えっ、なんの話」
「気配、人や風の流れ、音、匂い、湿度、気温の変化、そういったものを総合的に判断し、今誰がどんな気持ちで、どんな表情を浮かべているのか、とか……」
「ちょっと待って、それ何の話?」
「普段はなるべく感覚を遮断しようと思っているのですが、命の危機を感じると、どうしても……。
 でも大丈夫です。がんばって精度を弱めます。緩めますから」
「う、うん」

 色々と納得できないことはあったが、この程度でいちいち止まっていてはヒナと日常会話などできない。
 シュルツは話を進める。

「中盤、軽食店のことだね。
 対面に座る優斗くんはもちろん、新たなキャラクターであるあのやたらキャラの立っているメイドさんも相手になってくる。
 ここではひたすらに口をつぐんで、相手の攻撃を受け流すことに集中するんだ」
「はい、龍脈闘法クズリュー・オーバードライヴ・七門勁の四ですね」
「いや全然わかんないけど」
「えっ、七門勁の四は、大鬼門ですよ? 守りの型です。あらゆる物質・魔法攻撃を受け流すんです。鉄壁です」
「うんじゃあそれでいいから……」

 あらゆる『物理・魔法攻撃』というところに、ツッコミを入れたら負けだと思ったのだ。
 ヒナがゲームなどの設定を得意げに語るイタい少女だったら、どんなに良かったか。

「そして後半戦。アパレルショップでのプレゼントは、まあ良いとしよう。
 ヒナさんなぜか『特殊スキル:プレゼント無効』を所持しているようだし」
「スキルとかそんな、シュルツさん、ゲームじゃないんですからー」
「……」

 えへへー、と笑うヒナに握り拳を固めるシュルツ。
 三度目となれば、見過ごすのもかなりの精神的負担がかかってしまう。

 納得できない、納得できないが……! できないが……!
 いや、いいんだ。シュルツはゆっくりと首を振る。

 これが社会だ。社会には納得ができないことなど山ほどあるじゃないか。
 横断歩道は止まれと教えながら、誰もが停車しない車たち。
 赤信号の歩道を平気で渡る子どもたち、サラリーマン。
 納得出来ないことだらけだが、それが社会だ。それが社会なのだ……!

 シュルツだって、子どものままではいられない。
 社会の不正を正したいと思っていても、人の手で変えられることには限度がある。
 暗部に目を背けながら生きていくしかないのだ。
 大人になるというのは、そういうことだ。

 しかし……。
 果たしてあの頃のシュルツがなりたかったのは、こんな大人なのか。
 臭いものに蓋をして、見たくないものを見ないようにして。
 そんな風に生きていきたかったのか。

 違うだろう。
 違うだろうがよ、シュルツ。
 お前はもっと、高潔に、生きたかったはずだ。

 そうだ。
 あの時の気持ちを、思いだせよ、シュルツ。
 お前は、お前は……!!

「……ヒナ、さん」
「え、なんですか? シュルツさん」
「ひとつ、言わせてもらうよ、ヒナさん」
「あ、はい」

 いつになく真剣なシュルツの前、ヒナは正座して彼(彼女?)の言葉を待つ。
 そんなヒナに、シュルツは言い放った。

「『魔法攻撃』ってなんだよ……なんなんだよ!!」
「は、はい?」

 ぱちぱちとまばたきを繰り返すヒナは、首を傾げ。
 あ、あー、と気がついたようにニッコリと微笑み、手を打った。

「冗談ですってばー、シュルツさんー、えへへへー」

 シュルツは泣いた。
「チクショオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」と叫びながら泣いた。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 さてさて、優斗との待ち合わせである。
 とりあえずヒナのスキル『鷹の目』は解除しつつ、彼と挨拶を交わす。

 見ていなければ、ニッコリ笑顔もなんのその、だ。
 もの凄まじく見つめたくなるほどの吸引力があるが、ヒナはこらえた。
 ちなみにこの瞬間のヒナの欲求は、常人に換算すると、『○○ちゃんと結婚してーなー』ってつぶやいているその好みど真ん中の二次元のキャラクターが突然目の前に現れて『私をめちゃくちゃにしてください!』と顔を真っ赤にしながら押し倒してくるほどのものである。

 そんな誘惑をはねのけられるほど、ヒナは本来、我慢強くて健気で一途な少女なのだ。
 メンタルも非常に強く、彼女の生き様は禁欲的ですらあった。

 ただ、世の中には――ヒナにとって――誘惑が多すぎるだけなのである。


 優斗の笑顔の引力を引き離しながら、ヒナはカフェへと向かう。
 そこで待つメイドにも全力で抵抗しなければならないのだ。

 自分の意志とは裏腹に、彼や彼女を視界に収めようと足掻く眼球を制御し、ヒナはただ時が過ぎるのを待つ。
 それは長く、苦しく、辛い時間であった。

 ヒナは決してなにも悪いことなどしていないのに。
 これまでもずっと、品行方正に――多少は過ちも犯したが――生きてきたはずだ。
 それなのに彼女に与えられるこの甘い地獄は、永遠の刑罰のようですらあった。
 巻き込まれたシュルツの方が圧倒的な被害者だろう! というのはともかくとして。

 ヒナは備え付けのナプキンで非常に写実的な名古屋城を折りながら、ぼんやりと小さくため息をつく。
 つぶやく言葉は、例のアレ。「つらたんです」である。

 アパレルショップでのイベントだけが、一時の休息であった。


 そして、フラワーブローチを胸元につけたヒナを、優斗がエスコートして。
 やってきた場所はあの展望台の上。
 須内市を見渡すことができる、絶景のポジションであった。

 優斗の肩越しには、自分たちが通う数星学園が見える。
 それだけではない。ヒナの家も、優斗の家も、通ったスーパーも、ミスターファインもだ。

 風に前髪を揺らしながら、優斗はくすりと笑う。

「ここ、とっておきの場所なんだ」

 きょう一日ヒナを独り占めした優斗は、嬉しそうに口元を綻ばせた。
 彼は両手を広げ、ヒナに向き直る。

「昔、俺とヒナで、見たことがある景色だよ」

 優斗の艶を感じさせる声には、愛があふれていた。
 抑えきれない感情の発露が、世界をも甘く、優しく、染め上げてゆく。

 傾いた夕日によって影が伸びてゆき、ヒナと優斗の影は今、ひとつになっていた。

 辺りからはひとり、またひとりと、人がいなくなってゆく。
 そこは今、たったふたりだけの場所であった。

 優斗の笑顔を前に、ヒナはぎゅっと胸元に手を当てる。
 なにかを押し殺したようなその表情は切なげで、まるでヒロインのようだ。

 黒髪が、その長いまっすぐな髪が、風に揺れる。
 黒猫のぬいぐるみは彼女のポケットから顔を出し、うなだれていた。

「またこうして、ヒナとここで見ることができるなんて、夢みたいだな」

 その美しい世界を背景に、彼と彼女がこれから過ごすべき景色を包み込むように、優斗が両手をまっすぐに伸ばす。
 彼の赤髪はまさしく、夕焼けの光を紡いで編んだように輝いていた。

 優斗は叫ぶ。

「おかえり、ヒナ! ずっと、ずっとこんな日が来ることを、待っていたんだ!
 また、これからも、よろしくな!」

 その気持ちが、想いが、ヒナのココロを打つ。

「またお前と一緒に、笑ったり、はしゃいだり、できるなんて!
 俺は幸せだ! ありがとう、ヒナ! 帰ってきてくれて!」

 展望台の上の青年は、まるで子どものように笑っていた。
 その笑顔はただまっすぐに、ヒナだけを見つめている。

「優斗、くん……」

 ヒナは唇を結ぶ。
 その瞳は、わずかに潤んでいた。

「……ありがとうね、優斗くん」
「ああ!」

 嬉しそうに笑う優斗のその笑顔が、しかし。
 直後のヒナの言葉によって、曇ってしまう。

「でも、だめなの……」
「え?」
「わたし、だめなの、優斗くん……」

 顔を背け、ヒナは口元を抑えた。
 まるで悲劇のヒロインのようである。
 藤井ヒナは今、数星学園に通うひとりの生徒であり、優斗の幼なじみであった。

 ――彼女は役に入り込んでいた!

「わたし、わたし……」
「なにがだよ、ヒナ! これから一緒に、楽しもうぜ!」
「……だめなのっ!」

 ついに耐え切れなくなったように、ヒナは叫んだ。
 髪を振り、胸元に手を当て、彼女はまるで懺悔するように。

 もはやヒナのドキドキメーターは限界寸前であった。
 それでも耐えていたのは、彼とのこの雰囲気を一秒でも長く味わっていたいからだった。
 藤井ヒナの乙女としての矜持であった。

「だって、わたし……わたし……」
「ヒナ!」

 辺りには誰も居ない。
 目撃者は、誰も居ない。

 こんな良いシーンで、みっともなくは死にたくなかった。
 せめて、彼の重荷にはなりたくなくて。

 ただ夕焼けだけが見守っているその展望台で。
 ヒナ少女はまるで告白するように――叫んだのであった。

「――わたし、恋をしちゃうと、死んじゃうからーっ!」


 
 乙女ゲーなのに恋したら死ぬとか、つらたんです
『77限目 チュートリアルはオシマイです』



 ――


 知らなかったな こんな気持ち
 ずっとずっと 待ち続けていたんだ
 夕焼けに照らされた キミの笑顔
 影と影が抱き合って ボクたちはひとつに

 シャララ シャララ

 恋に囚われた このココロ
 まるで翼の折れた 天使のようだね
 胸が痛いよ ずっとキミと
 一緒にいられると 思っていたから

 シャララ シャララ

 目を閉じて 今ここで
 悪い魔法使いは もういない
 運命なんかに 負けないで
 時計の針を 永遠に止めよう――

 Control my own destiny......
 Love Forever......




 そして倒れてゆくヒナと慟哭する優斗を背景に、『乙女は辛いデス』のOPテーマが流れるのであった。
 ようやく、本編が始まるのだ――。
 1000回目。
 死因:メモリアル。

 シュルツより一言:つらたんです……。
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