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恋をしたら死ぬとか、つらたんです 作者:みかみ てれん

第五章 ウッキウキ☆初めてのデートは死の香り♡

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59限目 ウェイトレスは常に死と隣り合わせです

 
「チーフ!」
『何度も怒鳴らなくても聞こえているよー』
「じゃあさっさと電話に出るのです!」
『はいはい、今度はなにー?』

 間延びした声の少し後に『お、レアドロップ……』と小声でつぶやくシュルツ。
 その言葉がブルーメの怒りに油を注ぐ。

「チーフー! ゲームばっかりやって遊んでやがるんじゃないのです!」
『そんなこと言われてもボク、今プライベートだしなあ』
「あの女、いったいなんなのです!? どうなってやがるのです!?
 どこが普通の平凡な女子高生なんです!?」
『えっ、ヒナさんは普通の平凡な女子高生だよ?』
「どこの女子高生が得意料理北京ダックとか言いやがるのです!」
『料理マンガではよくあること』
「おかしなとぼけ方をしやがらないでください!」

 にゃんにゃんわめくブルーメ。
 彼女に対し、シュルツの口調がわずかに変化した。

『あのさぁ』
「な、なんなのです」

 フーッ、フーッと威嚇してきているブルーメにたしなめるような声。

『……ブルーメくん、この業界入ってからもう何年だっけ』
「十年(という設定)ですけど」
『じゃあもう言わなくてもわかるでしょ? ン?』
「でもあんなの見たの初めてで!」
『だからって相手は17才の女の子でしょ? はぁ~~~……』
「……」

 ことさら大きなため息をつくシュルツ。
 ブルーメのこみかめに大きな怒筋が浮き出る。

『ブルーメくんには期待していたんだけどなあ。
 でもそっか、もう諦めるわけだ。
 やっぱりね、できないことがあると上司に丸投げ。
 それがキミの仕事のやり方ってワケ?
 あーそう、そういうことね、わかったわかった』
「ぐぬぬぬぬぬぬぬ」

 強く握りしめすぎて、ブルーメの持つ通信機のウィンドウがひび割れてゆく。

『いいよいいよ、今までどんな仕事のやりかたをしていたか知らないけどさ。
 ボクがやればいいんだろ? ボクが。
 プライベート中だけど、別にいいよ。
 キミが匙を投げるなら仕方ないもんね。
 やれやれ、これだから毛の白い猫は……』

 黒猫党と白猫党の派閥の対立まで煽るシュルツ。
 ブルーメの顔色は真っ赤に染まっていた。

『ボクたちにはできない仕事をするのが、キミたちの役目だと思ったんだけどね。
 できないんだったら仕方ないか、仕方ないよね。
 あーあ、人工プログラムのAIさんは、
 お仕事に特に熱心だって聞いていたんだけどなあ――』
「――あああああああああもう」

 ブルーメが叫ぶ。

「やってやるデス!」

 叩きつけるように。

「ワタシをみくびらないでほしいのです!
 一度挑んだ仕事は最後までやり遂げる、それがワタシ、
 ナビゲーター界のスーパーオフィスレディ、ブルーメなのです!
 そこらの甘っちょろい女子と一緒にされちゃ困ります!
 寿退社も産休も育児休暇だってワタシには無縁な話!
 ワタシはこの身を一生仕事に捧げ、一生仕事と添い遂げるのです!
 年収1000万以上のイケメンBOYをGETするその日までは!
 ワタシこそが『乙女は辛いデス』であり、『乙女は辛いデス』こそがワタシ!
 そこいらのプレイヤー程度に屈するブルーメじゃありません!
 白猫ブルーメの覚悟、見やがるのです!」

 一気呵成。啖呵を切ったブルーメは、ぜぇぜぇと肩で息をしていた。
 上司にここまでの大見得を切るのも、さすがに初めてのことだ。

 言い切ってから妙にスッキリした気分と、
 同時に「言ってしまった」という後ろめたさが背筋を冷やす。

 ブルーメは減棒も辞さない覚悟であった。
 なによりも彼女は、プライドを守りたいのだ。

 すると……。

 受話器の向こうから、拍手が聞こえてくるではないか。

『その言葉が聞きたかった』

 その声にブルーメは目を見開いた。
 打って変わって、シュルツは実に穏やかだった。

「ハッ……ち、チーフ……?」
『ボクは前から思っていたのさ。
 こんなに優秀なブルーメくんが選択欄で後ろの方にいるのはなぜだろう、ってね。
 ブルーメくんはこんなところでとどまっているような人材ではないはずだ。
 なにが彼女の出世を阻害しているのだろう、と考えて、思いついたんだ。
 だから、ボクですら手に負えないかもしれない大きな案件を、キミに任せてみようと思ったんだよ』
「チーフ……!」
『ブルーメくん、キミはやればできる子だ。
 ボクはずっとキミを高く評価してきたんだ。
 どうか、ボクの期待を上回ってほしい。
 そうして世間に知らしめるんだ。
 我が社のAI、ブルーメという存在を……』
「……」

 ブルーメの目に希望が燃える。
 体が熱くなり、彼女は拳を握りながら叫んだ。

「わかりました! ワタシ、やります!
 やってやるのデス!」
『よし! 頼んだよブルーメ!』
「はいチーフ!!」

 がちゃりと電話を切り、振り返るブルーメの目には明日が映っている。
 これまでの人生が走馬燈のように流れてゆく。

 きっとこれが転機だ。
 ブルーメもさらなる上の役職、そう、『ナビゲーター番付の10位以内』を目指すのだ。

 世界で10人だけが与えられる輝かしいポジション。
 それがナビゲーター選択画面での、『1ページ目』。

 言うなれば、血で血を洗う壮絶な戦争の後に与えられる王座だ。
 なんといっても、プレイヤーが選ぶ中で、そこが一番目に入りやすいのだから。

 1ページ目を奪い合う争いは、もはや筆舌に尽くしがたいほどに激しく。
 だからこそ、ブルーメはその欄を勝ち取るために。

「ブルーメ、がんばります!」

 あの日を思い出しながら、ブルーメは立ち上がり、そして見た。


「あ、ああ、渋いオジサマが、
『かわいいメイドさんが入ったものだね』なんて、言ってくれて……!
 ひゃー……か、かっこいいー……!!」
「ひぎゃー!!!!」

 今まさに息絶えようとしている藤井ヒナの、血塗れのその姿を。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「で、ホールを任せようと思」
「キッチンで」
「……うのだが」
「キッチンでお願いします」

 据わった目で迫るヒナに気圧されて、
 椅子に据わったまま背を反らせる椋。

「いやしかし、今はホールが足りなくて」
「キッチンでお願いします」
「僕もオーナーなのにホールに出ている状況で」
「キッチンでお願いします」
「できれば清潔感があってそれなりに見栄えの良いウェイトレスを」
「Per favore assuma come un cuoco.
 S'il vous plaît.
 Vielen Dank im Voraus.」
「……わかった」

 やりっ、とヒナは両手を握りしめた。
 椋はため息をつく。

「だが、そこまで言うなら自信があるんだろうな」
「え?」
「キッチンだよ。どうしてもやりたいって言うんだろ」
「ええ、うん、まあ……」

 ヒナは小さくうなずく。
 自信がどうかと聞かれたら、あまりない。

 というかヒナが自信を持っていることなど、そう多くはない。
 いくつかの家事とファッションセンスぐらいなものだ。

「ふむ。じゃあいいさ、早速テストさせてもらおう」
「テスト……ですか?」
「ああ、とりあえずこれに着替えてもらおう」

 ファミリーレストランの面接でいきなりテストとは、
 状況は不自然極まりないが、物語っぽいと言えば物語っぽい。


 真っ白な制服に着替えて――髪は後ろで大きな三つ編みにした――やってきた先は厨房である。

「そうだな、じゃあとりあえず作ってもらいたいのだが」
「はあ」

 何人か働いている中で肩を小さくしながら立つヒナ。
 椋はコンロのひとつを顎で指す。

「一通りは作れるんだろう?」
「まあ、すごい無茶を言われなければ、
 大体は、今あるもので大丈夫だと思う、かな。
 佛跳牆(ファチューチョン)とか、言われなければ……」
「……? まあそうだな。
 それじゃあプレーンオムレツを作ってもらおうか」
「オムレツかあ」

 ヒナは顎先に指を当てて思案する。

「無理を言ってキッチンに回すんだ。
 それなりのものを作ってもらわなければ、他のものも納得しないからな」
「うーん、確かにそうだよね……。
 わかりました」

 椋の想定する『それなり』がどれほどのレベルのものかはわからないが。
 とりあえずヒナは厨房に立ち、フライパンを取った。

 それから、ちょっと眉を曲げながら、困り顔で微笑む。

「あの、でもあんまり、期待しないでね?」
「高校生が作るものに大した期待などしない」
「えへへ、だよねえ」

 やはりいくら上手と言っても、専門のシェフとは違うのだ。


 ヒナはボウルに入った卵を、手元に引き寄せ、一個一個品定めしてゆく。

「んー……」
「ほう」

 椋は思わず声をあげた。
 若いながら、知識は身に付いているようだ。

 一般的に卵の大きさは鶏の年齢に比例するという。
 老いた鶏ほど大きな卵を産みがちで、品質が下がり、卵白の量が多くなる。
 だから、ヒナは小さな卵を選んでいるのだろう、と椋は思ったが。

 その逆、ヒナはあえて大きな卵だけをいくつかチョイスした。

「……」

 なんのことはない。
 ただ、特に意味もなく大きなものを選んだだけか。

「……ん?」

 だがその中から今度は、特に質が悪くなっているものを選別して、使おうとしているように見えた。

「おい、藤井。おまえなにをしている?」
「え?」
「大きな卵を使おうとしているのではなかったのか?」
「あ、えっと」

 ヒナは、眉尻を下げながら微笑んで。

「だって、これお客様にも出す卵でしょ?」
「ああ、そうだが」
「だったら、わたしが一番悪いものを使った方が、
 お客様は喜ぶんじゃないかな、って。
 椋くんだってそっちのほうがいいでしょ?
 あ、でも大丈夫だよ? それでもおいしく作ってみせるから。
 でも念のために、一応ね?」
「……」

 と、彼女は今度はフライパンの選別に入る。
 言われずともオムレツ用のフライパンを手に取り、強火をつけ、サラダ油を軽く注ぐ。

 鍋肌全体になじませながら、片手で先ほど選んだ卵をボウルに落とし、塩を振ってときほぐす。
 両手がまるで別々に意思を持っているかのような手際の良さだ。

 その作業を眺めながら、椋は。

「なあ、藤井」
「うん?」
「おまえ、うちの店の厨房を任されてみる気はないか?」
「ふぁっ?」

 その言葉に、ヒナは驚きながら振り返るのであった。
 740回目。
 死因:ナイスミドル。

 741回目。
 死因:褒めポ死(椋)。

 742回目。
 死因:ナイスミドルズ(Over Kill!)。


 ブルーメより一言:夢の1ページ目に飛び込むために、そのためになのです……こんなところでコムスメに負けてはならないのです……ワタシのメンタルは鋼でできているのです、やってやるデス!
 シュルツより一言:ちょろい。
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