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恋をしたら死ぬとか、つらたんです 作者:みかみ てれん

第五章 ウッキウキ☆初めてのデートは死の香り♡

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58限目 アルバイトって死ぬほど大変です

 三日目、二度目となる葬式シーンである。

 藤井ヒナのようなものを雇ってしまったために、
 営業停止に追い込まれた九条椋の心情を察すると、
 涙を禁じ得ないブルーメであるが。

「……まったく、二回も死ぬとか、どうなってやがるんですか」
「えへへ」

 頭痛を抑えるようにこめかめに手を当てるブルーメ。
 しかしヒナは平然と笑い、頬をかいている。
 なんだこの娘は。死んでおきながら、何の葛藤もないのか。

「……信じられないのです。
 こんなの、ワタシには理解不能なのです。
 これがゆとり? ゆとり世代のコムスメ?」
「えー、わたしたちの世代にも色んな人いるし、
 ひとくくりにするのはちょっとどうかな、って」

 ヒナの言葉も一理ある。ブルーメはうなずいた。
 ゆとりもヒナと一緒にされたら大層困るだろう。

 しいて言うならヒナは(自分の死を)看取(みと)り世代だ。
 こんなのが他にもたくさんいたら怖すぎるけれど。

「さ、じゃあどんどん参りましょー」
「お、おー……?」

 二度死んでまで、しつこくファミレスのアルバイトにこだわるヒナに胡乱な目を向けるブルーメ。
 やっぱりクチでは椋のことを『普通』だとか言っておきながら、カラダは正直なものだな、と。

 オンナはカネとイケメンには絶対に惹かれるようにできているのだから、認めてしまえばいいのに。
 それができないのが、コムスメがコムスメであるがゆえのちっぽけなプライドなのだろう。

 本当になにが大切なのか見えていないから、自分の行動に理論付けができていないのだ。
 まったく、これだからタマゴッチのトイレの世話もままならないようなコムスメは。 

 とかなんとか思っているブルーメだが。
 彼女はまだ知らない。

『二度の死』など、藤井ヒナにとってはウォーミングアップにもならないのだと――。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


「で、ホールを任せようと思うのだが」

 メガネを指で押さえながらそう告げてきた椋に。
 ヒナは勢いよく手を挙げながら、答える。

「はっ、はい、わたしキッチンがいいです」
「キッチン?」
「はい! こう見えてもわたし、お料理とか得意なんです。
 な、なので、お役に立てればなぁ~、って」
「いや、だが手が足りていないのはホールで……」
「き、キッチン好きなんですよぉ~、キッチンいいなあ、いいなあ~」

 ヒナは指と指をつき合わせながら、エヘ、エヘヘ、と愛想笑いを浮かべる。

 やっぱりウェイトレスは、できることなら拒否したい。
 制服はかわいいけど……!

「まったく。じゃあ、なにか得意料理はあるのか?」
「あ、えと、色々」
「たとえば?」
「たとえば……? そうですね……なんでしょう、北京ダックとか?」
「は?」

 あ、まずい、外したかもしれない。
 男の人は大体みんな好きなのに、北京ダック。

 わたわたと手を動かしながら解説を始めるヒナ。

「あ、や、簡単ですよ?
 こう、首をばっさりとしてから逆さに吊すんです。
 毛をむしるのだって、わたし結構上手ですよ。
 それから血抜きをしつつ、内臓を取り出して、
 舌、手羽先、足の順で――」
「い、いや、もういい、わかった」

 手で制されてしまう。
 もしかしたら信じてもらえていないのかもしれない。

 むー、と唇を尖らせるヒナの後ろでブルーメが。
「屠殺から……?」と口を大きく開いているようだが、ヒナは気づかない。

 そんな女子力たっぷりの料理の作り方を臨場感たっぷりに説明したのに、
 やはりヒナはホールへと送り出されてしまうようだ。

「悪いな、今は本当にホールが足りないんだ。
 僕の格好を見てみろよ。オーナーなのに、ウェイターやっているんだぞ」
「そう、なんですねえ……」
「だから頼む、藤井」

 しっかりとした目で見つめられて。
 心の奥まで覗き込まれるような椋のその視線を浴びて。

 ヒナの頭にその言葉が合わせ鏡のようにリフレインする。

 ――頼む、頼む、たのむ、たのむ、たのむ……。

 やばい。感じる。
 すごく視線を感じる。

 今自分は求められている。
 狂おしいほど、九条椋に。

 この自分が。
 そう、たったひとりの藤井ヒナが。

 ――今、この瞬間、必要とされているんだ!

「あはぁ――!」

 伸ばした手は、虚空を掴む。
 体が斜めに傾ぐ。
 なにかと思えば、膝から下から力が抜けていたのだ。

「ご主人サマ!?!?」

 ブルーメの叫び声も、どこか遠くに聞こえてしまう。

 それでも倒れかけながらヒナは椋の服に手をかけて――。
 そのボタンを一個はぎ取って、倒れ込む。

「な、なんだ!?」

 ヒナはうつ伏せのまま顔をあげ、髪の隙間から上目遣いで椋を見据え。

「ひっ」

 なぜか聞こえてきた彼の悲鳴に重ねるように。
 必死に、その想いを、伝えるのだ。

 彼の役に立つために。
 必要とされているのだから……!

「や、やり……ま、しゅぅ……。
 わた、し……わた、わた……わた、し……」

 精一杯伸ばした手はしかし、その温もりを得ることはできなかった。



 救急車と少し後れて警察のパトカーが到着した店から、両腕を捕まれた椋が連行されてゆく。

「違う! 僕はなにもしていない! 僕は無実だ!
 彼女はただのクラスメイトで! アルバイトだ!
 ボタン!? そんなのは知るか! とにかく僕はなにもやっていない!
 ええい離せ! おい、やめろ! くそ! 貧乏人どもが!
 僕の父さんをグループの総帥と知っての狼藉か!
 離せえええ! 離せえええええええええええ!」

 そんな叫びが響きわたり、ファミリーレストランは数日後に閉店に追い込まれたようだが、それはおそらく違う世界線の出来事である。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇


 アゲイン、である。

「や、やります。ホール大好きです。
 わ、わたしに任せてください」
「ああ、そういってくれると嬉しい」

 小さく胸を叩くヒナに、椋はホッとした顔を見せた。
 そのメガネの奥の鋭い瞳が小さく笑みを浮かべた瞬間、ヒナは心臓が強くノックされるのを感じた。

「うっ、くっ……あふぅっ……」
「ん……藤井?」
「い、いえ、なん、なんでも、ないです」

 腹痛をこらえるように脂汗を浮かべながら、ひきつった笑みを浮かべるヒナ。
 その様子を眺めていたブルーメは青ざめる。

「さっきまでなにもなかったのに、なにもなかったのに!
 なんで数値が異常上昇してやがるんですか!?
 微笑みひとつで!? どんだけ喪女なのです!?
 男耐性ゼロなんです!? 女だけの惑星で育ったんです!?」

 矢継ぎ早に叫ぶブルーメ。
 このツッコミには恐らくシュルツも満足だろう。

 それはともかく、椋の次なる言葉を待たず、ヒナは手のひらを彼に突きつけて。

「で、でもあんまり期待はしないでね、椋くん。
 わたし、うまくできるか自信ないし、
 もしかしたらなんだかものすごい、
 ものすごい、その、ものすごく、
 とんでもなく、迷惑をかけちゃうかもしれないから」

 前もっていっていたその言葉に、
 椋は持っていたボールペンで眉間をかきながら。

「ん、まあ大丈夫だ。たいていのことはカバーする自信がある」 

 こともなくそんなことを言い放った。

 その『たいていのこと』には、店内で死亡することが含まれているのかどうか、ヒナは気になって仕方ない。
 仮に椋がカバーするとしたらどうするのだろうか。
 一体どんな方法を見せるというのだろうか。
 業務用冷蔵庫に一旦死体を押し込んで、その後シチューにでもして証拠隠滅を計るのか。
 あるいは実家にそういう専門の業者を雇っているのだろうか、こんなときのために。

 ……なんて頼りがいのある男性だ!

 ヒナはくらりとして、今度は壁に手をついて体を支えた。
 その様子に、椋は眉をひそめる。

「……しかし、体調不良か? なんだか顔色が悪い気がするが」
「あ、ご、ごめんね。体調は大丈夫なの。
 顔色もいつものことで……睡眠もたっぷり取ったし」
「そうか?」
「う、うん、わたしちょっぴり他の人より死にやすいだけで……。
 え、えっと、大したことはないの、えへへ」
「死にやす、え……?」

 理解できない冗談を耳にしたように、怪訝な顔をする椋に。
 ヒナは額にたっぷりと汗を浮かべたまま、微笑むのであった。



 そしてその近くでは――。

「チーフ! チーフ!
 なんなのですか! なんか、なんかおかしやがらないですか!?
 この女、本当にただのコムスメなのです!?
 ワタシですらこんな数値の上がり方、見たことないのです!
 挙動が不審ってレベルじゃないのです、なのですー!
 チーフ! エマージェンシー! チーフ! エマージェンシー!」

 ブルーメが必死に緊急コールを連打しているのであった。
 
 739回目。
 死因:頼られて~春~。

 ブルーメより一言:電話! 電話繋がりやがらないんですけど! チーフ! どうなってやがるんですか! チーフ! ちょっと! チーフ!!
 シュルツより一言:(ゲーム中)


 作者から一言:【乙女つらたんクリスマス企画】やります。詳細は活動報告にて。
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