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恋をしたら死ぬとか、つらたんです 作者:みかみ てれん

第五章 ウッキウキ☆初めてのデートは死の香り♡

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57限目 労死します

 平和な時は終わりを告げた。
 ヒナを愛する者たちが一堂に会する、葬式の始まりである。 

 あちこちですすり泣く声もヒナにとっては慣れたBGMだが、
 そうではないものもこの場にはいた。
 というか、ヒナ以外の全員にとっては初めての葬式なのだが……。

 それはともかく、新参者であるブルーメである。
 彼女は式場の椅子に足を伸ばして座りながら。

「ま、まったく、イケメンのシュッとした恰好を見ただけなんて、
 ご主人サマのオトコノコへの免疫のなさは折り紙つきなのです。
『折り紙つき』っていうのは、平安末期より公式文書や贈呈品の目録に使われた紙なのです。
 そこから転じて、より確かな品質のものを差す際に言うようになった言葉なのです」

 平然を装ってはいるが、動揺していることが目に見えてわかる。
 脂汗を流すブルーメとは裏腹に、ヒナは慣れ切った様子。

「まあまあ、のんびりと待ちましょうよ」

 温かいお茶でもすすりながらつぶやきそうなヒナに、ブルーメは途端に表情を裏返す。

「というか! なんでそんなに平然としてやがるんですか?
 自分の葬式が行なわれているのですよ!?」
「わたしも最初はビックリしちゃったよ。
 しばらくご飯もノドを通らないくらいショックだったけど。
 でも何度も何度も見ているから、さすがにもう慣れちゃったよ」
「な、慣れた……? これそんなに死ぬゲームじゃないのですけど……?」
「えへへ、わたし『ちょっぴり』惚れっぽいみたいで」
「……」

 黙り込むブルーメ。
 それよりもなによりも。

「――待ってくれ! 今回の件は営業とはなにも関係がないんだ、父さん!」

 告別式会場のお外で電話をしているのは、制服姿の九条椋。
 彼はとても慌てた口調でなにやら叫んでいる。

「た、確かに藤井さんのことは残念だった……。
 ああ、大事なクラスメイトだ。もちろん葬儀にも顔を出している。
 けれど、彼女はたまたま僕のお店に来て、そこで倒れただけで……。
 わかっている! 飲食店で、死者をひとりでも出したなら、即営業停止だろう!
 だけど、今回のことはそれとこれとは違――いや、父さん! 聞いてくれ!
 ――クソッ!」

 受話器を叩きつけるように携帯を切る椋。
 そのまま彼は青ざめた顔で廊下にしゃがみこんだ。

「僕の夢が、こんなところで……。
 一体、誰を怨めばいいっていうんだ……」

 涙混じりにそんなことを言う椋。
 その姿を見て、ブルーメは「うわぁ」とつぶやく。

「なんかすごくイケメンが、イケメンが傷ついてらっしゃりやがるんですけど。
 イケメンが、イケメンが傷心なのです、イケメンさまが」
「でも椋さんは結構いつものことですよ?」
「いつもの!?」

 頭に幽霊布を巻きつけたヒナがすごい気楽な口調で言うから、
 ブルーメも思わず「そういうものなのですか……」と納得してしまいそうになる。

 いやいやそんなわけがない。
 そういうゲームじゃねえからこれ、だ。

 九条椋は年下だが、資産家の息子だ。ブルーメにとっては玉の輿候補筆頭であり、だからこそ個人的にオキニのキャラなのだが。

「イケメンさまが、うずくまって、髪をかきむしって、
 イケメンさまが、あんなに自暴自棄な目で、ああ、イケメンさまが」
「でもリセットすれば元に戻りますよ」

 そんなことをさらりと言うヒナ。
 目の前で「くそぉ……」と涙まじりにつぶやく椋のなにもかもをなかったことにしようとしているのか。
 どんな地獄で生まれ育てばそんな発想が出てくるのか、ブルーメには理解ができない。

 だが、だからといってこんな、ジャスコにいって大喜びしそうなコムスメにリードされるのはシャクでならない。
 ブルーメは短い二本足で立ち上がると、綿の詰まった胸を張る。

「じゃ、じゃあアルバイトする場所を変えやがりますか」
「え、どうしてですか?
 まだ『たった』一回死んだだけじゃないですか」

 ヒナの強気な言葉の後半を聞き流しながら、ブルーメは腕を組む。

「ま? た、確かに眼鏡男子はワタシも大好きですし、
 将来的にも年収クリアしそうなので、ワタシイチオシの子なのです。
 でも、九条椋を見ただけで死ぬとか普通ありえないのです。
 そんななのに、一緒の職場で働けるはずがないですから、
 よっぽど九条椋のことが好きで好きでたまりやがらないのでしょう?」

 だろ? だろ? と問うブルーメに、ヒナは目を逸らしながら。

「いえ、別に……」
「別に!?」
「普通、かな」
「フツウ!?」

 髪をいじりながら答えるヒナに、表情を崩すブルーメ。

「いやだって死んで! 死んでやがるじゃないですか!
 なかなか死なないんですよこのゲーム! なんで死にやがるんですか!」
「結構いつものことですよ?」
「いつもの!?」

 クラクラと頭を揺らして、ブルーメはメニュー画面を確認する。

「……もしかして、ベリーハードモードになってたりしやがるんじゃないでしょうかね」

 それならわかる。
 ドキドキメーターの限界が10や20に設定されているのかもしれない。

 いまどきの子どもは、それが飛び越えられるハードルかどうかもわからないうちから、挑んでしまうのだろう。
 すべては無知だ。人生経験のない無知であるがゆえの行ないだ。
 ならばそれを導いてあげるのも大人の役目だろう。
 いまだに趣味はベーゴマとメンコです、とか言い出しそうなコムスメを横目に、ブルーメは嘆息をつく。

 仕方ない。なにも知らない彼女に変わって、自分が設定変更をしてあげよう。
「やれやれ、ナビゲーターはつらい仕事なのです」などとつぶやきながら。
 オプション画面を開く。

 そこにはエンジェルハイパーイージーフレンドリーモードとあった。

「……なんなのです……」

 上限値、99万9999。
 まるで意味がわからなかった。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 
 アルバイト先潜入二日目。

「……ったく、よりにもよって僕の仕事先に来るとはな」
「えへへ」

 はにかむヒナ。
 椋は憮然とした顔でふんぞり返っている。

 ここは厨房奥の事務所である。

「いいか? 僕はきちんと学校に許可を得て、ここで働いている。
 風紀委員として風紀を乱すようなことはできないからな。
 許可証は後から取っても構わないが……。
 ともあれ、僕がここで働いていることは他言無用で頼む」
「どうして?」

 後ろめたいことがないならいいじゃない、と首を傾げるヒナだが。

「……いや、面倒なんだ」
「なにが?」
「……優斗に知られたら、あいつはしょっちゅう遊びに来るだろう。
 そこから話が広まる可能性だってある」
「繁盛するなら良いんじゃないかな」
「そういうわけにもいかない。
 学生は客単価が低い。うちはもう少し上の年代を狙っているからな。
 人件費との兼ね合いというものもある。
 これ以上高校生の客はいらん。
 しかも、友達目当てで長く居座るようなやつらは言語道断だ」
「ははあ」

 眼鏡を指で押し上げながらそういったことを告げてくる椋。

「……僕がホールにいるだけで、キャーキャー騒ぐ輩も出てくる。
 そんなのは鬱陶しくて仕方ない」
「なるほど」

 苦笑するヒナ。モテる男というのはつらいものだ。
 それにしてもどうやら彼は、一アルバイトスタッフという扱いではないようだ。

「一応はこの店舗を任されているオーナーということになっている。
 店長は他にいるが、まあ僕が雇っている扱いだな」
「わぁ、すごいですね」
「……これも社会勉強のひとつだ」

 椋はそっぽを向きながらつぶやく。
 自分のことを語ったのが恥ずかしかったのか、彼は顔を淡く赤く染めて。

「……とにかくだ、藤井。今はちょうどスタッフ募集をしていた。
 入れてやる代わりに、僕のことは黙っていろ」
「わー」

 清々しいほどの取引だ。
 彼にヒナはにっこりと微笑む。

「はい、それじゃあきょうからお願いします」
「……あ、ああ」

 光が眼鏡に反射してよく見えなかったけれど、
 椋は俯きながら、わずかに微笑んでくれていたような気がした。



 しかし、任された仕事はホールだった。
 すなわち、ウェイトレスだ。

「……大丈夫でしょうか」

 不安はある。
 心臓がドキドキする。

 ブルーメもなにやらテーブルのひとつの上に寝転んで、
 ブラックコーヒーをすすりながら「労働するのですコムスメ」とか言ってきているけど。

 食いついてしまったのは、ひとえに――。

「……制服が可愛かったから」

 そんな女子的理由である。

 今ヒナが着ているのは、メイド服を上品に仕立て直したような制服である。
 メイドカチューシャといい、フリルといい、パニエで膨らませたスカートといい、乙女としてはちょっと憧れてしまうアイテム揃いなのだ。

 ちなみにそれを揃えたのも椋という話だ。
 彼としては『……大正時代のカフェー・プランタンをイメージしたんだ』とか言っていたが、別にメイド服ではなかったと思う。

「ヒナ、頑張りやがるのです」

 微妙にうつった口調で拳を握るヒナ。
 すると一組目のお客さんが現れた。男女のカップルだ。

「いらっしゃいませー、二名様でよろしいでしょうかー」

 女給仕のお手本のような営業スマイルでご案内のヒナ、手慣れたものだ。
 後ろで待機していた椋が「ほう」と感嘆の声をあげた。

 彼らを実にスムーズに客席へとご案内するヒナ。
 どうだ、仕事だと割り切ればこんなものだ。

 イケメンの客を見た瞬間に叫びながら「ひゃーかっこいー!」とか飛び上がって即死ー、なんでだー、的なコントはもういらないのだ。
 そんなものはプライベートの時間だけで十分だ。今は仕事中なのだ。

 トレーニングまで担当してくれている椋は、腰に手を当てながらうなずく。

「見事な仕事だと関心はするが、どこもおかしくはないな」
「えへへ」

 ヒナは照れ隠しに頬をかく。

 椋は――ヒナの頭にぽん、と手を置いた。

「存外、役に立つじゃないか、藤井。
 これからもその調子でがんばってくれよ」
「――」

 おまえも、なのか。
 おまえもナデポの使い手なのか、椋……!


 その笑顔はヒナ個人ではなく。
 ヒナの働きっぷりに向けられたものだけど。

 さらに言えば、ヒナが生み出すであろう利益と、
 思った以上の掘り出しものを見つけた自らの目利きに対する笑みだけど。

「――――」

 でもそんなの関係なかった。
 だって触られたのだから。

 あのいつも憮然として、ムスッとしている椋が。
 ほんの少し口元を緩めて、ヒナの頭を撫でたのだ。

 そんなの。
 そんなの。


 むり。


「――――モルスァ!」
『!?』

 口から血を吐いて仰向けに倒れるヒナ。
 一同の注目が一斉に集まって。
 彼女はもう床に倒れて、痙攣するだけのメイドになってしまった。

「お、おい、藤井……?」
「ご主人サマ!?」

 血だまりに横たわるメイドの白いブラウスは赤く汚れてゆき……。
 それはあたかも、血の池に沈む白百合の花のようであった。
 
 738回目。
 死因:ナデポ(九条椋ver)

 ブルーメより一言:二度も、二度も死にやがったのです、このコムスメ……一回のゲームで、二度も……!?
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