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恋をしたら死ぬとか、つらたんです 作者:みかみ てれん

第五章 ウッキウキ☆初めてのデートは死の香り♡

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55限目 生きることは大事でした

 祝・13話連続生存中
「次回も絶対に生きます!」byヒナ
「あのあのあの!」

 ブルーメは手のひらを耳にあて、顔を伏せながら勢い良く語る。
 十数コール後に聞こえてきたのは、間延びした声。

『なーにー。
 ボク今プライベートなんだけどー』

 シュルツだ。ブルーメにとっては一応上司に当たる。

「なーにー、じゃないのです!
 どうなってやがるんですか、話が違うんじゃないのですか!」
『なにがー?』
「ご主人サマのことです!」
『……ナンノハナシカナ』

 その声がわずかに迷いを含んだのを感じ取って、ブルーメは顔を歪めた。

「な、なんなのです……?
 もしかしてチーフ、ワタシをたばかったのです……?」
『まさかまさかボクがそんなことするはずー』
「……」 

 ……沈黙。
 遅れて、咳払いの声。

『いいかい、ブルーメくん』
「ええ」
『……ヒナさんはヘイボンでフツウのオンナノコだ。
 彼女は驚異に値しない。いいね?』
「アッハイ」

 うつろな目でうなずくブルーメ。
 だが直後、頭を振り。

「じゃないのです! 平凡な子があんなハイセンスな着こなしできるはずないのです!」
『いやそれについてはボクは正直、まったく理解できていないのだけど……。
 え、なにあれ、普通のファッションじゃないの? なんかあるの?』
「あんなのはおしゃれ奴隷のしわざじゃないのです!
 おしゃれ界の皇帝、女帝、神……それぐらいのレベルでやがります……!」
『いやそんなガクガク震えながら言われても欠片も伝わらないのだけど……。
 まあ、あれじゃない? 考え過ぎか、もしくは誰にでもひとつぐらいは取り柄があるものさ。
 大丈夫大丈夫、所詮はその程度だから。ブルーメくんの敵じゃないから』
「……ホントなのです?」
『……』

 ジト目でつぶやくブルーメ。
 シュルツは一瞬だけ口ごもった後に。

『ボクが子どもの頃に、ずいぶんと古めかしいゲームで遊んだことがあるんだ。
 ちょうどヒナさんが小さかった頃のゲームだね』
「え?」

 なんかシュルツが語り出した。
 遠い目をしているような気がする。

『そのゲームには、“フライングマン”ってキャラクターがいてね。
 合計で五人。戦闘で死亡するごとに一個ずつ墓が増えてゆき、決して生き返ったりしないんだ。
 当時は残酷なことをするなあって思ってたけどね、
 その頃のボクは台詞が見たかったから、わざとフライングマンを殺していったんだ。
 最後の墓に刻まれた文字を見たとき、ボクの心には言い様がない“悲しみ”っていうのかな。
 そういったものを感じたんだよ。
 それ以来ね、ボクはどうもゲームのキャラクターとかAIであっても、感情移入せずにはいられないんだ』
「なにがいいたいのです?」
『……そうだね』

 大きな間が空いて。
 ブルーメが焦れてきたそのとき、シュルツはつぶやいた。

『ブルーメちゃんの幸せを、ボクは(ゲームしながら)祈っているよ。
 ……たとえキミが、一度もヒナさんに相手にされていないとしても……』
「えっ、あっ、ちょっ」

 ぶつり、と無理矢理回線を閉じられて、ブルーメは眉根を寄せた。

「……なんなのです」




 先ほどからブルーメが店の端でジタバタぶつぶつ喋っていたのを横目に。
 ヒナは悩んでいた。

 無論、彼女にとって最善を追い求めなければ、一万円以内でのコーディネートはある。
 着回し可能な服であり、どんなものと合わせてもそれなりの魅せ方ができる、ユーティリティ・アイテムで揃えて、先に繋げることもできる。
 ヒナにはできる。ファッションにおいて、大抵のことはできる。

 だが――それは妥協だ。
 着るものに妥協をするのか?

 確かにヒナは諦めた。
 恋を追い求めることを諦めた。
 それは誰かを傷つけてしまうからだ。

 しかし、ファッションで誰を傷つける?
 そんなわけがない。
 だからヒナはファッションに関しては、常に全力投球なのだ。

「……うううん……」

 悩ましい吐息が漏れる。
 でもだめだ、お金が足りないのなら諦めるしかない。

 通行人を殴り倒してお金を稼いだり、気付かれないように懐からサイフを抜き取ったり、
 あるいはこの店主をなんとか値切ってまけさせるわけにはいかないのだ。

「お困りのようなのです、ご主人サマ」

 そんなとき、胸を張って現れたのは白猫ブルーメ。
 先ほどなにやらオドオドしていた気がするけれど、復調したようでなによりだ。

「マリー・アントワネットは言ったのです。
 お金が足りないのなら労働すればいいじゃない! と」
「すごく正しいと思うんだけど、たぶん言っていないよね」
「というわけで、デートまでの2日間、『アルバイト』をするのです!」
「……」

 アルバイト。
 ……アルバイト?

「……」

 ヒナは唇を尖らせながら、考え込んだ。

「イベント、ありそうだよねぇ……」
「そんなのあるに決まってやがるのです」
「だよねぇ……」

 お洋服は捨てがたい。
 乙女のポリシーとして捨てがたい。

 大切な大切な恋を諦めながら生きてきたヒナだから。
 せめて諦めたくないものもある。

 ブルーメからの提案はすごくありがたいけれど。 
 ……だが、そのために即死しては意味がない。

 もしヒナが「アルバイトしたいんです」ってシュルツにお願いしたらどうなるだろう。
 たぶんあの黒猫は包丁を持ちだして「キミがバイトをするならキミを刺してボクも死ぬ」とか言い出しそうな気がする。
 いやさすがにそこまではいかないと思うが。

「……いや、でも待てよ?」

 ――ヒナの脳裏に閃くものがあった。

 そうだ、アルバイトで攻略対象キャラと知り合うとしよう。
 その人は基本的にアルバイトのみでイベントを進めるだろう。
 ということは、絡むも絡まないのもこちらの思う壺だ。
 学校のように無理矢理イベントに巻き込まれることはない。

 そうだ、いいんじゃないだろうか、アルバイト。
 にっちもさっちもいかなくなったら、セーブポイントに戻って、他の休日行動をすればいいだけだし!

 俄然やる気になった。

「いいね、アルバイト! そうしよっか!」
「あ、でも他にも両親からお小遣いをもらえば、」
「それは ダメです」
「ま、1000円2000円ぐらいだったらなんとかなりやが……え?」
「ダメ です」

 ブルーメの言葉を遮って、ヒナが無機質な声をあげる。
 それは今までの柔和な彼女らしくない、まったく感情の通っていないものだった。

 ブルーメはぱっちりとしたその目をぱちくり瞬かせる。

「ケンカとかしやがったんですか?」
「……」
「え、なんで急に黙りやがるんです?」

 それはヒナがなるべく両親のことを思い出さないようにしているからなのだが、当然ブルーメにはわからない。
 これだから思春期の気難しいコムスメは、などと気楽に嘆息をついている。

「そのアルバイトは、制服で行っても大丈夫なんでしょうか」
「厚顔無恥であることを気にしなければ、オッケーだと
 四箇所ありやがるのです。『カフェテリア』か『レストラン』、
 それに『本屋』、『お洋服屋』から選べやがるのです」
「へー……って、お洋服屋って」

 辺りを見回すヒナ。
 小首を傾げながら。

「……ここ?」
「ここ」
「ミカさんカッコいいので無理です」

 きっぱりと告げるヒナ。
 なにげなく振り返れば、こちらに気づいたミカがにこやかに手を振ってきてくれる。
 ヒナは慌てて目を逸らしながら。

「無理です、ここは無理です」
「ご主人サマ、“そこそこ”センスいいですし、
 そこそこ向いていると思いやがるんですけど」
「むーりーでーすー」

 両手で耳を塞いでアーアーキコエナーイをするヒナに、軽くイラッとするブルーメ。

「ま、まあなんでもいいからさっさと決めて、アルバイトに行きやがるのです。
 人生はお金なのです。お金がない男はポイーなのです」

 先ほどはあまりの人智を越えた服神っぷりに冷静さを失ってしまったけれど。
 こうして見れば、やはりただのフツウでヘイボンな高校生ではないか。
 シュルツもそう言っていたし。

「まったく、それならどこがいいのです?」
「ええっとぉ……。
 誰も人と触れ合うことがないようなものがいいなあ。
 炭鉱とか、鳥類の定点観測とか、お刺身の上にタンポポを乗せるお仕事とか……」
「どれもこれも女子高生がやるようなもんじゃないのです!」

 キシャーと牙を向くブルーメ。
 その白猫に適当に手を振り。

「ま、じゃあ順番に見に行こうかな」

 ヒナはウィンドウからロードを選び、帰り道を短縮した。
 それはゲーマーらしい、実に効率的で迷いのない判断であった。


 ――戻ってきたのは、二日目の夜。お出かけする前だ。
 この日ヒナは自由行動の『勉強』を選択し、就寝する。

『ぜったいイベント』の優斗からのデートをどうにかして断れるのではないかと3時間試行錯誤した後に、結局諦めた結果であった。


 ~二日目終了~
 ブルーメより一言:『乙女は辛いデス』はそうそう死なないゲームなのですし。
 シュルツより一言:アカンこれ。
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