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恋をしたら死ぬとか、つらたんです 作者:みかみ てれん

第一章 この門をくぐるものは、一切の希望を捨てよ

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4限目 今度はそう簡単には死にませんよ

  
 ふたりは現状を整理する。

「つまり、その……
 わたしが誰かと結ばれるまで、この閉じられた世界から出られない、って……?」
「……うん」

 さすがにヒナの顔も青くなる。

「そ、そんな……学校にもおうちにも帰れないんですか……?」
「あー、それは大丈夫。
 外の世界の時間は経過していないから。
 おなかも空かないし、ねむくならないし、
 トイレにだっていきたくはならないんだ、すごいでしょう……
 だから、進むのはボクたちの体感時間だけさ……はは……」

 シュルツはどこか投げやりになっているように見える。
 というか床に寝そべっていた。
 ぬいぐるみだからあまり違和感はないが。

「一応、スーパーベリーイージーモードにすることはできるけどね……
 なんとドキドキメーターの上限が9999になるんだぜ……
 へへ、999でもほとんどの人が死ななかったんだ……
 9999にまで達する人なんて、それこそこの世には理論上存在しないはずだったんだ……
 へへ、それなのに、キミがその壁をぶち破ったのさ……
 すごいね、すごいねヒナさん……すごいよマジで……」
「えへへー」
「一言も誉めてないけどな!?」

 こんな状態だというのに、ちゃんと突っ込むシュルツ。
 実に律儀である。

「でも、クリアするまで出られないって、すごい仕様ですね」
「ほんとだよ……先輩方はなに考えているんだ……
 いや、ボクのほうでどうにかロックを解除できないか、がんばってみるけどさ……」
「……シュルツさん、やっぱりこの世界から、早く抜け出したいですか?」
「早くってわけじゃなくてもいいけど、
 でも、このままじゃ一生閉じ込められそうだし……」

 仕事は仕事だ。それなりに真面目に行なうつもりはある。

 けれど、ヒナを巻き込んでしまったのは辛い。
 彼女だって好きで閉じ込められたかったわけではないだろう。
 まったく、なんて仕事だ……

 そして自分の未来も真っ暗だ。
 ここでの会話は全て記録されているけれど(モニターだけに)、少しくらい腐っても仕方がないというものだ。

 だが。

「わかりました!」
「う、うん?」

 ぎゅっと拳を握り、ヒナはやる気満々で立ち上がる。
 バックで流れていた葬式の光景も、いよいよクライマックスのようだ。

「わたし、がんばります!
 いっさい恋をしない、鉄の女になります!
 見ててください! 恋する乙女ヒナは、シュルツさんのために感情を捨てますよ!」
「お、おう……」

 そんな決意をして、ヒナはシュルツを抱き上げた。

「さ、もうバッドエンドは良いですから、
 もう一度ゲームをスタートしてください!
 わたし、そのままクリアしてみせますから」
「お、おお……」

 彼女の気迫を前に、シュルツは小さくうなずいた。
 まだ社会人になって、あまり年月は経っていないけれど。
 それでも、なんとなく感じたのだ。
 今のヒナならば、やってくれるかもしれない、と。

 そうだ、一度の失敗がなんだ。
 さっきのは本当にプログラムのエラーだったかもしれないではないか。
 まだまだ諦めるような時間ではない。

「じゃ、じゃあお願いするよ?」
「はい!」

 両手を握り、燃える乙女は気合いを入れた。
 かくして、彼女は再び校門前に降り立つ。

 

 ◆◆ 

  

 二度目の人生のスタートだ。

 転校初日、きょうから彼女にはバラ色の未来が待っている。
 そんな、イケメンたちとのめくるめく愛欲にまみれた学園生活を……

 ヒナは、あえて捨てる。
 すべては惚れたシュルツのために、だ。
 彼(彼女?)が笑ってくれるなら、ヒナは悪にでもなるのだ。

 悠長に楽しんでなんていられない。
 なんとしてでも、このゲームをクリアしてみせる。
 それが彼女の、乙女の意地だ。

 くるぞくるぞくるぞ、と口の中でつぶやく。
 目標は斜め後ろから接近してくるはずだ。

「おいおい、ヒナ。ひとりで勝手にいくなって」

 ほら来た。
 犬系イケメン幼なじみ、三島優斗だ。
 赤髪で背が高くてイケメンでイケメンだ。

 ヒナは振り返らずに、考える。
 いったいどう返すのが正解だろう。

 うーん。
 うーん。

 思いつく。
 そうだ、嫌われればいいんだ。

 思いっきり嫌われてしまおう。
 そうしたら相手は近づいてこないはずだ。
 バリアーを張るのだ。

 正直、三島優斗くんはやばい。
 結構タイプなのだ。
 めっちゃカッコいいし、優しそうだし。
 声とかやばい、ってやばいやばい死ぬ死ぬ。考えるのやめよう。

 彼を遠ざけて、もっともっとタイプじゃない人を選ぼう。
 それがいい。そうしよう。

 ヒナは肩をいからせながら、ゆっくりと振り返る。
 そして、優斗を睨みつけた。

「べ、別にわたしがいつ出かけようが、あんたに関係ないでしょ!
 久しぶりに会ったからって幼なじみ面しないでよ! ばーか!」

 言ってやった。
 誰かにこんな暴言を吐くのは、人生で初めてのことだった。

 ヒナは人を嫌いになれない。
 どんな人だって長所を見つけて、好きになってしまう。
 でも心を鬼にすると決めたのだ。
 シュルツのために、虎になるのだ。
 タイガーヒナだ。

 しかし、迂闊だった。
 ヒナは優斗の反応を待ってしまった。

 彼はショックを受けたような顔をして、
 寂しそうな笑顔を浮かべながら、頭をかいた。

「……あ、そっか、そうだよな、はは……
 悪ぃな、ヒナ。俺、お前ともう一度こうして、
 一緒に学校に通えるのかと思うと、舞い上がっちまってさ。
 ごめんな……でも、できれば、もう一度仲良くしたくて、さ」

 母性本能をくすぐられるような、そんな表情だった。
 もう、ド直球でキュンと来た。
 なんだこれ。なんだこれ。
 いじらしいあの笑顔だめでしょうあんなの反則でしょうバカもう無理。

 やばいと思ったが恋心が押さえ切れなかった。

「ゆ、優斗ーっ!」

 ヒナは彼を受け止めるように両手を広げて。
 そして、そのまま後ろに倒れた。
 即死だった。
 抵抗などできるはずがない。

「ひ、ヒナーっ!?」

 三島優斗の絶叫が、校門前に響く。
 通行人が慌てて救急車を呼ぶが、時すでに遅し。

 清々しい青空の下、
 藤井ヒナの葬式が、きょうも高らかに始まるのだ――。

  
 
 二回目。
 死因:三島優斗の寂しそうな笑顔。

 シュルツより一言:もうおしまいだわ。
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