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恋をしたら死ぬとか、つらたんです 作者:みかみ てれん

第四章 ピッカピカ☆新たな一日は恋の冥土♡

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32限目 改めて、もうわたしぜったい死にません

 前回のあらすじ:夢だけど、夢じゃなかった! 現実だった。
 
 
 二日目のイベントは、
 とりあえずお昼休みまで、とても平和なものだった。

 やはり友人であり死神、ヒナ撃墜ハーラートップをひた走る凛子を
『状態異常:行動不能』に追い込んだのは、非常に大きかったのだ。

 しかもノートを追加すればするだけ、その効果時間は延びてゆく。
 誰に対してでもできる技ではない――あくまでも波長の合った相手にのみ――だろうが、凛子に限れば実に効果的だった。

 自らの経験を本にすることにより、相手を縛りつける。
 それが彼女の生み出した、新たな能力。

 シュルツはこれを、ヒナ式ヘブンズ・ドアーと名づけることにした。
 凛子に開かれたのは、地獄の扉だったろうが。

 
 しかしその実、ヒナ式ヘブンズ・ドアーの精神攻撃によって、
 彼女の好感度メーターがぐんぐんと下がっていることにヒナは気づいているのだろうか。

 もし好感度が下がった対象が、攻略キャラクターだった場合、
 下がった本人だけではなく、周りの誰かにも影響が出てしまうようだ。

 一緒になって『ヒナの評判』が落ちる、という感じで、だ。
 まったくその影響を受けないのは優斗ぐらいなものだ。

 といってもその優しい幼馴染の彼だって、
 イベントを進めるためには好感度を高い状態で、安定させておかなければならないわけだし。

 なんでバーチャル世界でまでそんな気配りしなきゃならないんだろう面倒な、とシュルツは思うが。

 そこはそれ、さすがゲームの世界。
 好感度の下がる条件は現実と違って、非常に厳しいようだ。
 空気の読めない発言や、ちょっとしたワガママ程度では微減すらしないらしい。

 本当によっぽどのことをしなければ好感度は下がらないのだ。
 そう、“よっぽど”のことをしなければ……

 ちょっと怖くなってきたので、シュルツはこれ以上考えることをやめた。
 まさかあの拳法ビッチとて、攻略対象キャラに粗相はしまい。


 その後。 

「なんだそのピアスは。風紀違反だろう」
「ああン?」と、虎次郎と椋が風紀について衝突したり。

「椋、ちょっと言い方キツいだろー。
 ほら、虎次郎も先生に見つかる前にさ」と、ふたりの間を優斗が取り持ったり。

「虎次郎、きょうは来たんだね」
「……っせぇな」などなど、樹が虎次郎を軽く注意したり。

 とりあえずはそんな乙女ゲーらしい実に平和な(誰も死なないという意味で)イベントが消化されて、三時間目の休み時間だ。

 
 イベントを眺めて、
「目の保養、目の保養」とウキウキしていただけの観客であるビッチ――彼女はこちらに好意が向けられない限り、死なないのだ――は、
 シュルツを抱きかかえながら笑みを浮かべる。

「ふふふ、シュルツさん。
 どうやらわたし、二日目に入ってから、
 まだ一度も死んでいないんですよ」

 なにを言い出すかと思えば。
 そんな、たまたま数回連続でロシアンルーレットを成功させたぐらいなくせに。

 まあいいか、とシュルツはうなずく。

「そうだね。命のありがたみを思い出したのかな」
「わたし、このまま一度も死なないで二日目を突破するつもりです」
「なん……だと……」

 えっへん、と得意げな顔をするビッチ。
 シュルツは動揺を隠し切れない。

 ついにビッチウィルスに脳を破壊されてしまったのだろうか。
 ここにいるのはもう、性欲と色欲の権化か。

 いや、このビッチはそんなタマじゃない。シュルツは自分に言い聞かせる。
 まだ二日目だ。まだだ、まだ慌てるような時間じゃない。

「とりあえず……その、あんまり強い言葉を使わないほうがいいと思うよ。弱く見えるらしいから」
「えー、シュルツさん、まだわたしを信じてくれてないんですかー」
「信じるとか信じないとか、そういう次元の話じゃなくて……」

 それは「気合いがあればなんでもできる!」とか言いながら、
 生身でブラックホールに突っ込んでゆくようなものだとシュルツは思う。

 人にはできることとできないことがある。
 このビッチが二日目で一度も死なない。それはすなわち、不可能である。

「わかりました!」

 するとビッチが、ガッチャ! のような感じの声をあげた。
 周りの生徒たちの注目を集めてしまい、ハッとする。

 誰も友達がいない中、ぬいぐるみに話しかけているおかしな人物に見られてしまう。
 ビッチは少し恥ずかしそうに首をすくめて、シュルツにささやく。

「……わたし、今回死んだら、シュルツさんの言うこと何でも聞きますから」
「……ん?」

 今、なんでもって言ったような気がした。
 思わず聞き返す。するとビッチは……

「はい、なんでもです」

 にんまりとうなずく。
 無茶だ。一体どうしたというのだ。

 大体、初日で600回近く死んでおきながら、どの口が言うのか。
 ……と、シュルツは気づく。まさかこのビッチ。

「……ちなみにそれ、
 もしそのまま二日目を突破した場合ってさ」
「もちろんそれはごほーびです。
 シュルツさんがわたしにくれるべきです。
 しかもちょっぴり豪華なやつです」
「だよね」

 なるほど。
 どうやら彼女はシュルツに頭を撫でてもらって、味をしめたようだ。
 もう一度あの喜びを、という顔で瞳をうるうるさせながらこちらを見つめている。

 この場合も『チョロい』……と言うのだろうか。
 どちらかというと、人の肉の味を覚えた魔獣が目の前にいるように感じてしまう。

 清楚な羊の皮をかぶった狼ならぬ、破壊神だ。
 世界の寿命が尽きた時、世界を破壊して次の世界創造に備える役目を持つ羊だ。そんな羊がいてたまるか。

 だが……
 懇願するように両手を合わせるビッチに、シュルツは考える。

 いや、死ぬだろう、どう考えても。
 このビッチが一度も死なずに二日目を突破するなど、想像ができない。
 きっとジュール・ヴェルヌでも描けない未来絵図だ。ビッチの可能性を越えている。

「なんでもする、ねえ……」

 悪い条件ではない、というか。
 はっきり言って、99・9999999%勝てる勝負だ。

 ビッチになんでも言うことを聞かせることができる。
 これは……はっきり言って、むしろチャンスだ。

 シュルツはうなずく。
 なにをしてもらおうか。

「いいよ、わかった。
 その賭けに乗ろうじゃないか」
「ふふん、シュルツさん、後悔しないでくださいね」
「そっちこそ、本当に“なんでも”だからね。
 わかっているんだよね」
「わかっています。それだけの覚悟があります」

 念を押すと、
 この“黄金の覚悟”を持つビッチは、急に瞳から光を消す。

「しねと いわれたら
 シュルツさんのために しにます から
 えへへ へへ」
「こわい。唐突にこわい」 

 すると、顔をのぞき込まれた。
 頬を赤らめたビッチが、くすくすと笑う。

「冗談です。さすがにわたしもそんなことはできません」
「はは……」

 乾いた笑いしか出なかった。
 むしろ乾いた笑いが出せたことを褒めてほしいと思う。
 
 
 シュルツより一言:地の文が後半全部『ビッチ』なのに違和感を覚えなかった人は、ボクと握手。
 
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