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恋をしたら死ぬとか、つらたんです 作者:みかみ てれん

幕間2 ヒナ&シュルツ

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幕間(ヒナパート) ほのぼのする話

  
 初日を突破した二日目の朝。
 とりあえずセーブを完了したヒナは、真っ白な部屋へと戻ってくる。

「ふー」 

 胸に手を当てて、深く息を吐く。
 その表情は、どこか物憂げだ。

「いい家族でしたねぇ……」
「そうだね……」

 シュルツは微妙な顔をしているが、それはいつものことだ。
 むしろ、ヒナに陰りがあるのは珍しい。

「シュルツさん、わたし、あんまり家族との思い出がないんです」
「そうなんだ」
「ちっちゃい頃から両親共働きで、ずっと鍵っ子だったんですわたし。
 だから、お話はするんですけど、あんまりべったりってできなくて。
 あの家族、本当に羨ましいなあ……って」
「……ふーん」

 そのシュルツは『そんな家族をオマエが壊したんだけどな』とでも言いたげな表情だけれど。
 ヒナは気づかず、首を振る。

「……もしかしたらわたしがちょっぴりホレっぽいのも、そのせいかもしれません」
「ちょっぴり?」
「多少?」
「多生?」

 多生:六道を輪廻して多くの生を経ること。

 なぜシュルツが突然そんなことを言い出したのかはわからないが。
 ヒナは頬に手を当てて、寂しそうに微笑む。

「だから……わたしだって、元からホレっぽかったわけじゃないです。
 多分、寂しかったんだと思うんですよ」
「……」

 するとシュルツはなにやらぶつぶつと言い出す。

 こんなビッチには出会ったことがねえほどになァーーーッ、とか。
 環境でビッチになっただと? 違うねッ! だとか。

 どうしたんだろう。シュルツも疲れてしまったのだろうか。
 でもわかる。ヒナもほんの少しだけ、疲れてしまったから。

「……あーあ、でも、家族に会いたくなってきちゃいますよね」
「うん、そう、だね」

 今度はようやく同意してくれた。
 なんだか許されたような気がして嬉しくて、ヒナはシュルツを胸元に抱く。
 最近のシュルツは抵抗をしなくなってきた。懐いてくれたのだと思う。

「友達も、みんな今ごろなにをしているかなあ……
 おしゃべり、聞きたいなあ」
「この世界は時間が止まっているからなあ。
 ホント、会社のみんなが助けに来てくれるといいんだけど、その望みは薄そうだし」

 のんびりとつぶやくシュルツを、
 ヒナは突然、顔の前に掲げる。

「え、な、なに?」

 なにやら焦り出す黒猫に、唇を尖らせながら。

「……シュルツさん、甘えさせてください」
「ええー?」
「お願いです、一回だけ、一回だけでいいので」
「やだよそんなこわいし」
「じゃあご褒美、ご褒美くださいっ。
 わたしがんばりましたよ、一日目クリアしましたよっ」
「う、うん、まあ……
 途中で心が折れなかったのは素直にスゴいって認めるけどさぁ」
「ですよね~~?」

 ヒナはシュルツに顔を近づける。
 その頭部には、まるで犬のような耳が生えていそうだ。

 ヒナはシュルツを振り回しながら「><」のような目をする。
 禁断症状が出始めてきたようだ。
 ラブが足りない。ラブが足りなくなったら人は生きられないのだ。

「ごほうびぃ~、ごほうびほしぃ~」
「あーもう犬じゃないんだから」
「う~、わんっ、わんわんっ、わんっ」
「あーもう、優斗くんにでも頼めばいいでしょっ。
 こないだみたいにさあ!」
「えっ」
「えっ」

 シュルツは「しまった」という顔をした。
 ヒナもまた、シュルツを掲げたまま固まってしまう。

「み、見ていたんですか、あれ……
 シュルツさん……」

 かー……っと、顔が赤くなってゆく。
 シュルツもまた、目を逸らしながら。

「う、うんまあ……
 も、モニターを監視しなきゃいけないからねっ。
 それがボクの役割だからっ」

 ヒナはゆっくりとシュルツを地面に下ろした。

 二足歩行する猫を目の前に、ヒナは顔を両手で覆った。
 意味のないうなり声が「うーうー」と口から漏れる。
 体を揺らしながら、ヒナは悶えた。

「は、はずかしぃ……」
「そういう感情があったのか!」

 歴史的な発見をした学者のように叫ぶシュルツだが。
 ヒナはもう、自分のことで精一杯だ。

 動揺を隠せない。
 自分の行為がまぶたの裏に何度もリフレインする。

 なんということだ。
 あんなに、あんなにはっちゃけた姿を見られるだなんて。

 よりによってシュルツに、だ。
 このぬいぐるみの前では、せっかく良い格好をしていたのに。

 落ち着いて、スマートで、クールで、
 上品で、物腰が柔らかく、控えめな、そんな女性でいたのに。

「うー、うー、わたしのイメージがぁ……」
「image...? What is image...?」

 なぜかネイティブな発音で聞き返してくるシュルツ。
 そんな黒猫の顔を、ヒナはもうまともに見れない。

「ひどい、ひどいです、シュルツさん……
 だって、だって……誰だってひとりのときはテンションあがっちゃうじゃないですか……
 お料理しながら自作の歌を歌ったり、ノートにポエムを書いてこっそり消したり……」
「う、うん、そうだね。
 あ、あんまり気にしなくていいんじゃないかな。
 ひとつの家族を破壊しておいてなんだし」
「それなのに、あんな姿を見るだなんて……
 うう、もうお嫁にいけません……」
「なんだなんだ、ヒナさんがまるで乙女みたいじゃないか……
 一体なにが起きているんだ。スタンド攻撃か?」

 わたしはれっきとした乙女ですけど、と。
 言おうとしたけれど、言葉が出てこなかった。

 代わりに深呼吸をして、ヒナはゆっくりと手を下ろす。
 口元を抑えながら、ジト目でシュルツをじっと見やる。

 その視線の圧に押されて。
 シュルツがわずかに後退りする。

「な、なんですかヒナさま」
「……ずるーい」
「なにがさ!」
「わたしもシュルツさんの秘密知りたい!」
「ボクは頼んでキミの恥部を垣間見たわけじゃないし!」
「じゃあごほーび! ごほーびください!
 ぜったいぜったいください!」
「なにをすればいいのさ!」
「え……えっと」

 シュルツの言葉を受けたヒナは、急に語気を弱めた。
 指を絡ませながら、口を開く。

「あの、ですね……」
「う、うん……言っておくけど、無茶なのはダメだよ、
 ホントマジで無理だからね。死んじゃうからね」

 一体なにを想像されているかわからないけれど。
 ヒナは頬を赤らめながら、おずおずと。

「あ、頭を……」
「……“頭”を――ッ」

 なぜか、ゴゴゴゴゴゴ……という効果音を背負うシュルツ。
 そのぬいぐるみに、身をかがめて頭を差し出すヒナ。

 そうして、お願いした。

「……な、なでなでしてー」

 ……と、
 少しの間が空いて。

 シュルツはまばたきを繰り返しながら、尋ねてくる。

「……なでなで?」
「う、うん……」
「……何かの隠語?」
「え、なんですかそれ」

 ヒナは顔を上げてシュルツを見つめる。
 そんなものがあるんだろうか、と疑問の視線を向けるが。
 シュルツはなにか、深く考えこんでいるようだった。

「……それだけでいいの?」
「お、お願いします」
「もしかしてそれがキミの念の発動のトリガーになって、
 次の瞬間、ボクの四肢が爆散したりしない? ボマー的な感じで」

 シュルツの言うことはときどきすごく難しい。
 ヒナはよくわからないけれど、首を振った。

「あの、ただほんとに、なでなでしてほしいな、って……
 だ、だってわたしがんばりましたし……そ、それぐらいおねだりしたってっ……!」

 後半、わずかに涙ぐんでたりもする。
 恥ずかしいのだ。シュルツにそんな要求をするのが。

 ヒナは自分からなにかを進んでしてあげるのは好きだけど。
 誰かになにかをしてもらうなんて、恥ずかしくてたまらない。

 ようやくシュルツもわかってくれたのか。
 黒猫は何度も小さくうなずく。

「う、うん、えっと……」

 ちょいちょい、と手をこまねかれて。
 ヒナは再び頭を差し出す。

「お、おねがいします」
「……じゃ、えっと……失礼します」

 妙に緊張した黒猫の肉球が、ヒナの頭部に当てられて。

 そのまま、そわ、そわ、と。
 おっかなびっくりと、上下に動く。

 目を閉じて、その感触を味わうヒナ。
 その手は久しぶりに暖かくて。
 とろけてしまいそうで。嬉しくて。

 しばらくの間、ヒナはそうしてシュルツに身を任せていた。
 至福の時間だった。

 シュルツは「なんだこんなの」とか言うかもしれないけれど。
 ご褒美だ。ヒナにとっては、これで十分だった。 


 583回死んだって、
 この一回のために頑張れるのだ――。

 

 もちろんここはゲームの中の世界じゃないから、
 ヒナは『モルスァ!』と叫びながら血を吐いたりもしないのだ。
  
 
 ヒナより一言:しあわせです。
 
j394zx03hdrixedjjhljwbecwqv_9t8_4k_y_q4.
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