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恋をしたら死ぬとか、つらたんです 作者:みかみ てれん

第三章 ワックワク☆素敵な家族は恋の闇路♡

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29限目 死ぬのは、ご両親にご挨拶してからです

 前回のあらすじ:ごきげんよう、ヒナさま。
 
 と、メールの文面をなんとかやりすごし。
 ほぼ死にかけたヒナの恋愛メーターも落ち着いたところで。

「じゃあえっと、この後はどうしましょう。
 夜行動って、あとなにが残っているんでしょうか」

 ヒナの言葉に、シュルツは簡単なマニュアルを読みながら。

「んー、そうだね。
 じゃあいったんセーブしたら、家族にご挨拶してみよっか」
「あ、お父さんとお母さんですね」
「そうそう」

 彼らなら何度も見たことがある。
 葬式だったので、憔悴しきった姿だけ、だが。

 生身で会うのは初めてだ。
 ウキウキとするヒナ。

「しょーちゃんのご両親に挨拶するんですね。
 なんだかちょっぴり、ドキドキです」
「あ、そういう捉え方もあるのか。
 いやいや、だめだよ。あくまでもキミの実の親だからね」
「はーい」
「くれぐれも欲情しないようにしてね」
「欲情だなんて……言い方がちょっとアレですよ、シュルツさん」

 嫌そうに眉をひそめられて。
 シュルツは「解せぬ」とつぶやいた。

 

 黒猫のぬいぐるみを抱えて、ヒナは軽快に階段を降りてゆく。
 その途中、「あ」とシュルツが声を漏らした。

 下から翔太が上ってきたのだ。
 思わぬエンカウントにシュルツのほうがドキドキしてしまう。

 しかし、彼は姉と目を合わせようともせず、すれ違った。
 ヒナもまた、弟をいないものとして扱っている。

「胃が、胃が痛い……」
「え、どうかしましたか?」
「うう、乙女ゲーってこんなにストレスたまるゲームだったのか……」
「? おかしなシュルツさんですね。
 ここには だれも いませんよ」
「やだ唐突にこわい」

 もしかして自分に話しかけられたのだろうか、と。
 翔太が一縷の望みを抱いてこちらを見たけれど。

 その姉は、なんとぬいぐるみに話しかけている。
 さぞ恐ろしいことだろう。

 シュルツの声が聞こえない翔太はなんとも言えない悔しそうな表情を浮かべて、
 泣きそうになりながら自分の部屋へと駆け込んでゆく。

 その後ろ姿を見届けたシュルツは、再びつぶやいた。

「つらたん……」

 

 リビングには明かりがついていた。
 おそるおそるドアを開くと、ソファーの上にひとりの男性がいた。

 彼は「おお」と声を上げて、こちらを振り返ってくる。
 しっかりと筋肉のついた体に、スーツが実によく似合っていた。

「帰ってきていたか、ヒナ。
 学校はどうだった? 楽しかったかい?」

 ネクタイを緩めながら、顔をほころばせる。
 彼を一言で表すなら――ナイスミドル、だ。

 思わず、フッ……とヒナの意識が飛びかけた。
 そのまま近くにあったイスにもたれかかる。

 それを見た父は慌てて腰を浮かせた。

「ど、どうしたヒナ! やはり、疲れてしまったか?」
「う、ううん……なんでも、ないよ、お父さん。
 ちょっと勉強しすぎちゃって、えへへ……」

 慌ててそんないいわけをするヒナだったが。
 シュルツは気づいていた。

「タイプなのか……!」
「……かなり」 

 ひきつった笑顔を浮かべながら小声で答えるヒナ。

 まるで洋画に出てくるような、理想的な父親像だ。
 顔のしわは渋みを感じさせ、口ひげはよく似合っていて、とてもセクシーである。

 その声からもダンディズムがにじみ出ている。
 こんな人が身近にいたら、娘は恋をする相手のハードルがとてつもなく上がってしまうに違いない。

「本当に大丈夫か?
 もう休んだほうがいいんじゃないか?」
「そ、そうだね、お父さん」

 ヒナの周囲にぽわぽわとハートマークが浮かぶのが見えた。
 やばい。ビッチの嵐が吹き荒れている。
 気象庁もビッチハリケーン現象に注意を呼びかけている頃だろう。

 ヒナは小鳥のようなウィスパーボイスでさえずる。

「……やっぱり、これぐらいの男性も素敵ですよね……
 ……若さしか持っていないような男の子とは、ひと味違うっていうか……」
「キミその若さしか持っていない子たちにことごとく殺され続けていたけれど」
「ああ、なんてステキなオジサマ……
 27秒……いや、22秒あれば、わたしに夢中にさせてみせます……」
「命と引き換えに?」

 少年漫画のように熱い展開だ。
 じゃなくて。

 シュルツは控えめに突っ込むが、ヒナは聞いちゃいない。
 ゆるむ口元を手で隠しながら語る。

「だってだって……社会的地位とか、大事な大事な家族とか、
 お金とか、人からの信頼とか、そういう絶対に捨てちゃいけないものを、
 全部投げ捨てて、わたしに恋をしてくれるんですよ……
 こんな人が、人生がめちゃくちゃになっても構わない、
 わたし以外になにもいらないだなんて言ってくれたら、
 そんなのもう、恋をしないほうがおかしいじゃないですか……
 えへっへっへぇ……そんな背徳感が上乗せされて、
 もう併せ技で一本って感じですよねぇ……
 ああ、地位のある人ってすごく素敵です……」
「目を覚ませー!」

 あらんかぎりの声で叫ぶ。
 すると、ヒナの目の焦点が徐々に定まってゆく。

「はっ、わ、わたしは……」
「今キミ、とても人に見せられない顔をしていたぞ!」
「うう、大変です……
 さっき小学生時代の精神テンションに戻ったから、
 ちょっと心が揺らぎやすくなっています……」
「ここはまずい。早く逃げるんだ。
 こんなダンディがいる部屋にいられるか。
 ボクたちは部屋に戻るぞ」
「そうですね……」

 と、ヒナは父親に手を振る。

「じゃ、じゃあわたし、そろそろ寝るね。
 お父さん、おやすみね」
「う、うむ。くれぐれも体に気をつけるんだぞ」 

 そう見送ってくれた父親の声に、一瞬意識が薄れかけたが。
 ヒナはやはり耐えた。

 我慢強くなった。ヒナは見違えるほどに成長している。
 この分なら、これから先も初日ほど大変な目に遭わないかもしれない……と思いかけて。
 気づく。

「……まだ初日、か」

 まだ初日だった。

 

 リビングを出て、玄関の前を横切って階段をあがろうとしていたところで。
 今度はその玄関のドアがガチャリと開いた。

 びっくりして立ち止まるヒナ。
 すると。

「あー、つっかれたぁ。
 お、ヒナちゃん、なになに、お出迎えー?
 お母さんうれっしいなあ」

 ほくほくと顔をほころばせた女性の姿。
 上から下までビジネススーツをまとったキャリアウーマン風の美女だ。

 まるで年を感じさせない笑顔を浮かべてパンプスを人差し指で脱いでいる。
 これが母親だ。ヒナの母親だ。

 ヒナは両手を胸の前で組み合わせていた。
 そして、つぶやく。

「かっこいい……」

 あ、やばい。シュルツはピンと来た。
 この感覚は、ビッチハリケーンの再来だ。

 今は男女交互につけられているが、
 かつてアメリカではハリケーンには女性の名前がつけられていた。
 さぞかしビッチだったのだろう、と思う。
 まさにヒナのごとく。

 しかし、父親ならともかく、母親にまでとは……と思うシュルツだったが。

 そうだ、ヒナにとって相手が男性か女性かなどは問題ない。
 のべつまくなしだ。ビッチハリケーンの通った後にはたったひとりの人間も生きてはいないのだ。

「……ああ、素敵ですよね、キャリアウーマンの女性……
 最前線に立って戦い続ける彼女たちの、
 そのお仕事の疲れを、わたしが癒してあげたいです……
 おうちでご飯を作って待っていて、思いっきり甘えさせて……
 よしよしして、なでなでして、マッサージして、
 愚痴とかいっぱい聞きながら、この人のすべてをわたしが肯定してあげたい……」
「なんか具体的なプランを言い出した……」

 妄想の海に沈みこんでゆくヒナ。
 彼女が周囲に展開しつつあるHI-NAフィールドから逃げ出したいけれど、抱きかかえられているからそれもできないシュルツ。

 と。

 母親はすれ違いざまにヒナの頭に手を置いて。
 シュルツが「あ」とつぶやいた。

「お母さんね、ヒナちゃんのこと心配しすぎちゃって、
 担任の一ツ橋先生にきょう、二回も電話しちゃったのよ。
 でもなんにもなくてよかったわ」

 そう言って快活に微笑む母だが……
 そう、確かに学校では何事もなかったのだ。

 惨劇は帰宅後に起きたのだから……

 まさか、最後の一押しが自分の手だったということに、
 ぐったりと体から力が抜けてゆくヒナの前、母親はまだ気づいていない……
 
  
 575回目。
 死因:ナデポ(母親ver)

 シュルツより一言:今度の敵はダブルだぞ……どうするヒナさま……

 
 次回、ついに第三章、初日編決着。
 家族の絆を問う問題作、乙女つらたん。
 果たしてヒナの選んだ答えとは。
 シュルツは一体、どんな未来を掴み取るのか。

 君は、両親の涙を見る……。
 
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