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恋をしたら死ぬとか、つらたんです 作者:みかみ てれん

第三章 ワックワク☆素敵な家族は恋の闇路♡

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25限目 もう、殺します

 前回のあらすじ:ヒナ死亡。
 
 葬式の最中。
 今にも後悔に押し潰されそうな顔をしている翔太の横。

 ヒナは珍しく落ち込んでいた。
 いまだに打開策が見つからない。
 人間的な魅力があった凛子に比べて、ナデポはずるい。
 絶対に心臓を銃で撃たれるとわかっていながら、そのために挑まなければならない気分だ。

 手ごわい。弟、手ごわい。
 やはり無傷で撃退するなんていうのは、虫のよい話なのだろうか。
 ある程度犠牲を払わなければ、勝利は掴めないのだろうか。

 でも。
 いくらなんでも……

 恐ろしい妄想を振り払うように、ヒナは頭を振る。
 ひとりの人間として、尊厳までは失いたくないのだ。


 そんな彼女を見かねて、シュルツはつぶやく。

「……あの、ヒナさん」
「はい……」
「弟くんって、別に攻略対象キャラじゃないんだよ」
「え、そうなんですか。
 個別エンディングがないなんて、寂しいですね」
「しかも凛子さんと違って、
 その好感度が物語に左右することもないらしいんだよね。
 一応、いくつか個別イベントはあるって聞いたけど」
「へー」
「うん、だから別に……
 思いっきり嫌われても、いいんだよね」
「きらわれて……」

 首を傾げるヒナ。

 さすがにシュルツもこれ以上言うのは忍びない。
 だが見たところ、ヒナと翔太の相性は、最悪だ。
 一本の槍で風車に立ち向かうのは、つらたんだろう。

 本当はゲームのプレイに口出すのは、もうやめようと思っていたが。
 だが、アドバイスぐらいなら構わないはずだ……と、シュルツは自分をごまかす。

「……つまり、嫌われたほうがいい、ってことでしょうか」
「いや、そりゃモニターとしては、
 全キャラと絡んでほしいとは思うけど……
 ま、それも攻略法のひとつ、ってこと」
「うーん……」

 ヒナは乗り気ではなさそうだ。やはり。
 とっくに惚れているからこその、連続死なのだ。

 好きな相手にわざと嫌われるようなことをすること以上につらいことなんて、ないだろう。
 それが細胞の一片まで恋愛力で培養された恋愛ホムンクルス・ヒナなら、なおさらだ。

 どうせ彼女の残機数(クローン)は無限だ。
 仕方ない。

 ヒナならばまた、延々と死に続ける道を選ぶだろう……と、シュルツが諦めかけたその時。

「……わかりました」
「えっ」

 ヒナは小さくうなずいた。
 その瞳には、決心の色が浮かぶ。

「とにかく、排除すればいいんですよね」
「う、うん、まあ」

 なんだろう。
 ヒナから、今までにないような圧力を感じてしまう。

 今の彼女は、一羽の小鳥ではない。
 まるで獲物をねらうハゲタカのようだ。

「シュルツさんが言うなら、わたしやります。
 シュルツさんのために、です」

 彼女の口調は落ち着き払っていて、
 それがまた不気味さを引き立てていた。

 きっと良くないことが起きる。
 それはたぶん、翔太にとってだけではなく、
 自分とヒナにとってもよくないことだ。

「ただし、わたしなりのやり方で、やらせてもらいますね」

 その目に漆黒の意志が宿るのを見て。
 シュルツは恐れた。

 自分はもしかしたら、眠れる獅子を目覚めさせてしまったのではないか、と。


 百獣の女王ヒナはうなずく。

「打撃技にします」
「ちょっと待って」

 やはりそう来たか。

「シュルツさんをこの世界から脱出させるためなんです……
 そのためならわたし、悪魔に魂を売ってでも……」
「そんなに覚悟があったんだ……」

 シュルツはおののく。
 弟の体温を肌で感じて死亡したのも、悪魔に魂を売った結果なのだろうか。
 これ以上彼女はなにを売れば、生き続けられるだろう。
 むしろ早急に買い戻した方がいいんじゃないか。正気と秩序を。

 それよりも。
 ヒナは作戦を考えるようにつぶやく。

「打撃技なら、簡単です。
 まずは金的。すかさず目潰しを仕掛けて戦意を奪います。
 あとは好き放題できますから。
 オススメはとりあえず転ばしてから棒で叩くことですけど」
「こわい」

 ヒナの提案にシュルツはキッパリと告げる。

「NPCといっても、凄惨なのは、
 見ているこっちがイヤだよ、そんなの」
「なら先に顎に一撃を加えて、
 脳しんとうを引き起こしてから、
 ベルトかなにかで締めあげるとか」
「今僕たち、どうやってナデポを避けるかの話をしているんだよね?」
「わたしたち、どうやってナデポを避けるかの話をしています」

 もしかしたら、武道会に出場したときの話をしていたのかな、と思って、
 念のために確認すると、同意を得られてしまった。
 おかしいな、なんだか回避手段に(物理)と記載されている気がする。

 シュルツは底なし沼に腰まで沈み込んだような顔をしながら、尋ねる。

「ヒナさん、武術なんてどこで学んだの?」
「乙女のたしなみです」
「乙女力(物理)ぱねえ」
「拳を交わすことでしか、感じることのできない恋もあるんです」
「ヒナさん全方向に対応しすぎじゃないかな」

 白米のようだ。
 なんにでも合う。

 ヒナはいつもの調子でのほほんと語る。

「昔、小学生の頃、おじいちゃんに習ったんです。本物の拳法を」
「どんな危険なお祖父(じい)ちゃんだ」
「子供みたいにはしゃいで、かわいいおじいちゃん(とうじのカレ)でしたよ」

 なにか違うニュアンスが含まれていたような気がしたが、シュルツは意図的に無視した。
 このゲームから脱出するときには、シュルツのスルー力も53万を越えているかもしれない。

「あのさ、こういうことを言うのは、釈迦に説法かもしれないけれどさ」
「わたしお釈迦様じゃないですよ?」
「ボクは完全に手のひらの上で踊らされている孫悟空の気分ではあるんだけど。
 それはいいとして……
 まあその、男の人ってふつうさ、
 か弱い雰囲気の女の子が好きだったりするんじゃないの?」
「えーっと」
「ヒナさんなんだか、バトルアスリートみたいになっちゃっているんだけど、もうボクの中で。
 それって女の子としてどうなんだろうな、って」
「うーんと……」

 まあ、ヒナも外見は儚げな大和撫子ではある。
 彼女は首を傾げて、どう言おうかと悩んでいるようだったが。
 口を開く。

「確かに、そう思う男性は多いですね。
 でも別にわたし、モテたいなんて思ったことありませんし」
「そ、そうなの!?」
「あれ、わたし一度でもそんなこと言いましたっけ」
「そういえば……」

 思い出して、シュルツは震え上がる。
 そうだ。この目の前のビッチカンパニーの社長は、不特定多数からモテることをまるで想定していない。

 あくまでも個人。株式会社ザ・ビッチ社長のくせに、法人ではなく個人。
 すべてはいつか出会うその人のために行なっていることなのだ。

「確かに、モテモテの人生は楽しそうですけど……
 でもわたしは、そんな可愛さだけを振りまいて、誰かにとって都合のいい愛玩用の女の子になるより、
 付き合っている人が暴漢に襲われたとき、その命を絶対に助けられるようになりたいです。
 それがわたしの恋愛道です」

 なにそれかっこいい。

「女騎士みたいだ」
「たとえ一国を敵に回してでも」
「違う。魔王だった」

 ビッチ者ヒナの魔王譚。
 なぜだろう、しっくり来る。

「そうか、そこまでの覚悟で鍛錬していたのか……」
「はい」
「でもね……実際は……」
「はい?」
「……いや、いいかな。
 そんなに殺る気満々なら、実際に見てみたほうが早いだろうね……」

 その含みを持った言い回しに、ヒナは少しだけ首を傾げるけれども。
 改めて、うなずいた。

「……じゃあ、やっちゃいますか」

 拳を手のひらに打ちつける少女。
 どこからどう見ても清楚丸出しのくせに、発するその雰囲気はまるで刃のようだった。

「幼い頃、揚老師に教えていただいた“体の中の龍”を解き放つときが来ました」
「あれ、これなんのゲームだったかな」

 乙女ゲーかな? とわざわざウィンドウを開いて確認するシュルツ。
 乙女ゲーだった。どういうことなんだ。

 そんなことを思いながら、眉根を寄せていると。
 ヒナが薄く笑う。 

「シュルツさん」
「な、なんですかヒナさん」

 ちょっとこわい。
 にっこり、とヒナは艶やかに唇を動かす。

「一緒にこの世界を……脱出、しましょうね」
「やだなあその笑顔、やだなあ……!」

 悲鳴をあげる黒猫の前、一羽の小鳥は猛禽のようにはばたいてゆく。

 
 ヒナを追い詰め、苦しめ、
 セーブポイントの最恐の番人として恐れられた翔太。

 究極奥義(ナデポ)を駆使し、さらにヒナを苦しめたが。
 だが、彼はやりすぎてしまったのだ。

 今度はこちらの番だ。
 10倍返しだ。

 乙女ゲーをプレイ中の、ごく平凡の高校二年生の少女は、ターミネイターのテーマを背に、
 ついに“本気”を出そうと、彼の元へと向かうのだった……
 
 
 シュルツより一言:ヒナさんたまにこわい。

 次回のシュルツより一言:ヒナさんこわい。
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