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恋をしたら死ぬとか、つらたんです 作者:みかみ てれん

第一章 この門をくぐるものは、一切の希望を捨てよ

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2限目 でも、死にました

 
 ヒナ側の事情は知れた。
 なんとも壮絶な人生を送っている娘だ。

「あ、でもそれ以来ずっと、恋はゲームで間に合ってますから。
 たまに間に合わないこともありますけど、まあその、だいたいうまく隠せてます。
 まだ刺されてませんし」
「お、おう……」

 異性を惹きつける魅力を持つ人は、たまにいるけれど、
 異性同性構わず“惹きつけられる人”を見るのは初めてだ。

 (ヒナ)だけに、刷り込み(インプリンティング)効果が常時かかっているのだろうか。
 ある意味で、すごくかわいそうな能力の持ち主なのかもしれない。 

「なんかすごい心配になってきたけど……
 でも、まあキミにはそれだけ魅力があったんだと信じよう」

 シュルツはパンパンと手を叩く。
 すると白い壁が一転し、風景を映し出す。
 そこはある学園の校門前だった。

 ヒナは目を瞬かせた。

「え、すごい、なんですかこれ?」
「バーチャルリアリティってやつだよ。
 未来の技術なんだけどね。キミにはこのゲームのモニターになってもらうんだ」
「わー、すごーい」
「そんで、誰か一人を攻略したら元の世界に戻してあげます。
 もちろんそれなりに報酬も支払うからね。
 アルバイト気分でちょっとやってみないかな?
 良いデータが取れたら、キミの時代のお金で三百万円。それでどうかな」

 いきなり呼び出したのだ。ここで渋る人も多い。
 そんなことより自分の世界に戻せ、と。
 そうなった場合、シュルツはちょっと困る。
 上層部と顧客の板挟みだ。別に自分が選んだわけじゃないのに、と。

 だが、ヒナは手放しで喜んでくれていた。

「わーい。うれしい。
 美容院代、毎回カツカツだったんです」
「あ、なんかそういう普通の感想もらうと安心しちゃうな」

 色んな意味でホッとした。
 きっと本来は素直で良い子なのだろう。
 多少(?)ホレっぽいだけで。

「こんなすてきなことをしてくれるなんて……
 シュルツさんは、もしかしてわたしの王子様ですか?」
「やめて。ボクただのオペレーターだから。
 ボクを恋愛対象にみないで」
「もうムリです」
「ムリかぁ……」

 ヒナの恋愛対象能力は宇宙か。
 諦めるしかないのだろうか。

 いや、まだ手はある。
 いつまでも棒人間というのも、居心地が悪いし。

 少し考えて、シュルツは体の形状を変化させた。
 きゅるきゅるきゅると音を立てて、実体化する。
 それは小さな黒猫――のぬいぐるみであった。

「じゃあこれでどうかな」
「わ、猫ちゃんだー」
「これなら恋愛対象に見れないでしょ?」
「うー……? うーん、うーん……
 無機物はちょっとなあ……
 でも喋っているから、うーん、うーん……」

 ヒナとしてはギリギリのラインのようだ。

「ま、悩まれるくらいならこれでいいや」
「わたし昔、本気でテディベアのぬいぐるみに恋したことがありまして。
 24時間ベアちゃんと一緒にいてどこまでも連れ回して」
「もういいからそういう過去話。もういいから」

 話題を打ち切り、シュルツは姿を消す。
 その瞬間、ヒナの視界にノイズが入った。

「あ、お、おー?」

 瞬き。
 すると、いかにもバーチャル感満載だった世界は、
 現実と遜色がないような精巧なものに変わった。

「わ、なにこれすごい」
「その人の記憶と同期してフィールド補完したんだよ」
「未来のテクノロジーですねえ」
「まーね。
 じゃあとりあえず、ざっくりだけど設定を言うよ。
 あとは物語を進めながら理解してね」

 はーい、と元気な返事。
 ヒナは、ちょっとワクワクしてきた。

「キミはこの学園に転入してきた二年生の女子。
 ちょっと体が弱いけど元気で明るい子だよ。
 ただ、悪い魔法使いの呪いによって恋ができないんだ」

 魔法使いとか言われてしまった。
 びっくりだ。

「ええっ? いきなりファンタジーですね」
「具体的に言うと、恋をすると死ぬ」

 とんでもない。

「こわいです! なんですかそれ、乙女ゲーなのに!?」
「未来の乙女ゲー業界も作品が氾濫しているからね……
 こういったところでインパクトを出して、
 他タイトルとの差別化をはからないと……」
「裏事情、悲しいです」

 ヒナを安心させようとしてか、
 シュルツはひときわ優しい声を出す。

「まあでも安心してくれていいよ。
 恋をする、っていうのも、
 よっぽどのことじゃないと死なないから。
 っていうか雇った他のモニターさんも全然死ななくてね。
 作品のコンセプトとして問題があるんじゃないかってことで、
 キミみたいな恋心の多い子を雇うことにしたんだ。
 だからむしろどんどん死んでくれたほうがこっちとしては嬉しいっていうか」
「でも死ぬなんて、こわいんですけど……」

 だがさすがにヒナは引き気味だ。
 今さら「やっぱりやめます」なんて言われたら評価に響く。
 上の人たちはずいぶんとこの子が気になっていたのだ。

 シュルツは食い下がる。

「まあまあ、まあまあ。滅多なことじゃ死なないって。
 当たり前だけど実際に死ぬわけじゃないし。
 とりあえず試しに遊んでみてよ。
 色んなイケメンと自由に恋ができるんだよ。
 みんな生きているかのように動くんだから、すごいよ」
「まあ、バーチャルゲームとか、楽しそうだからやりますけど……
 他ならぬ、シュルツさんの頼みですし。ぽっ」
「ゲーム前に死なないでね」 

 
 と、ゲームが起動した。
 どこからか、登校する少年少女たちが現れる。


 自分を見下ろせば、ヒナは通っていた学校のブレザーではなく、
 乙女ゲーの世界の学校と同じ制服を着ている。しかも鞄も持っていた。

「あ、セーラー服だ。ちょっと嬉しいかも」

 他にも変わったところがあるとすれば、左の手首に巻き付けられたブレスレットだ。
 そこには「13」とアラビア数字が表示されている。

 鞄のキーホルダーについた黒猫のぬいぐるみ――ちっちゃくなったシュルツだ――が解説してくれる。

「そのメーターが999を越えると死んじゃうから気をつけてね」
「どう気をつければいいんでしょうか」 
「うーん、まあ普通に遊んでみてちょうだい」
「はーい」

 と、ヒナは口では色々不安がっていたけれど、なんだか楽しくなってきた。
 ゲームで遊べてお金ももらえるのだ。
 こんな非日常なら大歓迎だ。

 それに、この世界では恋をしても誰も傷つけることはない。
 義理の母親が義理の父親に包丁を突きつけて、『このロリコンがぁぁぁ! 殺してやるううううう!』と叫ぶこともないのだ。

 やはりゲームは良い。
 ゲームがいい。

 ヒナは校門前で大きく伸びをする。

「うーん、なんだかすてきなことが起きそう」

 と、そこに早速声が。

「おいおい、ヒナ。ひとりで勝手にいくなって」
「え?」

 名前を呼ばれて、振り返る。
 そこには背の高い赤髪の、美形の少年が立っていた。
 すごいカッコいい。こんな人、街でも早々見かけない。

 彼の胸元辺りに、人物紹介のウィンドウがポップする。

三島みしま優斗ゆうと。六年ぶりにこの町に帰ってきたあなたを優しく迎えてくれた幼なじみです。
 サッカー部の若きエースで、勉強もできて人望も厚く、
 あなたにだけはとても優しい男の子です。』

 優斗は気軽に近づいてくる。

「だめだろ、お前方向音痴なんだからさー。
 転校初日なんだから、一緒に行こうぜって誘っただろ。
 ったく、あんまり俺に世話かけんなよー?」

 口では厳しいことを言いながら、彼は優しげな笑みを浮かべている。
 だが、ヒナはその笑顔を見ることはなかった。


 その場に崩れ落ち、死んでたからだ。


 冷たくなった幼なじみはもうなにも語らない。ただの屍だ。
 彼女との未来を夢見ていたはずなのに。それは全て壊れてしまった。

 不用意に声をかけてしまったばかりに――

 
「え、おい、ヒナ? ヒナ、おい、どうしたんだヒナ、
 嘘だろヒナ! ヒナ! ヒナーーーーー!!!」


 三島優斗の悲痛な絶叫が、学門前にこだましたのであった。

 
 
 初回。
 死因:急に三島優斗に話しかけられたので。

 シュルツより一言:まじか。
j394zx03hdrixedjjhljwbecwqv_9t8_4k_y_q4.
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