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恋をしたら死ぬとか、つらたんです 作者:みかみ てれん

第三章 ワックワク☆素敵な家族は恋の闇路♡

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22限目 宣言してから死ぬようにします

 前回のあらすじ:ヒナ死亡。
  
 ◆◆

 

 後悔の念に押し潰されてしまいそうだった。
 なぜあそこで手を離してしまったのだろう。なぜ。

 ヒナの葬式の最中、翔太はずっと両手で顔を覆っていた。
 悔やんだところで時は戻らない。もう二度とは。

 姉の体が弱いことはわかっていたはずだ。
 彼女が無理をしていたのだって、知っていたはずだ。

 突然血を吐いて、ふらついた姉を、
 どうして強く、もっともっと強く引き寄せることができなかったのか。

 あるいはもしも姉が階段から足を滑らせることを止められなかったとしても、
 彼女を本気で助けたいと思ったのなら、もっとなにかできたはずではないか。

 自分が飛びついて、その体をしっかりと抱きしめて。
 そうして、一緒に階段を転げ落ちていたら。
 ヒナが致命傷を負うことは、避けられたのではないだろうか。
 あんな――マリオネットのように四肢の崩壊した姉の姿を、見ることはなかったのだ。

 悔恨の鎖は翔太の両手両足を縛りあげる。
 心の中にまで深く絡みついて、翔太をさらに締めつけた。

 もっと言えば、姉をひとりで学校に行かせたりしなければ。
 姉がこの家に帰ってこなければ。

 自分がもう少しヒナのことを思いやっていれば。
 彼女は死ななかったのではないか。

 たら。
 れば。

 言い出したらキリがないことなのに。
 思わずにはいられない。それこそが家族の死だ。

 だって、これからまた仲良くなれると思ったのに。
 ようやく、姉と一緒に暮らせるはずだったのに。

 すべては折れて、無残に散らばった。
 まるであの日、あの時、階段の下で横たわる姉のように――

 翔太の喉から細い声が漏れた。
 それは聞いたこともないような、自分の嗚咽だった。

 両親や親戚、友達に先輩もいるのに。
 翔太は人目もはばからず、泣いた。

「……翔太」

 その頭に大きな手を置くのは、優斗だ。
 翔太は小さく首を振る。

「ゆうとにいちゃん、おれ」

 その言葉は声にならなかった。
 なにも言わず、優斗は彼の頭に手を置き続けた。

 最愛の姉の事故死。

 本当は、ヒナはその前に死亡していたのだけれど……
 そのことを知らない翔太は、これからも一生、
 己を責めながら生き続けてゆかなければならないのだ。

 その場で微笑んでいたのは、
 ヒナの遺影、ただそれだけだった。

 

 ◆◆

 

「優斗くんとしょーちゃんも、知り合い同士だったんですねえー」
「あーうん、まあ。
 サッカー部のエースとホープだよ」
「へー、おふたりとも運動できるんですねえ」 

 乙女ゲーは関係性が大事だ。
 このゲームを作った開発者はよくわかっている。

 優斗×翔太もアリだ。
 いや……翔太×優斗、か?
 鑑賞する側としては、どちらも捨てがたい。
 できれば自分も混ぜてほしいけれど。

 神妙な顔で考え込むヒナ。
 シュルツは、どうせまたロクでもないことを考えているのだろう、と思う。

 もちろん葬式の最中であり、ふたりの前には泣きじゃくる優斗と翔太がいた。
 弟の気持ちを思うと、久しぶりに胸が痛いシュルツ。
 目の前で姉があんな死に方をしたら、もはや心が壊れてしまうのではないだろうか。
 ヒナはなんとも思っていないようだが…… 

 彼女はもはや負の感情に対しても、なにひとつ天秤が揺らがないのかもしれない。
 果たしてそれは生きていると言えるのだろうか。
 新たなる生物、ゾンビッチなのだろうか。

 それはともかく。

「で、なにかわかった?」
「え、なにがですか?」
「弟さんの対抗策」
「そうですね……かわいいですよね……
 休みの日に一緒にショッピングにいきたいですね……」
「あれ、ボクの声届いてないのかな」

 うなるシュルツ。
 しかし、ヒナは珍しく眉間にシワを寄せている。

「シュルツさん……やばいです。
 わたし、大変なことに気づいちゃいました」
「え、なにさ」

 あのヒナが困るほどの事態だ。
 世界は核の炎に包まれてしまうのだろうか。
 それとも宇宙の危機が迫っているのだろうか。

 とかなんとか思っていると。

「わたし、今まで年上の人が好みだと思っていましたけれど……
 ……でも、くっ……と、年下にも弱いのかもしれません」
「どうだっていいなあ!」
「しょーちゃん、かわいい……」

 目がハートマークになっているヒナ。
 頬を上気させながら、つぶやく。

「わたしってひょっとして……
 ……少し、気が多いっポイんでしょうか」
「もしそれを本気で言っているんだとしたら、
 ボクはこれから先、キミとコミュニケーションを取る自信がないよ」

 

 ◆◆

 

 気を取り直して。
 二戦目、である。

 別にこの場は無視すれば構わず二日目に進めるけれど。
 帰るたびに、おうちの中でクロックタワーごっこをするのはごめんだ。
 恐怖はなるべく先に克服しておきたい。
 乙女ゲーの頂点に立つ者は、ほんのちっぽけな『恐怖』も持たぬ者であるからだ。

 こんこん、とノック。

「しょーちゃんー、おねえちゃんとあそぼうー」
「んだよ、うっせえな」

 今度はすぐに出てきた。
 ヒナは弟をじーっと見つめる。

「な、なんだよ。気持ち悪ぃな」

 今までずっと一人っ子だったヒナ。
 弟みたいな子も何人かいたけれど。
 でも、血の繋がった弟というのは初めてだ。
 一体なにを話そう。

 まあ、とりあえず初日みたいに、
 相手の選択肢を潰していってみようか。 

「えっと……ああそうそう。体、だいじょぶだよ?」
「ふーん。なんともないのかよ」
「うん。おねーちゃんピンピンしているよー」
「はいはい、わかったっつの。そりゃよかったな」

 頬をかき、そっぽを向かれた。
 でも別に部屋に戻ろうともしない。

 弟の部屋の前で、立ち話だ。
 これはこれで、なんだか楽しい。

 別に困らせるつもりはないけれど、ちょっと待ってみる。
 翔太は次になにを言うのだろうか。

 と。

「ねーちゃんさ、ずっとじーちゃんばーちゃんのとこにいたじゃんか」
「え?」

 そうなんだ。
 他人事のようにうなずく。まあ他人事なのだが。

 そういえば、転校してきた設定とかぜんぜんわからない。
 まだ開発途中のゲームだから、なのだろうか。

 それとも、物語が進むと立場も明らかになるのだろうか。
 なんで魔法使いに呪いをかけられたのか、とかもあるし。

「そんで、空気が良いところからここに越してきて、
 ……まあ、四年ぶりにねーちゃんと暮らすことになってさ」
「うん」
「ちったぁ緊張してんだよ、俺も」

 うなずきながら、確認する。
 ということは、小学六年生以来か。

 四年ぶりに弟と一緒に住む?
 成長してかっこよくなった弟と?

 なにその素敵なシチュエーション。
 ドキドキしてきた。

 やばいかも。
 ていうか死ぬこれ。

 最近ではもう感覚でわかってきた。
 死に慣れたというところか。
 もはや抵抗は無意味だろう。

 どうしよう。ちょっと悩む。
 せっかくだし、最後になにか言い残しておこうかな、と思う。

「……その、俺も色々と迷惑もかけるかもしんねーけど。
 でも、なんでも言ってくれよな。
 特に体調のことはぜってーだ。隠すなよ」
「わかった」
「ん」

 照れながらうなずく翔太。
 彼にヒナは、にっこりと微笑む。

「じゃあおねえちゃん、もうだめだから」
「え?」
「死ぬね」
「は?」

 ふらっ……と。
 そのままヒナは倒れる。

 翔太の目の前で、
 まるでジェンガのように崩れてゆくヒナ

「……は?」 

 崩れたジェンガは元に戻せるけれど。
 もはや死んでしまった姉は、二度と戻らないことを、翔太はまだ知らないのだ……
 
 
 557回目。
 死因:シチュエーション萌え。

 シュルツより一言:弟くんかわいそう……。
 
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