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恋をしたら死ぬとか、つらたんです 作者:みかみ てれん

幕間 ヒナ&シュルツ

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幕間(ヒナパート) 死なない話

 
 その日。 
 無事、初日のセーブを迎えることができて。
 ふたりはささやかな祝杯をあげた。

 黒猫のぬいぐるみ姿がすっかり板についたシュルツは、
 謎の技術でヒナの前にテーブル、そしてお菓子や飲み物を続々と出現させる。

「わー、すごいです。
 なんですかこれ」
「まあバーチャルだよね。雰囲気作り、的な」
「へー……
 って、え? 食べられないんですか?」
「でも大丈夫。味は本物を再現しているはずだよ。
 これも『乙女は辛いデス』の内部データに入っているものだから」
「わ。それはよかったです。
 いただきまぁす」

 と、ヒナは数日ぶり(数ヶ月ぶり?)の食事を口に運ぶ。

 掴んだのはビルカーのポテトチップス。薄塩。
 ぱくりと食べて。……それから首を傾げた。

「……あの、これ」
「まあ雰囲気作り、みたいな」
「あんまり味がしないんですけど……」
「仕方ないよね。ゲームで食物を食べられるようになったら、
 いろんな会社から訴えられちゃうからね。
 もし食べるんだったらコラボレーションさせてもらって、
 使った金額分だけアイテム課金制にしないと」
「お祝いなのに……」

 肩を落とすヒナ。
 人間の法律は難しい。
 シュルツも苦笑いをする。 

「ほら、だから現実世界に帰れないと、困るよね、って話」
「確かに……」

 これなら自分がシュルツに食事を作ってあげたほうがマシだ。
 だが、ゲーム内にはその食材がない。打つ手もない。

 大体、ぬいぐるみの好きな食べ物なんてわからないし。
 なんだろう。ホコリとか、ダニとか?

「ねえねえ、シュルツさん」
「んー?」
「せっかくですし、シュルツさんのこと、
 色々とわたしに教えていただけませんか?
 もうこんなに長いこと一緒にいるじゃないですか」
「んー……」

 シュルツはなぜか閉口した。
 ヒナは胸に手を当てる。

「ね、ほとんど初対面の頃から、
 ずけずけと厚かましい態度を取ってごめんなさい。
 でもそろそろ……まだ、だめですか?」
「むーん……」

 ヒナは真剣に問いかける。
 シュルツはまだ額にシワを寄せていた。

 よっぽどヒナには言えない事情があるらしい。
 守秘義務、というものだろうか。

 ヒナはさらに押す。
 それも引きながら押すという高等技術だ。

 だって、もっともっとシュルツのことが知りたいのだ。
 こんなに一緒にいるのに、性別すらわからないのだから。

 そんなの、寂しい。

「わたしの努力が足りないというのなら、がんばります。
 シュルツさんの信頼を勝ち取れるように、精進しますから。
 今はムリでも、希望を抱いていてもいいですか……?」
「ううーん……」

 こういった場面で、ヒナは言うべき言葉をキチンと言える娘だ。
 照れたり恥ずかしがったり勇気が出ないときもあるけれど、
 でもそれ以上に強い恋愛力により、行動を実行に移すことができる。

 確かに昔は、恋愛の手練手管を学んだこともあった。
 やろうと思えば、口車に乗せてシュルツから情報を引き出すことぐらい朝飯前だ。
 ストックスピールやコールド・リーディングは恋愛の駆け引きにおいて最低限必須の技能である。

 知らず知らず、その癖が表に出ているかもしれない。
 だが、今のヒナはどちらかというと本能のままに動くことを由としている。

 普段は思いを秘めているけれど。
 でも本当に友達になりたい人や、恋人になりたい人が現れたときには、直線だ。
 必ずやるって決めた時は直線だ。
 高校二年生になったヒナは、何がなんでも直線で突っ切るのだ。

「シュルツさん……」

 親鳥を待つ小鳥のように、ぬいぐるみの名を呼ぶ。
 彼(彼女?)は、すると。

 ぽつりと、つぶやいた。

「……うどん」
「え?」

 シュルツはそっぽを向きながら。

「好きな食べ物は、その……うどん、です」
「え、そ、そうなんですか?」

 ぱぁっとヒナの笑顔が咲く。
 これでひとつシュルツの好きなことが知れた。
 シュルツのことが知れたのだ。
 うれしい。

 黒猫はみゃあみゃあ鳴くような調子で、ぽつぽつと話す。

「うん。まあ。
 麺類の中では一番好き」
「香川県の出身だったりします?」
「そういうわけじゃあないけど……」
「関東風と関西風、どちらが好みですか?」
「……んー、どっちかっていうと、関西風かな。
 色が薄いやつ」
「あ、わたし作れますよ。
 今度ぜひ、ごちそうさせてください」

 質問責めにされながら、シュルツもまんざらではないようだ。
 片目をつむる。

「まあ、機会があったらね」
「えへへ、腕によりをかけて作りますからね。
 あ、お好みのうどんってあります?
 稲庭ですか? 桐生? 水沢? 備中? 武蔵野?
 ぶっかけや讃岐、博多、なんでも作りますよ」
「えっ、すごい詳しいな!
 いや、ふつうでいいよ、ふつうで」
「あ、じゃあどれぐらいのコシが好みですか?
 ちょうど良い加減にこねますから」
「生地から!?」
「ああ、オーストラリアから小麦粉取り寄せなくっちゃ」
「そこから!?」

 慌てて口出すシュルツ。

「い、いやそこまでしなくていいよ……
 ヒナさんキミ、あんまりにも直線的すぎるよ」
「でもわたし、昔、反省したんです」
「なにがさ」
「絡め手を使いすぎると、だんだんわたし、
 自分が恋をしているのか相手を自分のものにしたいだけなのか、
 わからなくなっちゃいまして……」
「それは一体……」
「若気のいたりなんです……」

 ヒナは額に手を当てる。
 あんなのは思い出しただけで顔が真っ赤になるぐらい恥ずかしい。

 当時はとにかく、成就しない恋に意味などないと思っていた。
 だって絵本の中の王子様や姫様は、必ず結ばれていたから。
 結ばれることだけが大切なのだと思っていたのだ。

「相手の秘密を握って、ゆするんです。
 ほとんどの人は、イチコロです」
「ド直球だ」

 だが、それぐらいは予想していたのかもしれない。
 まだ平気そうなシュルツに、心根を吐露するヒナ。

「あるいは友達や職場の同僚にあることないこと吹き込んで、
 狙っている人だけを精神的に孤立させるんです。徹底的に。
 それから、すべてを知ったような顔で手をさしのべます。
 そうすると、心が弱っているから、100%うまくいくんです。
 もう彼らや彼女らには、わたし以外にすがりつく人がいないんです。
 甘えて甘えられて、ふたりでどこまでも堕ちていって。
 それがすごく気持ちよくって……」
「予想以上だ」

 予想以上だったらしい。
 ていうか、と問いかけてくるシュルツ。

「ちょっと待って。それってキミ、いくつぐらいのとき」
「小学3年生でした。
 新しいことを覚えて、試したかったんです……
 おもしろいぐらい成功するから、怖くなっちゃって。
 なんかちがうなって思うようになって」
「ボクもこわくなってきた」
「恋愛の結果だけを追い求めても仕方ないのかな、って思っちゃって」
「う、うん」
「ああ、恥ずかしい。今思い出しても恥ずかしいです。
 黒歴史です。うー、うー。わたしの中二病です……」
「ボクの知っている中二病と違うな……」

 あんな小細工に頼りきっていた自分が情けないし、恥ずかしい。
 頬に手を当ててヒナは悶える。

「誰かにこんなこと話すのなんて、シュルツさんが初めてなんですからね」
「なんかそれ、会う人全員に言ってそうだよね」
「よく言われます」
「言ってんじゃねえか!」

 シュルツに怒鳴られて、ヒナは「えへへ」と笑った。

「冗談です。ちょっとシュルツさんにつっこまれたくなっちゃって」
「う……」

 目を線にして、にへら~と笑うヒナを前に、
 なぜだか言葉を詰まらせるシュルツ。

 黒猫はまるで本当の猫のようにこちらに尻を向けて、
 ぷいぷいと尻尾を振ってみせた。

「……ヒナさんに手玉に取られるなんて、ショックだ」

 そのヒナは嬉しそうに手を軽く叩く。

「楽しいですね、シュルツさん」
「……」

 ちらりと振り返ってくるシュルツ。
 そのなんだかちょっぴり濁ったおめめに、にっこりと微笑む。

 ぬいぐるみは、小さく首を振った。

「……うどんも恋バナも、とりあえずここを出てからだからね」

 それはきっと、シュルツに釘を刺されたのだと思うけれど。
 でも、ヒナはそんなの構わず、朗らかに笑った。

  
「はい、がんばります!」

 
 諦めない限り、恋は叶うし、
 シュルツだって仲良くしてくれるはずだ。

 ヒナはそう、信じている。
 
 
 ヒナより一言:謙譲、健全をモットーに生きております。
 
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