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恋をしたら死ぬとか、つらたんです 作者:みかみ てれん

第二章 ドッキドキ☆学園生活は恋の予感♡

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20限目(地獄パート) 死に続けますよ、生きるまで

 
 イカロスは蝋で固めた羽で翔び、海に堕ちてその身を滅ぼした。
 カモメのジョナサンは翔ぶために翔び、ついに壁を越えてゆく。 

 今いる一羽のひな鳥は、果たしてカモメかイカロスか。
 彼女の愛はAIを破り、乙女ゲー界に伝説を打ち立てる。
 
 
 今まで幾度となく挑戦したけれど。
 ただただ、全敗を繰り返してきた。

 そのたびに再試行(タイムリープ)を行なって。
 そしてまた、挑みかかる。


 vs凛子――。

 
 ヒナの、乙女としての生き様。
 恋愛少女の、その矜持。

 試されるそのときが来た。
 一時間目の休み時間。

 後ろからつつかれて。
 ヒナは深呼吸を一度してから、振り返る。

「よろしくね、藤井さん」

 にっこりという笑顔。
 ふんわりと髪に軽くパーマを当てた、綺麗な少女がそこにいる。

「あたしは百地凛子。リンコって呼んでよ」

 出た、この笑顔。
 ここがこの初日、最高難易度のポイントだ。

 何百回も死んだのに。
 それでもまだまだ慣れることも飽きることもない。

 ヒナが恋愛の女神アフロディーテなら、
 凛子は知と戦の女神アテナだ。
 その威光は自らに完全・絶対の勝利をもたらすのだ。

 こらえる。
 ここを過ぎて、次の段階にいける。
 きょうこそクリアすると決めたのだから。

 ヒナは隠し持っていたコンパスで己の手の甲を突く。
 非常に痛い。

 あまり何度も使える手ではないが……
 ここぞというときには役に立つ。
 ほら、耐えられた。
 針なんて、恋の痛みに比べたら全然だ。
 だってすぐに薄れてなくなってしまうんだから。

 ヒナは優雅に微笑み返す。

「よろしくね、リンコ」
「あっは、ノリいいね。
 あたしたち、もう友達みたいだね」

 スッ……とヒナは目を細めた。

「……友達?」
「え?」

 聞き返してくる凜子に、さらにヒナは尋ねる。

「リンコ、わたしと友達になりたいって思う?」
「え、だめかな?
 せっかく席も隣同士になれたんだし」
「じゃあ、名刺を受け取ってもらえる?」
「あ、うん、そんなのお安いご用で――」

 どさ、と。
 ヒナは彼女の机の上に、三冊のノートを置いた。

「……へ?」

 目を瞬かせる凛子。
 正直可愛い、けれど。

 負けていられない。
 言うべき言葉を、告げるのだ。

「わたし、こういうものです」
「あの……ヒナちゃん、これ」
「名刺」
「え?」
「わたしの名刺だから、これ」

 あくまでもその一点を貫き通すのだ。

 ぱら……と凛子はノートをめくる。
 厚さ6ミリ。1ページ35行の大学ノート。
 その100ページの裏表は全て、
 びっっっっっしりと、隙間なく文字で埋め尽くされていた。

「ひっ」

 凛子は思わず叫び声をあげた。

 ヒナのプロフィールが事細かに描かれている。
 趣味、好きな食べ物、家族構成、好きな漫画、映画、
 好きなタイプ、好きなタイプ、好きなタイプ、好きなタイプ好きなタイプ……

 それが3冊。
 一体何十万字だろう。

「え、えっと……これ……?」
「名刺だからね、凛子ちゃん」
「め、めいし……」
「ちゃんと、読んで、ね」

 わたしはこういうものです、と。
 差し出された名刺を、普通は受け取る。

 誰だってそうだ、ヒナだってそうだ。
 ならば、AIはどうだろう。

 果たして、「名刺です」と差し出されたノートを。
『これはノートだから無効だ』と判断するだろうか。

 アリかナシか。
 ノートを受け取ったまま、凛子は固まっていた。
 まるで「ややアブノーマルです」と告げられたルチ将軍のように。

 ダメ押しするかのように。
 ヒナは告げる。

「これをちゃんと全部読んでくれたら、
 そうしたら、お友達になろ♪」
「え゛っ」



 かくして――
 百地凜子を行動不能にする策は、ここに完成する。


 二時間目の休み時間。
 凛子はひたすらにノートを読みふけっていた。

 
 三時間目の休み時間。
 ノートを読みながら美術室に向かって歩く凛子の隣、
 ヒナは悠々と廊下を歩く。

 
 お昼休み。
 購買部のパンをかじりながらノートをめくる凛子の前の席。
 ヒナはイヤホンを耳につけ、鼓膜が破けるぐらいの大音量でiPodを流し、
 一切の考えを追いやり、無の境地にいた。 

 
 五時間目の休み時間。
 なんだか暗い顔でノートをめくる凛子。
 時折ため息をついていたりする。

 一方、ヒナは席に向かい、一心不乱にプチプチシートを潰し続ける。
 ああ、本当に。
 友達といる時間は、なんて癒されるのだろう。



 そして。
 この日、凛子はノートを読み終えることはなかった。



 凜子のペースでは、放課後になっても一冊目のノートの半分までしか進んでいない。
 少なくとも、あと五日間は凛子を行動不能にすることができるようだ。

 というわけで、放課後である。
 放課後ティータイムならぬ、放課後DIEタイムである。

 一緒に帰ろう、と誘ってくるのは優斗。
 あるいは、通常時の凛子である。
 どちらがやってくるかは完全にランダムだ。

 だが現状は、凛子がしばらく強制お休みだ。
 ということは、必然的に優斗が近寄ってくることになる。

 優斗は恐ろしい。
 彼の潜在能力は凜子にも匹敵する。

 タイムトライアルをしているわけではない。
 だから、1%でも確実なルートをたどるために、わずかな危険でも排除しなければならない。

 ヒナは凛子を放置し、クラスメイトの男子に走り寄る。
 優斗でもモブキャラでもない。

 意外! それは九条椋ッ。

「椋さん、わたしと一緒に帰りませんか?」
「は?」

 椋はメガネの奥の目を細めた。
 朝に番号を交換した優斗の幼馴染ヒナを胡乱げに眺める。

 それから、首を振った。

「いや、僕はこれから部活があってだな……」
「あそうですかわかりましたごめんなさい突然言ってそれじゃ!」

 口早で頭を下げ、ヒナは走り去る。
 なんだったんだ? と椋は怪訝そうにしていたが。

 これでいい。この失敗こそが正解なのだ。

 もし誰も誘わずに帰ると……
 現れるのだ、樹が。
 偶然を装って、あの教師が。
 ヒナの帰り道に潜んでいるのだ。
 本当に恐ろしい。悪すぎるだろう治安。

 その惨劇を回避するために、ヒナは椋を誘った。
『断られること』こそが、
 フラグを折るために必要なエッセンスなのだ。

 優斗はもちろん、凛子も誘えば必ず一緒に帰ってくれる。
 その上、寄り道までしたがる。
 とんだビッチだ。チョロインだ。
 可愛い。いやいや違う。

 だから、だ。
 唯一断られる椋を誘うのだ。

 これこそが光指す方角。
 死を恐れずにイケメンに話しかけ、
 その結果に勝利を掴む『覚悟』の道だ。

「じゃあね、リンコ。
 またあしたね!」
「あっ」

 彼女の手からノートをひったくり。
 ヒナは肩越しに手を振り、振り返らずに早歩きで教室から出る。

 チャプター2、突破(オールグリーン)

 

 学校から家までは、あっという間だ。
 歩いて三分ほどの距離である。

 だがそれも、優斗や椋と帰り道をともにした場合は別だ。
『アフタースクール・モード』とかが表示されて、
 学校から家までの距離がなんと20分以上かかる異世界へと連れ去られてしまう。
 走っても走っても逃げられず、殺される処刑場だ。

 乙女ゲーは本当にあの手この手で、ヒナを殺そうと迫り来る。
 その手腕には舌を巻いてしまいそうになる。

 それは、なんと。
 家についてからも、同じなのだ――

 

 一軒家の二階建て。
 それがヒナの家の設定だ。
 生身ではずっと帰宅できなかった我が家の前に立ち、深呼吸。

「わ、わかっているよね」

 震えた声でシュルツが問いかけてくる。
 玄関の前で立ち止まり、ヒナはうなずいた。

「……もちろんです」

 ここまで来れたのは、544回目の挑戦にして、二度目。
 生存確率、272分の1の奇跡である。

 だが。

 幸運に幸運が重なり、生きてここまでたどり着いた395回目の挑戦。
 震える手でドアノブを握り、自分の部屋の日記帳(セーブポイント)を目指し。

 そして、階段の上から降りてきた弟に鉢合わせ
 殺され(トキメい)た。

 弟は一個下の、高校一年生だった。

 少しナマイキで、ツンツンしているけれど。
 でも実際はお姉ちゃん大好きオーラを隠しきれない。
 そんな王道すぎるイケメン弟キャラだったのだ。

 シュルツは慟哭していた。
 ヒナも放心した。
 家の中は安全地帯ではなかった。
 そう思い込んでいただけだったのだ。

 この世界は本当に、地獄だと知った。

 破壊の後に住み着いた欲望と暴力。
 競争戦争が生み出した乙女ゲーの街。

 しばらくシュルツは愛らしい黒猫のぬいぐるみ姿ではなく、
 頭蓋骨の砕けた赤子のような、なにかとても不気味な人形へと様変わりをしていた。
 彼(彼女)なりのなにかのストレスの発散だったのかもしれない。
 かなりグロくてちょっと怖かった。


 そんな、過去が一瞬でフラッシュバックして。
 胸がきゅっと苦しくなる。


 とにかく、ここまで来たのだ。
 ドアノブを握る。

「……いきますよ、シュルツさん」
「ああ。いこう。
 ……チャプター3だよ、ヒナさん」
「ええ……生きます、から」

 ゆっくりと、回す。
 屋内からふわっと風が漏れてきて。

 隙間5センチ。
 そこから中を覗く。

 
 目が――
 合ったりは、しなかった。


 少しずつ、ドアを開いてゆく。
 ヒナは薄目で薄暗い玄関を見やる。
 そこに人はいない……けれど。

「……シュルツさん、靴があります」

 明らかに脱いだばかりの靴が、転がっている。
 弟のものだ。

「まじでか……
 最速で帰ってきたのに……」
「……」

 ヒナは生唾を飲み込んだ。
 いるのだ、この家の中のどこかに。

 開発者の、最後の切り札(ラストリゾート)が。

 そーっ……と。
 気づかれないように中に入り込み、後ろ手にドアを閉める。
 足音を立てないように靴を脱ぐ。

 ここからが問題だ。
 ヒナの部屋は二階にある。
 弟の部屋はヒナの部屋の隣。同じく二階だ。

 彼が部屋にいるならいい。
 だが、廊下で鉢合わせたら最悪だ。

 久しぶりにここまで来れたのだ。
 死にたくない。

 もし彼が一階にいるとしたら、どうだろう。
 急いで二階に駆け上がれば、間に合うだろうか。

 勝利条件を思い出す。
 セーブをするためには、自室にある日記を手に取り、
 浮かび上がったウィンドウをタッチすることだ。

 どうすればいい。
 どうすればいいだろう。
 駆け上がるか、あるいはまず先に弟の存在を見つけ出すべきか。

「……」

 シュルツはもうなにも言わない。
 色々と手伝ってはくれたが、プレイ中に口出しすることは(ツッコミ以外は)まずない。
 シュルツはあくまでも、ヒナを見守る役目でしかないからだ。


 ヒナはローファーを脱いで、玄関マットにそっと足を踏み出す。
 細心の注意を払って、体重を移動する。

 決めた。
 誰にも気づかれないように気配を消して、部屋に入る。
 直線だ。
 必ずやるって決めたから、ヒナは『直線』で向かうのだ。

 一階の脇を抜け、階段に向かう。

 人の気配はない。
 やはり弟は部屋にいるのか、と。

 ヒナが階段の一段目に足を置いたその瞬間。

 ギィッ! と。
 木の唸り声が予想以上に大きく響いた。

 それはもしかしたら大した音ではなかったのかもしれないが、
 今のヒナにとっては、避難訓練で鳴り響くベルよりも大きく聞こえていた。
 背筋につららを突き立てられたような感覚がヒナを襲う。


 そして。

 
「ねーちゃんー?」

 
 一階のリビングから声がした。

 その瞬間。
 ヒナは崩れ落ちそうになった。

 気づかれた。
 もうだめだ。

 また最初から。
 殺されて、最初から。

 永遠に。
 終わらない。

 だが。
 止まりかけたエンジンに。
 その声が火をつける。

「――走れっ!」

 シュルツの叫び声が。
 ヒナの背を押した。

 
 鞄を抱え、弾かれたように。
 ヒナは階段を一段飛ばしで駆け上がる。
 スカートが翻り、足にまとわりつく。邪魔だ。

 弟はリビングで息を潜めていたのだ。
 蟻地獄のような罠を張り、ヒナを殺そうと。

 ヒナは手すりに捕まり、体を引っ張り上げるようにして階段を昇る。
 もがきながら、二階に出た。

「ねーちゃんー? 帰ったのかー?」

 弟の声は階段の下から聞こえてくる。
 変声期を越えた、男の子らしいかすれた低い声だ。

 迫ってきている!

 追い詰めて、ヒナを殺す気だ。
 そんなのいやだ。ここまできたんだ。

 階段を登った正面が弟の部屋。
 そして右に折れた突き当たりがヒナの部屋だ。

 壁にぶつかりながら走り、ヒナは部屋のドアを引く。
 だが、扉は内開きだ。焦ったヒナはなかなかドアを開けない。

「やば……っ……」

 階段を昇る足音は徐々に近づいてくる。
 がちゃがちゃがちゃと一心不乱にレバータイプのドアノブを回す。

「はやく、はやく……なんでっ……」

 動悸が激しすぎて、自分の声すら聞こえない。
 なのに、弟の足音だけははっきりと聞こえる。

 彼の影が見えたその瞬間――
 ヒナは自分の部屋の中に滑り込んだ。

 バタンと乱暴にドアを締め、転がるように走り、学習机にぶつかる。
 腹を打ちながらも、必死に引き出しを開く。

 一番下。ない。
 四段目。ない。
 三段目。ない。
 なんで。

「ねーちゃん、なんで返事しねーんだよ」

 声は部屋のすぐ外から聞こえた。
 振り返り、愕然とする。

 しまった。

 思いっきり押したのに、扉は完全に閉まっていなかった。
 これでは、弟が部屋にすら入ってくる――

 いやだ。
 いやだ。
 死にたくない。

 二段目。ない!
 一番上の大きな引き出し。ない!!

 ヒナですらもう泣きそうだ。
 なんでなのだ。
 一体どこに日記があるんだ。

 学習机の上の棚。そこには教科書類が詰め込まれている。
 一冊を引き抜くと、雪崩のように本が落ちてくる。
 ぶつかりながらもヒナは目をしっかりと目を開いているけれど。

 だが、やはりない――! 

 つらい。
 どこに。
 日記。
 涙で目が霞む。

 あのナマイキで可愛い弟は、ゆっくりとドアを開いた。
 ほら、今にも姉大好きオーラを不機嫌そうな顔の裏に閉じ込めて、
 なんか、こう、ときめく言葉をささやいてくるのだ。

 そんなの、そんなの。
 死なないほうがおかしいじゃないか。

 日記。
 どこなの。

 だめだ。
 どこにも。
 ないよ。

 もうむり。
 つらたん。 

 叫んだのは、
 やはりシュルツだった。

「ベッドの上!」



 
 弟がヒナの肩に手を置くのと、
 ヒナが日記から浮かび上がったウィンドウを手のひらで叩くのは、

 ほぼ同時だった。

 


 弟に触られても、
 ヒナは即死していない。

 53万の恋愛力よりも、
 乙女の恐怖心が優っていたのだった。

 それは死に抗おうとする、生命の輝きであった。

 日記からポンッと可愛らしいフォントで、
 ウィンドウがポップした。



『 セーブが完了しました 』

 

 次の瞬間。
 体から熱が。

 熱情が、こみ上げてきて。
 思わずヒナは、そこにいた人物に。
 両手で抱きついていた。

「わああああああああああああ!」

 頭の中でパレードが始まっている。
 もう真っ白。
 感動以外の言葉が見つからない。

「えっ、な、なんだよ!?」

 弟をぎゅーっと抱きしめているのに。
 まだヒナは死んでいない。

 気づいていないのだ。
 ヒナは今、達成感の嵐の中で自由に飛び回る一羽の小鳥だった。
 そこにはタンゴを踊る黒猫の姿もある。

「やった、やったよ!
 やったんだ! 初日、突破だ! 越えたんだ!」
「やりましたあああああああああああ!」
「ヒナさんすごい! やったよ! よくやった!」
「えっへっへ~~~~~~~!」

 戸惑い、目を丸くする弟をよそに。
 一羽と一匹は、天にも昇るような心地ではしゃぎ回る。

 今はただ、この歓喜に酔いしれていよう。
 これが一時の幸せだったとしても。


 彼らは今、生きているのだから。



 第二章 永遠より長い一日目 end

 
  
 544回目。
 死因:弟に抱きついて、昇天。

 シュルツより一言:もうこれクリアでいいだろまじで。

   
※明日、明後日は間話を投稿します。
 
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