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恋をしたら死ぬとか、つらたんです 作者:みかみ てれん

第二章 ドッキドキ☆学園生活は恋の予感♡

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19限目 死にません死にましし死ににににません

 今回のあらすじ:ヒナ生きろ。
   
 美術の授業は、やはりあっという間に終わった。
 というわけで、念願の(禁断の)昼休みの始まりである。

「ふぅ……」

 徐々にヒナの体にも、緊張感が高まってきた。
 なんといっても午前中が終わったのだ。
 あとは午後の授業を二時間行なってきょうはおしまい。

 帰りにもなんらかのイベントはあるかもしれないが。
 というか、確実にあるのだろうが。
 それでも半分以上が過ぎたことになる。

 快挙だ。
 喝采されるべき快挙だ。 

 つまり残り――半分以下なのだ。

 もしかしたらきょう一日、生存できるかもしれない。
 しかも今は、凛子が計り知れないほどに弱体しているボーナスタイム。
 この機会を逃すと、次にこの時間帯まで来るのは何週間後になるかわからない。

「シュルツさん、わたし、生きたいです……」
「う、うん……そうだね……」
「命ってこんなに大切なものだったんですね」
「そういうゲームじゃなかったはずなんだけどな……」

 と、お昼休みになった瞬間、ウィンドウがポップした。

『お昼休みには自由行動をすることができます。
 キャラクターとの仲を育みましょう』

 そういえばまだ初日だった。
 チュートリアルすら終わっていないようだ。

「自由行動って……」

 いくらなんでも自ら死地に飛び込むような真似をするわけがない。 

 と、教室を見やる。
 なんということだ、優斗も椋もいない。
 自分から近づかなければ、お昼休みは干渉されないのではないだろうか。

「チャ~ンス……?」

 凜子の姿を探す。
 子リスのようにおとなしくなった彼女と一緒にいれば、お昼休みも無難にしのげると思ったのだが。
 そのリンコリスも見当たらない。

「……どこにいったか、わからない……」

 探しに行くのはあまりにも危険だ。
 わかっている。

 この学園には優斗と椋、樹という三人の殺人鬼が潜んでいる。
 ばったりと出くわしたが最後、ヒナの命は野花のように手折られる。

 なんてこわい学園だ。どう考えてもホラーだ。
 だが、ここで待っていても状況がよくなるとは考えにくい。

 優斗や椋はトイレに行っただけかもしれない。
 彼らはヒナを殺すために、牙を研ぐように髪型をキメているのかもしれないからだ。

 
 ヒナはクラスメイトの間をかいくぐり、教室のドアに背をぴたりとつけた。
 鞄を抱え、遮蔽物に身を隠したまま、廊下を覗く。

 今のところは、優斗も椋も凛子もいない……
 何事もなくこの教室を脱出できるかと思った。


 ――が、向こうから教師・一ツ橋樹が近づいてきている!


 まずい。
 ヒナに用があるのかはわからない。
 けれど、見つかったら声をかけられるかもしれない。
 イベントが始まってしまうかもしれない。

 やり過ごそう。でもどうやって。
 駆け抜けようか。
 でもそんなことをしたら、教師に呼び止められるかもしれない。

 慌てて鞄をまさぐるが、だめだ。
 着火剤とマグネシウムの粉を混ぜて作った簡易スタングレネードは、ここにはない。

 悩める時間はそう多くない。
 決断せねばならない。


 ヒナは勇気を振り絞って、飛び出した。
 鞄で顔を隠しながら、だ。

 どうか気づかれませんように。
 祈りながら足を進める。

 恐怖で心臓が痛い。
 吊り橋効果も相まって、誰かに声をかけられたら即死に違いない。

 ここまで来たんだ、死にたくない。
 生きたい。生きていたい。

 お願いします。お願いします神様。
 もう新婚夫婦の仲を引き裂いたりしませんから。
 あの頃の自分は法律も知らないような子供だったんです。本当です。

 祈りながら、歩く。
 一歩一歩が震えるように重い。

 この廊下はこんなにも長かっただろうか。
 踊り場までたどり着ける気がしない。

 後ろから声はかからない。
 手が置かれることもない。

 日の光照る廊下をさらに歩く。
 生徒たちの喧噪は明るく、にぎやかである。

 ……脱したか?
 危機を脱したのか?

 しかし振り返ることはできなかった。
 首を回せば、そこに目を光らせた樹が立っているような気がしてしまって。

 やあ、と声をかけられて。
 そしてその恐ろしい顔を見た自分は死んでしまうのだ。

 
 可能な限り目立たないよう、早足で急ぐ。
 通りすがってゆく生徒たちは皆、優斗か椋に見えてしまう。

 そこに彼らが紛れ込んでいたら、おしまいだ。
 一刺しで心臓を貫かれ、ヒナは一撃で殺される。

 緊張で目がかすむ。
 あとは祈るしかない。

 どうやってこの昼休みを無事に過ごすか。
 行く先は決めていた。
 美術室へと向かう途中に、見つけておいたのだ。

 そう、人気の少ないところ。
 ――二階特別教室エリアの女子トイレだ。

 

 奇跡的に誰にも出会うことなく、
 ヒナはそこまで到達することができた。

 女子トイレの一番奥の個室に飛び込んだ瞬間、
 そのまま背中を扉につけたまま、崩れ落ちてしまいそうになる。
 肺の中の空気をすべて吐き出すようなため息をつく。

 額の汗をハンカチで拭いながら、
 ポケットに突っ込んでいたシュルツを取り出して、手のひらの上に乗せる。

「やった……来れた……
 逃げ込めましたよ、シュルツさん……」
「よくやった……」

 黒猫のぬいぐるみもぐったりとしていた。
 どちらも精神の消耗がひどい。

「ここで、お昼休みが終わるまで、
 身を潜めていようと思うんです……」
「ボクも賛成だ。外を出歩くのは危険すぎる。
 この扉の外は殺意をみなぎらせた魔物がばっこする魔界だ。
 生身ではとてもではないけれど、三分も持たないだろう」
「あれ今、外から女の子の悲鳴が聞こえてきたような……」
「きっと風の音と聞き違えたんだよ」
「ちょっとわたし見てきますね。
 大丈夫です、すぐに戻ります」
「露骨な死亡フラグを立てるのはやめろぉ!」

 叫ぶシュルツ。
 その決死の声で、ヒナは思いとどまった。

「……わかりました。このままお昼が終わるまで、閉じこもっています」
「それがいい。そうしよう。それ以外ありえない」
「わたし、初日が終わってセーブしたら、
 一度思いっきり優斗くんと樹先生に甘えるんだ……」
「しゃらーっぷ!」

 ぴしゃりと怒鳴りつけるシュルツ。
 もう気が気ではないようだ。

 しかしそれはヒナも同様だ。
 動揺しているからこそ、そんなことを口走ってしまうのだ。

 ヒナはケータイを開いて時間を確かめる。
 お昼休みはあと28分も残っている。
 どうしてこんなときだけスキップできないのか。
 今は生き延びることが先決なのに。

 春の陽気に汗がにじむ。
 ヒナもシュルツも、徐々に口数が減ってゆく。

 一秒一秒を数えながら、待つ。
 息苦しくて、深い海の底にいるようだ。

 あとたった1680秒だ。
 すぐじゃないか……

 
 と、その時。
 まさに死を告げるように。

 サイレンが響く。

 ぴんぽんぱんぽーん、と。
 ヒナの覚悟をあざ笑うような素っ頓狂な音色で。

『二年B組、藤井さん。藤井ヒナさん。
 一ツ橋樹先生がお呼びです。職員室へお越しください』

 血の気が引いた。

 一ツ橋樹。
 最後の最後まで、ヒナを逃がさないつもりだ。
 なんという執念。
 これが攻略対象キャラの底力か……

 顔をあげたヒナは、シュルツを見つめる。
 そこには涙すらも浮かんでいた。

「シュルツさぁん……」
「……これこそが、絶対的絶望……」

 女子トイレの中、二頭の子羊は、
 運命に翻弄され続けるその身を呪うのだった。

 
  
 シュルツより一文。

『恋は炎であると同時に、光でなければならない。』
 アメリカの思想家、ヘンリー・デイヴィッド・ソローはかく語る。

 藤井ヒナの恋は燃え、彼女の道に真の光をもたらすのか。
 あるいはそれは浄火となり、色欲(lust)の罪背負う少女の身を焼き滅ぼすのか。

 なぜ人は恋をするのか。
 本能と生殖機能を越えた先に、答えはあるのか。

 森羅万象生きとし生けるものに告ぐ。
 至愛の時は来た。


 次回、『乙女ゲーなのに恋したら死ぬとか、つらたんです』第二章end。

 無限目「一億と二千年後も愛してる」

 
※話数、タイトル、内容は一部変更される可能性があります。
※この物語はフィクションです。
 
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