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恋をしたら死ぬとか、つらたんです 作者:みかみ てれん

第二章 ドッキドキ☆学園生活は恋の予感♡

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16限目 もうだめです死にます

 前回のあらすじ

 不安でいっぱいの転校初日……
 でもね、優斗くんっていう幼なじみと再会することができたの!
 彼ったらスッゴクかっこよくなっちゃってて……ポッ。なんてネ♪

 優斗くんの友達、ちょっぴり怖い椋くんとも同じクラス!(でも、かっこいい♪)、
 それに担任はなんだかとっても優しそうなオトナのセ・ン・セ・イ。

 早速女の子のオトモダチ(かわいいかわいい凛子ちゃん♡)もできちゃったし、
 これからの学園生活、一体どうなっちゃうのー!!??
 
 
 ◆◆



 自分の部屋のベッドの上で、凛子は身を起こしていた。
 パジャマ姿の彼女は生気がなく、まるで抜け殻のようだった。

 凛々しかった横顔は老人のように疲れ果て、
 まるで恋人を失ってしまったかのような痛々しい有様だ。

 そのまなざしも、うつろで昏い。
 泥団子のような目玉だ。
 視線の先を追っても焦点が合っていないため、
 一体どこを見つめているのかもわからない。

 とんとん、とドアが控えめにノックされる。
 凛子の反応はない。一切ない。

 薄暗い室内に、薄く光の線が浮かび上がる。
 ドアの隙間から彼女の母親が顔を見せた。

 凛子がそのまま年を取ったような母親は、毅然と背筋を伸ばしている。
 その表情には疲労の色が見え隠れしていたが、
 今となっては娘よりも彼女のほうが若さを保っているように見えた。

「凛子……あのね、今、お客さんが来てね……」
「……」
「その……藤井さん、の、弟さんだって言うのよ」
「……」

 娘の視線がなめくじのように地を這う。
 水分を失って乾いた唇がゆっくりと開いた。

「……え?」

 そこから漏れ出たのは、疑問の念。空気が抜けたような声がした。
 ヒナの 弟が 自分に 会いに 来た。
 その言葉は再構成され、意味を持って胸に染み込んでくる。

 母親は目を伏せながら、遠慮がちに問いかけてくる。

「……会う?」

 聞かれているのは自分だ。決断を迫られているのも自分だ。
 凛子の瞳にぽつりと意志が宿る。しかしその火はあまりにも儚い。

 凛子は自らの右手を鼻先に近づけた。
 目をつむり、それから首を振る。

「とれないの」
「……え?」
「血の臭いがね……目の前が、真っ赤に染まって。
 なんにもわからなくなっちゃって。
 でも、ずっと臭いだけが、あたしの体に染み着いているの。
 皮から体内に染み込んで、内臓と一緒になって、
 たぶん、もう一生とれないの……」
「凛子……」

 喋れば喋るだけ、己を守る鎧がメイクのように剥がれ落ちてゆく。
 むき出しの凛子はもはや骨と皮でできていた。そこに気力はない。

「ごめん、むり。
 お葬式も出られなくて、ごめんなさいって、
 謝っておいて、お母さん……
 でも、あたし、まだむりだよ」
「……そう」

 それだけ言うと、母親はドアを閉めた。
 厳しく明るい母だが、決して一線を踏み越えてはこない。

 階段を下っていく気配がして、凛子は毛布に顔を押しつける。
 部屋に残されると、ひとりはひとりでしかないのだという実感が凛子を襲う。

 暗闇の中。ヒナの笑顔と、崩壊してゆく彼女の体が同時に思い浮かんだ。
 人体の構造とは異なる態勢に折れ曲がってゆく彼女の体。
 口から溢れ出る血。
 そして、目。

 まるで魚のように濁って、なにも映し出さない、あの目だ。

「うっ……」

 吐き気をもよおして、凛子は息を止めた。

 夢でうなされて、現実でもうなされて。
 こんな状態で彼女の家族に会えるはずがない。
 ヒナと最後に話したのは自分だけれど。
 でもだめだ、無理だ。

 えづいて、気づけば涙がこぼれていた。
 ティッシュに手を伸ばした際に、ベッドの脇にある鏡台に自分の姿が映って。

 見やる。ひどい顔だ。
 死んでしまったヒナのことを思うと、生きている自分がしっかりしなくてどうするのだ、とは思うけれど。
 でも、だめだ。
 辛いのだ。

 鼻をかんで、丸めたティッシュをゴミ箱に放り投げる。
 その行方を確認することなく、凛子は膝を抱いた。

「……あたし、自分がこんなに弱い人間だったなんて、知らなかったな……」

 そのつぶやきは停滞した部屋の闇に飲まれて消えてゆく。
 死の舞踊(メメントモリ)。常に死は身近に存在し、血は体内を循環している。
 そんな事実を目の当たりにしてしまったとき、
 凛子はもう以前のように笑うことはできなくなってしまっていた……

 

 ◆◆


 
「凛子さん、お葬式に来ませんでしたねー」
「そ、そうだね」

 シュルツは慌てて手元のウィンドウを消す。
 それは『サイドビュー』モードだ。

 主要人物の中には、事情に応じて葬式に出席できないものもいる。
 そんな彼らが今なにをしているのかを盗み見ることができる機能だが……

「ヘヴィだぜ……」
「?」

 渋い声でつぶやくシュルツと、その隣で首を傾げるヒナ。
 彼女は知らないほうがいいだろう。
 知ったらたぶん、さらに凛子のことを好きになってしまう。

 しかし、なるほどとシュルツは思う。
 ここまで死にパターンが作り込まれているのだとしたら、
 確かに死んでもらわないと開発者としても作りがいがないものだろう。

 本来は恋愛ゲージが999をオーバーしたら死んでしまう作りなのだが、
 それを越えたものがひとりもいなかったため、ヒナに白羽の矢が立ったのだ。
 ヒナは確かにモニターとしてありとあらゆる死に方を網羅する勢いで死んでいる。
 超優秀なテスターだ。

 優秀すぎる。
 死にすぎている。
 プロデューサーたちは大喜びだろう。
 この実験データを持ち帰れば、シュルツの評価もうなぎのぼりだ。

 誰かとのエンディングを見て、
 ここを脱出できたら、の話だが。

「さらなるプロテクトの解除を急がないと……」

 口走ると、ヒナは両手を叩いて飛び上がった。
 なにやら閃いたようだ。

「よし、これでばっちりです!
 リンちゃん対策は完璧です!」
「そっかぁ……」

 なんだかもう、彼女のことも不憫になってきた。
 シュルツは少し胸を痛めてしまう。

 不断の努力を続ける少女だ。
 モチベーションも高く、性格だって明るい。
 その恋愛力さえマトモなら、パートナーとして申し分はないのに。

 しかし。
 必要だ。このゲームを脱出するためには、その魂が。

 
 ひとりの囚人は壁を見ていた。
 もうひとりの囚人は鉄格子からのぞく星を見ていた。
 ヒナは星を見る少女だ。
 この乙女牢獄にあっても、星の光を見ていたい少女なのだ。

 

 ◆◆

 

 vs凛子はまだ続く。
 ヒナの目を通して見た凛子は、まさに怪物だった。

 彼女の圧倒的な“スゴ味(じょしりょく)”を前に、ヒナは身動きが取れない。

 背後から、じりじりと凛子は間合いを詰めてくる。

 それは水の中に一分しか潜ってられないような男が、
 限界一分目にやっと水面で呼吸をしようとした瞬間、
 グイイッとさらに足を捕まれて、水中に引きずり込まれるような気分だった。

「ねぇ……“勉強”には、ついてこれそうかしら……?
 学校によっては、授業の進み方にずいぶんと“違い”があるっていうじゃあない?」
「そうね、凛子ちゃん……」

 ゴゴゴゴゴ……という擬音が飛び交う中。
 ヒナはゆっくりと振り返る。

「でも、わたし、お勉強は得意なほうなの。
 だから大丈夫。凛子ちゃんの手助けはいらないよ」
「へぇ、そうなんだ」

 先ほどまで感じていた圧迫感は霧散していた。
 そこにいるのは、美人で可愛らしいクラスメイト。

 凛子は素直に微笑む。

「なら、逆にあたしが教えてもらっちゃおうかな」

 なんという女性だ。
 戦慄が脊髄を駆け抜ける。

 ヒナの攻撃を受け止めるどころか、
 そこに凄まじいカウンターを合わせてきた。

 はにかんで笑う凛子。
 小さく舌を出したその笑顔を前に、ヒナが正気を保つことなどできはしない。

「あ、あああああ……」

 まるで太陽を浴びた吸血鬼のように、ヒナは目を押さえた。
 完璧だ。この少女は完璧だ。

 ひとつも無駄がない。
 究極の生命体アルティメット・シイング凛子だ。

「ちょ、ちょっと、大丈夫?
 ひ、ヒナちゃん!?」

 もうだめだ。
 ヒナの生命の糸はぷっつりと絶たれた。
 せっかくここまで来たのに。
 徹底的に希望をすり潰された。



 ヒナは特別女子が好きというわけではない。
 むしろ好みでいうならば、年上の男性がタイプだ。

 だが、凛子の人間的な魅力は図抜けていた。
 恋愛を司る女神のように、もはや信仰の対象にしかならなかった。



 絶対防衛ラインを越えられず。
 ――ヒナはその後、27回死に続けた。

 
 
 三十三回目。
 三十四回目。
 三十五回目。
 三十六回目。
 三十七回目。
 三十八回目。
 三十九回目。
 四十回目。
 四十一回目。
 四十二回目。
 四十三回目。
 四十四回目。
 四十五回目。
 四十六回目。
 四十七回目。
 四十八回目。
 四十九回目。
 五十回目。
 五十一回目。
 五十二回目。
 五十三回目。
 五十四回目。
 五十五回目。
 五十六回目。
 五十七回目。
 五十八回目。
 五十九回目。

 死因:凛子。

 シュルツより一言:……(放心)。
 
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