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恋をしたら死ぬとか、つらたんです 作者:みかみ てれん

第二章 ドッキドキ☆学園生活は恋の予感♡

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10.5限目 気がつけばまた死んでいます

 
 どこにでもいる平凡な女子高生――藤井ヒナは、つむっていた目をゆっくりと開く。
 そこは例によって例の校門前。

 ヒナは帰ってきたのだ、この世界に。
 少し特別で、不思議で、けれども素敵なこの世界に。

 ヒナの抱えていた鞄にくくりつけられた黒猫のキーホルダーが、確認するような口調で喋り出す。

「ヒナさん、今回も油断なくいこう」
「はい」

 彼(彼女?)はヒナのナビゲーターだ。
 名前はシュルツ。様々な手段でヒナをサポートしてくれている。

 ここは乙女ゲーの中の世界だ。
 ヒナたちは、この世界から脱出をするために挑戦を繰り返していた。

 その脱出条件とは――攻略対象キャラとのエンディングを迎えること。
 たったひとつのシンプルな答えだ。

「おいおい、ヒナ。ひとりで勝手にいくなって」
「――!」

 斜め後ろから話しかけてくるのは、赤髪の幼なじみ。
 ゆっくりと振り返るヒナ。
 爽やかな笑顔を浮かべる彼のイケメンオーラに目が潰れてしまいそうだ。

「……大変ですシュルツさん。
 きょうもきょうとて、
 永遠に変わらぬ格好良さです優斗くん……」
「まあそりゃゲームなんだから、いっつもおんなじだよ……」

 つぶやくヒナに眉根を寄せながらうなずくシュルツ。
 優斗に近づかれて、ヒナの心拍数がどんどんとあがってゆく。

「あ、う……」
「おいおいヒナさんよ、もう優斗くんは克服したって言っていたでしょうが……」
「で、でもっ……きょうはいつもより特別かっこよくて……
 はっ、もしかしてこれがモテ期というものなんでしょうか。
 大変ですシュルツさん、優斗くん今モテ期に入ってます」
「そんなものは幻想だ!」

 先ほど「変わらない」と言ったばかりのヒナに叫ぶ。
「だめだこのビッチ、我を失ってやがる……」とシュルツはうめいていたけれど。

 違う。
 ヒナは自分がビッチなどと思ったことは、一度もない。

 確かに今まで付き合った人の数は100人や200人程度では効かないけれど。
 ちょっとヤンチャだった時期には同じクラスの人と――男女関わらず――全員と付き合ったこともあったけど。

 ただ自分はホレっぽいだけなのだ。
 そう、人より“ちょっぴり”だけだ。

 そしてこの世界では、なによりもそれが弱点になる。
 文字通り“致命的”な。

「やばいです、シュルツさん……胸がドキドキして……」
「それはなんとかしてもらわないと……」
「わかりました……多少危険ですが、
 一時的に意志の力で心臓を止めてみようと思います。
 えへへ……笑い話にもなりませんね、
 わたし自身の力で心臓を止めて死んでしまいましたら……」
「なんとかするのを今すぐやめろぉ!」

 思わず怒鳴るシュルツ。
 ヒナは思いとどまったようだが、それはシュルツの言葉によってではない。

 優斗が声をかけてくる雰囲気を察知したのだ。
 それよりも先に彼に話しかけることによって、必要以上の接近を阻止する。

「そ、そろそろいこうか、優斗くん」
「おー、そだな」

 にっこりと笑う優斗。
 その笑みを正面から浴びそうになったヒナは勢いよく顔を背けた。

 まるで渾身のパンチを受けて顔面が弾けたようだった。
 実際にブン殴られたほうがマシなのではないかと思えるようなデンプシースマイルだった。

 危ないところだった。
 あと0・1秒でも長く見つめていたら、恐らく今頃……。

「……シュルツさん……わたし、耐えました……」
「う、うん……」
「でもまぶたの裏には、今の笑顔が焼きついてしまって……」
「一生目を開けておけばいいよ」

 ううう~~、とうなりながら目を押さえるヒナ。
 どうやら本当に瞬きしないように耐えているようだ。

 幼なじみのそんな奇行に気づいた優斗は、ゆらりと前に回り込んできて。
 無遠慮に声をかけてくる。

「ヒナ、どうかしたか?」
「えひゃう!」

 お化け屋敷で脅かされたように飛び上がるヒナ。
 後ろから前から、優斗は多彩にヒナを責め立ててくる。

 あまりにも女慣れしすぎているのではないだろうか、とヒナは自分を棚上げして思う。
 もしかしたらこの幼なじみ、今までに1000人以上の女を落としたことがあるほどの手練手管の持ち主なのかもしれない。

 そんな人と恋人になれるだなんて、なんて斬新な乙女ゲーなんだろう。
 いや、斬新さは今に始まったことではないか。

 実際のところは、ただ普通に話しかけてくるだけなのだが。
 今のヒナにとって、それ以上に恐ろしいことなど――寝込みを米海軍特殊部隊(ネービーシールズ)に襲われたとしても、ヒナは“ちょっとした護身術”が使えるから全然へっちゃらなのだ――ない。

「あ、あのさ、優斗くん」
「んー?」

 口元を引き締めて、目元だけで微笑みながらこちらを見てくるイケメン。
 彼にひきつった笑みを浮かべながら、ヒナは告げる。

「その、もうちょっと離れて歩いてくれたら、うれしいなあって。一億五千キロメートルぐらい」
「地球から出てゆけ、と」

 シュルツがつぶやく。
 地球から月までの距離が大体38万キロなのに。

「あ? ごめ、近かったか?」

 それでも、嫌な顔ひとつせず、
 慌てて頭をかく優斗に、ヒナは。

「う、ううん! そ、そんなことないよ?
 ほ、ホントはもっと近くても……
 ゼロセンチぐらいの距離が一番いいんだけどっ……」
「おいビッチ黙れよ」

 シュルツの容赦のない言葉も、
 頬を染めて両手を振るヒナには届かない。

「はは、そうなったらいつも一緒にくっついて歩くことになっちゃうな」

 なんて、優斗が笑うから。
 ヒナは真っ赤な頬を両手で押さえ、とても恥ずかしそうに背を向けて。

「た、大変ですシュルツさん……
 優斗くんのその一言だけでわたし、
 一晩で法隆寺建てられちゃいます……!」
「いや、できそうだけど!
 ヒナさんならできそうだけどさ!」
「最高にチムドンドンしました……」
「沖縄の方言で“胸がドキドキ”って意味ぃ!」

 ぜぇぜぇと息を切らせるシュルツ。
 だが、もうヒナは止まらない。

 くるっと振り向き、
 見た目だけは限りなく清楚に近い何かである少女は、両手を胸の前で組み合わせながら。

「ゆ、優斗くん、よければわたしと……」

 熱に浮かされた目の中にハートマークを浮かべ、
 ふらふらと夢遊病者のように優斗に近づくヒナだけれど。

「お、おお?」
「優斗く~ん……」

 二、三歩歩いたところで。
 ――突如として、そのこめかみから血を吹き出した。

「モルスァ!」
「え、えええええ!?」

 目を丸くして驚愕する優斗の前。
 おかしな叫び声をあげてヒナは真横に倒れる。

「ちょ、あの、ヒナ!? え、なんだこれ!?
 おい、しっかりしろ! ヒナ!?」

 水漏れした貯水タンクのように、
 頭部のいたるところからぴゅーぴゅーと血を吹き出すヒナ。

 彼女は地面にうつ伏せになったまま、もはやぴくりともしない。
 残された優斗はただただ戸惑うばかりで。

「ヒナ! え、あ、こ、こんなときは……
 きゅ、救急車か!? おい、しっかりしろよ!?」

 けれど、優斗は知らない。
 もはやヒナの心臓はとっくにその活動をやめているのだということを。

 残酷な事実だが……。
 ヒナはもう、事切れているのだ。

「な、なんだよこれ……なんだよ!
 なんなんだよ!!」

 大勢の学生たちが取り巻く中、叫ぶ優斗。
 それはまさに、シュルツの気持ちをも代弁していた。

 失敗だ。
 再びヒナは、失敗してしまったのだ。

「安定して校舎まで行けると思っていたのに……」

 おそらくこれは、慢心が招いた事故だ。
 そう信じよう。

 でなければ、心などという形のないものは、簡単にくじけてしまうのだから――
 21回目。
 死因:優斗の優しい笑顔を見て。

 シュルツより一言:その前に「モルスァ」ってなんですか。
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