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恋をしたら死ぬとか、つらたんです 作者:みかみ てれん

第八章 ラッブラブ☆ふたりの愛は死に至る病♡

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93限目 ダークダーク・ダイアリー

 ダークヒナは余裕たっぷりの笑みを浮かべながら、日記で自分を扇いでいた。

「会いたかったわ、ヒナちゃん。貴女とどうしてもお話をしたくて、私はここまで来たのよ」

 こちらを見つめるその視線は、冷然としていた。
 恐ろしいものを感じる。

 ダークヒナが発する精神的な重圧を受けて、ヒナは一歩退いた。
 シュルツに至っては――。

『ひ、ヒナさんが、ヒナさんがふたり……。う、うわああああああ……もうだめだおしまいだ地球は終わりだ緑の星はビッチの星と化す人口大爆発だおしまいだ世界中はおしまいだおしまいだ……』

 もはや精神破壊を引き起こしてしまいそうだ。
 泡を吹いているのかもしれない。

「ふふっ」

 そんなダークヒナは優美に腰をくねらせながら、モデル歩きでこちらにやってくる。
 彼女の色気は藤井ヒナに比べても圧倒的で、女性として完成されているようだった。

 笑顔、視線、その立ち振る舞い、取り巻きの男たちの扱い方。仕草ひとつ取っても、ハリウッド女優のようなゴージャスさを感じる。

 ダークヒナも同じく16才であるはずなのに。
 それとも、これこそが藤井ヒナのすべての力が発揮された姿なのかもしれない。

「どう? 私、地味で平凡とは、正反対でしょう?」
「は、はい……ゴージャスでスペシャルです……!」
「うふ、まあね、当然だわ」

 ダークヒナは髪をかきあげ、艶然とした笑みを浮かべた。
 誉められることなど、もはや彼女にとって日常の一部でしかないのだ。

「ねえ、ヒナちゃん、どうして貴女はそんな格好をしているの?」
「えっ……や、あの、ゲームですし……?」
「貴女のこと、全部知っているんだから」

 赤い唇を小指で撫でて、ダークヒナは小首を傾げる。
 ヒナはなぜだか、どきりとしてしまった。

「本当は貴女だって、こういう風にして、楽しみたいんでしょう? 世界のすべては私のもの。世界中の人は私のことが大好き。そして、私もみんなことが大好き。それのなにが悪いの?」
「わ、悪いってことは……」
「いいじゃない。それで誰が不幸になるの? 私がみんなを愛してあげる。私にはその能力があるもの。私なら上手にできるわ。地味で平凡なんてくだらない。たった一度の人生なのよ。もっとゴージャスでスペシャルな人生を送りたいって本当に思わないの? そんなの欺瞞だわ」
「そ、それは人の自由で……」

 ヒナは曖昧に抗弁をしようとしたものの……。

 目を逸らそうとして、しかし唇を噛む。
 これがヒナの都合の良い世界なら、こんなことを言い出すのにも意味があるはずだ。

 この女性は――ダークヒナは、自分の部分のひとつだ。

 あんなことを言い出しているのは、自分なのだ。
 ならば、当たり障りのない言葉ではだめだ。

 本気でぶつからないと。
 ダークヒナを、真っ向から、否定しなければならない――。

 ヒナは息を吸い込んだ。
 次の瞬間、彼女を覆うその雰囲気が凛と色を変えた。

「違います、あなたは、わたしの可能性のひとつだけど……ううん、わたしがそんなことを思うはずがないよ、ヒナ」
「そう? 自分の選んだ道が間違っていると認めたくないから、私を否定したがっているだけじゃない?」
「そんなことない」

 ヒナはしっかりとダークヒナを見つめ、そして告げる。
 言うべきことを、はっきりとだ。


「ヒナのやっていることも、楽しそうだと思うよ。なんでも自分の思い通りにしてさ。そうやって攻略キャラクターたちをはべらせて、気分がいいでしょ」
「当たり前だわ。人を従えるのって、とってもイイじゃない。聞くまでもないわ。できることをしてなにが悪いの?」
「悪いとは言わないけど、わたしはその道を選ぼうとはしないよ。たまに脳裏をよぎることはあるけど、でもしない。しないって決めてるもん」
「こんなところでいい子チャンぶってどうするの? ああ、でもそうよね、あなたのそばには、シュルツさんがいるもんね」

 ダークヒナはすぅと目を細める。

「だからそうやって、良いことばかり言うんでしょう。シュルツさんに嫌われないように。シュルツさんに良い自分を見せようって。貴女は本当に、つまらない女になってしまったわね」

 まざまざと軽蔑の色がにじんだその瞳。
 まるでヒナの内心を見抜いたようなその色。

 だが、ヒナは――。

「そう、そう思う? えへへ」

 頬をかき、笑ったのだ。

 眉をひそめるダークヒナを、ヒナはじっと見つめる。

「あなたがもしわたしなら、わかっているはずだよ。そんなことを言いながら、どうしてわたしがあなたのようにならないのか。『つまらない女』だなんて、わたしには誉め言葉にしかならないでしょ」
「……私が貴女のことを知っているように、貴女も私のことがわかるって? そんなはずはないわ。私の充足感も、支配欲も、貴女は味わったことがないはずよ」
「そうかな、でも想像はできるよ」

 ダークヒナが映し出しているのは、自分の違う形だ。
 ヒナの瞳がきらりと輝いた。

「ねえ、ヒナ。人間って後悔をする生き物だって知っている?」
「どういうこと? 貴女は私が後悔するって思っているの? 私は無敵だわ、怪獣にだって勝てるのは、貴女が証明したでしょう? 全世界のなにがきても、私を止めることはできないのよ。意味がわからないわ」
「でもね、ヒナ」

 髪をかきあげながら近くの男の顎を撫でるダークヒナに、ヒナは優しい声を出した。
 そして、ヒナは――。 

「壊れてしまったものは、もう、戻らないんだよ」

 やはり儚げな、笑みを浮かべたのだった。





 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


 恋をしたら死ぬとか、つらたんです
『93限目 ダークダーク・ダイアリー』


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇





「……」

 そこで初めて、ダークヒナがその表情を変えた。
 彼女の余裕がわずかに失われた。そんな気がした。

「壊れてしまったものは、戻らない? それは一体なんのこと? 貴女は、なにを言いたいの?」
「聞いてね、ヒナ」

 体を揺らしながら、ヒナは彼女に近づいてゆく。
 ダークヒナは軽く手を払う。それだけで彼女の周りにいた取り巻きが、ゆっくりと消えていった。

「なあに? またいい子チャン?」
「ううん、当たり前の話。ねえ、『愛』ってなにかな、ヒナ。なんだと思う?」

 ヒナの穏やかな語り口に、ダークヒナは苛立っているようだ。

「また質問? いいわ、付き合ってあげる。私は優しいからね。愛? それは私自身のことだわ。私こそが愛で、私が平等に分配してあげるものよ」
「半分は当たっているね。……っていうのを自分に言うのも、ヘンな気持ちだけど……」

 照れたように笑いながら、ヒナは続ける。

「愛っていうのは、わたし自身。あなたであり、わたし。人の形だけ、愛の形がある。人の数だけ愛がある。人間と人間の関係性。それこそがすべての愛の源。つまり――」

 ヒナは胸に手を当て、ダークヒナを見つめた。

「――愛とは、人の心だよ」


 ダークヒナは、すぐに言い返す。

「それがなに? それがどうかしたの? 愛が人の心だったとして、私の心は誰よりも優れているわ。これは思い上がりでもなんでもないもの。私ほど人を大切にし、人を慈しみ、人に引きつけられる人は、他にはいないわ。だったら私が管理すればいいじゃない」
「それは違うよ、ヒナ」

 ヒナは静かに首を振った。

「愛に上も下もないよ。人の心はすべてが愛なの。怒り、憎しみ、妬み、執着。それら全部を合わせて、愛だよ。愛は一辺倒じゃない。もっと深いものなの。心地良いだけが愛じゃない。辛くて、苦しくて、悲しいことだって愛だよ」
「そんなことを言って、私を否定しようとしているだけでしょう。どうして辛いものが愛でなければいけないの。人を愛することは、楽しいことだけでいいじゃない。私ならそれができる、それを与えられるの!」

 声を荒らげるダークヒナに、ヒナは悲しそうな顔をする。

「……そうだね、そう思っていたときもあった。小さい頃のわたしは、たぶん本気だった。叶わない恋に意味がないと思うように、世界は愛で満ちるべきだと思っていた。でもね、違うの。世界はもう、愛で満ちていたんだよ」
「貴女はなにを言っているの? この世界が、愛で満ちているわけがないじゃない!」
「わたしには、大切な友だちがいる」

 うつむきながらも、ヒナは声を張る。

「わたしが間違ったときには、ちゃんと叱ってくれて、こんなわたしのそばにいてくれる、友だちがいるの。わたしはそんな友だちとの絆を捨てたくないから」
「それは踏み出すのを恐れているだけだわ。貴女が本気になれば、今よりもっと欲望をむさぼることができるのよ!」
「本当に? 本当にそうかな? もしそれでわたしがあの子たちを依存させて、そうして骨抜きにして、あの子たちがわたしなしでは生きられないようにして、そうなってしまったら、もう二度とは元には戻せないよ」

 そこで初めて、ダークヒナの動きが止まった。
 彼女は敵意を込めた視線でヒナを睨む。

「……壊れてしまったものは、もう戻せない?」
「そうだよ、そうなったとき、あの子たちは元のあの子たちと言えるのかな? 繊細で、儚くて、か弱くて、そして愛のそのものの『心』をわたしの色で染めちゃえば、それはただそれだけのものだよ。幸せだとは思うけれど、わたしはちょっと、嫌かな。わたしはこれからも、いろんな愛を見ていたいもの。それがわたしの近くにあるだけで、わたしはすごく、楽しいよ」

 ヒナは微笑む。

 そこで密かにショック状態から回復していたシュルツが『いやキミ、ブルーメちゃんを壊していたと思うんだけど……え、なに、あれってAIだから? 狙ってやってたの? やだ、こわい』とかなんとか言っていたが、その場の雰囲気にはあまりにも合わなかったため、ヒナもダークヒナもスルーしていた。
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