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恋をしたら死ぬとか、つらたんです 作者:みかみ てれん

第一章 この門をくぐるものは、一切の希望を捨てよ

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9限目 希望があっても人は死にます

 
 ヒナは帰ってきた。
 乙女ゲーの世界に、である。

「よし、今度こそ、がんばるぞー」

 なんといっても99万9999まで持つのだ。
 ヒナは自分の手元に目を落とす。

 現在の数値は、16だ。
 非常に安定している。
 これが100万に至ったとき、ヒナの命は失われる。
 その前になんとかゲームをクリアしなければならない。

 大丈夫だ。
 緊張せずにいつもどおりやればいい。いつもどおりだ。
 でも乙女ゲーのいつもどおりってなんだろう。
 たいてい、コントローラーを握りながら気絶しているからよくわからない。
 それか抱き枕に全身でしがみつきながら奇声を発するかのどちらかだ。

 ……いつもどおりやっちゃだめな気がする。

 と、立ち止まっていると。
 これまでに幾度となくヒナを葬り去った殺人鬼が現れる。

「おいおい、ヒナ、ひとりで勝手にいくなって」
「いひっ……」

 変な叫び声が出た。

 落ち着け、落ち着けわたし。
 自分に言い聞かせる。

 手元の数値は、1583。
 一瞬で百倍だ。
 心臓の鼓動が激しい。
 口から飛び出てしまいそう。

 だけど、大丈夫、まだ平気。
 でも、しくじってはならない。

 ここで言葉を返さなければ、彼は顔をのぞき込んでくる。
 それだけは絶対に阻止しなければならない。

「う、うん、おはよう優斗くん」
「おう。きょうからよろしくな、ヒナ」

 ニコッと太陽のような笑顔だ。
 やっぱり優斗くんはすごくかっこいい。

 きょうからよろしく。
 つまりそれは、きょうから俺と仲良くしてくれよ、という意味であり。
 仲良くっていうのは、つまりそういうことで。
 俺はお前だけを見ているから、お前も俺だけを見てくれ、っていうことで(飛躍)。

 いやいや、違う違う。
 だめだめ。

 ブレスレットの数値が目に入った。
 97万だ。もうホントすれすれだ。

 シュルツは口から泡を吹いている。
 いや、大丈夫だ。まだ大丈夫だ。

 ここが乙女ゲーの世界だと思うから、そんな風にネジが外れてしまうのだ。
 ここは現実、現実。
 自分に言い聞かせる。
 最初からそうするべきだった。

 現実なんだから猫をかぶらなければならない。
 だっていろんな人を傷つけてしまうから。

 そうだ、思い出すのだ。
 恋は秘めるもの。
 必死にひた隠すもの。
 つらたんの精神、だ。

 ヒナは自らの思いを封じ込める。
 今まで通り、だ。

 結局、そうだったのだ。
 乙女ゲーだからって浮かれていた自分に釘を刺す。
 だって傷つけているじゃないか。
 ……シュルツがあんなにつらそうにしているんだから。

 ヒナは困ったような笑顔でうなずく。

「う、うん、まだわからないことばかりだけど。
 だから、よろしくね、優斗くん」
「おうっ」

 と、優斗は嬉しそうに握った拳を胸元に掲げた。
 ふたりは、連れ立って校舎へと足を進める。

 やった。
 やったやった。
 飛び跳ねたい気分だ。
 やってやったのだ。

 胸はまだドキドキしているけれど。
 生きている。
 自分は生きているのだ。
 ついに乗り越えた。
 ヒナは己の中の壁を突破したのだ。

 ヒナの決意と、シュルツの解禁した裏モードのおかげだ。
 シュルツも手を叩いてくれている。

「ブラボー! おお……ブラボー!」

 海外の人なのだろうか。
 まあ名前がシュルツだし。

 こうしてヒナはようやく校舎に入れる。
 そろそろ椋が声をかけてくる頃だろうか。
 でも大丈夫だ。
 優斗を克服したのなら、椋など大したことはない。
 ああいうタイプは仲良くなった後に思わぬ弱さとかを見せてくるから恐ろしいのだ。
 仲良くならなければ高圧的な態度だし、ちょっと怖いから大丈夫。

 優斗のように最初から好感度マックスの人物は、そうそういないはずだ。
 それが乙女ゲーのセオリーだ。
 よしよし、それなら問題ない。


 これから学園生活が始まるのだ。

 最愛の人と素敵な未来を掴むために。
 そう、エンディングを見るために頑張ろう。

 
 まだわたしの乙女ゲー生活は、始まったばかりだ――

 
 歩き出した途端、ヒナは顔から地面に倒れた。

「……ヒナ?」

 呆然と、信じられないような口調でつぶやく優斗。
 そう、ヒナは死んでいた。

 それは決して、優斗のせいではない。
 しいて言えば、ヒナ自身の……希望のせいだった。

 
 
 十九回目。
 死因:未来に恋をしちゃったから。 

 シュルツより一言:もうなんだかわからないけど、いけそうな気がしてきた。

 
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