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前を向いて

作者:神崎ミキ
「ねえ、どうして人には目が前にあるか知ってるかい?」
突然、何の前触れも、前振りも無く、隣に座る彼女はそう問いかけてきた。
「……なんでなんだ?」
「それはね」
「……それは?」
「前を見るためなんだよ」
「知ってるよ! そんな事はみんな知ってるよ!」
もったいぶられた割に普通の答えだった。そもそも何故そんな事を問おうとしたのか自体が謎なレベルの普通さだ。
「ふぅ……本当にそう言えるかな?」
「言えるよ!」
「キミは今みんなと言ったんだよ。つまり地球に住む約六十億人、そして宇宙のどこかにいるかもしれない宇宙人を含む人類の総意だと。それをどう証明するんだい?」
「証明って言われても……」
数学の証明すら、なんだそれな僕に証明を求めるか。最近母親が勝手に代えた照明に目を眩ませた僕に証明を求めるのか。
「ほら、無理だろ?」
「ちょと待ってよ、それに宇宙人まで含めるの? その宇宙人はちゃんと前に目があるんだろうね!」
「さあ? それも証明してみるかね?」
「くっ……」
無理だ。
そもそも宇宙人がいるかどうかさえ僕には証明不可だ。昔、夜中に見つけた飛行機をUFOだと思い込んでいた程、そっち方面に疎い僕では宇宙人を探して、その上目の位置、そして目が前にある理由まで聞くのは無理だ。それに僕は英語ですらろくに喋れないのに宇宙語なんてどうすればいいんだ?
『ワレワレハウチュウジンダ』とでも言えば良いのか?
違うよなぁ。
ああ、分かってる。
『ワレワレハチキュウジンダ』だよな。
僕達地球人。君達宇宙人。
「……て、話しずれてない!?」
なんで『目が前にある理由』から『宇宙人との話し方』にまで飛躍してるんだ!?
「……多分だけど、その理由の半分はキミ自身だと思うよ」
「え、なんで?」
「自分の考えていた事を見直してみるといいよ。どこからおかしくなったかわかるから」
復習は大事って事か。そう言えば、中学の頃から予習復習は大事だって、なんとかゼミが言ってたな。あんな漫画みたいにうまく行くとは到底思えないけど……て、おっといけない。危うく脱線して線路を見失うところだった。
今は何故話が飛躍してしまったか考えるのが先だ。脱線なんてしている場合ではない。
「うーん……」
駄目だ。やっぱり分からない。
途中で『脱線って脱臭炭に似てないか?』とか考えていたせいだろうか?
「まあ、難しい話は今は脱臭炭のように置いておくとしよう」
「何故脱臭炭が出てきたのかいささか疑問だけど、そうした方が良さそうだね」
「ああ、目は前を見る為にあることをみんなが知ってるかどうかだったね」
「だいだいそんな感じ」
「あ、そうだ……!」
「ん、なんだい?」
「ふっふっふ……今こそ反撃の時だ」
「おや、やけに自信満々だね」
それもそうだ。今までやられっぱなしだったが、今回はそうは問屋をおろさせない。
「目を前に見ること以外に何に使うって言うんだっ!」
「え、別に後ろも見れるけど?」
そう言って彼女は、首を捻って後ろを見る。ついでとばかりに左右まで。
あれ?
あれ、あれ?
何かおかしくないか?
先ほどまであんなに自信があったのに、目の前の彼女はそれを身を持って証明した。でも、何か腑に落ちない。
何かが矛盾してるような気がするようなしないような。
「……て、前を見る為の目でどうして後ろが見れるんだよ!」
彼女自身がそう言ったのに、それを自ら否定したものだ。
「あれ、なんだい? 目は前を見る為にあると全ての人が知ってるのではなかったのかい? 私は今後ろを見る為に目を使ったぞ」
「うっ……でも、それを言ったら、そっちも嘘を言ったことになるじゃないか」
「いや、嘘は言ってないよ」
「いや言ってるって。矛盾してるって」
「私は後ろを見ていても前を見ることができるんだよ」
「……はい?」
後ろを見ながら前を見る?
やっぱり矛盾している。それとも、まさかのとんちオチなんだろうか?
一休さんなんだろうか?
「私はね……例え後ろを向いていても、目が見えなくても、前を見ることが出来る。後ろなんてもう振り返らない、暗闇なんてすぐに抜け出してやる。そしてね、しっかり前を向いて生きていくの」
「はは……」
なるほど。
前向きに、てことか。
でも案外難しいんじゃないかな、それって。
目があるだけで出来ることなのかな。
「出来るよ、だって――」
彼女はそうやって僕の目をじっと見て、言う。
「キミがいる。そのことがわかるだけで私は前を向いて生きられる」
ああ、今度こそ本当になるほど。
僕はわかったと答える代わりに、彼女の目をじっと見つめ返した。



これを見て、すこしでも笑っていただけたら、私も幸せです。

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