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  独逸奮闘記 作者:ws
第8話 ペトログラードにて
 
 1915年10月19日、ヴィルヘルムはヴィルヘルム2世と共に海路でぺテルスブルクへと到着した。
 非公式な訪問である為に盛大な歓迎などは無い。
 2人はドイツの近衛兵に護衛されて、ドイツ製の自動車に乗り込み、冬宮殿へと向かった。
 車に揺られて十数分も掛からないうちに、緑と白の石材を用いたロココ建築の冬宮殿が見えてきた。
 ネヴァ川を越え、宮殿広場を横切って、真正面にきたところでヴィルヘルムは感嘆の声を上げた。
 冬宮殿はベルリン王宮に勝るとも劣らない壮麗かつ壮大であった。


 やがて、車は冬宮殿の門に横付けして止まった。


 それぞれの護衛の車から、近衛兵達が降りて、周囲を警戒すると同時に後部座席の片方のドアを開ける。
 ヴィルヘルム2世、ヴィルヘルムの順で車から降りると、同時に門の傍で待機していた1人の黒衣を纏った男が2人に近づいてきた。
 彼はヴィルヘルム2世に一礼し、ヴィルヘルムの前にきて、片膝をついて、頭を垂れた。
 ヴィルヘルムが困惑するよりも早く、男が口を開いた。
 彼の口から出てきたのはたどたどしいドイツ語であった。

「遥かな時の彼方より、よくぞお出でくださいました。私が生きているうちにあなた様と会えたことを聖母マリアに感謝します」

 これに対して衝撃を受けたのはヴィルヘルムだった。
 すかさず、彼はヴィルヘルム2世へと問い詰めるような視線を送る。
 しかし、ヴィルヘルム2世は呆気に取られた顔であった。

「あなたは?」

 ヴィルヘルムは一度、深呼吸してから男に問い掛けた。

「グリゴリー・エフィモヴィチ・ラスプーチンと申す者です。不審に思われておられるかと思いますが、皇帝陛下がお待ちしております。今は我慢してください」




 ラスプーチンの先導で、ヴィルヘルム2世とヴィルヘルムは会談場所へと案内された。
 その間、見目麗しい装飾などに目を向ける余裕はヴィルヘルムには無かった。


 会談場所は応接室のような場所であった。
 入って、右手には大窓が幾つもあり、晴天ならば太陽の光を取り込むことができるだろうが、残念ながら、今日はどんよりとした曇り空であった。
 部屋の中央に置かれたテーブルとソファ、その一方に壮年の男性が座っていた。
 彼は3人が部屋へと入ってくると、立ち上がって、笑みを浮かべた。

「久しぶりであるな」
「うむ。そなたも元気そうで何よりだ」

 そんなやり取りがヴィルヘルム2世との間で行われた後、男はヴィルヘルムへと視線を移した。

「そなたがヴィルヘルム・フォン・ルントシュテットか?」
「はい。本日はロシア帝国皇帝陛下に謁見を賜り、感謝の極みにございます」

 ヴィルヘルムはそう述べた後、一礼した。
 その挨拶に男……ニコライ2世は軽く頷いて、ヴィルヘルム2世に問い掛けた。

「彼がドイツの宰相で間違いないのかね?」
「うむ。見た目は幼く、色々とあるが、間違い無く有能だ」
「よろしい。ならば、ルントシュテットよ。一つ、そなたに問いたい」

 ニコライ2世はヴィルヘルムに再び視線を移した。

「何故、ストルイピンが失敗したか、簡潔に答えよ」

 ヴィルヘルムは記憶の中からストルイピンについて引っ張り出す。
 ヴィルヘルム2世の信頼に応える為に、ついでに株を上げる為に、的確な解答をせねばならないのだ。

「最初がいけなかったのだと思います」
「最初……かね?」

 ニコライ2世はヴィルヘルムに興味深げな視線を送り、続けるように促した。

「はい。彼は平静の後に改革を行おうとしました。しかし、その平静のやり方に問題があったのです。まずは民衆に飴を与えて甘やかしてから、鞭を振るうやり方であれば民衆はストルイピンに味方したことでしょう。民衆にとって何よりも必要なのはパンです。それを必要なだけ与えてくれる支配者であれば、彼らは誰にでも尻尾を振るでしょう」
「なるほど。他に何かあるかね?」
「陛下をご批判してもよろしいのなら、5時間は話せるほどの量がありますが?」

 その言葉にニコライ2世は諦観の笑みを浮かべた。

「余にも、そなたのような者が傍におればよかったのだが……」

 この言葉に対して、ヴィルヘルムは凛とした声で告げた。

「ロシア帝国の皇帝ともあろう御方が弱気になってはいけません。ヴィルヘルム2世陛下が何を仰ったのか知りませんが、ロシアを立て直す方法はまだあります」
「そのことについてだが、ヴィルヘルムを交えて、予ねてからの通り、ロシア帝国再生の最終的な内容を決定したい」

 ヴィルヘルムの言葉に続いて、ヴィルヘルム2世がそう言った。





 そういうわけでロシア帝国再生の最終的な内容が話し合われ、夜の帳が下りる頃にようやく決定した。

 ロシア帝国再生の為には一度、ロシアを革命派の手に委ねた後、ドイツの手を借りて叩き潰すというものだった。

 無論、皇帝が我先にと逃げ出すのではなく、ギリギリまで留まって戦い、最後の最後に脱出という形を取る。
 またフランスが支援してくれないことは明白なので、フランスとの同盟は解消する。

 これに対する報酬として、ポーランド及びバルト海沿岸部をドイツへと割譲し、バルカン半島及びトルコでのドイツの行動にロシアは妨害しないことなどが決められた。

 そして革命派を叩き潰した暁にはロシアはドイツとの同盟を結ぶことも決定された。 
 これに関して、ヴィルヘルムはイギリスの反応を懸念したが、ヴィルヘルム2世とニコライ2世の「フランスよりはマシだろう」、「海軍は強いが陸軍は弱いから、ちょうどいいのではないか」という意見に納得してしまった。

 イギリスのフランス嫌いは歴史的な経緯もあって相当なものなのであった。


 そして、ニコライ2世との会談の終了後、ヴィルヘルムは1人、グリゴリー・ラスプーチンに呼び出されたのであった。
次回、ラスプーチンとの会談とロマノフ4姉妹と面会。


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