第20話 大戦勃発
1918年 4月27日 午前11時
宣戦布告文がベルリンの外務省にて外務大臣から駐独ハンガリー大使に、そして、ハンガリーのブダペストでは同じように駐洪ドイツ大使からハンガリー政府の外務大臣に手渡された。
宣戦布告の口実……もとい、大義名分は在ハンガリーのドイツ人保護というものであり、その為にRZIAによりドイツ人が害された、という情報が各国へ盛んに喧伝されていた。
それからおよそ30分後、事態を知ったフランスがハンガリー側に立ってドイツに宣戦布告、オスマントルコ及びイタリアもまたフランスに続いて、ドイツに宣戦布告。
対してイギリスが同盟条項に則り、ドイツ側に立って参戦、オーストラリア、ニュージーランド、カナダなどがイギリスに続いて参戦、日本もまたドイツ側に立って参戦。
欧州を発火点とし、各国を巻き込んだ大戦争の勃発であった。
ベルリン王宮の皇帝執務室にて、ヴィルヘルム2世はソファに座り、ただ目を閉じて連絡が来るのを待っていた。
フランスをはじめとした反独諸国が連合を組んで、ドイツに宣戦布告することは当の昔に想定された事態。
そして、イギリスをはじめとした同盟国がすぐに動けないのもまた予定された事態。
何ら焦ることはない。
今の彼は明鏡止水の境地に至る為に瞑想をしている……という高尚なものではなく、ただ単に暇だからそれっぽく格好をつけているだけだ。
ポーズをするのにも飽きてきた頃、慌しい足音を彼は聞いた。
部屋の扉がノックされる。
彼が許可を出すや否や、「失礼します」という声と共に足早に補佐官が入室してきた。
「陛下! 性根の腐ったブタ野郎のフランスとその他の国が我が国に対して宣戦を布告しました!」
普段なら叱責されるだろう、その汚い言葉遣いに対して、ヴィルヘルム2世は笑みを浮かべる。そう言うように指導したのがヴィルヘルムである、と知っていたからだ。
何故、そのように言うのかヴィルヘルム2世が彼に問い掛けたところ、様式美という答えが返ってきている。
フランス側から戦争を吹っかけられた場合には必ずそう言うのが彼の様式美らしい。
そして、彼の要望通りにそう言う補佐官も律儀だった。
「報告ご苦労。軍や各省庁には全て予定通り、と伝えるように」
ヴィルヘルム2世はそう言って、補佐官を下がらせると、昼食を頼むべく、執務室に備え付けられた大量のメニューを取り出した。
同日 午前12時過ぎ
「こいつは凄い。鉄の暴風だ」
ヴィルヘルムは小高い丘の上に立ち、双眼鏡で戦場を覗いていた。
彼の横にはロンメル中尉が同じようにしている。
105mm、127mm、155mmの各種野砲の間断ない砲撃により、難聴になるのではないか、というくらいに辺りは五月蝿かったが、ロンメルにはヴィルヘルムの声が不思議と聞こえた。
「まだ始まりです!」
ロンメルは怒鳴った。
その声に気づいたのか、ヴィルヘルムが彼へと顔を向ける。
そのとき、無数の光の矢が独特の飛翔音を発しながら、ハンガリー軍の陣地へと撃ち込まれた。
皇帝のオルガンの異名を取る多連装ロケット「ヴルカン」が発射されたのだ。
トラックに発射台のレールを取り付けた、史実のソ連軍のカチューシャやマリーカそのまんまであり、面制圧兵器としてドイツ軍では多用されている。
「きれいな花火だ!」
その花火を受けている側からすれば堪ったものではないが、完全に人事であるのですっかり観客気分のヴィルヘルム。当然、彼のやることは軍人で生計を立てている者からすれば、良いものではない。
故にロンメルが「これだから貴族のお坊ちゃんは……」と心の中で思うのも当然であろう。
もっとも、ヴルカンの発案者がヴィルヘルムだと彼が知っていたならばまた違った思いを抱いたに違いないが。
ともあれ、歩兵に頭を上げさせない、という点でヴルカンは最適な兵器だった。
そのとき、ヴィルヘルムが盛んに上を指差しているのにロンメルは気づいた。
つられて上を見上げると、そこには無数の航空機の群れが敵陣目掛けて向かっているのが見える。
後方に展開した戦術空軍が航空支援にやってきたのだ。
「単発機と双発機合わせておよそ5、60機か? ふむ……米帝にはまだ及ばんな……いやまあ、他の戦線もあるだろうけど、二次大戦後期の米帝ならそれでも5、6倍は投入できるしなぁ」
ヴィルヘルムの呟きは砲声に掻き消されてロンメルには聞こえなかった。
生命研究センターの一室にて、エリカは開戦の報を知った。
彼女の同僚や上司が熱狂する中、彼女は憂鬱な顔で自身の下腹部を優しく撫でた。
時間はヴィルヘルムがエリカに次の戦争で従軍することを話したときにまで……およそ半年程遡る。
「嫌です!」
話した途端に返ってきたその言葉にヴィルヘルムは困惑した。
そんな彼を余所にエリカは彼に抱きついて、その首筋に顔を埋める。
「嫌です……ヴィルヘルム様がそのような危険なところに行くなんて……」
「危険といっても、司令部にくっついていくだけだぞ? 実際の仕事はレポート纏めるだけみたいだし」
「嫌……です……」
ほとほと彼は困り果てた。
彼は長い付き合いのメイド2人に助けを求める視線を送るが、その2人は会釈して、そそくさと部屋から出て行ってしまった。
内心、溜息を吐きながら彼は言葉を紡ぐ。
「陛下の命令だ。それに個人的にやっぱり武功が欲しいし……いや、自分でもそんな功績上げられるとは思えないけど」
戦場で指揮を取る、ということは付け焼き刃の知識でどうにかなるようなものではない。
もしどうにかなったならば、それは生まれ持った素質かただ運が良かったかのどちらかだろう。
「なら……陛下の命令を断ってください……私はお金も権力も何も入りません……ただ、あなたがいてくれれば……」
ひっくひっく、と泣き始めたエリカにヴィルヘルムは「あー」とか「うー」とか唸り始める。
彼自身、彼女にまるで恋人のように愛されているとは思っていなかった。
ただ縋る対象として、言うなれば宗教における神の代わりにされていると思っていたのだから。
いつの間に気持ちが摩り替わったんだ、と彼は思ったが、このような場面で考えるのは無粋だと思い、頭からその考えを追い出した。
「エリカ……」
彼はゆっくりと彼女の背中に両手を回し、耳元で囁いた。
「……ごめん」
「どうしてですか!?」
彼の謝罪の言葉にエリカは顔を上げて、彼を真っ直ぐに見据え、叫んだ。
そのとき、彼は見た。
彼女の綺麗な碧い瞳は涙で一杯になっているのを。
今までにない彼女の反応に彼は困惑しつつ、言葉を紡ぐ。
「陛下との付き合い、というものも勿論ある。それにさっきも言ったように武功を上げたいというのも本当だ。しかし……俺は今まで何人もの将兵を国家の利益……国益の為と割り切って死に追いやってきた。それに関しては後悔していない」
そこで一度言葉を切り、テーブルの上に置いてあった水差しからコップに注ぎ、一気に飲み干す。
喉を潤して、再び彼は口を開いた。
「きっと戦場はこの世の地獄だろう。安全といっても、戦死する可能性は勿論ある。だが、男はどうしようもない生き物だ。戦争と聞くと、心が昂ぶってしまう。例えどんなに忌避しても、心の奥底では祖国の軍服を着て、銃を持って戦いたいと思ってしまう。俺が戦場へ赴く理由は大したことじゃない。ただ祖国の為に最前線で例えそれで重傷を負っても、例えそれで死んだとしても、俺は後悔しない」
彼の口から言葉が飛び出してくる。
彼自身、ここまで饒舌になれるのか、と内心吃驚していた。
「それに……知っているか? 将軍から兵卒まで、どいつもこいつも自然な笑顔なんだ。自分が国の為に戦える、と心の底から信じて、笑って戦場へ行く。死の危険があるとしても、だ。そんな彼らを見て、感化された。きっとさっき言った理由はこじつけで、本当の理由はそんな風に笑える彼らが羨ましいからなのかもしれない」
そこまで言って彼は口を閉じた。
昭和後期生まれの、戦争どころか戦後の苦しい時代すら体験していない彼は国家の為に何かをする、ということが選挙での投票を除いて皆無であった。
それなのにひょんなことから、彼はこの時代に放り出され、その機会が与えられている。
また、前線に行っても問題ない、と彼自身が判断したのは、もはやドイツはそう簡単に滅亡しない、と判断したせいでもある。
各国の人材を青田買いし、良い環境を与え、技術でドイツが世界をリードできるようにし、特許料やら何やらで安定した財源を確保。
また、ドイツが袋叩きに遭わないように列強最強のイギリスと潜在能力が非常に高いロシア、恩には恩でもって報いてくれる日本、弱体化しても超大国になりうる素質があるアメリカと友好的に付き合っていく。
そして、ドイツ国内の産業基盤を整え、発展させることで、国力そのものを底上げする。
ドイツが滅亡するのはそれこそ、ドイツが何がしかの抜け駆けをして列強から袋叩きにされるか、どうしようもならない自然的要因によるものだとヴィルヘルムは考える。
そして、たとえ彼が死んでも、彼を宰相と知っている国民は皆無に等しいが故に対した混乱は起こらない。
未来の知識を持っている彼だからこそできた策は既に達成されていた。
そして、彼が転生直後に書き殴ったメモも綺麗に纏めてヴィルヘルム2世に提出済みだ。
やがて、小説家としてのヴィルヘルムは求められても、宰相としてのヴィルヘルムは求められなくなることを彼は気づいていた。
10年後には自分は今の地位にいないだろう、と。
おそらく、レーヴァテイン計画も「何に対して使うのか?」「頭の中にいる想像のドラゴンとでも戦うのか?」という議論になって打ち切られる筈だ、と睨んでいた。
それはそれで寂しいが、現実の前に浪漫は破れるからしょうがない、と半ば諦めてもいた。
彼自身、無理のある計画だよな、と提案したときはともかく、後になって冷静に考えればそう思ってしまったのだ。
ともかく、そのような事情で国家としては自分がいなくても問題ないのだから、自分がここで前線に行っても良いだろう、と。
ヴィルヘルムの言葉を聞き、エリカは顔を俯かせている。
今回のことは彼女としては堪ったものではなかった。
確かに当初こそヴィルヘルムは彼女の縋る対象だった。
そのままの関係ならば、エリカはヴィルヘルムに対して絶対に反抗しない存在になっており、今回も渋々ながら認める筈だった。
しかし、非常にベタであるが、彼に優しくされるうちに恋愛の対象へ摩り替わっていった。
ヴィルヘルムはベッドの上では勿論、日常においても、エリカに対し恋人に接するかのように接してしまった。
例えばソファに座って、エリカを寄り掛からせて、彼女の髪を手で梳いて、彼女を褒めたり。
例えば彼女の誕生日にはレストランを予約し、そこでプレゼントを贈ったり。
彼女が勘違いするのも無理は無かった。
エリカは顔を俯かせたまま、ポツリと呟く。
「……ヴィルヘルム様が自身の欲望に素直であることは私がよく知っています」
「だろうね」
「ですが、今回の件に関しては私も貴方様に我が侭を言わせてもらいます」
エリカは顔を上げ、ヴィルヘルムの目を見据える。
「ヴィルヘルム様……私に貴方様の子を孕ませてくださいませ」
予想外の我が侭な要望に彼は目を白黒させた。
してやったり、と涙を拭いながら、笑みを浮かべるエリカがいた。
「ヴィルヘルム様……どうか、ご無事で……」
半年前のことを思い出し、半ば無意識に出てきたエリカの祈るような言葉は虚空に消えた。
同日 14時過ぎ
ヴィルヘルムは司令部と共にいよいよ前進となった。
そして、彼は予想とは違うやり方に目を丸くしていた。
「……凄く意外だ」
「そうでもないです」
彼の言葉にロンメルはそう返した。
オートバイに跨ったオートバイ擲弾兵、兵員輸送車という名目の軍用トラックに乗車した擲弾兵、トラックに牽引される野砲や対戦車砲、多連装ロケット発射台であるヴルカンを搭載したトラック、申し訳程度の装甲を施し、7.92mm機銃を搭載した装輪装甲車。
それだけだった。
戦車も自走砲も無かった。
しかし、確かに第2連隊麾下の部隊には装甲大隊があった筈だし、現にヴィルヘルムは砲撃の後、戦車達を押し立てて、突撃していく様を目撃している。
「いやだって、突破力が必要でしょ? 敵の戦線を突破して後方に回り込んで、と」
「ええ、そうです。その突破力に必要な速度が今の戦車では得られません。ベルギーで得た戦訓です。あのときは鈍足の戦車と共に進軍した為にフランス軍が集まってきて非常に苦労しました。それからは戦車は後詰として使われるようになりまして」
暗にもっと良い兵器寄越せ、と言っているようにも聞こえるロンメルにヴィルヘルムは苦笑する。
一番最初に敵陣に飛び込むのが脆弱なトラック達ということになる。
ドイツにとって不幸なことはベルギー戦前まではその鈍足な戦車達を先頭にゆっくりと進撃してもどうにかなってしまったことだ。
もっとも、一部の部隊というか、グデーリアン大佐はそれでは駄目だ、戦車よりは速いトラックやオートバイを先陣、後詰として鈍足の戦車を投入するという戦法に変化した。
無論、これは戦車の性能が向上するまで、という期限付きだ。
ヴィルヘルムはある疑問をロンメルに投げ掛けた。
「敵の戦車をどうやって破壊したんだ?」
「野砲の水平撃ち、対戦車砲による攻撃、ヴルカンの乱射、擲弾兵による地雷攻撃です。また、対戦車兵器としてベルギー戦時に配備されたパンツァーファウストですが、射程距離が非常に短い上に威力不足な為に肉薄攻撃の方がマシです」
ヴィルヘルムの顔がそれを聞いて蒼くなった。
その蒼い顔のまま、彼はロンメルに震える声で尋ねる。
「それは、どうなった?」
蒼い顔のヴィルヘルムに首を傾げながら、ロンメルは答えた。
「私の部隊のものは全て返却しました。他にも多くの返却があったらしく、兵器局は改良すると言ってましたが」
「……そうか」
深刻な顔つきのヴィルヘルムにロンメルは訳が分からずに首を傾げている。
全て、とは言えないが、これはヴィルヘルムの失点だった。
配備に関しては確かに彼は許可した記憶があるが、その返却云々に関しては記憶が無い。
帰ったら陛下に問い質そう、と彼は心に決めて、その問題は保留にすることにした。
「ルントシュテット中佐! ロンメル中尉!」
2人は呼ばれた方を反射的に向くと、そこには若い兵士がいた。
階級章からは上等兵だということが分かる。
より正確に言うならば、上等装甲擲弾兵となる。
最下層の階級である兵よりも一階級上であるが、扱いとしては兵と余り変わらない。
彼は2人に駆け寄ってくるなり、見事な敬礼を披露した。
「連隊司令部直轄特務装甲擲弾兵小隊のベルネットであります!」
「特務装甲擲弾兵小隊?」
ヴィルヘルムとロンメルは顔を見合わせた。
そんな部隊、彼らの記憶には無い。
その2人の様子を察したのか、ベルネットは補足した。
「詳細はグデーリアン大佐にお聞きください」
彼のその言葉に2人は素直に従うことにした。
「率直に言えば君の兄であるルントシュテット大佐が原因だ」
司令部にいたグデーリアンは2人が尋ねてくるのが予期できたのか、やってきた彼らに対して手短に告げた。
そして、ヴィルヘルムはそれだけで納得できてしまった。
「偵察程度はやってもらうつもりだし、形だけでも何かやってもらわないと私が彼から怒られる」
「……私の仕事はレポートを纏めることだと聞いていたのですが?」
その問いにグデーリアンは苦笑し、告げる。
「上官命令だと思ってくれたまえ。それに陛下も承知していることだ」
すっかり外堀内堀も埋められていたヴィルヘルムは顔には出さずに内心溜息を吐いた。
グデーリアンもヴィルヘルムが素人に限りなく近いものであることは知らされている。
そんな彼に心の中で謝罪しつつ、グデーリアンは言葉を紡ぐ。
「君には1個装甲擲弾兵小隊を預ける。司令部の前方に展開して、適宜、状況を知らせてくれ」
司令部から出たヴィルヘルムとロンメルは足早に特務装甲擲弾兵小隊に向かっていた。
その途上、ヴィルヘルムは傍らのロンメルに言った。
「……中尉、何だか妙なことになったが、君のことは頼りにしている。よろしくないところは指摘して欲しい」
「分かりました、中佐。とりあえず、最初の指摘として、兵達の前で弱気なことを言わないことです。ハッタリでも良いから、ドンと構えていてください。それだけで兵達は安心します」
「わかった」
神妙に頷くヴィルヘルムにロンメルは彼の評価を若干上方修正した。
小隊長をはじめ、数十人の下士官や兵士達の視線を浴びながら、ヴィルヘルムは口を開いた。
「私がヴィルヘルム・フォン・ルントシュテット中佐である。早速だが私は諸君達に誓約する。私は諸君らと共に突撃し、敵を粉砕することを。また、何か意見があったならば遠慮なく言って欲しい」
物怖じせずにそう告げるヴィルヘルムの姿は傍目からすれば、一丁前の将校だったが、内心は不安で一杯だった。
しかし、彼はその胸の内を少しも出さなかった。
「小隊長のビットナーです。中佐、我々の任務は?」
少尉の階級章をつけたビットナーはヴィルヘルムよりも2、3歳年上だった。
また他の兵士達も洩れなく彼よりも若干年上、そして下士官に至っては10歳近く歳が離れている。
今年の6月でようやく18歳となるヴィルヘルムに対して、彼らは興味深げな視線を、下士官達は厳しい視線を向けていた。
それらの視線を無視しながら、彼はビットナーの質問に答える。
「我々の任務は司令部の前方警戒だ。前線部隊と司令部の間に位置し、前線部隊が撃ち洩らした敵の掃討及び情報収集が主任務となる」
その言葉に明らかに落胆の表情を見せる若い兵士達。
彼らからすればようやく鍛えに鍛えた腕前を見せることができる機会なのだから、そう思ってしまうのは仕方が無い。
さすがに士官としての教育を受けているビットナーと下士官達はそのような顔はしない。
ともあれ、ヴィルヘルムは兵士達をやる気にさせるべく、言葉を紡ぐ。
「残敵掃討と情報収集は華やかさに欠けることは認める。だが、頭脳である司令部を予期せぬ事態から護る、というのは大切だ。それに残り物には福があるということわざがあってだな、前線部隊が取り逃した大物がいる可能性も否定できない。それに諸君らが堅実な戦果を挙げればそれだけ早く華やかな仕事にありつけるだろう。以上だ」
ヴィルヘルムの言葉を聞いても、まだ不満顔の兵士達を下士官がそれぞれのトラックに乗車させていく。
「……まあ、及第点でしょう」
傍らに立っていたロンメルの言葉にヴィルヘルムは肩を竦めてみせる。
「中佐! 中尉! こちらです!」
先ほどのベルネットが2人を呼ぶ。
彼は2人が乗ることになる装輪装甲車の関係者のようだ。
彼の横には緊張した面持ちで敬礼している彼の相方がいる。
この装輪装甲車はsdkfz208というものだ。
sdkfzとはSonderkraftfahrzeug、ドイツ語で特殊用途車両というコードであり、その後ろにある番号は車両番号だ。
なお、番号の付与については、あまり一貫した基準はない。
このsdkfz208は1912年に開発が開始され、1915年に実戦配備が開始されたこの車両はドイツ軍初の装甲車だ。
性能としては可も不可もない。
32km/hの最高速度と前述したトラックよりはマシ程度の装甲、オープントップ式の4輪車であり、7.92mm機銃を1丁備えている。
運転手と射手の他に3名程度乗る余地があった。
「そっちの君は?」
ベルネットの隣にいる相方にヴィルヘルムが問い掛ける。
「自分はディーツであります!」
そう答える彼にヴィルヘルムは軽く頷き、口を開く。
「ベルネット、ディーツ、よろしく頼むぞ」
ヴィルヘルムの言葉にベルネットとディーツは声を揃えて、大きな声で「どうぞお乗りください!」と言った。
彼とディーツは貴族の将校を間近で見て、言葉を交わしたのはヴィルヘルムが初めてのことだ。
そして、彼らは装甲車に乗り込んだ。
出撃はすぐ間近にまで迫っていた。
就職するか、進学するかで迷いに迷ってました。
結局、就職活動をして色々経験を積みつつ、進学も考えるという微妙なことに。
とりあえず、更新できなくてすみませんでした。
プロローグとかその辺を今、見ると、悶えたくなるような恥ずかしさに襲われます。
順次改訂してく予定です。
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