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  独逸奮闘記 作者:ws
改訂しました。
第1話 改変開始
 
 それから月日は流れ、ヴィルヘルムが3歳になった頃、彼はようやく自力で言葉を話し、聞き、読み、書くことができるようになり、更に家庭教師として雇われたシャルロッテの授業により、礼儀作法やこの時代の教養も身につけることができたのだった。
 なお、シャルロッテは教育が完了すると同時に雇用契約も切れる予定だったが、ヴィルヘルムのおねだりにより、彼の話し相手として雇うことになった。
 また、ヴィルヘルムはゲルトに進言してアメリカのヘンリー・フォードへ出資することを認めさせた。
 そのときの説得方法が「誕生日プレゼントに父上の運転する車に乗りたい」という、子供であることを最大限に利用したやり方であった。
 ヴィルヘルムの父親であるゲルトも母親であるクララも、手が掛からなくて寂しく思っていた矢先の出来事で、ほいほいと承諾してしまったのだ。








 ヴィルヘルムは自室で机の上に画用紙を広げ、あるものを書いていた。
 そこに入ってきたのはネリーであった。

「ヴィルヘルム様、3時のお茶とお菓子を用意いたしました」

 本来ならここにシャルロッテもいるのだが、彼女は現在実家に帰っていて、ここにはいない。

「ん……ちょっと待て。あと少しだ……」

 そう言って、ヴィルヘルムは最後の仕上げを5分ほどで終えた。

「できた。ネリー、これ、どう思う?」

 ネリーに紙に書いたものを見せる。
 彼女は書かれた絵に思わず息を飲んだ。
 絵自体は鉛筆を使って書かれたもので、上手くも下手でもない。
 しかし、書かれているものが問題だった。

「戦艦……ですか?」

「そう戦艦。イギリスを打倒する為に皇帝陛下が戦艦を作っていると小耳に挟んでね。描いてみた」

 彼の計画はどうにかしてこの絵を皇帝陛下に届けて、自分に興味を持ってもらい、改革をしよう、というものだ。

 早い話が取り入るということである。

 彼が描いた絵は史実でアメリカで計画されたモンタナ型。
 横から見た図と前から見た図、後ろから見た図、上から見た図を大きな画用紙に描いてある。
 もっとも彼は造船技師でもなければ設計士でも無いので、落書きレベルだが、充分に特徴は伝わるだろう。
 ドレッドノートが存在していない1903年の時点で、艦の中心線上に主砲を据え付けて、左右両弦を指向できるようにすることは充分過ぎるくらいに革新的であった。
 
 このことを示すだけならば、第二次大戦期の戦艦であれば何でも良いが、敢えてモンタナにした理由は至極単純なものだ。

 ヴィルヘルム2世はそこまで軍事に詳しいというわけではない。
 故に素人目に見たならば、単純に主砲の数が多いほど興味を惹いてくれる、とヴィルヘルムが考えた結果である。
 それならキングジョージ5世とかでも主砲の数は同じだが、見た目のバランスを考えてモンタナとなったというわけだ。
 また、他の画用紙には戦車や飛行機といったものを紙に書いていたりする。
 5号戦車であったり、メッサーシュミットBF109やらフォッケウルフFw190であったり……これらはイギリスもまだ作っていない新兵器である、という触れ込みならばまず間違い無く、食いついてくるとヴィルヘルムは考えたのだ。
 実際のところ、ヴィルヘルム2世の人物像というのは他の歴史上の人物と同じく、こういう思想を持ち、こういう性格の人物である、という確実なものがない。

 一般的に知られているものでは稚拙な外交政策により、ドイツ帝国を崩壊へと導いた張本人とされており、また他の説では官僚が作成した政策に許可を与えるだけの存在であり、開戦を最後まで防ごうと奔走した人物……というように正反対だ。

 ともあれ、ヴィルヘルムはどの説が正しいにせよ、イギリス、フランス、ロシアとうまく付き合わなければ袋叩きにされると知っていた。
 というよりも、史実が正にそうだ。

 しかしながら、彼はヴィルヘルム2世の家系を考えればそれは余程のことをしない限り、有り得ないと考える。
 
 ヴィルヘルム2世はイギリスのヴィクトリア女王の孫にあたり、ロシアのニコライ2世とは従兄弟同士であり、また両国との関係はビスマルク体制崩壊前まで険悪というわけでも無かった。
 ロシアは1894年にフランスと同盟を組んでおり、ドイツが中東進出(いわゆる3B政策)を開始した今、ロシアとの関係は悪化してはいるが、まだ致命的なまでに悪化はしていない。
 中東進出を取り止めて、ロシアをフランスよりも大規模に支援すればドイツの側に靡いてくれる可能性はある。

 問題はロシアの南下政策とそれに対するイギリスの反発だが、そこはドイツが仲裁をする必要があった。

 ともあれ、イギリス、ロシアと一緒の側に立つことは不可能ではない。
 そして、この時代では太陽の沈まぬ帝国として君臨しているイギリスは伝統的にフランスを嫌っており、フランスと組むよりはドイツと組む方がまだマシと考える可能性が高い。

 
 イギリスをドイツの側に引き込み、できるならロシアも引き込む。
 それから穏便に周辺の中小国を併合或いは傀儡化し、ゆっくりと勢力を拡大する。 

 それがドイツがヨーロッパで生き残りつつ、それなりに繁栄する為の条件であるとし、それらを達成できなくとも、イギリスをドイツの側に引き込むことが生き残る最低条件だとヴィルヘルムは確信していた。

 つまるところ、彼の考えはビスマルク体制の維持に少々の追加をしたものといえた。
 もっとも、ドイツとして纏まる為にはヴィルヘルム2世の、すなわちドイツ皇帝の権威と権力をドイツのありとあらゆる場所に浸透させなければならない。
 
 ドイツは連邦国家であり、分裂の火種は少なくない。
 それもその筈で、ドイツという国家は1870年の普仏戦争勝利時、ヴェルサイユ宮殿にて、当時のプロイセン国王ヴィルヘルム1世がドイツ諸侯に推戴される形で成立している。
 火種が無いという方がおかしかった。

 そのようなドイツを手っ取り早く強化していくにはドイツ皇帝が他者と隔絶した権威と権力を持つ必要がある。
 この時代にはまだ影も形も無いスターリンのソ連から強制労働と秘密警察とシベリア送りを取り除いたような、稀に見る独裁国家の方が国内の改革にだけ着目すれば理想的だろう。
 その独裁国家は極端に言えば、トップが烏は白いと言えば、それが国内の常識となるような、民主主義者にとっては悪夢とでも言えるような国だ。

 そして、皇帝の権威・権力を高める方法を間違えれば一気にドイツ分裂・内戦へと突入し、英仏露の介入を招きかねない、というハイリスクなものでもある。
 しかしながら、そうしないととてもではないがしがらみが多過ぎて、大鉈を振るうことはできない。
 ヴィルヘルムの心情としては、座して死ぬか、行動して死ぬかというものだ。
 


 彼には野望があった。
 それは金持ちになって云々というものも勿論ある。
 しかし、それに加えて、自身が惨めな生活を送らないようにドイツについてあれこれ考えたこの3年で更に2つできた。

 それは歴史に名を刻むことと、絶対に不可能とされている歴史のIFの実験だった。






 さて、ヴィルヘルムが3年経った今でも前の知識をそこそこ詳しく使えることには訳がある。
 彼は文字が書けるようになるとすぐに覚えている限りの知識とこれから起こるであろうことを書き記した。
 人間の頭は何時までも細部まで覚えていられるようにはできていないが故の苦肉の策だ。

 問題はどうやってヴィルヘルムの考えを皇帝に知らせ、そして、採用してもらうか、だった。
 

 困ったときは父上だ、と思い立ったヴィルヘルムはネリーに告げた。

「ネリー、済まないけど、父上を呼んで来てくれないか? 見せたいんだ」
「わかりました。すぐに呼んできます」

 ネリーはトレイをテーブルに載せ、部屋を出ていく。
 彼女を見送って、ヴィルヘルムはお茶を楽しむことにした。







 ネリーが出て行っておよそ10分後、グスタフが足早にヴィルヘルムの部屋にやってきた。
 そして、ヴィルヘルムが描いたものを見てゲルトは一言。

「ヴィルヘルム、私は海軍には詳しくは無いが……コレは今のイギリスには無い斬新なモノだと思うんだが……」

 ヴィルヘルムは毅然と告げる。

「父上、皇帝陛下との謁見を望みます。まずは陛下の考えを変える必要があります」
「どのように?」
「このままではドイツは遠からずイギリスやフランス、ロシアを相手に戦争をすることになります」

 ゲルトは思わず唸った。
 彼もまた同じ意見であるからだ。
 
 賢い子だとは思っていたが、これほどまでとは……

 驚きながら、ゲルトは口を開いた。

「しかし、皇帝陛下と謁見できたとしても、お前ではあしらわれて終わりだろう。それに私の知っている限りではどうも陛下は周辺の国々とは仲良くしたいようだが、陛下の取り巻きが過激というか、好戦的というか、どうもドイツの力を過信しているらしい。彼らを排除せねばどうにもならない。もはやモルトケ元帥もビスマルクもおらん。彼らがいたからこそ、ドイツは平和であったのだ」

 どうする気だ、と視線で問い掛けるゲルトにヴィルヘルムはヴィルヘルム2世の事実に吃驚しながらも、問い掛ける。

「父上の最終階級は?」

 その問いにゲルトはピンときた。

「少将だ。参謀本部にもいたし、普仏戦争のときには前線にもいた。それと、知り合いは軍だけではない」
「ではこうしましょう。私の話だけでは説得力に欠けますので、父上の知り合いを集めて、国家の分析やら戦略その他諸々に関する研究機関を作りましょう。父上にはその研究機関の長になってもらい、そこから提出という形にしてもらえれば……」

 ゲルトは顎に手を当てる。

 確かにそれならば無視される可能性は減るだろうが、そこまでうまくいくものだろうか。

 その考えを見透かしたのか、ヴィルヘルムは告げた。

「感情的な反論や未来は分からないなどの反論以外のできるだけ多くの反論を封じるだけの根拠を提示すれば納得せざるを得ません。それで納得しなければ、その輩は自身の無能を自ら証明することになります」
「……小さい癖にキツイ奴だな」

 苦笑するゲルトにヴィルヘルムは畳み掛ける。

「できるだけ早めに提出し、今のドイツの方針を転換すべきです。時間が経てば経つほど、ドイツの状況は悪化していきます」
「早速取り掛かろう。とりあえず、お前の考えを纏めて出してくれ」






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