「むかしむかし」とははじまらない、とっても最近のことでした。
わたしの名前は早苗といいます。わたしの友だちは久実、木香、未砂子といいました。
その場には、他にも男子が数名いました。が、名前は忘れてしまいました。なぜなら、わたしをふくめて、全員がいなくなってしまったのですから。
もう一度いいますが、いなくなってしまったのです。学校の中の、教室の中の、イス取りゲームという遊びの中で。
はじまりは、久実の一言だったと思います。たしか……。
「イス取りゲームをしようよ!」といったのだと思います。その話に木香と未砂子は乗りました。小学五年生にもなって、イス取りゲームなんて……とわたしは思いましたが、それにはちゃんとした理由があるようでした。
最近はインターネットの中の掲示板という所で情報を交換することがこの久実、木香、未砂子の三人の中ではブームだったのだそうです。三人の中だけではなく、全国的にブームなのかもしれませんが、わたしには、さっぱり分からないことでした。
その掲示板の中で、三人はある情報を仕入れたようでした。それは、『夕方に学校の教室ではイス取りゲームができなくなる。ただし、ゲームをはじめた場合は、おわりまでつづけなくてはならない』というものだったそうです。くわしくは書かれていないようでした。ですが、なぜできなくなるのか、という疑問が三人の中ではあったのでしょう。わたしは、ありませんでした。なぜって、見当がつきますから……。
その日、学校ではクラブ活動が行われていました。いつもの日より下校時間が、遅くなっています。わたしたちはキタクラブというクラブに所属していました。帰宅とクラブをかけ合わせた、すばらしいネーミングをもつクラブです。つまり、活動しないクラブです。放課後はたくさんの時間が取れるということです。
わたしたちは、キタクラブの男子数名を呼びました。女子はわたしたち四人だけでしたし、四人だけではイス取りゲームも、つまらないというものです。できればの話ですが……。
人数は数えてみると十三人でした。今、考えるとなんと不吉な数字でしょう。
六年生が数人いたような気がします。ほとんどが、わたしたちと同じ五年生でした。
イスが十一こ、用意されました。未砂子の家からラジカセも持ってきました。
まどからさす日が、赤みを帯びてきました。いつもは、きれいだと思う夕日の赤はその日だけは、血の色のようだったことを覚えています。
これで準備はととのいました。
だれかがラジカセの再生ボタンを押しました。
十三人のうち、もう一人は、音楽をとめる役目をしていました。たしか、わたしだったと思います。
──ゲームがはじまりました。
流れているのは、ベートーベンの『運命』
十二人は、十一このイスの周りをゆっくりと歩き始めました。
三十秒ぐらいたったとき、わたしはラジカセの停止ボタンを押しました。
ガタガタというイスをきそって座っている音が、教室にひびきました。
──全員が座れました。
「…………イスの数、まちがったのかな」だれかが、そうつぶやくと、イスを一つ、外しました。
イスの数は、十こになりました。人数は十一人です。
わたしは、もう一度再生ボタンを押しました。
そして、数十秒間のあと、停止ボタンを押しました。
──また、全員が座れました。
イスを一つ、外します。九つになりました。人数は十人です。
最初は、笑いながらゲームをしていたみんなが、だんだんと、無口になってきました。
だれも、やめようとはいいませんでした。掲示板に書いてあった『おわりまでつづけなくてはならない』を、守る必要はないと思いました。ですが、みんなは、取り付かれたかのように、何度も何度も、ゲームをつづけました。イスの周りを、くるったように、回りつづけました。わたしも、再生と停止のボタンを、何度も何度も、押しつづけました。
五人になりました。
四人になりました。
三人になりました。
二人になりました。
一人になりました。
その一人は、このわたしでした。
なぜか、イスが一つだけありました。
わたしは、だれもいなくなった教室で、イスに座りました。
|