パーティー
翌日、4人は朝から本居の部屋に集結した。
3階建ての一般的な一戸建てで、3階の3部屋は全て本居健二の部屋で、そのうちの1つはアトリエ、もう一つは作業場として活用されていた。
「実は誰かを入れるのは初めてなんだ」
本居はそう言いながらアトリエの扉を開いた。
「うわぁ・・・すご」
佳苗は思わずそう呟いた。
壁一面。天井にまで飾られたその額の数は一部屋だけでも軽く百枚以上だった。古今東西の失敗博物館である。
「一番気に入っているのはこいつかな」
本居はそう言って窓際にかかっている一枚を指で3回弾いた。そこには雑巾がけをしている最中に蹴躓いて顔面スライディングしている僧侶が描かれていた。となりには大便後に紙が無いことに気付いた瞬間の警察局長の絵がある。表情がリアルすぎて、どこかで盗撮したのではないかと疑いたくなるほどだった。隣には海パンが脱げた直後の飛び込み選手。その隣には眉毛をそり落としてしまった瞬間の床屋さんといった具合に決定的瞬間がずらりと並んでいる。
特筆すべきはその表情だった。顔を見るだけで何を考えているのか、どういう状況なのかが完全に把握できるのである。
「すごいな」
由一も思わず呟いていた。松本恵那だけが無表情だった。
「あ、これ見たことあるな」
佳苗がそう言って指差した絵には、お湯と思って飛び込んだら水風呂だった中年親父の哀れな姿が描かれていた。
「ああ、それはテレビ局が30万円で買ってくれたんだ。著作権をね。実際にはそれとあと20枚の絵の権利をだけど。たまに流れてるよ」
「へーえ・・」
佳苗は心底感心した。
「じゃあ、ついでにこれ全部売りなよ」
松本恵那が言った。
本居健二は彼女の顔の2センチ手前まで詰め寄った。
「ふざけるなよ。何で俺がそこまでしなくちゃいけないんだよ」
「いいじゃない。また書けば?」
絵を売ってこの部屋がただの白い部屋に変わる・・それが何か? と、松本の背中は語っているように由一には見えた。
本居は無視してドアを開けた。
どうもこの二人は仲が悪いらしい。由一はそう思いながらもとの部屋に戻った。
「まあ、こんな感じ」
本居はそう言って机の前に座った。
言い忘れたが、今日は4人が親睦を深めるための交流会だった。4人全員でそれぞれの家に行き、それなりの自己紹介的なことをして、解散するのだ。言いだしっぺは佳苗だった。
本居健二が一体どんな人間なのか、由一はだいたい理解した。百聞は一見に如かずとはこういうことを言うのだろう。
「じゃあ次はエナちゃん家ね」
5分後には4人は松本恵那の棲み家に到着していた。
204号室。
「どうぞ」
恵那は鍵を開けずに扉のノブを回したように由一には見えた。後で聞くと、
「気休めは無意味だから・・」
という深みのある答えが返ってきた。おそらくこれまでの経験から来る判断なのだろう。
殺風景な部屋だった。テーブル、イス、小型冷蔵庫、テレビ、ベッド、チェスト、以上。全ての家具が玄関から見えるのもめずらしいなと由一は思った。
「趣味は料理です」
えらくまともなジャンルだなと、その場の全員が思った。
「これがサボテンのチャッピー」
8センチほどの緑色のサボテンがテーブルの上に載っている。
「他に何か?」
恵那はそう言って3人を順番に見上げた。
3人とも無言で顔を見合わせた。
「次は佳苗の家だな」
4人全員の家を回ると、時刻はちょうど正午となった。
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