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分析魔に恋して2
作:広瀬 由一



ドS的な彼女



「天空落下式工法? 」
 九鬼英輔の待つ第一研究所へ向かう途中、由一はヒネイラに、どうやってあの化け物を倒したのか、詳しく教えてもらっていた。
「そう。私はアメリカの大学で建築を習っていたの。それで、いろいろ調べているうちに、ある一人の日本人が書いたとんでもない論文を見つけたの。たまたまね」
 ヒネイラがあまりにも楽しそうにそう言うものだから、由一もついつい興味を引かれた。
「どんな論文? 」
「落下エネルギーだけを用いて建築するという全く新しい工事方法が、滅茶苦茶精密な計算論文と一緒に展開されていたの」
 由一は想像してみた。
 しかし、さすがに理解できなかった。
「無理だろ。どうやってネジとか回すんだよ」
「ネジは使わないの。昔の日本の建築にはそういう方法がたくさんあったでしょう。五重の塔だって、木を組み合わせただけで造られたものもあるんでしょう? 知らないの? 日本人のくせに」
「あいにく建築には興味が無かったもんで」
 由一は窓の外に目をやった。
 二人は今、東北新幹線の禁煙席にいた。
「見たほうが早いわね。日本のことわざにも、百聞は一見に如かずって言葉があるし」
 ヒネイラは由一の横でぶつぶつ言いながら、鞄の中から紙のように薄い一枚の板を取り出した。
 最新式のノートパソコンだった。
「ほら。いくよ。見てて」
 パソコン画面には録画ムービーが表示されていた。
 ヒネイラは『再生』ボタンをクリックした。
 由一は頬杖を突いたまま、横目でその動画を見つめた。
「再生速度を半分にするね。よく見ててよ・・・」
 画面には広大な草原が広がっていた。
 北海道だろうか?
 その草原の中に、宇宙船の着陸基地のような、円形状の不思議な土俵のようなものがあった。
 大理石のような光る突起物が、その円の中心から放射状的に100個以上配置されていた。
 ハンディカメラで撮っているらしく、手振れが激しかった。
 突然、画面が変わり、先ほど病院で見せてもらった九鬼英輔の顔がアップで映った。
「じゃあ落とすぞ。3,2,1, GO 」 
 九鬼はそう言って、カメラを下に向けた。
 かなりの上空だった。
 九鬼の足元にぽっかりと開いた穴から、無数の光る部品のようなものが、すごいスピードで落下していった。
 そして再び画面は地上の草原に戻り、カメラは地面のミステリーサークルから上空へと向けられた。
 きらきら光るものが空から降ってきている。
 由一は思わず画面に釘付けになった。
 見る見るうちに、落下物は地上に向かって接近してくる。そして・・・
「もうすぐよ。よく見てて」
 ヒネイラがそう言った4秒後、落下物は地面に衝突して凄まじい衝撃音を発し、その直後、ミステリーサークルの中心点から5メートルほど鉛直上の何も無い空間に、一軒の丸太小屋が瞬間移動でもしてきたかのような感じでパッと現れた。
「あっはっはっはっはっはっはっは! 」
 由一は爆笑してしまった。
 約一分間近く、笑いの発作が止まらなかった。
 こんなに笑ってしまったのは生まれて初めてだった。
 ふと、無理矢理目を開けて、もう一度画面を見てみると、ハンディカメラを持ったヒネイラが、そのたった今完成したばかりの丸太小屋の扉を開けて、中に入っていくところだった。
 部屋の中には家具まで完成されていた。
 ベッド、机、イス。
 机の上にはコーヒーカップが置かれており、その中には熱々の紅茶か何かが入っているらしく、白い湯気を立てていた。
 画面の中のヒネイラはイスに座り、カップを手に取り、それを一口すすり、
「計算通り」
 と言ってカメラを自分に向け、笑顔で微笑んだ。
 由一はさらに吹き出した。
 座席の上で苦しそうに笑い転げる由一を見て、ヒネイラは悪そうな瞳を輝かせ、満足げに微笑んだ。
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
 あやうく笑い死んでしまうところだった。
 脳みそが発達しすぎると、『笑い』ごときの低レベルな情報遮断システムでは対処できなくなる場合もあるらしい。
 由一はそれをたった今、身をもって思い知った。
 全神経を集中させ、由一は全く何も考えないように思考をコントロールした。
 ようやく発作が収まり、ヒネイラが話の続きを促した。
「この方法で、上空から巨大な鉄の杭を落下させて命中させ、化け物を串刺しにして瞬殺したわけ。どう? 面白いでしょう」
 由一は全力疾走の後のように、全身、汗びっしょりになっていた。
「ああ・・・。そうだね」
 肩で息をしながら、由一はそう答えた。 
「もう一度見る? 今度はスローモーションで・・・」
 ヒネイラはニヤニヤしながらそう言い、由一の目の前にパソコン画面を突きつけた。
 ムービーが逆再生され、こんどは10分の一ほどの速度で再生された。
 落下してきた様々な部品が、地面の突起物に跳ね返り、次々とぶつかって組み合わさり、やがて一軒の小屋となっていく様子がよく分かる映像だった。
「もうやめてくれ・・・」
 由一は泣き笑いながらうずくまり、目と耳を塞いだ。


 2時間後、二人は第一研究所に到着し、九鬼英輔の待つB9実験室へと案内された。














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