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分析魔に恋して2
作:広瀬 由一



X地点の怪


 7月6日、土曜。
 由一は学校からの帰宅後、この5日間の電磁波記録をノートにまとめ、検証していくことにした。
異変に気付いたのは4日目の記録を写しているときだった。
「変だな? 」

 X地点とY地点。

 Y地点に関しては、ひときわ強い電磁波を感知したのは以下の通り。
2日が221回。
3日が233回。
4日が236回。
5日が239回。
そして6日目が242回である。
少しずつ増えてきていると言える。
これに関しては、由一は至極自然な印象を受けていた。
しかし・・・
「X地点、7月2日141回。7月3日186回。7月4日143回。7月5日99回・・・」
 そして今日の検知回数は138回だったのだ。
 
どういうことだ?

 増えたり減ったりしているのである。

それも、平均して40回ずつである。140を平均に、最大180から最小100前後まで。二次関数のグラフにすると、きれいな波型になるだろう。
 由一は眉をひそめた。
 なぜ増減する?
「それに、どうしてこんなに規則的なんだ? 」
 しかも、検知する電磁波もY地点に比べてX地点のものは異常に強かった。由一は最初、これはX地点で発生する地震がY地点のそれよりも単純に大きいのだろうと思っていた。
 しかし、それは検知回数によって支配されるものであるということに、由一はしばらくして気付いた。
 X地点とY地点との距離は約200キロメートル。地盤的に見て、それほど極端に離れているとも言えない距離である。加わる圧力や向き、地盤の構造や種類は多少変わりはするものの、それだけのことで、電磁波にエネルギー換算で4倍もの差が出るだろうか? それにこの規則性である。

「X地点に・・・何かがある? 」

 由一がそういう結論に到達したのは当然の成り行きだった。
「Y地点は今後生じる地震の震源地となる場所。しかし、X地点のこれは、地震とはまた別のものである」
 夕刻頃には、すでに由一はそう確信するに至っていた。

 では、いったい何があるのだろうか?

「・・・分からない」
 データ不足だった。
 由一はインターネットから地図を引き出し、X地点の詳細を調べることにした。山梨県横坂郡野辺町というところが最寄の街だった。そこから東に約3キロ。そこは何も無い山の中だった。一応、か細い道路が通っている。
「何かの施設だろうか? 」
 しかし普通、そう言ったものは、例えば研究所か何かだとして、たいていの場合、電磁波を完全に遮断する構造で作られているのが常識のように由一には思えた。これだと完全に垂れ流し状態なのである。素人判断でも違和感がある。
「何なんだろう」
 由一は気になった。結局その日は一日中、そのことばかり考えていた。
「宇宙船? 」
 などと一瞬思ったが、その可能性は2秒で消去された。
「ありえない」
 例えばそれが宇宙船だったとすれば、その科学力は人類の文明などデコピンで弾き飛ばすほどの高度なものである。山の中にひっそりと隠れている必要性は0であると断言できる。
また、隠れるなら隠れるで、何の痕跡も残さずに完璧に隠れることくらい簡単に出来るだろう。
「分からない」
 由一はその日、この台詞を18回口ずさんだ。

 翌日。
4人は近所の河川敷で行われる七夕祭りに出かけた。
 川の上に巨大な花火が打ち上がるその下で、由一は浴衣姿の佳苗、松本、本居に向かって奇妙な報告をした。
「・・・何があるのかしら? 」
 3人とも、由一の話をすぐに理解し、一緒になって頭をひねった。しかし、やはり手がかりすらつかめなかった。
「丁度もうすぐ夏休みだ。直接調べに行こうぜ」
 本居が言った。
「危険じゃないかな? 」
 佳苗が言った。
「なんとも言えないな」
 由一は草の上で体育座りをしながらそう答えた。
「行こうよ。ここまでやったんだもの。最後までやりましょう」
 恵那が言った。
 
恐怖や不安よりも、やはり好奇心のほうが圧倒的に強かった。
 4人は夏休みの初日からX地点の調査に向かうことに決めた。
佳苗は野辺町内の宿泊施設を可能な限り調べ上げ、一泊3000円の温泉付旅館を見つけ出して予約した。期間は一週間。
 由一は携帯用ナミヘイ・コンプレックスを新たに4つ作成した。

 7月25日。早朝。
4人は山梨県に向かう特急列車に揺られていた。


「大まかな計算では、窓から見えるあの山を含む半径5キロの雑木林のどこかに、『何か』が埋まっている場所があるはずだ。ここからは山道を進んで、検知器の大きく反応する地点に向かってひたすら歩く『ドラゴンレーダー作戦』でいく」
 午前7時。旅館の食堂で朝ごはんを囲みながら由一はそう言って3人にKNC(携帯用ナミヘイ・コンプレックスの略)を配った。
「じゃあ、オラ悟空」
 本居はそう言って恵那に笑顔を向けた。
恵那は無視した。
「鈴を付けてればクマに襲われる心配は無いと思うけど、念のため」
由一はそう言って『一撃必殺! 超強力痴漢撃退スプレー』をみんなに手渡した。
「クマに効くの?」
 恵那が不安げに聞いた。
「ああ。近所のセントバーナードで試したけど、動物のほうが嗅覚が強いから、余計に効果あるみたいだな」
 由一はそう言って目玉焼きを食べた。
「・・・お気の毒」
朝食後、4人は古着屋で買ったつなぎと長靴に履き替え、頭にゴーグル、背中にリュックサックを背負い、旅館のレンタル自転車にまたがってX地点を目指した。
 まだ朝霧が残る山道を登っていくと、NC値(電磁波検知回数)はどんどん増えていった。
「近いな」
 由一が蚊をつぶしながら言った。
「これ、体に悪くないのかな? だって強い放射線でしょ? 」
佳苗が心配そうに言った。
「大丈夫だよ。レントゲン時の放射線密度を100とすると、これは2か3くらいしか無いんだから」
しばらくすると、KNCの針は振り切れてしまった。4人は計器に金属メッシュを巻きつけて、感度を悪くしながら捜索を続けた。
しばらくすると、つり橋が見えてきた。
はるか下のほうから水の音が聞こえてきている。
「切れないよね? 」
 佳苗が真剣な表情でそう言って由一を見た。
「たぶん」
念のため、一人ずつ渡ることにした。
最初に渡ることにした由一が橋の中央まで来たときだった。それまで上昇傾向にあったNC値が、減少し始めた。
「この下だな」
由一はそう言って端の下を覗き込んだ。50メートルほど下に川が流れている。
「下に行く道を見つけよう」
 結果から言うと、道は無かった。1キロほどの下流まで戻り、そこからは藪の中を一歩一歩進んだ。
「つなぎで来て正解ね」
 佳苗が言った。綿パンやスカートで歩けるような場所ではなかった。
 幅1メートルほどの、川というよりも湧き水の集まりのような流れに逆らって歩くこと約20分。はるか頭上に先ほどのつり橋が見えてきた。そして・・・
「この中だ」
 洞窟が口をあけていた。
入り口の幅は3メートルほど。懐中電灯を取り出して照らしてみると、中もかなり広い通路が続いているようだった。
 洞窟の壁には気の板で補強工事がなされていた。
「旧日本軍の秘密基地かな? 」
 由一は洞窟の中を覗き込みながらそう言った。
「マジで入るわけ? 」
 佳苗が緊張した表情で言った。
「怖いの? 」
 恵那が無表情に聞いた。
 佳苗は「ちょっとね」と言った。
「ここまで来てUターンなんて出来るかよ。大丈夫だよ。人間は昔、洞窟に住んでたんだから。今でも住んでる人居るし」
 本居が言った。
 由一はリュックからテグスを取り出し、入り口に生えている木の根っこに結びつけた。
「これで誰も迷わない。行こう」
 4人は懐中電灯片手に洞窟に足を踏み入れた。

「やっぱり、旧日本軍の軍事基地のなごりだろう」
 坑道を進みながら由一が言った。
「何でそんなところから電磁波が出てるの? 」
 佳苗が聞いた。
「分からない。行けば分かるだろう」
 しばらくして教室ほどの空間に出た。
行き止まりである。
「ドアか何か無いか」
 由一はあたりを照らしながら言った。
「無いぜ」
「あったわ。ドアじゃないけど」
隅のほうで恵那が言った。
 マンホールのような巨大な鉄蓋だった。
「開けようぜ」
 本居がそう言って取っ手に手をかけた。
「うおおおおおおおお」
 蓋はビクともしなかった。
「4人でやろう」
 由一が言った。
「せえのっ! 」
 蓋がずれ、隙間から穴が口を開いた。
「深いな」
 穴の周囲はコンクリートで固められていて頑丈だった。穴の中には鉄製のはしごが付いている。
釣具の発光剤を折って投げ落とすと、3、5秒後に底の地面に当たる音がした。約25メートルである。
黄緑色の蛍光が底のほうを照らしだした。
危険は無さそうだった。
「一人ずつ行こう」
 由一は一旦テグスを切り、穴の中に潜り込んだ。
 鉄のはしごはひんやりと冷たかった。
 下の地面は柔らかかった。穴の底には4畳半ほどの広さの空間があった。
 由一ははしごから手を離し、地面の上に両の足を下ろした。
振り返ると、そこには奇妙なドアがあった。
 鋼鉄製で、変なハンドルが付いている。ちょうど、潜水艦のハッチのようなものだった。
 由一はKNCの針に目をやった。

998

「佳苗、そっちはどんな数値だ? 」
 上に向かってそう言うと、しばらくして返事が来た。
「1049よ」
 少し減っている。
洞窟に入る前は800前後だったので、単純に考えると、この坑道のどこかに発生源があるということだった。しかし・・・
「じゃあ・・・これは何? 」
 由一は振り返ってもう一度ドアを見た。
『 非常口 ナンバー 3 』
 よく見ると、上の方にそう書かれている。
「由一君、大丈夫? 」
 上から佳苗の声が聞こえてきた。
「ああ」
 返事をしながら、由一はハンドルに手をかけた。
時計回りに3回転。
 カチャリと何かが外れる音が鳴り、反射的に押すと、扉がゆっくりと開き始めた。
中から光が漏れてきている。
 由一は懐中電灯を消した。そして開いた隙間に頭をつっこんで中を覗いてみた。
 
4人の男が由一を見ていた。












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