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分析魔に恋して2
作:広瀬 由一



クルミ割り人形



「・・・さっぱり分からん」
 電磁波検知装置の作成を前に、由一はX線とその検知機構の仕組みを徹底的に調べ上げることにした。しかし、一体どうしてこの仕組みによって検知できるのか、いくら考えても分からないと言う結論に達した。読んだ本が悪かったのかもしれない。基礎的な概念を省略されて書かれていた場合、読み方によっては意味の取り方に複数の選択肢が出来てしまう。しかし、本はこれで6冊目だったので、しかも本格的に読み始める前には数十冊の中から分かりやすさを基準に厳選したものだったので、要するに本からの学習はこれが限度であり、そろそろ他の手段に移るべき時期が来たと由一は判断した。
 実験である。
 この分野に関して、これ以上の情報を吸収するには、体験をもとにするしかないのである。由一はそう決め付けた。実験によって結果をこの目で見れば、例えその原理について完全な論理的理解が無くても、その結果は知識として脳に定着してしまう。脳みそとはそういうふうに出来ているのである。
 さっそく由一は恵那から30万円貰い、ホームセンターやネット通販を通じて材料をかき集め、自前の手先の器用さと病的なまでの効率的行動追求姿勢でもって、あっと言う間に39種類の簡単極まりない電磁波探知装置を試作した。6000円でガイガーセンサーの組み立てキットが販売されており、この基本構造をベースにして、由一は39種類の『変型』を行ったのである。この問題解決の仕方は由一が中三の頃に考え出した方法で、彼の十八番だった。
 名前を『変型選別法』という。
「波長の短い電磁波を検出する」といったような極めて具体的な選別条件が存在する場合、問題解決のキーとなるものを変型体として、無差別ランダムな変型を与えてやることによって、『偶然正解するのを狙う』方法である。
 無差別かつランダムな変型とは以下の18通り
『数値変型』『体積変型』『質量変型』『面積変型』『色変型』『温度変型』『形状変型』『質感変型』『パワー変型』『方向変型』『距離変型』『位置変型』『高度変型』『材質変型』『軸変型』『速度変型』『逆変型』『抹消変型』以上である。
これらの要素を直感に従って適当に変化させ、実験する事によって偶然完成に到達しようというのが由一の作戦だった。
余談だが、変化ではなく『変型』としたのは、前者だと自然になった、みたいな印象があったからである。中三の夏休み、由一はカップラーメンにお湯を注ぎながらそう決めたのだった。
 まずは体積変型である。思い切って、感知部分をバレーボールほどの大きさに拡大する事にした。次にその形を変形させ(立体的なサイコロ型)今度は間にガラス板を挟み、使用電圧を変え、もう一つの感知部位を平行に設置し、その間の距離を変え、真空管に入れ、ガスを注入し、と、効果の上がりそうな工夫を片っ端から施していった。
 そして実験である。
恵那からもう5万円貰い、残った資金とあわせて39個のアクリルケースを注文した。二日後に届いたそれに各機器を一つずつ入れ、近所の運送屋からレンタルした特大カートにその39個の透明なサイコロの化け物のような装置を積み込み、由一は街中へと突撃した。
カートを押して歩道を歩きながら、運送屋の制服もついでに借りておいて正解だったと由一は思った。道行く人々は皆、必ず振り返る。注目度100%だった。運送屋だと分からなければ、間違いなく職務質問の対象ど真ん中である。
「全開ですか? 全開ですよ」
 意味不明の独り言をつぶやきながら、由一は近所のゴミ捨て場近くの電柱の影で停止した。一応、地図を広げ、迷った振りをしながら待つこと2分。かわいらしい電子音とともにゴミ収集車が角を曲がって現れた。
 すさまじい騒音と共に、粗大ゴミが次々に食べられていった。
由一は検知器の針に注目した。体積変形と形状変形を施したナンバー4と9、18、19、35番の針にもっとも大きな反応があった。由一は昨晩、このゴミ捨て場のゴミの中に、50種類の小さな鉱石(ネットで買い集めたり、恵那と二人で拾い集めに行ったりしたもの)を混入しておいたのだ。
 由一は早速カートを押して恵那のアパートへと向かった。彼女は居ない。今は平日の午前中だから学校があるのだ。由一はサボりだった。部屋を借りることは了承済みである。
今から40分後、このアパートのゴミが回収される。それまでの間に先ほど反応の強かった5つの機器をベースにして、残りの34個の機器を作り変えなければならないのだ。
 由一は手早くアクリルケースから装置を取り出していき、床一面にそれを広げた。余計な変型を施した機器の余計な部分を取り除き、単純な体積、形状変型のみを行う。たちまちのうちに形と大きさ、角度、検知部位の数と出力だけが違う39種類のガイガーセンサーが完成した。汗びっしょりになっていたので、ドアを開けると風が涼しくて気持ちよかった。
目の前に粗大ゴミの塊がある。言うまでも無くこの中にも鉱石が混入されている。入れたのはもちろん恵那だった。
 ちょうど再びあの電子音が近づいてきていた。由一はあえてカートをゴミ捨て場から遠ざけ、アパートの裏側に回った。
 アパートの壁は、素材が何かは分からないが、とにかく安物の壁であることは見た目で分かった。この位の壁なら波長の短いX線は難なく透過する。
由一はゴミの量から、このゴミ捨て場での清掃業者さんの作業時間は2分ほどだと見当をつけた。
アパートの裏手についたところで計器の針が大きく振れ始めた。由一はそれらを観察しながら、なるべく速くアパートと逆の方向に向かって走り始めた。路地を縫うように走り、1分が経過したところでゴミ捨て場からの距離は200メートルほどになった。この地点で反応する計器は19個。そのうち最も反応の強かったものを由一はカートから取り出し、携帯のムービーカメラで計器部分と検知部位を撮影した。
原因は分からないが・・・
「なぜかこの形が一番測定力が強い・・と」
 由一は取り出した計器の検知部分の形状から、これを『ナミヘイ・コンプレックス』と命名した。ナミヘイ・コンプレックスにするべきか、ナミヘイ・レボリューションにするべきか一瞬だけ迷ったが、やはりナミヘイ・コンプレックスが圧倒的であると由一は結論した。ここ数週間で最大の決断だった。
 ナミヘイ・コンプレックスは量産され、一ヵ月後には由一の部屋の半分は50を超えるナミヘイ・コンプレックスによって占拠されることになる。
 由一はナミヘイ・コンプレックスをカートの中に戻し、3人に向けて短いメールを打った。
「クルミ作戦、成功」
 












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