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悪役は恋しちゃダメですか?

こんにちは。なろうでは初めて書かせていただきます。よろしくお願いいたします。
 人生、いろいろなことがある。
 自分には起こりえないと思っていることが、ある日突然起きたりもする。
 通り魔、っていう人がいることは、テレビを見て知っていた。
 現代はストレスが多過ぎて、それに耐え切れずぷつんといっちゃう人がいることは。
 でも、そんな人に今日、たまたま夏のバーゲンに出かけたわたしが出会ってしまうなんて、夢にも思わなかった。

「うわああああ、俺を見るなあああああっ!!!」

 人込みの中に突然そんな声が響いたかと思ったら、お腹が酷く熱くなった。

『なにこれなにこれなに……こ……』

 そして、平凡な女子高生だったわたしは、16歳の若さで人生を閉じたのだった。





「ミレーヌ様! 大丈夫ですか?」

 女の子の声がした。

 気がつくと、わたしは床にうずくまっていた。
 見上げると、数名の女の子がわたしを心配そうに見ている。

「……大丈夫よ、ごめんなさい、急に立ちくらみがして」

 わたしは立ち上がり、スカートを整えた。

 今、パズルのピースがはまったかのように、前世の記憶が蘇った。
 わたしの名はミレーヌ・イェルバン。
 イェルバン公爵家の娘だ。
 黒い巻き毛に黒い瞳の、ちょっとキツイ感じだけど美人の範疇に入る少女。
 そして剣と魔法の、ファンタジーっぽいこの世界の、王立学園の一年生だ。

「なんでもないの。さあ、行きましょう」

 取り巻きの令嬢の顔を見回して、いつものように悠然と笑う。

 うわー、我ながらなんかふてぶてしいわあ。

 セルフツッコミを入れてしまうけど、これが今のわたしのキャラなのだ。

 高い身分をかさにきて、学園内に取り巻きを作り、やりたい放題のわがまま女、それがわたし。
 まあ、高いプライドに見合う位の貴族教育は受けているけどね、わたしの場合はちょっとやりすぎじゃないかと思う。
 たぶん、自分が次期王妃だという思い上がりがあるせいね。
 わたしはこの国の第一王子の婚約者なのだから。
 いわゆる、悪役令嬢っていう役どころね。

 それにしても、と、わたしはため息をついた。
 せっかく生まれ変わったのだというのに。
 わたし、ミレーヌが好きになれないかもしれないわ。

 ちょっとブルーな気分になって歩いていると、曲がり角で男子生徒に出くわした。
 彼にも取り巻きがいるようだ。

「あら、失礼いたしました」

 ろくに顔も見ずに道を譲ろうと脇にどくと。

「ミレーヌ・イェルバン、お前か」

 世にも嫌そうな声が上から降ってきた。
 わたしは顔を上げて、だいぶ背の高そうな声の主を睨みつけようとした。
 それがミレーヌのキャラに相応しい行動だと思ったから。
 そしてわたしは、目の前の顔を見て、息をのんだ。

 輝く金の髪に深いブルーの瞳で、眉根を寄せながらわたしを見るのは、この世のものとは思えないイケメン青年だったのだ。

 彼こそが、レンドール第一王子、わたしの二つ年上の婚約者だった。

「……」

 彼はものも言わず、長い金髪をさらりとかきあげる。
 金糸のようなそれは美しく整った顔の前で光をきらめかせ、まるで天の使いのように高貴な雰囲気にする。
 すらりと高い背に長い脚、かっちりしたデザインの学園の制服をまるでモデルのように格好良く着こなしている。

 わたしは彼の顔をうっとりと見つめ、はっとする。
 ヤバい。
 これはヤバいやつだ。
 あまりの衝撃で、ミレーヌらしい行動をとれそうもない。
 本来のミレーヌなら黄色い声を上げて、彼に媚びて媚びて、そりゃもう、うっとうしいほど纏わり付くはずなのだ。
 ミレーヌ、あんたはすごいや、見くびってたわ。
 こんなカッコイイ人間離れした存在に、真っ向から話しかけるなんて、わたしには無理。

 わたしは耳まで赤くなってることを感じながら、唇を半開きにしたままレンドール王子の顔に見とれていた。

「……おい」

「……」

「おい!」

 はっと気がつくと、レンドールの顔がすぐ近くに降りてきていた。
 わたしの右肩を、彼の骨張った大きな手ががっしりとつかんでいる。

「え、あ、あの、」

 近い! 
 顔、近いよ!

 恥ずかしながら男性への免疫がない(年齢イコール彼氏いない歴でしたが、なにか?)わたしは、イケメンの接近に対応できずにあたふたする。

「何を企んでいる?」

 きゃー、イケメンは声までイケてるんですね?
 脅すように低めた声が、身体の芯まで響いて来るわ。

「吐け。今度は何をしようとしているんだ、ミレーヌ?」

 ひいいいい、やめて!
 更に顔を近づけるのは止して!

 わたしは身をよじり、後ろへと逃げ出そうとして、壁にぶつかった。
 背中を壁にあずけてしまったわたしの顔の両側に、レンドール王子の手がついて逃げ道をふさがれる。
 こっ、これは壁ドン?
 人生最初の壁ドン、もっのすごく怖いのはなぜなんでしょう?

「ミレーヌ、いつもなら擦り寄って来るお前が、俺から逃げ出そうとするなんて、何かやましい事があるからだろう」

 違います違います違いますっ、麗しいビジュアルにわたしの心臓が耐えられないからです!

 助けを求めて目を泳がせると、うろたえるだけでなんにも役に立たない取り巻きのお嬢様方が見えるだけ。
 うわあ、王子様から何やら花の香りが漂ってきますよ。
 さすがやんごとなきお方、匂いまでいいんですねって、わたしは変態おやじか!

 もう無理ー。
 ヘタレなわたしは涙目になり、プルプルと顔を横に振った。

「なに、も、なにも、して、……」

「レンドール……泣かせた……」

 声を発したのは、王子の取り巻きの一人だ。
 肩まであるプラチナブロンドに水色の瞳の、なんだか表情のない中性的な人だ。
 そして、男なのにえらい美人だ。

「人聞き悪いことを言うな」

 王子は美人を睨むと、またわたしに視線を戻す。
 わたしは唇を噛んで、上目遣いに彼を見た。

「……くっ、」

 レンドール王子は目元を赤くして、わたしを囲った腕を壁から放した。

「殿下ーっ、」

 遠くの方から女子生徒の声がして、足音が近づいてきた。

「こちらにいらっしゃったのですね、探しちゃいました。どうかしましたか?」

 やってきたのは、ふわふわした金の巻き毛に人として有り得ないピンクの瞳をした、可愛らしい女の子だった。

 不穏な雰囲気を感じたのか、いぶかしげに首をひねる。

「メイリィ、何か変わったことはなかったか? 嫌がらせに合ったとか」

「いいえ、別に何も?」

「……そうか、」

 この子はメイリィ・フォード!
 レンドール王子に近づいて来る平民の女子生徒で、強い魔力を持っていて、そしてミレーヌがせっせと意地悪をして学園から追い出そうとしている相手で、……。

 乙女ゲーム『恋のミラクルまじっく!』のヒロインじゃん!

 わたしはもういちど、その場にへたり込みたくなった。






 どうやらわたしは、乙女ゲームの世界の悪役令嬢に転生してしまったらしい。
 学生寮とは思えない豪華な部屋のベッドに横たわり、わたしはため息をついた。
 わたしの立ち位置は、攻略者のひとりであるレンドール第一王子の婚約者、次期王妃候補である。
 そして、ヒロインであるメイリィ・フォードをいじめまくり、最後には王子の逆鱗に触れ、学園から追放されてしまうのだ。
 王子の結婚相手にはメイリィが収まり、めでたしめでたし。

「いや、全然めでたくないし! 王子に嫌われたわたしはろくな縁談もなく、家も落ちぶれ、最後は路頭に迷うのよ! 冗談じゃないわ……」

 王妃なんかにならなくていいから、せめてまともな暮らしがしたい。
 平民になって、地道に働いてもいい。
 でも、野垂れ死ぬのは嫌だわ。

「どうしよう……やっぱり、婚約を解消してもらおう、それが一番いいわ」

 そうすればミレーヌはメイリィをいじめる必要がないから、王子から嫌われないしね。
 ふたりにはとっととくっついてもらって、わたしは学園にいるうちに勉強をがんばって、万一の時に困らない知識と技術を身につけよう。
 ベッドから起き上がり、わたしは父宛てに婚約破棄のお願いをする手紙を書いた。





『却下』

 うわーん、お父様酷い!
 一言ってどういうこと?!

 返ってきた手紙に、わたしは泣いた。
 路頭に迷うの嫌ーっ!

「あたりまえでしょう、だいたい第一王子とどうしても結婚したいって駄々こねて、旦那様に無理矢理婚約を取り付けてもらったんでしょ。何を今更」

 そうでした。
 レンドール王子のことが大好きなミレーヌの我が儘でした婚約を、気が変わったからと簡単に破棄できるものでもなかったのでした。

 淡々と言いながらわたしの仕度をするのは、従者兼ボディガードのライディだ。
 ちなみに、侍女のエルダも学園に連れて来ている。

「なんだかんだ言いながら学園の成績もいいし、ダンスも刺繍も頑張っているし、次期王妃候補としていい感じじゃないですか。何が不満なんですか?」

 少しグリーンがかった銀の髪に緑の瞳をした、けしからん事にわたしよりも目立つビジュアルのライディが言った。
 ふんふん、どうせわたしは悪役よ!

「えっとね、ちょっと荷が重いかなーっ、なんて思って」

「どこがですか? 今のところ、断トツで相応しいじゃないですか」

「いやあのね、レンドール様のキラキラしさが慣れないというか」

「そこが好きなんでしょ」

「思ったんだけどね、結婚相手って、こう、和めるっていうか、心安らげるっていうか、リラックスできる人がいいかなと思うのよねー、わたしも考え方が大人になったのかしら」

「はあ、和める人ね」

 こくこくと頷いていると、ライディの顔が近づいてきた。

「な、何?」

「じゃあ、俺なんかちょうどいいですね」

「はいいー?」

 びっくりして身を引くわたしの両肩を掴んで、ライディが言う。

「お嬢様が幼い頃からずっと一緒の俺ならば、心安らげるでしょ? 結婚相手に最適ですよ」

「な、な、な、」

 ミレーヌなら冷たく一喝する。
 使用人のくせに、未来の王妃にむかってなんたる無礼を、って。
 でも。

 できないーっ!
 だから、わたしには男性への免疫がないんだってば!
 さすが乙女ゲーム、従者に過ぎないライディまで美形なんだもん!

 引きつった笑顔で固まっていると、ライディはくすりと笑った。

「お嬢様、なんだか雰囲気が変わりましたね。……とても可愛らしいですよ」

 そしてあんたは黒いよ、ライディ!
 わたしはがくっと肩を落とした。







「おっ、お話がありますの」

 教室からレンドール王子を呼び出して、人気のない所に行ったわたしは、意識して斜め下を見ながら言った。
 うん、なるべく顔は見ないでおこう。
 いろいろと辛いから。

「なんだ?」

 尊大に返事をする、レンドール王子。
 明らかに迷惑そうな様子を隠そうともしない。
 ミレーヌはよっぽど嫌われているのね。

 父が婚約破棄をしてくれないとしたら、あとはレンドール王子にしてもらうしかない。
 二人で声を揃えて訴えれば、きっと破棄が受け入れられるはず。

「わ、わたくしと、」

「わかっている」

「はい?」

 うっかり顔をあげてしまい、キラキラした顔を見て動悸が激しくなってしまったわたしは、赤くなった顔を慌てて伏せた。

「学園のダンスパーティーに一緒に行けというのだろう? 仮にも婚約者なのだから、不本意だが連れて行く」

「いえ、違います、」

 そのままその場を去ってしまいそうなレンドール王子の腕にしがみつく。

「放せ!」

「あ、申し訳ございません、でもどうか話をお聞きくださいませ」

「俺には話すことなど……」

「婚約を、破棄していただきたいのでございます」

 一瞬、レンドール王子が息を飲んだ。
 そして、地を這うような恐ろしい声を出した。

「……どう、いうことだ? この婚約話はお前が強く要求して、公爵のごり押しで決まったようなものだろう。それをいまさら破棄とは……さては誰か好きな男ができたのか?」

「滅相もございませんわ。むしろ、好きな方がいらっしゃるのは殿下の方でしょう?」

 ああ、ミレーヌは本当にレンドール王子が大好きなんだわ。
 ほら、もう涙がこぼれそうになる。

「殿下が本当に結婚したいのは、メイリィ・フォードだということはわかっています」

「ミレーヌ、何を言っているのだ」

「メイリィ・フォードは平民ですが、魔力も強いし、頭もいいし、王妃教育もすぐにおぼえますわ、それになにより、こ、こんな可愛いげのないわたくしなどより、ずっと、ずっと、……」

 あなたに嫌われたくないのです。
 だから手遅れになる前に、あなたの前から消えてしまいたいのです。

 わたしはぽろぽろと涙をこぼしながら、言った。

「レンドール様、さようなら、わたくしはあなたが本当に好きだったみたいです。」

 制服のスカートを持ち上げ、わたしは淑女の礼をすると、身を翻した。

「待て、」

 そのまま立ち去ろうとしたわたしの前に、一人の青年が立ちはだかった。

「レンドール……また泣かせた……」

 プラチナブロンドの美人だった。

「ケイン、捕まえていてくれ」

「いいけど、この子は僕が貰う」

「ひゃあっ、」

 美人が腕の中にわたしを捕まえたので、思わず淑女らしからぬ変な声を出してしまった。

「放してくださいませ、」

「レンドールは泣かしてばかりだ。僕なら泣かさない。僕の国へおいで」

「駄目だ! ミレーヌはこの国の王妃になると決まっているのだ!」

「でも嫌がっている。泣かされてかわいそうだ。こんなに可愛いのに」

「ケイン、放せ! これは俺のものだ!」

 ちょっとなんなんですか、この展開は!
 謎の美人さんの手から、わたしは無理矢理引きはがされて、今度はレンドール様に抱き込まれてしまう。 

「ミレーヌはこの国の王妃になるために、今まで勉強をしてきたのだ。それを横からさらわれてたまるか」

「それなら、僕の国でも通用するからちょうどいい。レンドールにいじめられて泣いているより、僕の国で可愛がられて笑っていた方が幸せじゃないか」

 美人さんは、他国の王子様のようですね。

「ミレーヌ、なんとか言え!」

「……婚約破棄を」

「ケインに乗り換えるのか? 散々俺を好きだと言っていたのに?」

「だって、メイリィ・フォードが」

「メイリィ・フォードはただの友達にしかすぎん。だいたい王妃教育がそう簡単に身につく訳がないだろう。お前が今までどれだけ頑張ってきたのか、考えてみろ」

「わたくしが……」

 ええ、ミレーヌは王子べったりで焼きもちやきだけど、レンドール様の隣に立ちたくて、努力を重ねてきたわ。
 そう、まだ物心もつくかつかないかで王子に一目惚れして、それからずっと。

「まったく、お前は自信があるのかないのかわからんし、妙な暴走をするし、危なっかしくて他国に出せるか! ずっと俺の目の届く所にいろ!」

「でも……メイリィ・フォードが……」

「まだ言うか、この頑固者が!」

 そういうと、レンドール王子はわたしの顎を掴んだ。
 あっという間に顔が近づき、唇が重なった。

「な、これ、え、」

「俺から逃げ出そうとするなんて不敬は許さんからな、婚約破棄などと二度と言い出したら、イェルバン家は取り潰して路頭に迷わせるからな」

「それは嫌でございます!」

「わかったら、ダンスの練習でもするがいい。後でドレスを届ける」

 そう言って、ケイン様を引っ張って去っていくレンドール王子の耳は、なぜか赤かった。

「王子もまだまだ青いですね」

「おわあっ!」

 物陰から出てきたボディガードに、わたしはまたしても淑女らしからぬ声を上げてしまう。

「ライディ、聞いていたの?」

「はい。青春するのもいいですが、国を巻き込んだ痴話喧嘩に発展するとこまりますからね、大人が見守ってあげる必要があります。でも、」

 やや年上のボディガードは言った。

「幼い頃からお世話申し上げている可愛いお嬢様を泣かすようなアホには、お嬢様を渡す気はありませんからね、せいぜい痛い目にあいながら成長していただかないと」

 自国の王子をアホ扱いする人を食ったような従者は、わたしに手を差し出した。

「まずは、ダンスの練習でもいたしましょうか? 先を見るのも大切ですが、足元が見えないと転びますよ」

「……わかったわ」

 ダンスパーティーで、大好きなレンドール王子と華麗に踊るために、わたしはライディの手を取った。




                       FIN.


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