第三九話,小悪魔と春風の協奏曲 5
春奈が逃走した事はすぐに各部隊に伝えられ、ラ・ロシェール駐屯の陸軍及び海軍陸戦隊は春奈の身柄を確保すべく夜も遅く眠いというのに出動した。
できるだけ生きた状態で確保せよという命令である、つまり最悪の場合は殺してもいいという命令であった。
しかし春奈はラ・ロシェールから逃げ出してしまった、ところが一時間後に思わぬ情報が入ってくる。それはフランデレンとラ・ロシェールを繋ぐ街道を走っているという情報であった。
そういえばフランデレンにはウェザリー率いる劇団がまだ宿泊しているという、やはりウェザリーらが関与している可能性があった。さらに春奈が街道を走っているという情報に続きマザリーニからの電話が中野元帥の下にかかってきた。
「はい、中野です…これはこれはマザリーニ枢機卿。何?ウェザリーという女の記録が?…うむ…やはりか、しかしレコン・キスタ絡みではないのか。しかも人を操る…もしかすると突然人が変わったかのように動いた高凪さんと何か関係があるかもしれませんな…………うむ、了解しました。いや、ご苦労様です」
ウェザリー一族は禁忌とされている人の心を操る魔法を使っていそうで結果一族は御取り潰しになり、その魔法を操った彼女の両親は死刑となった。
しかも村から強制退去させたという記録も残っている、ウェザリーは子供であったので死刑にはならず追放だけで住んだがその恨みが今回の事件の発端なのかもしれない。
「元帥閣下、枢機卿からですか?」
「うん、大体の予想はついた。フランデレンの宿に宿泊中の劇団を徹底調査せよ、それから高凪春奈の確保も行え、生きた状態で頼む」
「了解!」
才人も清隆も知らぬ間に作戦行動は行われていた。
フランデレン北部、民宿「大八洲」……
秋津州人女性が経営する民宿であり平民、貴族と問わず誰でも宿泊可能な民宿であり和風料理が人気の宿である。本日はこの宿の周辺に劇団の馬車が多数駐車しておりそれを守るかのように劇団員が剣や槍を持って警備していた。しかし劇団員も知らぬ間に西方派遣軍は迫っていたのであった。
「……よし、第3小隊突撃!」
「ん?貴様!?どこの者だ!?貴様ァ!!」
パン!パン!…
真夜中の街中に銃声が響く、ウェザリーもあまりのうるささに当然目がさめた。
「一体何?」
「こら!座長の部屋に入る…」
パン!パン!
「な、何事!?」
ドア越しから劇団員の声と銃声が聞こえる。ハルケギニアにも後れている代物とはいえ銃というものは存在している為、その音が銃声である事にはウェザリーも気がついていた。まさかとは思ったが馬車の火薬がここを守る西方派遣軍にバレたのかとウェザリーは思った。
しかし実際に火薬が発見されたのは劇団の馬車守備隊が殲滅されてからの事であった。本来ならば西方派遣軍のほうが悪者になるだろう、しかし勝者は西方派遣軍であった。歴史は勝者が創るもの、西方派遣軍はこの事実をひた隠しにしてしまう。
やがてウェザリーの部屋の扉が開けられる、銃を持った男達が部屋に入ってきた。
銃剣が取りつけられておりその銃剣の刃先を兵士達はウェザリーへと向け、少しでも抵抗をしたらこれをウェザリーの体に刺すぞと言わなくてもわかるほどの厳しい目で彼女を見ていた。
「座長確保!」
「ウェザリー!貴様が今回の犯人である事は既にわかっておる!!!大人しく降伏せねばこれを貴様に突き刺す!」
「…バレちゃしょうがない……だけど私はそう簡単にはやられない!!」
するとウェザリーは何かは不明であるが魔法をかけ、5人のうち3人がその魔法にかかってしまう。
「佐竹、堀、樫山!?大丈夫か!?」
「……天誅!!」
「何っ!!うっ!!」
「隊長!…ぎゃっ!!」
突如として隊長とその部下を3人は刺し殺した。
ウェザリーは満足げな表情であった。
「ふふふ、そう簡単にはやられないものよ。ん?」
「何事だ!」
さらに新たに3人が部屋に入ってくる、ウェザリーは射殺命令を3人に下した。
「あの3人を射殺してしまいなさい!」
「了解!」
「何!?貴様ら寝返ろなんていう命令は下っとらんぞ!!貴様らぁ!!」
パン!パン!パン!
「3名射殺」
「よろしい、では逃げるよ!」
「了解!!」
「ウェザリー様!決死の覚悟で護衛させて頂きます!」
すでに戦闘で西方派遣軍側に5名の死者が出ている。これは劇団員との戦闘というよりもウェザリーの魔法によって操られてしまった西方派遣軍兵士による同士討ちによるものであった。
劇団員の数が多い為、1個中隊を動員したこの作戦であるが200人ほどを動員し、劇団員の大半を確保するか戦死させたのにも関わらずウェザリーだけは捕まらなかった。それも自軍の兵士を洗脳し味方につけてしまったのである。
中隊長桑本大尉は報告を聞き中隊付幹部の村上中尉とその他将兵数名と共に急遽作戦会議を開いた。
「現在ウェザリーは我が軍の兵士3名を率いて街道を南下、このまま南下していけばフランデレンを出ていずれはラ・ロシェールに到着するでしょう」
「中隊長殿、これは…」
「例の少女との会合を狙っているのだろう、深追いは禁物だ。また同士討ちになるかもしれんしかえって洗脳される者が増えてしまうかもしれん、もっと慎重な作戦でいかねばならない。そこで自分は考えたのであるが悟られぬように追跡を行いあえて会合させてから襲い、反撃の暇を与えぬ間にウェザリーを確保、すぐに杖を没収し我が軍の3人をうまく気絶というのはどうだ?」
「中隊長殿、確かにいい案ではありますがそれは成功するのですか?」
「今からやればなんとななるはずだ、急がねば本格的に奴らの居場所がわからなくなってしくまう」
「…やりましょう」
「頼む」
桑本中尉はその後、第1小隊36名に対し追跡命令を発し、小隊は大急ぎで2人を追った。おそらくフランデレンを出たら安心して歩いているはずである、だから急げば追いつくはずである。
その結果、予想どおりフランデレンを出た4人はほっとしているのか歩いていた。ここからば勝負である。バレないように追跡しなかったらこの作戦は意味がないのである。
小隊長石井中尉は部下を率いて慎重にウェザリー達を追跡、そして数時間後遂に4人と春奈が会合する瞬間を目撃したのである。石井は隙を探していた。
「………いいな?できる限り殺すなよ?全員だ、それから戦闘中に幻獣が出る可能性だって0ではないしウェザリーの人を操る魔法もある、さらに敵には我が軍の兵士3人がおり発砲してくる可能性が高い、用心してかかれ、いいな?」
「「「了解!」」」
「うん、突撃!!」
西方派遣軍は銃剣突撃を行った。
至近距離なので銃よりも銃剣のほうが有効であると判断したのである。
攻撃は完全な奇襲であった。その為いくら実力の高いウェザリーや西方派遣軍の兵士と言えどもすぐには抵抗ができず、石井小隊に次々と確保されていった。
「ていっ!!」
「しまった!!」
「よし、杖を確保!」
「ウェザリー確保!捕縛に成功!」
「小隊長殿!高凪春奈を確保!」
「小隊長殿!我々は手刀攻撃を敢行!3人は気絶!」
「…うむ、任務は終了した。これより捕縛の者をフランデレンへ移送する」
「了解!!」
こうして一晩にして作戦は成功したのであった。
しかし西方派遣軍は戦死5名、軽傷ではあるが負傷者8名を出してしまった。まだ劇団側は死者18名、負傷者12人を出し負傷者の半数は重傷者であった。しかし多少の抵抗を受け犠牲者を出しつつも作戦は成功しており石井の部隊には後に感状が届いた。
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