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  西方派遣軍 作者:栗林
第二九話,外洋諸島探索での事
アイルランドとの交渉が行われる中、才人達はとある作戦に参加した。
それは外洋諸島調査である。

スカンディナヴィア半島が地球よりも小さいハルケギニアではそちらの方面には多数の島が、さらには北大西洋にアイスランドやフェロー諸島が存在している。どちらもハルケギニアの艦船の航続距離からこれまで一度も調査が行われた事が無い。しかし西方派遣軍が保有する近代艦艇、特に龍譲などこれまでの石炭とは違う動力で動く艦艇の長大な航続距離ならば調査は可能であった。

今回調査チームは二手に分かれる。
一つは空母「龍譲」、二つ目のチームは高射砲などで武装した輸送艦2隻である。何故に武装をするかというと海賊対策である。特に輸送艦は格好の標的である。なので武装する必要があった。

龍譲はアイスランド、フェロー諸島方面へ、輸送艦2隻は北海の諸島群への探索に出かけた。才人達は龍譲に乗り込んだ。何故かルイズやギーシュ、キュルケやタバサもいたが。
(…しかし、ルイズは別として後の3人はどこから情報を手に入れたのやら)
才人は溜息をついていた。

「才人!あれ島じゃない?」

「ん?本当だ!」

いよいよ最初の目的地、フェロー諸島のストレイモイ島である。
周囲にも島は広がっているがストレイモイ島が最大の島である、調査によれば現地に住む者はいない……っがハルケギニア人では無い者は住んでいた。

「あれはなんだ!?なんだかこの船に似ているような似ていないような……」
ギーシュが珍しいものを見る目で島のほうを見る、島には3隻の艦船が停泊していたのである。それも近代艦艇であった。

「間違いない、軍艦旗を掲げている、日本海軍の艦艇だ!」

「才人の故郷の?」

「ああ」

艦艇の数は3隻、いずれも大きさから駆逐艦であった。
その頃、新井山艦長も……
「あの艦艇…どこかで…」

扶桑海軍出身の新井山であるが似たような艦艇はどこかで見た事がある。しかも彼はいつだったか、才人と暇つぶしに話をして日本の事について多少の知識を得る。そこで扶桑と日本は違うが似ている点も多いと気づいた。駆逐艦の艦体には艦名が描かれていた。

それぞれ「ゼカネミ」「ゼカホ」「ゼカハ」と片仮名で、しかも右読みであった。
「峯風、帆風、羽風…あっ!峯風型駆逐艦!!」

峯風型駆逐艦とは日本海軍の駆逐艦であり後の大東亜戦争にも従事、最後に退役した時には既に昭和22年、戦後であった。旧式の艦であり老朽化していたのだが船団護衛任務や、空母部隊の随伴艦として訓練時の事故救難任務に当たっていた。

それでも西方派遣軍が保有する駆逐艦よりも遥かに性能は高い。
何よりの強みは対空戦闘が西方派遣軍艦艇よりも得意であるという事だ。

「発光信号を送ってきています!貴艦ノ所属ヲ問フ!」

「返信!我トリステイン王国駐屯部隊、西方派遣海軍所属、航空母艦「龍譲」!敵意無シ!会談ヲ求ム!」

「了解!」

西方派遣軍の狙いは島の確保もあるがこの3隻の駆逐艦を自軍の指揮下に入れる事もあった。そうすれば西方派遣海軍は初めてより近代的な駆逐艦を入手する事ができ、今後の艦艇建造の参考にもなり、また航空艦船や竜騎士を大量に持つガリアとの戦争にも対応できるからだ。

「…不明艦より返信!貴艦ノ要求ヲ受ケ入レル!之ヨリ其方ヘ向フ!」

「艦長!不明艦のうち!峯風はボートを降ろしているようです!」

「うむ!受け入れ用意!丁重に招けよ」

「はっ!」

その後、龍譲は海軍士官数名を受け入れる、ただちに艦内の会議室へと彼らを案内した。
「大日本帝国海軍大尉、峯風艦長今泉正次郎であります」

「西方派遣海軍大佐、龍譲艦長の新井山です。ところで貴方が一番のお偉いさんですかな?」

「いえ、羽風艦長の鹿島少佐が最も階級が高い御方です。自分は鹿島少佐の命令でやって参りました」

「そうですか」

お互いすぐに心が通じ合った。
世界は違えど双方とも軍人であり、そして海の男であるからだろう。
「さて、新井山大佐、単刀直入に聞けばここはどこなのですか?」

ちなみに、日本海軍では「たいさ」を「だいさ」と呼ぶ、「たいい」も同様で「だいい」と呼ぶ、扶桑海軍でも同様である為、2人とも何の違和感も感じていなかった。
外洋調査の為に派遣されたトリステイン軍の士官は大いに違和感を感じていたが。

「ここはハルケギニア、まあわけがあってだな、ここは異世界なんだよ。また自分自身も日本ともこことも違う異世界出身というわけです」

「そんな事を信じろというのですか?大佐」

「無理には言わんよ、自分だって当初は信じられない、だがこれを見てくれたまえ。君、平賀上等兵と同行していた学院生徒がいただろ?ルイズ嬢以外ならば誰でもよいからつれてきてくれ」

「了解!」

その後、トリステイン軍士官が連れてきたのはキュルケであった。
「はぁ~い、何か?」

「確か君は炎だかの魔法が使えたな?俺の灰皿ぐらいぶっ壊してもいい、ちょっとこの今泉大尉に見せてやってくれないか?」

「わかったわ、それぐらい簡単よ、ほら」

キュルケは余裕の表情で火の玉を出し、新井山艦長の灰皿を木っ端微塵にした。
(あぁ~あ、高かったのにこの灰皿……)

新井山自身は後悔していた、この灰皿は高かったようである。新井山は思った、やっぱり部下の島津の灰皿にしておけばよかったと。
「な…なんと!」

「どうでしょうか?自分はこれを見て信じざるを得ないと思ったが?」

「…なるほど、証拠を見せていただいたので大佐の言う事を真実と思いましょう」

「それはありがたい。ところであの3隻は?」

「はっ!当初は別々に行動しておりましたがいずれも戦没しようとしていた時に無傷でこの世界に……時代も場所もバラバラで最初は混乱しました。今では皆、腕が腐りそうになって退屈しておりますし、何より祖国を失ってしまった事が最も悲しいようであります。自分もその1人ですが燃料と食料の問題があり祖国を探す旅ができず、おそらくはここが墓場になるだろうと予想しておりました」

「そうですか」

新井山はこの反応ならいけると確信した。
「…しかし!!我々は何がどうあろうと日本に帰ります!!私も、そして三隻に乗艦するすべての者も!!すべてが帰り、祖国に尽くすのです!!!」

「お気持ちはわかります…っが我々も当初は帰還を目的に行動しておりました…しかしそれは無理でありました。やむなく我々は西方派遣軍という組織に加わり食料と弾薬と燃料と居場所を提供させてもらっております。我々が出来る事として、それらの提供とその代わりに我々に協力してくれる事です」

「それは出来ません!!我々は大日本帝国海軍である!西方派遣軍などわけのわからぬ別な組織に、安々と加担する事などできるわけがありません!!」

「そうだ!!艦長の言う通りだ!!我々は大佐のいう西方派遣軍には加担できません…いや、絶対にしないのであります!!」

やはりそううまく引き込めるものではなかった。
彼らは帝国軍人である、皆国を愛し、家族を愛し、そして故郷を愛しているのである。それに西方派遣軍に加わる事は大日本帝国を裏切る事でもある。なのでそう簡単には彼らは加わってくれなかった。

これに対し、新井山は意地でも彼らを加えようと説得する。
「……しかし、その国家、家族、故郷、そして諸君らが所属する大日本帝国海軍はどこにある?この世界にはない、この世界においては貴方…いや、貴方達の中で最もお偉いである鹿島少佐を中心として独自にすべてを判断するほかにはないのであります」

「先ほどから話を聞けば!貴様は扶桑とかいう祖国があったはずだ!この裏切り者めぇ!!!」

すると日本海軍側の士官1人が拳銃を構え発砲した。
銃弾は幸い急所には命中しなかったものの新井山の左手に命中した。
「うっ!!!」

「艦長!!」

「貴様!!よくも艦長を!!」

「貴様も裏切り者じゃあ!!」

「待て!!杉野!!待つのだ!!」

杉野という男を止めようと今泉大尉は叫ぶが杉野は聞こうとせず、西方派遣軍の参謀1人を射殺した。
その時であった。
「止めんか!貴様は1人で戦争を引き起こすつもりか!?」

「!!!……か…鹿島少佐!!」

鹿島少佐は杉野に鉄拳を加える、その威力は強烈なもので訓練をしている者が食らったとしても負傷するかもしれないというほどであった。
「うっ!!」

「少佐殿!!」

「今泉!こいつをこの会議室から叩きだせ!!」

「はっ!」
鹿島少佐の命令で今泉大尉は暴走する杉野を部屋から叩きだした、また新井山はすぐに医務室へ運ばれ応急処置を受けたが中指を失うという重傷であった。それでも新井山はそこで鹿島少佐と交渉を行ったのである。

「先ほどは部下が身勝手な行動を取り、大佐殿に危害を加えてしまった事、誠に申し訳なく思っており、当然の事ではございますが深謝いたします」

「いやいや、無理を言ったこちらが悪い。確かに私は裏切り者だ、祖国を捨て西方派遣軍に加わっているのだからな……だがそうしなければ食料も尽きて今頃死んでいただろう」

「その件につきましては、自分としても国を裏切る事、軍を裏切る事、そして家族を捨てる事などできる事ならしたくはありません、国に帰りたいのです……しかしその目的を達成するにはやはり燃料や食い物が必要です、方法が見つかるまではやむなくと考え、自分としては西方派遣軍に祖国へ帰還するまでの一時的なものではありますが、補給の面を考えて協力する方針であります。そのかわり帰還方法が見つかり次第、そちらの有無に関わらず、我々の帰還を許可されたい」

「うむ、それはもちろんだ」

「では、私はこれで、将兵の理解を得なければなりませんので」

「わかりました」

その後、駆逐艦3隻の中でもやはり杉野のように暴れる者も現れその暴動鎮圧に犠牲者が出たらしいがそれは海軍によって隠され、一部の者以外は永遠に誰も知らない数字となった。西方派遣軍側も自分達側を攻撃するような奴を指揮下に入れるのは危険だと決起する者が現れ才人とギーシュら勝手についてきた学院生徒が鎮圧にあたり3人が死亡した。

新井山艦長に中指を失わせるという重傷を負わせ参謀1人を射殺した杉野はその後、西方派遣軍の指揮下に入った後に軍法会議にかけられ処分となった。その後も一部の者と西方派遣軍との間では険悪な関係が数週間ほど続く……っが結果的に双方とも死傷者を出したが西方派遣軍は駆逐艦3隻を入手、新たな海軍力となったのである。
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