第二〇話,アルビオン突進作戦
陸軍が敵陣へ突入する前、航空隊はひっそりと飛行場から出撃する。
「回せー!!」
「回せ!!回せ回せー!!」
「回せー!!」
パイロット達が手を回しつつそう叫びながら走ってくる。
整備兵達はプロペラを軽く回した後カウフラップを開きエナーシャにクランクを突っ込みそれを回した。今でこそこんなめんどくさい事をする必要はないが当時の航空機は必要であった。
やがて発動機を始動させていきあっという間に飛行場はうるさくなる。
まずは清隆が出撃する。続いて才人達も出撃、飛行場に残った兵士達、そして整備兵達が帽を振り出撃してゆく彼らを見送った。
「随分手際がいいですな…しかし飛行機は何度見てもすごい…」
そう呟いたのはコルベールであった。
多少機械などに理解がある彼は地球の機械にかなりの興味を持っていた。
その頃攻撃隊は編隊飛行を行っていた……しかし粗悪な無線しかないのでできる合図といえば手信号ぐらいである。
「まもなく目標上空です」
「よし、トツレトツレ!!」
まず爆撃部隊が急降下を開始した。
当然航空機など知らないレコン・キスタ兵は突然、わけのわからないものに奇襲された事に驚きを隠せない。
「なんだ?あれは?」
そう言っている間にテントに爆弾が命中する。
中の人間はなににやられたかすらもわからずに死亡した。レコン・キスタ軍が敵襲だと知ったのもこの時であった。
「敵襲!!」
「噂には聞いていたが…あれがロサイスをやった謎の竜!?」
「来るぞー!!伏せろー!!」
「!!」
レコン・キスタ兵にできる事といえば伏せる事と火を消火する事ぐらいである。しかし恐怖のあまり消火活動を行う事ができない。結局目標は次々と攻撃されていく。倉庫も会津中尉が操る九九式襲撃機の餌食となった。
「……射っ!!」
ドグワーン!!
爆弾は、悪夢としか思えないほどの威力を誇っていた。
地球では被害を受けたとしてもこれしきの事ではなんでもないだろう。しかしハルケギニアにおいては甚大な被害をもたらす。
結局兵士達は何に攻撃されたかは知らない。しかし守備隊司令官、バーナード・マウントバッテン少将のみは存在を知っていた。もちろん正確は事は知らないがそれがどういうものでどうやって対抗するかぐらいは知っていた。地球人のおかげである。
「……おい、秘密の2騎を出撃させろ!」
「あれをですか?しかしあれって使えるのですか?」
「馬鹿者!!では何故敵はあれを!?」
「了解!!すぐに出撃させるように!!」
はたしてレコン・キスタの新兵器とはなんであろうか。
それを最初に知るのは清隆である。
(敵の竜はこない…そろそろ帰投するか)
そう考えていたその瞬間であった。突如として正面からなにかが近づいてくるのが見えた。
「……!!」
彼は咄嗟に機体を旋回させる。相手は左に旋回、清隆は首を一杯にまげその姿を見た。なんと赤い星が入った複葉機が飛んでいたのである。
(なんだあれは!?)
清隆には当然その正体はわからない。その正体はポリカルポフI-15である。
戦間期から第二次世界大戦にかけて労働赤軍の主力戦闘機を勤めた航空機であるが九五式戦闘機や九七式戦闘機などの日本陸軍の戦闘機の前には敗れる。
(とにかく相手は戦闘機か……よ~し…)
清隆は急にやる気になる。彼の顔は緊張しているとは程遠い、笑顔であった。
機体を上昇させつつ右に旋回、得意の格闘戦に持ち込もうとした。当然相手も格闘戦で戦おうとする。
ちなみに彼が操る九五式艦上戦闘機はパイロットから「慣れるとこんないい戦闘機はない」「格闘戦の強さでは世界No.1ではないか」と愛着を持たれるほど運動性と安定性には定評があったという…とはいえ最高速度などではI-15に劣っている。しかし性能的には大変良好でどちらが勝ってもおかしくはない。
問題はパイロットの腕であった。
しかし当時のソ連のパイロットは錬度が低かった(ソ連で恐ろしいのは質よりも数)。
清隆は旋回、上昇、降下を繰り返し1機の背後につき照準を合わせると機銃の発射レバーを引き攻撃を仕掛ける。銃弾は敵機へと吸い込まれていき破片が飛び散る。やがて煙を噴きつつI-15が1機緩やかに降下を始め森の中へと墜落した。
「よ~し………」
背後についた敵の攻撃を避けるべくバレルロールを行った後左へ急旋回を行う。さらに彼はケツにつこうと機体を操縦する。相手もケツにつこうとする。ドッグファイトらしい戦いであった。
「………っっ!!!!」
2丁の7.7mm機銃の弾はI-15を狙う。このI-15も清隆との空戦に破れ煙を噴きつつ緩やかに降下、後に墜落した。
「ふぅ……」
清隆は一度に2機の戦闘機を撃墜するという手柄をたてた。しかしこれによってマウントバッテン少将の希望は打ち砕かれた。その後彼らに襲いかかるのは強力に地上部隊であった。航空隊に送れる事2時間、ようやく陸軍が到着した。トリステイン軍は追いつけず西方派遣軍と銃士隊のみであった。しかも進撃の遅れは銃士隊のせいであった。
「うぅ…うわっ!っとっとっと…ふぅ…・・・…」
「隊長大丈夫…うわっ!!」
訓練したはいいものの補助輪なしの自転車に銃士隊は苦労していた。移動の時にはまさに足を引っ張る存在であった。
「大丈夫かな?」
「なあに、戦いになれば強いさ」
西方派遣軍の兵士達はそう噂する。実際銃士隊のせいなのか先ほど奇襲を食らい2人が戦死、8人が負傷した(追っ払ったのは自転車を降りた銃士隊であり戦えば強いという事は証明された)。
その時、彼らの先頭を走っていた戦車隊が突如停止した。
本郷少佐は双眼鏡であたりを見回す。
「照準点一時の方向!林の中央距離300!」
車内では砲弾の装填作業が行われていた。元日本軍戦車隊の人間が乗っている12両の戦車はさっさと装填作業を終える。後ろの戦車は錬度不足により少し遅れるもなんとか装填を終えた。
「砲撃用意!!……撃て!!」
本郷の叫び声を聞き車内で引き金が引かれる。するとチハの57mm戦車砲が火を噴き砲弾が陣地を襲った。ちなみに搭載されていたチハのうちすべてが何故か旧砲塔車両であった。しかしハルケギニアにおいては十分すぎる性能を秘めていた。
テント、大砲など、レコンめキスタのあらゆる物が戦車の砲撃に晒され破壊されていった。戦車の後ろでは西方派遣軍の歩兵が三八式のようなもので敵兵に対して射撃を行っていた。
さらに数少ない機関銃も参加、混乱するレコン・キスタ兵に向って無差別に撃たれ銃弾は彼らを襲い、ハルケギニアの戦争ではありえないほどのペースで負傷したり死んだりしていった。
激しい攻撃の中、なんとか300m以内に砲を置くことに成功し砲撃を開始するレコン・キスタ兵の姿もあった。
「撃て!!敵の馬を殺せ!!」
レコン・キスタ兵は戦車を馬の一種と勘違いしているようであった。
「目標は敵の砲兵隊だ!!距離を詰めろ!!」
「踏み潰せ!!」
本郷少佐らはハッチを閉める。するとチハ車は砲塔を回転させ前進を開始、2丁の機関銃を放ちながら砲兵隊のいる所へ突撃を開始した。レコン・キスタ兵にとってはまさに地獄であった。砲を捨て彼らは逃げようとするが機関銃の弾の餌食となる。砲も戦車によって踏み潰されてしまった。
銃撃をやめ、戦車は木造建築の建物に砲を向けた。
「用意……撃て!!」
3両の戦車から一斉に砲弾が放たれ、木造の建物は見事に破壊され、その時マウントバッテン少将も戦死する。西方派遣軍はここに山×少将がいるとは知らなかったようである(本物の司令部は先ほどの空襲で破壊されどうせ生きていないと考えていたようである)。
結局レコン・キスタ兵は武器を捨てて投降するか敗走していった。
レコン・キスタ軍の有力な陣地は1日はおろか、わずか数時間で突破されてしまった。
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