自作逆ハー小説に低脳悪役令嬢転生とかしてみたけれど、私は元気です
とある王国。
今から13年後に、王国の首都にある学園が物語の舞台となる。
学園では、魔術に適性のある10歳から18歳の少年少女達が日々、魔術を学び、社交を学び、剣技を競う。やがて王国の礎となり、支えるために。
そもそも、魔術に適性があるということこそが貴族の証。9歳の時点で全王国民に適性検査が行われ選別がなされる。そして、その結果、魔術に適性がある時点で準子爵に叙せられる。
つまり貴族の子供であろうとも、魔術に適性がなければ平民となり、平民の子供であろうとも、魔術に適性があれば貴族となりうる。
しかしながら、魔術適性は「優性」遺伝であり、貴族の子供は必ず適性を持つ。
逆に、毎年数名は平民から魔術適性を持つ者は現れる。
物語のヒロインは、その数少ない魔術適性を持つ平民。なぜか9歳の時点で発現しなかった魔術適性が16歳になる直前に発現し、急遽、学園に編入することとなる。
そして、そこで麗しい少年達と出会い物語は紡がれていく………。
「あーどうしようかな、これ」
ガシガシと白銀の髪を掻きながら、幼女が呟いた。
よりにもよって、自分が前世で小説投稿サイトに投稿した逆ハーご都合主義小説に転生しちまったい!
しかも!
悪役ざまぁされる悪役令嬢!
魔術適性は一応あるものの、貴族の令嬢としては情け無い程に低い!性格も悪い!運動能力も低い!顔しか取り柄がない令嬢!
9歳の適性検査までは甘やかされてわがままに育てられ、適性検査後は周囲から虫ケラを見るように扱われてさらに性格が歪む。
ヒロインをいじめ抜いて断罪され、挙句の果てに同情されてヒロインの侍女として仕えることとなり、それに感謝して生きるがヒロインを狙った敵の剣を身を呈して庇い、ヒロインに感謝しながら息を引き取るのが私の人生らしい。
ナンダコレ!
折角の転生なのにチートなんてないよ!
むしろ普通の人より劣っているよ!
なのに微妙な魔術適性があるせいで、平民お気楽生活も許されないよ!
「詰んだぽだぽだぽ」
広い寝室の天蓋付きのベッドの上で身悶えても、どうしようもない。
物語のストーリーは作者故に、悪役令嬢の死後までも完全にわかる。
しかし、それしかない。
今はまだ3歳だから、家族には甘やかされて愛されている。
しかしこれもあと6年………。
考えろ、考えるんだ。
このままじゃ、例えヒロインをいじめなくとも辛い人生が確定だ。
ああ、神様。
どうしてこんな目に。
神様。
………。
神様。
かみさま。
かみさま?
かみさま!?
ガバリとベッドから身を起こす。
見開いた紫色の瞳に力が入る。
「これに賭けるしかない!」
いつも通りに、メイドのアンナが起こしに来る。
「シルビアお嬢様、朝でございます」
「ええ、起きているわ。おはよう、アンナ
」
アンナに促されるままに夜着から午前のドレスに着替える。
何せ、記憶を思い出したとは言え自作小説。3歳のシルビアはまだそこまでわがままではない。シルビアにはわがままになるきっかけがある。
「今日はお兄様の魔術適性検査ね」
そう!
シルビアには将来、ヒロインの逆ハーメンバーとなる兄と弟がいる。
6歳年上の兄であるオニキスと3歳年下のトパーズ。
オニキスの魔術適性はとても高く、同年代では随一を誇る。また、逆ハーメンバーは全て特殊属性で将来を期待される。
これが、シルビアのわがままにつながる。
大人達はシルビアに期待し過ぎたのだ。そして魔術適性が判明するよりも前から、シルビアは周囲からちやほやされる。
シルビアは周囲に踊らされてわがままに育ってしまった。
「皆様、食堂にお揃いのようです」
アンナに導かれ、シルビアも朝食の席に着いた。
家長である父、産月の母、9歳になる兄オニキス、そしてシルビア。
「今日の良き日を迎えられた事に感謝を」
家長の言葉に全員が祈りを唱和して朝食が始まった。
「兄様、お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう、シルビア」
妹からの祝福の言葉に、オニキスが微笑む。
「………そして言祝ぎを。当代随一の魔術力と闇の安寧を司る力を兄様は得られました。荒ぶるモノを穏やかに、光を支える力です」
ガチャ。
貴族の食卓としてありえない雑音が3人の手許から発生する。
「……そして、今日より12日後に生まれ出ずる弟はトパーズに相応しき瞳と闇を支えし光の力を得ることとなるでしょう」
「シルビアっ!」
父から産まれて初めて激しく名を呼ばれる。
「何を言っているかわかっているのか!?」
しかしここで毎晩、練習した台詞を中断したら意味がない。
「また、私は魔術適性の殆どを代償に先読みの力が与えられました。この力をもって王国の礎となり、支えとなりますでしょう」
そこまで一息に言い終え、父様の眼をひたと見据えた。
「………父様、私には魔術適性は殆どないことでしょう。こんな娘で、ごめんなさい」
そこからは、自然と涙が零れ落ちた。
母様の眼からも涙がとめどなく流れている。兄様は驚いたまま固まっている。
「……シルビア、さっき言ったことは本当なのか?」
声にならなくて頭だけ動かして頷く。
今日まで愛されてきたのだ。
低い魔術適性だからといって嫌うような人ではないと思いたい。
「………オニキスの検査を終えるまで、皆このことは他言無用だ…」
それだけを言うと、父様は食堂から出て行った。
ショックを受けた母様も、家令に支えられ食堂を後にした。
オニキスだけが食堂に残り、シルビアの顔をじっと見ていた。
「……兄様、ごめんなさい」
何度も何かを言いかけてはやめるを繰り返し、オニキスはやっと言葉を絞り出した。
「シルビアが嘘を付く理由なんてないから、僕は信じる。でも、もしシルビアに魔術適性がなくても、僕は、ずっとシルビアのお兄ちゃんだから………だから………」
そこまで言うと、オニキスは私の前に跪いてそっと頭を抱え込んでくれた。
「シルビアのことは僕が守るから」
「兄様………」
その後、父様と兄様が魔術適性検査から帰ってからは怒涛の勢いだった。
12日後に弟がトパーズの色を持って産まれ、私の先読みの力は我が家で公認となった。
王城へ参内し、国王と宰相のみに私の能力を告げた。
私には護衛がつけられることとなった。
「父様、護衛に推薦したい人物がございます」
「シルビア、それは先読みかい?」
「はい」
本来なら、6年後に魔術適性検査で判明する平民枠。そこにはヒロインの幼馴染がいる。
私の筆力が足りず、全く活躍できなかったほぼ当て馬な逆ハーメンバー。シンデレラストーリーとして成り立たせられなくなるので、どうにもストーリーに絡ませられなかった。
しかし魔術適性は充分で初期に登場するため使いやすい特殊属性。そして、これからすることのためには必要な立ち位置。
「北のアーリオ山脈の麓の村に、灰褐色の髪の私と同い年の少年がいます。
彼はやがて守護の能力を得ることとなるでしょう」
平民が貴族に召し抱えられることは、魔術の恩恵にも与れる。また、子供に充分な環境を与えることもできるとして歓迎される。
少年ーグレイーの両親とも無理に引き離す年齢ではないということもあって、家族ごと我が家の庭師として召し抱えることとなった。
グレイは屈託のない少年で、最初はお互いに緊張していたものの、数日で仲良く遊ぶようにもなった。
私は時折先読みとして父様に未来を伝える以外は何事もなく我が家で過ごすこととなった。
王城にて預かる話がなかったわけではない。
しかし、最初に泊まった晩に泣きながら先読みの力が無くなっていくと訴えてからは自宅でのんびりと過ごせるようになった。
もちろん自宅に戻った晩に、力が戻ってきたと父様に無邪気に報告はした。
そして、9歳の誕生日。
先に誕生日を迎えたグレイにはきちんと守護の力が確認された。
もちろん、私には微かな魔術適性しかなかった。
そしてその年の暮れ。
私は父様に先読みの言葉を伝えた。
「なんでこうなっちゃったかな」
学園の卒業式典は無事に終わり、今は我が家で一人、お茶を飲んでいる。
9年前、私はかつてグレイがいた村にもう一人、魔術適性がある人物がいると父様に告げた。
騎士団を迎えをやったところ、その人物はあり得ない言葉を放った。
「……なんで!?まだ見つかるには早過ぎるのに!?」
つまり、自分に魔術適性がありながらそれを隠していた、と。
村々にある適性検査道具よりも学園にあるものよりも精密な王国の検査により判別した能力は「近くにいる相手の能力を上げる」ものだった。
能力の判明と共に彼女は監禁されることとなった。
これが自分の能力を知らずにいたのならまだ許されたかもしれない。しかし、自分の能力を知りながら王国に秘匿しようとしたことが問題になった。
更には、北の山脈の田舎に居ながらにして今代の特殊属性達を網羅していたこと。
危険過ぎる彼女には魔術封じを施して微量魔術適性として学園に通うか監禁のままかの二択が与えられた。
その際の言葉がさらなる問題を呼び込んだ。
「嫌よ!なんでヒロインであるあたしがシルビアみたいに低脳にならないといけないのよ!あいつはあたしのために死ねばいいだけの悪役なんだから!」
私の魔術適性は厳重に秘匿されている情報だった。そして先読みの力は、王国で最も秘匿されている。
先読みの力までは知られていないが、シルビアの魔術適性までは知られている。
そう判断された彼女は、余りに危険過ぎるとして幼くして処刑された。
貴重な魔術適性持ちだからこそ、危険過ぎたのだ。
本来の予定はこうではなかった。
幼馴染を先に呼び寄せ、魔術以外の部分を磨く。
逆ハーされると国が傾く。
そりゃ、仕事しなきゃいけない人達に四六時中囲まれてきゃっきゃうふふなんて現実には無理に決まってるじゃない。
だからこそ幼馴染を呼び寄せて磨きに磨いたのだ。
産まれた時から磨かれる貴族と、10歳から磨かれる平民出身。なのに、16歳時点で魔術も学力も剣技も顔も当て馬足り得る平民って………。
ちょっとポテンシャル高過ぎないですか?
それにくらべてシルビアは………。
まあ、私のことは置いておいて。
ヒロインにも幸せになってほしかったのにね。
逆ハーを阻止して幼馴染との純愛を9歳から穏やかに育む計画は、ヒロイン自身によって瓦解した。
この世界を愛している。
全てのキャラクターを生み出したからこそ、我が子の様に愛おしい。
我が子の様だからこそ、恋愛対象にはならないけれど。
私の先読みは私の魔術適性と純潔によって与えられたこととしている。
このまま年老いて死ぬまで、平和にこの王国を守っていくことになる。
それでいいのだと思う。