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リビティウム皇国のブタクサ姫  作者: 佐崎 一路
第二章 令嬢ジュリア[12歳]
52/337

世界樹の末裔とカトレアの娘

 翌朝、朝靄の立ち込める高原を歩く、エルフ族一名、人間族二名、獣人族一名、神獣一名の合計四人と一匹の姿がありました。


 ちなみに他の男性陣は一部が村外れまで見送りに、一部が村長――え、何それ美味しいの? という役職が付いた親子をボコる……もとい、監視する為に残り、残り大部分が万一――というか既に臨戦警戒態勢(デフコンワン)になってますわね――に備えて村の周辺に待機する形で配置についています。


「……そろそろ取っても良いだろう?」

 北の開拓村から熾天山脈(してんさんみゃく)に向かって歩くこと1時間余り。充分に離れたのを確認して、先頭を歩いていた淡い金髪のエルフ――見た目14~15歳ほどで、実際の実年齢も144歳とエルフではそうとう年若いらしい――プリュイが、私を振り返りながら、足首に巻いていた包帯を鬱陶しげに外しました。


「ええ、ご不便をおかけしました。流石に一晩足らずで、あの怪我が治るなど不自然でしたので」

 小細工の為にプリュイには包帯を巻いて、第三者の前では足を引き摺る演技をお願いしていたのでした。


「面倒なものだ。癒し手であれば人間族であってもそれなりの敬意を得られると長から聞いているが、なぜわざわざ隠す?」

「師匠からそう言い付けられていますし、それに…特別扱いというのは、ある意味差別と同じことですので」


 軽く肩をすくめての私の言葉に、プリュイは柳眉をしかめて「……よくわからんな」と、短く感想を述べました。

 相変わらず口調はぶっきらぼうですが、最初に会った時の様な刺々しさは消えています。


 と、まだまだ普段なら寝ている時間帯の為、私の後に続く……正確にはフィーアの背中に乗ったラナが、小さく欠伸を漏らしました。

「――あふ」


 うつらうつら背中で舟を漕いでいるラナが落ちないように、フィーアが翼で位置を直して押さえ付けています。

「ありがと、フィー……」


 眠い目をこすりながらお礼を言うラナに向かって、『きにしなーい』と陽気な思念を発するフィーアですが、当然通じる筈もないので、振り返った私が「大丈夫だから、気にしないでって言ってるわ」と通訳しました。

「ん」

 頷いたラナ。


 その後方、地元エルフのプリュイや元野生児の私にも負けない、農作業で鍛えたらしい意外な健脚ぶりを発揮して、危なげなく殿(しんがり)を歩くエレンが、軽く首を傾げて先頭のプリュイに尋ねます。

「それにしても、どうして私たちだけがエルフの里に付いて行ってもいいのでしょうか? 男子禁制の掟とかでもあるのですか?」


「そんな掟はないが、理由としては二つだな」

 振り返らずに先導しながらプリュイが淡々と口を開きました。


 ちなみに昨夜はあれから、エレンと二人で山菜やキノコを材料にして簡単なスープを作って食卓――と言っても炉辺で車座になってのキャンプみたいなものでしたが――を囲んで同じ釜の食事をして以来、プリュイの方もかなりわだかまりも解けた様で、この面子限定ですが普通に会話をするようになっています。

 まあ、他の人間相手には相変わらず敵意満面でしたけれど……。


 で、これも精霊魔術なのでしょうか。先頭を歩く彼女が特定の動きをしながら手が触れると、草木が自らその場から避けるように道を開いてくれます。

「まずお前達があの村の人間ではないこと。我々エルフは敵と看做(みな)した相手には容赦はせぬが、見知らぬ第三者に対しては特に関心はないからな。

 そして、第二に外からやってきた者の中ではお前達だけが、唯一精霊に好かれていた為だ。他の連中は駄目だ。身から発する欲の臭いがきつ過ぎて、精霊が寄り付こうとしていない」


「「へえ」」

 正直『精霊』とか言われても、私もエレンもピンと来ませんけれど、エルフ族にとってはその場にいるのが当然の存在なのでしょうね。


「それじゃあ、あたしも修行をすれば精霊使いになれるかも知れないわけ?」


 なんとなくウズウズした様子で、エレンがそんなことを尋ねました。


「そうだな。心身を潔斎して文明社会から離れて10年も修行すれば、精霊を見ることができるようになれるだろうが、“精霊使い”となれるかは不明だな。そもそも我らエルフは“精霊の友”であって、道具のように使役するものではないからな」


 正直ですけど四角四面で、ある意味取り付く島もないプリュイの返答に、エレンは悄然と肩を落としました。

 人間そうそう楽して美味い話はないということですね。


「まあ、人間の中にも『透視の瞳(セコンドサイト)』といって、ごく稀に生まれつき精霊が見える体質の人もいるそうですけど」

「そういう者は過去にエルフなり、他の妖精族の血を引いた者の先祖返りだろう。人間族(ビーン)は、そういう者を『取替えっ子(チェンジリング)』などと呼んで、妖精のせいにしているそうだが、迷惑な話だ」


 私の言葉を受けて、本職のエルフであるプリュイが補足をして、振り返って軽く眉をしかめました。

 ちなみに『人間族(ビーン)』というのは『豆』という意味で、『世界樹の末裔』を標榜する妖精族が、人間に対する蔑称として使う表現です。


 それから、ふとエルフ語に切り替えて付け加えてきました。

『“透視の瞳(セコンドサイト)”で思い出したが、その変化の魔法は解いておいたほうがいい。妙な小細工はあらぬ誤解を招くぞ』

『……お見通しですか』

『私は風と水の精霊との親和性が高いからな、お前の周りにいる精霊達が喜んで教えてくれたぞ。年少の私がわかるくらいだ、里の半数のエルフにもバレるだろうな』

『……案外、お喋りなのですね。精霊というのは』


 ため息をついて、私は認識阻害の魔法が掛かったネックレスを外して、空間のポケットへと【収納(クローズ)】しました。

 確かにエルフ相手に通用しないのであれば、余計な軋轢を生まないためにも最初から素顔で望むべきでしょう。幸いここに付いて来た2人とも私の素顔を知っているわけですし。


「ほう、それが本来の姿か。――いや、大まかにはわかっていたが、やはり実物を見るとなると違うな」

 感心したように軽く目を瞠るプリュイ。


「ええ、私の師匠が掛けた魔法ですから。目で見て、手で触った程度では見破れない精度ですわ」


 少しだけ自慢げに話す私の顔を見て、プリュイはなぜか複雑な顔で「……いや、感心したのはそこではないのだが……」ボソボソと呟いて、何かを悟ったかのような、諦めたような、微妙な顔で再び前を向いて歩き始めました。


 なぜか私の周りにいる方は、たまに同じような表情を浮かべて、ため息をつく事があるのですよね。何か私にはわからない不文律でもあるのかと、たまに不安に思うこともありますが、思うに私自身がアンニュイ系なので、周りにもダウナー系が集まりやすいのでしょう、きっと。


「類友というやつですね。――ところで、このペースでエルフの里まで、どの程度掛かるのでしょうか? 時間が掛かるようでしたら、フィーアに頼んで飛んで貰いますけど?」


 フィーアの膂力でしたら女の子の3~4人は余裕ですし、現在〈無〉属性の重量軽減魔術もクリスティ女史から手解きを受けていますので、完全に重量を消すことはできないまでも半分程度に減らす事は可能な筈です。


「うむ、お前の理解は多分間違っていると思うが……それはそれとして、里へはまだまだ掛かるが、その前にあちらから迎えが来ると思うので、迂闊に目立つ真似はしない方が良いだろう」

「迎えですか? 狼煙でも上げたのですか……?」

「似たようなものだな。木の精霊を通して私の無事を伝えている。昨夜は一晩私が人間族(ビーン)(ねぐら)の傍まで行って戻らなかったのだ。おそらくは既に仲間が私を救出する為に、決死隊を編成して近くまで来ていることだろう」


 さらりととんでもない事を口に出すプリュイ。


「それって、当の本人がここに居て主役不在のまま、下手をすれば行き違いで人間とエルフの間で血の雨が降る、全面闘争へ発展するのでは?」

「そうならない為に、私が先ほどから合図を送っている。先ほど返事が来たので、程なく仲間がこちらに接触してくるだろう。一応、お前達には助けられた恩義があるので、交渉したいというジル……お前の希望に沿って口利きはしてやるが、里の仲間や長がどう判断するか、そこまでは責任を負わんぞ」


 なるほど。さっきからやっていたタコ踊りは、道を開くだけではなくてそうした意図もあったわけですか。


「……なにげに馬鹿にされてる気がするのだが、私の気のせいか?」

「気のせいですよ。昨夜から疲れて神経がささくれ立ってるせいではないでしょうか」


 半眼になって私を見据えるプリュイを軽くいなしたところで、私の魔力探知(サーチ)に引っ掛かるものがありました。


「距離はざっと45メルト、数は11人、こちらを半球状に包囲する形で木の間に隠れながら近づいてきますわね。武器は弓のようですが、あまり錬度は高くありませんね」

「ああ、殺気がダダ漏れだ。これでは小犬一匹も狩れないだろうな」


 私の的確な分析に対して、プリュイも苦々しく同意しました。


『――『銀の星(アシミ・アステリ)』! アシミ! どうせいるんだろう。この者達は敵ではない、姿を現せ!』


 プリュイが放ったエルフ語の声が木々の間を木霊して、しばらく経ったところで、潅木の間から滲み出すようにして、見た目20歳前後に見える美形エルフの青年が、腰に佩いた剣の柄に片手を当てたまま、険しい顔つきで現れました。

 身長は私とほぼ同じでしょうか。人間とは根本的に骨格が違うのか、男性とは思えない華奢な体つきです。こいつ一生トイレなんていかねぇんじゃね? という感じですね。


『プリュイ、無事だったのか。一晩中心配したぞ。取りあえず長に無事を知らせるために戻れ。後ろにいるのは人間族(ビーン)と獣人……それに神獣だと?! なんだそいつらは?』

『いや、まあ、困惑するのは良くわかるし、私も説明に苦慮するのだが、彼女達は私の恩人だ。あの村の人間との間に立って、里長と話がしたいというので連れて来た。警戒するなとは言わんが、このまま通してくれんか?』


 驚愕に目を剥くアシミと呼ばれた青年に対して、しみじみとした口調で説明しながら、プリュイが執り成しを頼みました。


『馬鹿を言うな! そんな怪しい連中を里に入れられる訳はないだろう!! だいたい助けられたというが、お前を捕まえたのも人間族(ビーン)だろう!? そいつらの仲間だ。プリュイ、お前は騙されているんだ! 狡猾で卑劣で残虐な奴らの詐術にかかって!』


 忌々しげに吐き捨てる青年の一方的な台詞に追随するかのように、隠れている残り10人のエルフが持つ弓が引かれ、矢の先端部分――研磨された石で出来た(やじり)――が、一斉に私たちへ狙いを定めたのが感知できました。


(交渉の余地なしか。予想はしてたけれど、面倒なことになりそうね)


 こちらには神獣であり魔獣としてはSSランクであるフィーアがいますし、昨夜それとなくプリュイに聞いたところでは、エルフの精霊魔術はどちらかといえば補助的役割が主で、遠くの声を聞いたり、矢を正確に飛ばしたり、相手を眠らせたりするもので、さほど直接暴力に訴えるものではないそうですから(里長クラスになると四大精霊の精霊王にお願いして一撃で城を壊すくらいはできるそうですが)、その気になれば、エレンとラナを守りながらでも10人程度の相手を叩きのめすことは可能でしょう。


 とは言え私たちは同じテーブルに着くために足を運んだわけですから、ここでこちらから暴力に訴えるわけには参りません。

 お客様扱いされなくても構わないので、最低限捕虜扱いでも彼らの里へ連れて行って貰えれば、まだしも交渉の余地はあると思うのですけれど……。


『別に私は騙されている訳ではない! それに人間族(ビーン)と一区切りにするな。だいたい彼女たちが精霊に好かれているのは、見てわかるだろう。その相手に武器を向けるなど恥知らずな真似は止せ!』

『お前はまだ若いから人間族(ビーン)を対等に見ているのだろうが、総じてそいつらは年を経るごとに堕落して悪意に染まる種族だ。たとえいま精霊に愛されようとも、ほどなく闇に染まってソッポを向かれるさ。夢を見るな。そいつらには理屈は通じないんだ!』

『通じないのはお前だ、アシミっ! この石頭め! お前がなんと言おうが、私は約束を守るぞ。――ジル。構わんから私について来い!』


 話は平行線のままで、苛立ったプリュイが目の前の青年を無視して前に出ました。


(あっ、離れたらマズイかも――!!)


『いまだっ、撃て!』

 彼女が離れたその瞬間、エルフの青年が素早く合図を送りました。


「――し、しまった。ジル、エレン、ラナ!」

 焦ったプリュイの悲鳴の合間に、何本もの矢が潅木の間、梢の上、藪を割って四方から次々に放たれます。


「フィーア! 二人を守って!! “見えざる壁よ、全てを阻め”」

 素早く翼を広げたフィーアが、エレンとラナを押し倒して、覆い被さったのを視界の隅で確認しながら、私は前もって準備しておいた空間魔法の【空障バリア】を張りました。


 攻城兵器の連打でも浴びない限り、これで大概の物理攻撃は防げる筈、後はプリュイと協力して、なんとか目の前の分からず屋を説得しないと……。


 と、そう一瞬の内に算盤を弾いたその刹那、私たちに到達する直前のエルフたちが放った矢が、突如空中で掻き消えるように四散する……と同時に、まるで巨大な爆弾が爆発したかの様に、周囲一帯の木々が、土砂が、岩が、轟音とともに全て吹き飛んだのでした。


『ぐあああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!?!』


 それと同時に木の葉のように吹き飛ぶ、隠れていたエルフたち。

 そして、ぽっかりとここだけまるで台風の目のように、何一つ変わらず残っていた私の周囲5メルトほどの半径の中心に、巨大かつ重厚な影が仁王立ちしていました。


「騙まし討ちがエルフの兵法であるか! このバルトロメイ、ヒト同士の抗争になど口出しせぬつもりで黙しておったが、女子供に対してのかような非道、断じて許すわけにはいかぬ! 其処に直れ外道どもが! 栄光ある我が真紅帝国近衛騎士の名において、貴様らの痩せ首ひとつ残らず討ち果たしてくれようぞ!!」


 ほとんど漆黒の分厚い鎧冑、鉄板の塊としか見えない巨大な戦斧(ハルバート)を携えた死霊騎士(デス・ナイト)が、その髑髏の眼窩に青白い鬼火を灯して怒りの咆哮を放ちました。


「……そういえばいたわね。珍しく静かだったから、ころっと忘れてたけど」

 自称、私の守護霊であるところのバルトロメイを見ながら、私は我ながら薄情な呟きを漏らしました。


『デ、死霊騎士(デス・ナイト)だと?! プリュイ、お前こんな不浄なモノを里へ連れ込むつもりだったのか!?』


 ただ一人、たまたま私たちの傍にいたために難を免れたアシミが、腰を抜かさんばかりに驚きながらも、近くに居たプリュイに詰め寄っていますが、

『私も知らん。……まあ、ジル相手ではいまさら何が出てきても驚かんが』

 どこか疲れた様子で、投げ遣りに責任を放棄されていました。なにげに失礼なことを言われている気もしますけど……。


『き、貴様っ! 人間族(ビーン)妖術師(ソーサラー)、貴様だ! 貴様っ、いったいなにが目的で里へ入ろうとした?!』


 冷静でないのでしょう。エルフ語で喚く青年に向かって、私は軽く首を傾げて答えました。


『平和の為の話し合いですが?』


『嘘をつけーっ!! こんなものを引き連れて、話し合いをする馬鹿がいるか!?』


 一応ここにいるのですけど……なんかもう、交渉とかイロイロと無理な気がするのは、私の気のせいでしょうか?


 で、『こんなもの』扱いされたバルトロメイは、面倒臭そうに手にした戦斧(ハルバート)を構えます。

「戦士たるものがぎゃあぎゃあ騒ぐな見苦しい。さっさと構えよ。このバルトロメイ、無手の相手に刃を振るうほど無慈悲ではないのである。さっさとかかってこい! 相手になってやる!」


「あの、できればお話し合いで解決したいのですけれど……」

「かっかっかっ! 戦士たるものが一度戦端を切った以上、話し合いなど無用である。ましてや無抵抗の女子供を殺めんとする、人倫にもとる人面獣身なぞに掛ける慈悲などないのである!」


 あ、駄目ですね。最終兵器がすでにリミッター切れてます。これはもう収まりませんね。


『くっ、このバケモノが!!』

『や、やめろ、アシミ!』


 自棄になったようで、プリュイが止めるのも聞かず、アシミが腰の剣――細剣(レイピア)という刺突に特化した剣でしょう。刀身が銀色に輝いていますが、あれが話に聞く『聖銀(ミスリル)』というものなのかも知れません――を抜いて、バルトロメイへと向かって行きました。

銀の星(アシミ・アステリ)』の名に恥じない、素晴らしい速度の突きですが……。


「雑念だらけである。我が弟子にも劣るわ、未熟っ!」


 捨て身の特攻をそう評して、バルトロメイの一撃が決まる寸前――


「“見えざる壁よ、全てを阻め”」

『大地を統べる精霊王よ、その御手をお貸しください』


 私がアシミの周りに張った【空障バリア】が、ほぼ一瞬で砕け散るのと同時に、涼やかなエルフの声が、不思議にも明瞭に響いて聞こえました。


「――む」

 それと同時にいきなりアシミの周囲の地面が隆起して、間一髪その身を守る壁となり、その壁の半ば頃まで切り崩したところで、バルトロメイの戦斧(ハルバート)が止まりました。

「精霊王の壁か、これは厄介な。……だが、何者、いや何物の仕業であるか?」


「私でございます、騎士様」


 先ほどと同じ涼やかな声が、今度は人間の言葉で聞こえてきて、全員が一斉にその方向を向きました。

 見れば熾天山脈の方向から、白いゆったりとした着物のような服を着た、長身のエルフがゆっくりと歩いてくるところです。


 穏やかな表情に輝くばかりの美貌。ほとんど白に近い金髪と、まるで夢の世界の住人のような浮世離れした人物です。こういっては何ですが、同じエルフ族でもプリュイやアシミとは格……どころか、次元が違うのが一目でわかりました。


「……(おさ)

 慌しい事態の推移に付いて行けずに、ぺたりとへたり込んでいたプリュイが、魂が抜けたような口調で一言口に出します。


「ふむ。汝がこの地の妖精族の長であるか? 我はバルトロメイ。魔光普く三千世界を照らす真紅帝国が近衛騎士である」

 戦斧(ハルバート)を無理やり引き抜いて、先端を地面に下ろしたバルトロメイが、胡乱な態度で尋ねました。


「左様でございます。この地の長を務めております、『天空の雪(ウラノス・キオーン)』と申す者です。ご挨拶が遅れたご無礼をお赦しください」


 慇懃ですが、決して卑屈には見えない、堂々とした挨拶に、「ほう」と軽く感嘆の声をあげたバルトロメイは、少々威儀を正して、その視線を私の方へと向けました。


「だが、謝罪の言葉は我に対するよりも先に、我が宿主にすべきであるな」


 その視線を追って私の方を向いたウラノスは、そこで軽く驚きの表情を浮かべ、続いてすぐに、ニッコリと……大抵の女の子なら腰が抜けるような――私でさえ、一瞬くらりとした――微笑を浮かべました。


「「ほえええええ……」」

 妙な声に振り返って見れば、エレンとラナの二人揃って、フィーアの下で呆然としています。


 当の本人は気にした素振りもなく、私の顔を懐かしげに見ながら口を開きました。

『これはこれは……久しぶりですね。カトレアの巫女姫よ』

『――っ!?』


 予想外の台詞に、私は息を飲みました。

人間を『ビーン』と呼ぶのは、メリー・ノートンの『借り暮らしの小人たち』にでてくる小人ボロワーズが人間を呼び習わす『ヒューマン・ビーン』からとりました。



1/22 誤字訂正しました。

×世界樹の末裔とカトレヤの娘→○世界樹の末裔とカトレアの娘

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― 新着の感想 ―
エルフすら魅了する美少女から「10人くらいなら叩きのめせる」って言葉出てくるの面白すぎやろ
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