表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

間違い合ってる

作者: てこ/ひかり

 「あの…すいません、ここドコですか?」


 扉が開き、目の前に現れた男が不安そうに私に尋ねた。薄暗い玄関をきょろきょろと見渡し、カウンターに座っている私を怪訝そうに覗き込んでいる。私は机に広げてあった名簿の写真と、男の顔を見比べてあっと声を出した。


 「あれっ!? すいません、間違えました。あなたじゃなかった!」

 「え?」

 「人間界の今日、交通事故で死ぬのは別の人間でした!これは申し訳ない!」

 

 男はまだ事態が飲み込めていないようで、眉を潜めた。私は引き出しの中から名刺を引っ張り出した。


 「申し遅れました。私、ここで死者の行き先案内をやっております、死神課の田畠です」

 「シシャ?」

 「ええ。とんだ間違いで。今日四つ角に行かれたでしょう?」

 「ああ。それから、急に目の前が真っ白になって、そこからどうも記憶が…で、気がついたらこの廊下に立っていたんだ」


 男が首を捻った。私はゆっくり説明した。


 「死んだんですよ、あなた。四つ角の交通事故で」

 「なんだって!?」

 「怒るのも無理はない。だって予定だと、死ぬのはあなたじゃなく、あなたの目の前を歩いていた男の方でした。本当に申し訳ない」

 「申し訳ないって…どうしてくれるんだ」


 ようやく理解した彼は、途方に暮れて弱弱しい声を上げた。私はどんと胸を叩いた。そして引き出しの中から、今度は緊急用のスイッチを取り出した。


 「安心してください。さあ、目を閉じて。気がついたらあなたは、事故に遭う前に戻っていますよ」


 説明が聞きたそうに顔をしかめる男を無視し、私は笑顔でスイッチを押した。静かになった入り口のカウンター内で、私はため息をついた。長年この仕事をやっていると、こういう間違いもたまに起こってしまう。これだから鬼の連中に、役所仕事だなんだと陰口を叩かれるのだろう。大体、上の奴らがもっと現場との連携をしっかりとらないから…。


 「…っとと」


 私が頭の中で愚痴を渦巻かせている間に、また扉が開く音がして次の死者が死役所に入ってきた。


 「あれっ!?」


 私は驚いた。目の前に立っていたのは、先ほど生き返らせた男だったのだ。


 「またあなたですか! 事故に遭うべきはあなたじゃない。あれは我々の間違いだったと教えたのに!」

 「確かに、お互い間違い合ってるかもしれねえが」


 男は諦めたように肩をすくめた。


 「でも目の前で轢かれそうになってる男がいたら、何回時間を戻したって、やっぱり助けちまうもんだろう?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ